色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「おー! ここまでだな! 悪辣王! 成敗してくれるー!」
「ぐわははは!! その程度の力で立ち向かうとは笑止千万!! 返り討ちにしてくれるわーい!!」
小さな空き地に響く、少年たちの声。
騎士の家系に生まれた彼らは兄弟で、よく【最強の勇士】を中心に添えたごっこ遊びを行っていた。
暑い暑い夏の日差しにも負けぬ、青春の輝きを放ちながら。
「この剣は! 悪を絶対に切り裂く剣なり!! とーう!!」
「千年の封印より復活した我に!! 勝てるかーい!! おわはははは!!」
木剣を持った茶髪の少年と、それを迎え撃つ薄茶髪の少年。
二人の顔立ちは、かなり似通っていると言っていいだろう。
「どりゃあああッ!! オレは! 最強の勇士だあああ!!」
■勢いよく発する咆哮に迷いなく■
■己の未来に疑いはなかった:戦斧の勇士■
「――兄さまは最強の勇士ッ」
栗色のポニーテールを可愛く揺らす、戦斧の勇士の妹。
彼女から注がれる敬愛の視線に少し気恥ずかしくなりながらも、ジンはまだ胸を張れていた。
己はいずれ最強の勇士に、四人の兄弟達の信頼に応えられる戦士に、努力すればきっとなれるはずと。
■そして、運命の時は来た■
「勇士適正:戦斧の勇士」
■様々な光が交錯する一室■
■白いシーツが敷かれたベッドの上に寝ているジン■
■彼の体には、様々な器具が取り付けられていた■
「がははは! よかったねーい! これで、様々な勇士特典を島から受けられるよ~ん!」
「博士、お客様です」
「ほ?」
「【番外の友】を名乗る者ですが……」
「あー、それは困ったな~。……ジン君、少し待っててくれるかい?」
■自然発生的に生まれる様々な勇士■
■その適正を調べる施設で、六歳の少年は己の運命を知る■
「……やっぱりか」
自然と口を出た言葉は、少しの失望を含んでいた。
それは、ジンが望んでいたポジションが、【最強の勇士】として名高いモノだったため。
(だけど、これは一歩目だ)
■それでも、彼の決意は固まっている■
■遠くにある目的に向けて、歩いていく■
■自分が弱いということを自覚してからも、努力は続けていた■
「ボクはロビン! よろしく! なにして遊ぶっ!?」
■歩いていく■
「やったー! ボクの勝ちッ。悪いねっ」
■隣にそびえ立つ、強大な壁を見ながらでも■
■歩いていく■
■己の弱さが徐々に、その足を鈍らせていっても■
「本気でやってる? ジン」
■歩いて、歩いて■
■遠くに、遠くに――■
「こんなに遠いとは、思わなかったな」
■戦斧の勇士は、親友から逃げ出すように去っていった■
■ある日の決闘の際、ロビンから言われた一言が原因■
■「本気でやってる?」■
■親友は悪気もなくそう言った■
■それが、ジンの心が折れた瞬間だったのかもしれない■
「……」
ジンから過去の話を聞いたクライスは、寝ているのかと思うほどに無反応。
目は閉じられ、言葉は発さず、横たわった体は呼吸による動きしか起こさない。
「クライス。これがオレの理由だ。現実が直視できずに逃げ出した、なさけない男の話……だが」
「……へえ」
■マサルは■
■己の過去を思い返した■
「……」
【もう、無理だ】
「……ジン」
クライスはスローペースで立ち上がり、仲間と正面から向き合う。
ジンの瞳には、とても強い決意が宿っていた。
それを見たクライスは、少し苦々しい表情を浮かべ。
「じゃ、頼む。チーム入れる」
そっけなくそう言って、ナマケモノは再び寝転がった。
「パリパリパリ。うめー」
「……え? おわり?」
「? なんだよ、不満?」
ポテチを食べる手は止めることなく、さっきまでと変わらないクライス。
拍子抜けしたような顔のジンは、なんとなく納得いかない。
「いや、もう少し、こう」
「パリパリパリパリッ」
「……」
返答させんな。面倒くせーんだよ。
無言でスピードアップするその動きからは、彼の怠惰なる想いが溢れていた。
ジンはそれ以上の追及を止める。
「……だけど、早く戦いたいなら。他の奴と一緒に戦ったほうがよくないー?」
「おいおい、何も知らないんだな。やれやれ」
「?」
「守りの大剣に挑もうなんてやつ、いないんだよ。普通」
■そもそも無級の儀式場なんて■
■リスクに見合わないと、ジンは語る■
「儀式場の挑戦にはそれなりに金がかかる……まあ、無級は比較的安いが」
「そういや」
「さらに、そこを守護するのは強大無敵の守護者たち。貴重な虹の魔導を消費しても、勝てるか不明な化け物集団。そして、挑む側もそれなりの格が必要となる」
■【儀攻戦】を挑むには■
■その資格があるかどうかの、審査を受ける必要があり■
「あー」
「君は誘われたんだろう? それならば、審査は通る筈だ」
「まーそう、あのナイトに」
「世界を変えるシックな男……」
(あれ、そんな名前?)
