色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
■夕方・町の西にあるホテル内■
■クライス達は、ロビンたちと別れて宿泊施設に■
「ようこそ! ホテル【ユックリ・タワー】へ!!」
「お荷物、お持ちしましょうか!」
広いロビーの天井で、高級そうなシャンデリアが輝く。
大理石の床はピカピカで宝石の様だ。
■人影はそれなりに多く、飾りの美しい植物が場を彩る■
クライスはそれをちらりと見て。
女性ホテルSTAFFに言う。
「頼みますー」
両手に持った買い物袋を、かなり若い従業員の女性に渡した。
(美人。だが)
シックな制服(ズボンタイプ)に身を包んだ、ナイスバディなお姉さん。
(赤い短髪に、でっかいメロン×2)
既視感がクライスを襲う。
そうこれは、あの騒がしい街での。
(どっかで見たことある・気のせい気のせい)
■葛藤のクライス■
「いらん!! 自分で持つ!!」
己のトレーニングの為、荷物を渡すのを拒否するゴウト。
彼の荷物の中には、無駄に重量のあるものが多かった。
「はー、なんだか疲れたわー。どっかのナマケモノの暴走のせいもあって」
「本当……。どっかの天然イケメンの……せいですわ……。それにもう一人……あの金髪……」
ヒナとジャスミンは、疲労の色が隠せない。
あれだけ色々なことがあったのだから、必然のことではあった。
クライスはジャスミンの言葉をスルーする。彼だって疲れているので、これ以上の重荷は背負いたくない。さっさと寝たい。
「そんなのお前らだけじゃない。――むしろ、オレの方が疲れた」
ジンは、今日一日の出来事を思い返す。
(あいつは、変わってないな)
■幼馴染の事を考える■
■そうすると、胸がちくりと痛んだ■
「……」
サーシャも同様に。
(ゼロさん)
■全体的に疲れた雰囲気のまま、彼等は客室へと……■
■クライスはいつもの疲労に+されたことで、しなびたキノコ状態になっていた■
「外出はつかれる。これ常識」
●■▲
「ふぅー、一息つけるなー」
ふかふかのベッドに腰を下ろすクライスは、部屋を見渡した。
(中々リッチなところじゃないの)
■その一室は、不思議な良い香りが充満している■
■並ぶベッドは3■
■大きな窓から見える夕焼けの町は、とても綺麗に映えていた■
(しかし、しかしだ)
■麗しき女性陣は、当然別の部屋に■
(惜しいっ……できればサーシャちゃんと一緒が)
■少し、舌打ちしてしまうクライス君■
「ふははは!! どうした!! クライスゥッ!! なにがそんなに憂鬱だ!!」
「お前が理由1ね」
暑苦しい動きで、超高速上体起こしを行うゴウト。
めちゃくちゃうるさいなコイツと純粋に思える。
ただでさえ疲れているのに、余計な圧を与えないでほしい。
(部屋の温度がやばいな)
■だが、正反対の者もいる■
「……」
■ジンは、顔を伏せながらベッドに座っていた■
(妙に静かなジン君)
ベッドの上で瞑想中。のようにも見える。
話しかけんなオーラがすごい。
(なにかありそうな感じ。詮索はしない、面倒)
■むさ苦しい雰囲気の男部屋で、対極の熱を眺めるナマケモノ■
■時刻は過ぎ、夕焼けは黒く染まっていく■
■この時間が、クライスはなんとなく好きだ■
「おいおい、この展開はヤバいだろ……っ」
ベッドに寝転がって漫画雑誌を広げるナマケモノは、通常運転。
特になにをするわけでもなく、だらけきっていた。
(何も変わりはしない)
【ば、ばかにしないでッ!!】
「……」
必死な少女の姿が浮かんでしまい、顔をしかめる。
せっかく漫画の世界に入っていたのに、余計な雑念が邪魔をする。
あっちの世界・元いた場所では、そんなこと珍しくない。
だが、こんなにも平穏な異世界ですらこういうことはあるのか、と。
(馬鹿か。俺は)
雑誌を閉じ、ベッドの上に置く。
なんだか萎えてしまって、読む気にならない。
「ぐこー!! げこー!!」
(どんなイビキだよ)
