色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
■大きな天窓から射し込む光で、輝く美女■
(何かで見たことあるような)
■煌めくような黒髪■
■緑のジャージ着用■
■割と巨乳?:byクライス■
「がちがちがちッ」
「あの」
「がっちん! がっちん!」
異常に震えるポーラは、歯が砕けそうな音を鳴らして、自分の番号が呼ばれる時を待つ。
その目は虚ろで、死刑執行を待っているような雰囲気がそこはかとなく存在していた。
しかし、それは今のクライスも同じこと。むしろ、彼女の所為で恐怖感が無駄に倍増しているのである。
「くっ」
まさか、ちょい憧れてた魔導習得でこんなにも大きな乱れに遭遇するとは思ってなかった彼は、唇を噛んで、恐怖を堪える。
だが、震えを誤魔化すことは出来ていない。
「ふ、ふふふ……武者震いが。止まらんよ」
「き、奇遇ですねっ。私もッ」
「困ってしまうな、戦士の性もッ」
見栄を張って、無職ではないアピールをかますクライス。
口調も少し変えてみたようだ。
「ああ! 戦士属性の方ですかッ! これはこれは気が合いますね!」
「フム、熟練のなッ」
「LEVELはいくつでしょうか?」
「え」
「わくわく」
「えっと」
(LEVELってなんだっけ)
■自分で言ったことを後悔■
■ここでも怠惰のツケがきた■
(たしか……ジャスミンが)
【サーシャは賢者で、あたしは戦士。そして職業(人属性)にはレベルがあるの】
【戦士は、タイマンにおいて最強とされているわね】
【ちなみにLEVELは――】
「35ですぞ」
「! 高いっ! 【円盤戦】の強者でも、平均30なのにっ」
「(円盤戦? 一対一の殴り合い的なのだったか)」
「もしや! 名のある選手だったり?」
「いや、ただの……求道者さ」
■見栄は重なっていく■
「俺より強い野郎に会いに行く的な」
「うんまあ、そうですぞ」
「カッコいいですね」
■なんかカッコいい人物像になってしまったクライス君■
「――うわああああああッ」
「びく」
「びくりっ」
■二人を現実に引き戻す悲鳴■
「……」
「……」
流れる沈黙は痛々しい。
怯える彼等は、会話も出来ずに震え上がったのだ。
「……お! クライスじゃん!!」
「おお! またまたお会いしましたねー。うれしいです~」
「お前らっ」
■最悪のタイミングで、現れた知人たち■
「このやろー! 水臭いぞ! おれを置いていくなんて!」
一人は人型亀さんのカメ朗。
絶妙にダサいTシャツを着て、クライスに手を振る。
「おっとっと? なんか体調悪そうですね~」
二人目は小さな少女、ロリン。
白いドレスを身にまとい、にやにやしながらクライス達を見る。
その瞳は相も変わらず底が読めない。
(よりによって陽キャコンビっ)
ひやりとした表情のクライス。
なんとか彼等に恐怖を悟られまいと、強引な話題転換を行う。
「貴様ら、仲が良いのだな」
「なんだクライス、その口調」
「漫画に影響されましたか? 面白いですねぇー。あはは」
■違和感バリバリであるクライスは、完全に浮いている!■
■ごまかすように、彼はカメ朗とロリンの関係を聞いてみた■
「実は、今日初めて会ったんだよ!」
「意気投合してしまいまして! カメ朗さんってば面白いんですよぉ~」
「なー! なんか波長合うんだよコレが!」
■お気楽コンビ爆誕の経緯を聞き、だからなんだと思うクライスには余裕がない■
(くそ、こっちの気も知らずにっ)
現在、歯医者的な恐怖に襲われているのでもうアカン。
彼等を、思わず威嚇する構えを見せてしまう。
「こわっ! どうした!? クソが出そうか?」
「トイレなら建物の左奥にありますよ。雇い主様~。案内しましょうかぁ?」
(クソは貴様らだ、たわけめっ)
余裕がなさすぎて、クライスはモノローグでもキャラ崩壊を起こしている。
なんとかばれないようにするが、限界は近い。
「……もしかしてお前」
「っ」
何かに気付いたようなカメ朗。
クライスはひやりどころではなく、ひんやりし始める。
「怖いとか……ないよな」
「ぎっくり」
「まさかなー! 子供じゃあるまいし!」
笑顔のカメ朗の言葉に、尊厳を傷つけられていくのはクライスとポーラの二人。
これが、無自覚な言葉の暴力である。
「五十八番の方、どうぞー」
「お! 呼ばれちまったかー。じゃあ行ってくる!」