■クライスは、一瞬自分の記憶を探ったが■
■そんな名前だったかと納得■
「あの男は、ファンブルナイトと呼ばれる、最強ナイトの一人」
■常に青いマントを翻し、手に持つ大剣は紫に輝く■
■かつて起きた大量A級とナイト協会の戦争において、ただ一人生き残った男■
「モンスター相手が得意とはいえ、強敵には間違いないだろうな」
「まー、強いよな」
「だが、オレは、明確な敵として立ち塞がる友と対峙し、これを討って見せるッ」
「気合入ってんなー」
「当然だッ。気持ちで負けてどうするッ」
右拳を握りしめ、瞳に決意と覚悟の炎を宿し、かつては逃げた壁に立ち向かおうとするジン。
その姿を、クライスは複雑そうな顔で見る。彼の目には、正反対な色褪せた残骸しか宿ってはいない。
どこまでも熱意は遠かった。
「そーかい」
「そうだッ。そうだッ!」
(二回繰り返すほどかい)
■そう思ったクライスだが、どうやら違うようで■
「? なにを、ジン」
■ジンは夜空に右手をかざし、そこから灰色の輝きを発した■
■光から出現するは、戦斧の勇士の得物■
「――アームズの名のもとに、誓う」
夜空に向けられた武具は、戦斧の勇士の象徴でもある。
月明かりを受けて儚く輝く、敗北を重ねた斧。
「……」
クライスに見えるように、ジンは己の得物を高く掲げ、心に楔を強く打ち付けるように声を張り上げる。
疵だらけの鎧を着ながら、凛々しく、熱く、どこまでも勇敢に、困難に立ち向かうべく叫ぶ。
「我が友クライスにッ! 煌めく栄光をッ! 溢れる幸福をッ! 確固たる成功をッ!」
【兄さまっ】
【兄さん。兄さんはやっぱり強いや】
「この戦斧を振るいッ! 必ずやもたらしてみせるとッ!」
【おれも、兄貴みたいになる!】
【かっこいい……!】
「此処にッ――誓うッ!!」
宣言と共に振り下ろされる、誓いの斧。
戦斧の勇士ジンは、過去と向き合うための一歩目を踏み出した。
「そーかい、期待」
相変わらずのぶっきらぼうな態度の無職の勇士。死んだような目はそのままだ。
声色も平坦なまま。
いつの間にか、お菓子を食べる手は止まっていた。
「……フン、とは言っても、このままではまるで届かないのはオレだって分かってる。今日、それを改めて実感した」
「どうする?」
「考えはあるさ……しかし」
「どうした」
「いや、今さらな怯えだ。問題ない……詳細は改めて伝えよう」
ぶんぶんと頭を振って、弱気な心を振り払うジン。
右手にある斧を再び虚空に返し、屋上の出入り口へと戻っていく。歩く姿に躊躇は感じない。
「……」
クライスは無言のまま、彼の足音を静かに聞く。
言葉を交わす必要もなく、彼らはそれぞれの道を歩む。来たるべき決戦の日に向かって――。
「――そういえば、就職者Gの事件知ってるか」
■いきなりジンは振り返り、そんなことを言う■
「あー、あれね。冤罪だよね、あれ」
「ほう、君はG擁護派なのか」
「村を救った英雄っ、ナイスガイなGを信じろッ」
「いや、オレは信じているよ。きっと、破壊行為にも深い意味があるんだ……まさか、力加減を間違えたとか、そんな理由ではないだろう」
ジンの言葉を聞くクライスの顔は冷や汗が止まらず、心臓がきりきりと痛んでしまう。
どうにか動揺しないように努めているが、完全にバレバレである。
(ちくしょうっ、面倒だーッ)
■後日、破壊された建造物等を直すための多額の寄付が、謎の人物から届いた■
■クライスはそのニュースを見ながら、低く唸っていたという■