床の上に寝転がるゴウトをまたぎ、クライスは脱衣所に向かう。
■脱衣所■
「はあ」
洗面台の前で溜息を吐き、鏡で自分の顔を確認する。
「はー」
酷い顔を見て、余計に気力が削がれた。
(なんか、以前も見たような顔だ)
■この異世界に来る前に■
■元いた世界の生活で■
■休日ですら頭が重い、うんざりする連鎖生活だ■
(あの時は、今とは比べものにならない)
その身で受けた乱れを思い出す無職の勇士は、身震い。
今にして思えば、あの世界は乱ればかりで、心休まる時などなかった気がする。
そう細かく見ていけば――。
(この世界に来て、遠ざかったかと思ったが)
■ぎしぎしと■
■乱れの音が鼓膜を裂く■
■なので、元いた世界での対処法を試した■
「くそっ」
水で顔を洗い、意識を切り替えようとするが、簡単には行かない。
とはいえ、さっきよりも楽にはなった気がする。
「……風呂の準備するか」
■浴槽は、ガラス張りなので脱衣所から見える■
「――」
■湯が溜まっていく音を聞きながら、数分の間、物思いにふけったクライス■
■流れ落ちていく湯の音が、今はなんだかどんな音楽よりも心地いい■
■そんな風に、記憶にある乱れの痛みを、意識の底へと流していく■
「……」
寝室に一旦戻ってきた彼は、まだ変わらない仲間の背を見る。
(ジン)
ベッドに座り込んだジンの背に、揺らぎはない。
(お前、なにを考えて)
「――」
■ジンが見ている光景は、そびえ立つ山のごとし■
「……ッ」
■それは、とても柔らかく、男を魅了する輝きを放つ■
「ラノベ勝手に読むなよ」
■つまりは、ラノベの挿絵のヒロインの素晴らしき二つの神聖なる果実■
「ッ!?」
凄まじい勢いでラノベを閉じる音。
ジンは驚きの瞳でクライスを見る。
「なななななんだッ!! びっくりしたッ」
「それ、俺のラノベ」
さりげなくラノベを隠すジン。
「す、少し暇だったんでな。ふん。たまたまあったから読んだだけだ」
(しおり外しやがって)
内心、クライスは少しぷんぷん。
しかし、オタクとしては興味を持ってくれたことが喜ばしくもあった。
「面白かった?」
「ふ、まあ及第点か」
格好つけて言うジンだが、微動だにしなかったほど熱中していたのは誤魔化せない。
クライスのオタ友発見ゲージが上昇していく。
「感想は」
「――そうだな、まず」
■それから長々と、感想を垂れ流すジン■
■それは、彼の根が真面目な性格が表れていた■
「ほうほう」
隣に座って聞くナマケモノは、割と律儀。
■好きな作品の感想を、言い合える仲間■
■なんだか、ほっこりするナマケモノなのであった■
「……なんと言っても、主人公がすごい強いのが良かった」
「強い方が好みか(ゴウトは逆だったな。俺は前者)」
「ああ……」
ジンは少し顔を伏せ、声の調子を落とす。
「――オレだって、出来ればそうなりたかった」
「へ?」
「……いや、なんでも」
ふてくされた様にベッドに寝転がるジンは、もう何も言わなくなった。
その背中からは、見てると切なくなってくる気配が出ていた。
「あっそ」
クライスは関心なさそうに立ち上がり、浴室へ向かう。
面倒な詮索をする気はない。
■ガラスのドアを開け、入浴開始■
■浴室に充満する湯気が、彼の疲労を包むかのようだ■
「はー」
深い溜息を吐き、ハンドルを回転させて、あぐらをかいた姿勢でシャワーを浴びる。
(なにもかも流そう)
色々とあって頭が重い。
お湯の温かさに浸るように心を投げ出し、すべてを感じないようにする。
面倒なことを考えないように、ただ無心の近くへと寄る。
(そうするのが一番だ)
「お背中……流しましょうか……?」
「頼む」
「喜んで……! ふふ……」
「んん?」
■背後に感じる気配■
■可愛らしい声色・ほのかに漂う良い香り■
■いつものギャンブル狂い■
「え、なんでいるの」
「えへへ……。来てしまいました……わ……」
「可愛い風でもダメ」
■クライスの背後に、タオルを巻いたヒナ■
