色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「まいった」
早朝。
呟いた人物は、無職の勇士にして・最強のスキルを持つ男、MASARU。
「なんてこった」
彼は、ある判断ミスを犯してしまった。
「思った以上にきつい」
■当ホテルに階段はなく■
■階層間の移動は、魔導エレベーターをご利用ください■
「おかしいだろ」
見たことがあるような文様が刻まれた足場が、広がる部屋。
その大きな円形の部屋から、廊下に出たクライスは、壁に寄りかかって息を整える。
「うぷ」
青ざめた顔に生気はなく、床に敷かれた超高級そうなカーペットにリバース・フレイム(状態異常あり)をぶちかまちそうになる、乗り物酔いなんてあんまりしないはずのMASARU。
(それとは違う、新種の脅威っ)
魔導エレベーターの浮遊感は、以前に味わったそれとは格違い。
脳髄を直接揺さぶるような、決定的な拒否感。
(そう、以前の大会っ)
ゴウトやヒナ、ミリアムと戦い競った、イヤシノ地区の大乱闘・死闘(?)。
あれの開始前に使用した移動型魔導具と、今回の魔導エレベーターは同種のようだ。
「くっ、しかしっ」
大袈裟にかすむ視界の中で、エレベーター前に貼られた貼り紙を見た。
そこには、今の状況の原因が書かれている。
「不具合発生中っ」
そのような主旨が書かれている。
(面倒で見なかった)
■必然の展開にプチ絶望!■
(怠惰は、悲劇を起こす時あるある)
しかし、それでも同じような失敗をしてしまうのが、彼が無職の勇士である所以なのかもしれない。
それはともかく予想外のダメージなので、壁を背にして彼はその場に座り込む。
(プチ休憩)
■休憩中、通りがかった他の客に不審者のように思われながら■
「復活」
よろよろする体を動かし、彼は目的の場所へと行く。
「どこだ」
彼が目指す扉は、ユックリ・タワーの最上階「12階」にある。
しかし、分かれ道に突き当たり、こっからどう進むか分からなくなってしまう迷子。
(右か左か)
進む道は二つに一つ。
「――右」
■左でした■
「怠惰は悲劇を(以下略)」
もう少し下調べをするべきかと、さすがに反省。
●■▲
■そうして着いた、大きな扉の前■
(すごい癒し系イラスト)
上手く説明できないような癒し系イラストが、扉に描かれている。
(癒し系だっ)
癒されたクライスは、にこやかに扉を押し開いた。
その顔は完全に破顔している。
「うわ、なにその顔。ひく」
ジャスミンがいたら、きっとそう言う。
■扉の先の階段を上がり■
■二枚目の扉を開ける■
「屋上」
開けた先に広がる屋上。
上空の曇り空と、金色の柵の向こうに広がる町が見える。
そこそこ強い風が肌をなでた。
「はーっ」
若干冷たい風に晒されながら、屋上の中心で寝転がる。
(ゆっくりする)
曇った空は、今の気分に丁度良いのかもしれない。
もう思考を放棄したくなるような、憂鬱な心持ち。
面倒なことが背に一杯あって、とても立ってはいられない錯覚。
(ああー、面倒事を投げてー)
【俺が勝つ】
(あんなこといったが)
浴室でヒナに言ったことを思い出し、少し後悔気味。
まったく似合わない言葉だと思う。
後の祭りで気分が重い。
(キャラじゃない)
一つの目的に向けて愚直に精進なんて、己の生き様には合わないぜ(などと格好つける)なクライス。
(大して変わらーん)
■流れゆく雲を、ただぼんやりと見送る■
■そういった時間も大切なのだ、少なくとも彼にとっては■
■なまけるだけ■
■それだけで、救われる心もあるんじゃないか■
「あー、ねむー」
平穏な時間は、薄く引き延ばされ、彼の魂を溶かす。
「ほんと、だりー」
■そう言いながらも、強い予感■
(しかしだ)
そろそろお約束的なアレが来る予感――。
「ほらなー」
ほぼ勘のようなものだが、彼はその音を聞いた。
「おそるおそる」
恐る恐る、音のした方へと向かう。
(町が)
柵に近付くと、ホテルから伸びる大通りの方から煙が上がっているのが見える。
(またトラブル)
昨日、盗賊団に遭遇したばかりだというのにと、頭を抱えたくはなるが。
しかし、それでもやらなければならない時がある。
「やるか」
クライスは覚悟を決め、己の意識を切り替える。
「ふん」
力が少し入った。
■そうすると不思議なことが!■
「完了ウホ」
■就職者G! 復活!■
(まさかコレ、魔導具とは)
身にまとったゴリラの着ぐるみ的なものは、装備型の魔導具。
前に村でもらった品物だ。
(あの時は未完成)
しかし、ある伝手を使い魔導具として完成。
(出し入れ自由っ)
■人の物であることは、すっかり忘れている■
「ウホホ」
