色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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試合後

「もう夕方ですね。クライス様」

 

「うん。ああ。はい」

 

 俺は、完全に上の空で草むらに囲まれた道を歩いていた。それなりに村を見て回り、しかして気分は落ち込み気味。どれだけ歩いても俺の不安が解消されないせいだ。

 まあここが異世界なのはよしとして、だ。

 現在地は島。絶対すぐに元の世界に帰還不可。電話なしってっ。いや、特殊な連絡手段はあるとか言ってたけど。

 どうする……?

 

「ま、いいか」

 

 考えるのめんどうになってきたので、とりあえず今の状況を受けいれる。

 というよりも、別に帰りたくもないし。

 このまま異世界に暮らしてしまおう。うん。

 

「よし」

 

 あらためて気合を入れ、だらけまくることを決定した。

 この世界に住むとなれば、考えることはとにかくグーたら生活優先。

 なんかのバトル展開とかはいらない。

 このまま平穏無事に余生を過ごすのだ。

 

「……つかれた」

 

 ともかくしかし、視界がぶれぶれで、疲れによって足がふらふらだ。

 ただ外を歩くだけで体力消耗する系なんだ俺は。

 唯一の癒しは。

 

(もふもふシッポ)

 

 前を歩くサーシャちゃんの服下から、とてもモフモフしてそうな大きな尻尾(橙色)が見えている。左右にふりふりしている様は大変かわいらしい。まじでかわいい。

 さわりたい衝動が顔を出し、それを即座にひっこめる。

 くそ! 別に動物好きってわけじゃないのになっ。

 俺はなんでこんなにもふもふシッポが好きなんだっ。

 

「……クライスさま」

 

「? なに?」

 

「さっき会った……ジルヴァラ選手、スタークさん。って言うんですけど……」

 

「ああ。なんかいたな」

 

「あの人……イヤシノ地区最強と呼ばれているんですよ。すごいですよね」

 

「へえ」

 

 あの赤髪のやつ、そんなにすごかったのかぁ。

 だからなんだという話だが。

 

「でも……」

 

■夕焼けの中、少女は語る■

■少年は、それをじっと聞いていた■

 

●■▲

 

■それから少し時がたち■

 

「……はりきって説明しましたけど、分かりやすかったでしょうか?」

 

 夕日に照らされた背中が、不安気な言葉を発する。

 尻尾がぴたりと止まり、げんなりと下をむいた。

 ……それすらいやされる。

 

(異世界……この世界の説明か。……色々とぶっ飛んだものもあったが、特に【救世主】と【悪辣王】)

 

 救世主――世界に千以上存在する伝説にうたわれる人物。いずれ悪辣王を打倒すると信じられているらしい。

 当然伝説が多いと該当する人物も増えるため、候補がどんどん多くなっているとかいないとか。

 信じない国もあるが、国によっては血眼になってただ一人の救世主を探すところもあるようだ。

 

(そして)

 

 悪辣王――いずれ世界を恐怖に陥れる存在。とか言われてるらしいな。いわゆる悪の親玉的存在だろう。

 傘下の者が多く存在し、世界中で暗躍してるとか。きたる決戦の日にそなえて。

 

(うさんくさい。しかし壮大だ)

 

 だんだんなれてきたかもしれん。このノリに。

 そう思い、木造民家の横を通ったとき。

 

「おー、お二人さん。どうだい調子は?」

 

「え」

 

 ぎゃあああああああッ!!? サメだーッ!!

 全然なれないよっ! こわいィッ!!

 

「サメ男さん。お仕事終わりですか?」 

 

「おーう。今日はカメ朗の家にいってなぁ、家具の修理してきたぞぉー」

 

「まあ、相変わらず器用ですね」

 

「オラの数少ない長所だぁ。ははは。これぐらいはなぁ」

 

 民家の死角から巨体のサメ男さん。

 インパクトありすぎる見た目のせいで、ついビビってしまった。

 

「今度、サーシャの家のも直すぞーい。ははは」

 

「いつもすいません。その時は、よければ夕飯をごちそうになってください」

 

「なにを言ってんだ。同じ村の仲間だろうー。そんな気にすんなぁ」

 

 しかし話す姿を見ていると、とても悪い人には思えず。

 むしろ、仲間想いの善人って感じだ。

 無駄にこわがっちゃだめだよな。うん。

 

(サメ男さん、ごめん)

 

 俺達は合流したサメ男さんと一緒に、帰路に着いた。

 夕焼け空が妙に美しく、なんだかなつかしい気分になる。

 

「へえ、とりあえずはサーシャの家に住むのかぁ」

 

「はい! クライス様が島から出る時までは、私が手助けを!」

 

「……」

 

 やる気満々という感じのサーシャちゃんには悪いけど、不安しかない。

 知り合ったばかりの女性と二人きりって、気まずいぞっ。どうしようっ。

 喜んで良いはずなのに、心配が大きい。主に俺の良心的な意味でだ。

 

(保ってくれよ。俺の理性。醜態さらすな) 

 

 サーシャちゃんがめちゃくちゃ好みのタイプじゃなければ、むしろ楽だったかもな。

 心臓のバクバクが止まらず、やばい。

 ここから村でのスローライフ……美少女との同棲生活がSTARTするって、好みのラノベみたいな展開だっ。

 

「そっか、オラの家に招待したかったが仕方ないなぁ」

 

「え?」

 

 今、サメ男さんの家でもOKって言ったのか? 言ったんだよな?

 サメ男さんっ。あんたが救世主だっ。よっ! 男前っ!

 

「ええっ! いや、でも、決めるのはクライス様……」

 

「まっ、そうだなぁ。どうするよクライスさん」

 

「あー俺は……」

 

 これは乗るしかないだろう。

 サーシャちゃんには悪いしすごい残念だが、そっちのが気楽だな。おしい気持ちはあるけど。

 

「じゃあ――」

 

「おっ、家に着いたなぁ」

 

「へっ」

 

 どうやらあれこれ考えている内に着いたようだ。

 思考をとめて、眼前の光景を見遣る。

 

「ここがサメ男さんの家、か」

 

 道の左に建った赤い三角屋根の家。道を挟んで向かいには、似たような屋根を持つ民家が。

 話によると、右の家はサーシャちゃんが住んでいるらしい。

 

(さて、俺がどちらを選ぶかというと)

 

 決まっている右のサメ男さんの、んん?

 なんだぁ、あれ。

 

(家の出入口、ドアの前に)

 

 前の地面の色がおかしいよ。色がね色。

 真っ赤だぞぉ。

 もうー。サメ男さんってば、トマトかペンキでもぶちまけたのかなっ。

 

「あっ、やべ」

 

 サメ男さんはそう言い、慌てた風に「ちょっと待って」と告げると、自分の家に入っていった。

 やばいの。やばいことなの、あれ。

 

(それから玄関先を掃除し、家の中で何かを片付けている風の物音がして)

 

■ドアの裏にベットリ付着してた赤■

 

「……」

 

見てない俺は。何も見てないから、本当だよサメ男さん。サーシャちゃんは何やらうなっていて、両目を閉じているので本当に見てなさそうだ。

 

「またせたなぁ。クライスさん」

 

「あの・あれは」

 

「……トマトジュースだ」

 

「あ~やっぱりっ」

 

 思った通りだ。サメ男さんの好物なのかな。ただの好物なんだから、目を逸らす必要ないだろサメ男さん。やめてよお願い。

 

「で、どっちに」

 

「サーシャちゃんの家にします」

 

 サメ男さん、ごめん――。

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