■浴室で彼女のような魅力的な女性と二人きり、そのANSWERは?■
「ごくり」
「その反応……! ベタベタでナイス……ですわね!」
■彼は固くなった■
■意識すると、ヒナの息遣いが耳に響く■
■クライスピンチ■
「ふぅー、ふぅー」
「うふフ……。そんなに必死に……息を整えようとして……興奮しますわね……」
隣の部屋にいるはずのヒナは、見事に侵入を果たしたのだ。
クライスマジピンチ。
(これが、職業【密偵】の力なのかっ)
気色の悪い声を上げるクライスは、己の自制心と戦う。
(よーし、まだ行けるっ。俺の精神力を舐めるなよっ)
背中を擦るタオルの感触が、彼の精神をぬるぬると削っていく。
ヒナのお背中流し作業はどこか淫靡で、男の理性を奪っていくような見事な手腕であって、これは誘惑に負けても仕方ないよね?というのがクライスの言い訳。
(あと10分、いや5分)
■謎のカウントダウン■
「どうでス……? わたくしの……お手並み……?」
(いややっぱ3分で)
■自制心は崩壊寸前!■
■ヒナはクライスの耳元で、そっと囁くように言葉を発する■
■彼女の息がかかる度に、脳が溶かされるような錯覚起きる、ASMR状態ってわけ■
「クライスさん……」
「なにかね。言ってみたまえよ」
「変な口調……」
■彼の心は決壊寸前!■
「どうして……あんなことを……?」
「……ああ、【それ】か」
■ヒナの問いに、心が引き締まる■
「そんなに不思議か?」
■彼の脳裏には、盗賊団が討伐された後の光景が映った■
■【ソルジャー】たちによって、賊が連行され■
「クライスさんは……戦いを避けたい……はず」
「その通り」
■少女の泣きそうな顔と■
■そんな状況に追い込んだ、敵が残ったので■
「気に入らなかった、から」
■彼は思わず言ってしまった■
【お前の儀式場――奪い取ってやる】
「いつも通り」
■瞳に、乱れに対する怒りを宿して■
■ゼロに対して宣戦布告した■
■最強の儀式場の一つに、挑むことが決定したということだ■
「……相手は……守りの大剣……は、五年の間……鉄壁」
「らしいな」
「有する守護者は……最強の盾が……二人はいる……」
「そりゃすごい」
その意味が分かっているのか、いないのか、クライスの返事は気が抜けている。
「だが、俺が勝つ」
彼は少しだけ力を入れて、言葉を続けた。
「……フフ」
「?」
間を開けて、ヒナの笑いが漏れた。
「ヒナ?」
「そうで……なくてハっ。わたくしの……勇士様はッ」
「おフッ」
柔らかい感触が、ダブルで彼に襲いかかる。
より直接的な感触に感じられたそれは、彼女がクライスの背中に密着したせいだ。
理性崩壊やばいTIME。
「クライス……さんっ。わたくしの……愛しい方……!!」
「なにをっ」
背中に頬ずりしているヒナに、クライスは動揺。
後ろ目で彼女の様子をうかがうと、なんとタオルがなくなっている。
その代わり。
(WHITEを基調にしたっ、競泳水着ッだとッ)
むちむちパツパツなとんでもない状態になっている、ヒナの水着姿。
彼女の運動女子的なスタイルが丸わかりで、大変理性を破壊するやばい破壊力。
そのことに気付いた彼の行動は、決まっている。
(このような暴挙は許さんよッ。キミィッ)
■カメ朗とは違うッ!!■
「くっはっ」
抵抗の声を上げ、抱きつくヒナの手を振り解こうとする。
しかし、彼女はより強く力を込める。
「はなせッ卑劣なァッ」
それでも彼は諦めず、己の信念を貫こうとした。
「おあああッ」
(そんなに強く……抱きついてないはズ……ですわ?)
「くそォッ振り解けないっ」
■クライスの勇敢な抵抗は、30分続いた■
「英雄譚として、後世に残そう――」
「悟ったような顔……最高に気色悪い……でスわね。フふ」
■敗北と勝利は紙一重■
■今回は最後まで行ってしまった■
●■▲
■それから時は経ち■
「さて」
■静まり返った部屋■
■ゴウトもジンも、寝てしまったようだ■
「さっさと済ませる」
■暗闇の中で・光が灯った■