ちょっとした確認作業。
数秒で音声確認が済んだ。
さてと、駆けだす。
(下りるの面倒。飛び降りる)
柵に向かって一直線。
「ウ――ぼあッ」
それを越えようとした瞬間、思い切り間抜けな声を上げ、弾き返された。
「???」
■疑問符のあと、彼は気付く■
(壁)
半透明の壁のようなものが、柵から発生している。
(防壁柵――)
ある魔導具の名を思い出す。
(聞いたことがある。塔を守っていたのもこれか)
●■▲
「がはははは!! 壊して、奪え!!」
「おれ達!! ガリアン盗賊団!! まだまだ行けるぜ!!」
■斧や剣を装備した、盗賊団の残党たち■
■彼等は周囲の店を襲い、品物を盗んでいく■
「ぐっ!? はっ!?」
盗賊達に立ち向かう影が一つあった。
「ははは! 中々やるじゃねぇか!! 戦士君よぉ!!」
「うるさいっ、これからが本番だ!!」
戦斧の勇士:ジン・アームズ。
ヒビだらけの鎧を着て、魔導具である大きな銀色の斧を勇敢に構える彼だが、相対する盗賊一人に苦戦を強いられていた。
「へへへ、口だけは立派だが……」
彼と戦う、スカーフを頭と右腕に巻いた盗賊は、ジンと対照的な大きな黄金の斧を構えていた。
「ぎゃははは! 少しは手加減してやれよ!」
「そうだぜ! おれ達は! イヤシノ地区・ナゴミノ地区・ホノボノ地区・ユウユウ地区……あらゆる地区を荒らしまわった、最高最強の盗賊団だからな!!」
店から奪った果物などを食しながら、彼らはジンの戦いを観戦している。
「かーっ! 首領もなさけねーよな!! あっさり捕まっちまってよ!」
「まったくだ! 【地区長】の屋敷を襲撃した時の勢いはねーな!!」
下品な笑い声が町に響く。
(まるで三下だな)
ジンはそう思いながらも、三下にすら勝てない自分が嫌になる。
(くそぉ、オレはッ)
【約束だよ!!】
【ああ】
「おあああああ!!」
咆哮と共に走り出したジンは、戦斧をしっかりと握りしめて。
(――【スマッシュ・アックス】、アイテムスキル発動)
戦斧の勇士が有する魔導具が持つ強力な力、その一角を使用する彼。
(【痛恨の一撃】ッ!!)
■スキルの効果を乗せて振るわれた斧は■
「うぉッ! 強烈ッ」
■普通に金色の斧で防がれた■
■あまりにもあっけなく、何も特筆すべきことがない■
■味気ない敗北■
「あ……く……」
弾き返された己の魔導具に、絶望するジン。
「ちく……しょうっ」
両膝を着き、斧を手放してしまう。
「今の一撃はちょっとやばかったぜッ。何者だ――まさか! あの最強の勇士かッ!?」
「ばーか、あの勇士は島の外で活躍してるだろ……」
「そうだったけか? ははは! しかし、こいつの魔導具……どこかで見たような」
地面に転がった魔導具を見て、首をかしげる盗賊。
「斧の頭に付いた紫色の宝石……刃の部分で交差する多数の線……」
「思い出せね! ぎゃはは!!」
「つーか勇士がこんなにザコなわけねぇだろ?」
「そうだよなー!! ははは!!」
(……好き勝手いいやがって)
歯ぎしりするジンは、己の掌をまじまじと見る。
(マメができるほど鍛錬するなんて……また、無駄な希望を……)
同時に蘇る記憶は、まだ最強の勇士になれると信じていた頃の自分。
(ああ、本当に――ごめんな。お前ら)
■その謝罪は誰に対してのものか■
■彼は深く肩を落とした■
「ひゃはははは!! スキル!! 【急所の切断】!!」
「――ウホ」
凄まじい勢いで飛来する砲弾。
それは、スキルをかまそうとしていた盗賊へと、一直線に向かっていく。
「へ?」
盗賊は、呆けた顔のまま吹き飛ばされた。
「ぎゃああああああッ!?」
絶叫と粉塵が周囲に広がり、その場にいる全員が驚愕する。
砲弾の直撃を食らった盗賊は、気絶しながら地面を転がっていく。
「なんだー!?」
「ば、爆撃かー!?」
そう勘違いしてしまう程の事態を引き起こした怪物は。
「よくも、やってくれたな……ウホ」
粉塵を裂いて、その巨体を盗賊達の前に現した。
「で、でかい! ゴリラ!?」
「新種のモンスターか!?」
二メートル越えの獣に慌てふためく盗賊達は、自分たちの魔導具を展開。
彼らからすると、今のクライスは正体不明の怪物なので怖い。
「ウホホっ」
■ゴリラの声を発する、まさしくゴリラであるナマケモノ■
(全然サイズ合わないが、動きに支障はなし。すごい)
魔導具が持つアイテムスキルの効果を実感した就職者Gは、にやりと笑う。
さらに、のしのしと盗賊たちの方に歩く。
「な、なんて獰猛な笑みだ!!」
「おれたちを食い殺す気かッ!!」
普通に怖いので、盗賊達はビビっていた。
(走り高跳び……うまくいったなぁ。ウホホ)
クライスは相変わらずのマイペースであった。