「……どうぞー、初めての魔導習得楽しんできてくださいね!」
「ああ! 肉体強化! 待ってろよ!」
■カメ朗はさわやかに去っていく■
■その後ろ姿には恐怖なし■
「肉体強化?」
「あー、カメ郎さん、今度あの【テンペスト】に挑戦するらしくて!」
「テンペスト……あの、世界でも有数の大きな山ですか」
「おやおやぁ?」
話題に反応したポーラに、反応するのは守護者の少女。
ロリンは彼女に目を向け、まじまじと観察を開始。
「あ、すいません。私は」
「いえいえ! 分かっていますよ。……ポーラさん」
声を小さくして言ったロリンの配慮。
クライスは聞こえていたが、疑問符を浮かべるのみ。
(ポーラ? ……どっかで聞いたような、気のせいか)
わざわざ興味もないことを調べないクライスが知っている筈もなく、その反応に肩をすくめるのはロリン。
やれやれ世間知らずめと、その瞳は呆れていた。
彼に対し、そこらへんの無知を改善するためのサポートすべきかと、本気で彼女は悩む。・そんなように見える。
「む、なんだよ」
「いやいや。まあ、知らせない方がいいですかね! 過剰な反応をされても困りますし!」
「?」
疑問符が深まるクライスは、納得いかないような顔。
ポーラは少し安心風。
「それで、テンペストについてでしたね。あそこは未確認生物的なのがいると言われてるので、カメ朗さんってば張り切ってしまって!」
「そうでしたか。……彼と同じですね」
■寂しげなポーラの呟き■
■誰にも聞こえない■
「でも、わたしも気になってはいるんですよねー。一緒に行こうかな! どうしよっかなー」
「あーはいはい。ロマンってやつね」
「むむ、引きこもりの雇い主様には分かりませんよ! どっかの巫女のように冷めてますね!」
「うるへー」
「日々を生きる活力! それがロマンというもの――」
「嗚呼ああアアアッ!!」
「です?」
「!?」
「!?」
■響いた絶叫――■
■それは、さきほどまで彼等と話していた彼のもの■
「え、悲鳴」
「いやー! 気合いはいってますね! カメ朗さん!!」
「え、いや、今の悲鳴」
聞こえてきたそれに対して、クライス&ポーラはがたがたと震えだす。
相変わらず周囲の人たちに変化はない。
いや、気づいていて知らぬふりをしているようだ。それが、この場の暗黙の了解とでも言いたげに。若干引きながらも平静を装っている。
「今、悲鳴が」
「なんのことですか? なんのことですか?」
「なんで二回も言うっ」
「だって、雇い主様がおかしなこと言うから。なんなんですか一体! カメ朗さんがピンチだとでもいうんですか!」
「クライスゥゥゥゥウっ!!」
■断末魔が響く!■
「俺の名前よんだっ」
「クライスじゃなくて、クライシスですよー。きっと」
「どっちにしろやばいだろっ」
「助けッ――」
■鈍い音が連続して炸裂し■
■悲鳴は途切れた■
「カメ朗ッ、今助けにッ」
「ちょっと! マナー違反ですよ! 雇い主様!」
「血と涙はあるのかっ、お前っ」
■クライスはロリンに抱き着かれ、動きを止められる■
■こうしている間にもカメ朗は……■
「カメ朗ぅぅぅっ」
■クライスは友の名を呼ぶ■
■その声は……■
「――なーに叫んでんだよ! 恥ずかしいやつだな!」
■たしかに届き■
■扉は開かれた■
「がっしゃんがっしゃん! いやー! 生まれ変わった気分だガシャ!!」
■カメ朗はロボットになった■
「カメ朗ぅっッ???」
「だから大声出すなって! 迷惑だろガッシャン!! ガシャガシャ!! がしゃがしゃがしゃ!!」
「がしゃがしゃうるさいっ」
「変な音鳴るようになっちまった! まあ、気にすんな! ガッシャシャ!」
「気にしろよっ、洗脳でもされてんのかっ」
鉄の輝きを放つカメ朗のボディを見て、異常事態に大混乱中のクライス。
裸足のまま床を歩くごとに異質な金属音が響く。口からは蒸気を吐き出し、目は赤く光った。
今にも腕からミサイルを撃ち放ちそうな雰囲気に、ただただ彼は恐怖する。
「じゃ! おれはテンペスト山の未確認生物を見つけてくるがっしゃ!」
「それはお前だろっ」
「ゴー!!」
「まて、なにをっ」
■直後、カメ朗の足元が光を放ち■
■とてつもない轟音と共に、天窓目掛けて飛び■
■そのまま突き破り、空の彼方へと消えていった■
「……」
「……」
唖然とした表情でそれを見送ったクライスとポーラは、同時に同じことを思った。
((帰ろう))