色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「あー、だるー」
小川の流れに沿って歩くクライスは、朝日を気持ちよく浴びながらの散歩中。
現在地はビーフの館の東。
一人だけ修業を受けられない彼の歩みは、非常にゆったりとしたものだ。
視点があっちにこっちに定まらない。
人生もなにも定まらない。
(別にいいがなー)
蹴った小石が川に波紋を広げ、それを少し眺めながら今日の昼めしについて考える。
さわがしいことに巻き込まれることが多い彼にとって、こういったただの静かな時は割と貴重でもある。
そして、なにより大切なものなのかもしれない。
心乱れることがあった場合、素直に休むというのは実際効果的だろう。
ああそうだ、銀髪の少女に言ったように。
(本当、さわがしい世界だ)
■やたらとトラブルが発生する異世界■
■どうにも、理想とはずれてしまっているような気がしなくもない■
「うおおおお!! 熱血!!」
「……」
■遠くの方から、やかましい声が聞こえてくる■
■ジン達が、館の敷地内にある運動場でランニング中であること思い出す■
■よくやるなと、素直に感心する■
■今のジン達は、まさしく修業のために生きていると言えるような状態■
■苦々しく思いながらも、ただそれだけで、自分はゆったりした時間を過ごすのだ■
(だが……)
■川の流れはまだ続き、ぼんやりとした頭で彼は歩む■
「――元気か」
「――はい」
■白いワンピースを着た女性■
■先の道から歩いてきたサーシャと、言葉を交わした■
■やっぱり彼女といると落ち着く。心の中に、澄んだ海と青空が広がっていく■
「連絡はしたが、ずいぶん早く来たな」
「……ひ、ひどいですよ! わたしを一人残していくなんてっ。……も、もしかして嫌われたかなとか思ってしまいましたぁ。うぅ」
「ごめん、本当はすぐ帰る予定だった」
「うぅ。でも……予定外だったなら仕方ないですね……はい」
■ビーフの館に来ることになって、クライスはサーシャに連絡を取った■
■迎えに行こうかと思ったが、彼女が自分で来ると言ったために、待つことにした■
(こまった)
クライスたちに放置プレイを受けたサーシャは、すねている様子。
連絡するのが、思ったより過酷な修行のせいで遅れたせいである。
彼女に心配させてしまったかと、自分の行動を反省した。
(目当ても入手ならず)
元々、伝説の布団を奪……受け取ったらとんずらする予定だったクライスだが、そう上手くはいかなかった。
しかし、まだあきらめたわけではないのだ。
しかし、正直すでに面倒くさくなっている感も否めない。
「……クライスさま? また悪いことを考えてますね」
「おっと、濡れ衣」
「分かるようになったんです、なんとなく。いつも見てたから」
「ほほう」
クライスの顔を、じっと見つめるサーシャの瞳。
当のクライスさんは、「サーシャちゃん可愛いなぁ」という想いで頭が埋められている。
にやけ顔に変化したことで、少し怯えてしまう彼女。
「……おっと、顔に出たか」
「で、出てますッ! だめですよクライスさまっ。な、なんだかハレンチな気配しました!」
「えー」
■顔を赤らめるサーシャ■
■まあ、クライスが考えていたのは一緒にお茶したいなぁ程度なのだが■
■なんというか、そんな風にしか思えなかった■
(正義バカほどじゃないけど、サーシャちゃんも普通に優等生だからなー)
怪盗クライスとしての活動は、やりにくくなりそうである。
そういえば、サーシャはこの館に泊まることになるのであろうか? そっちの方がクライスとしては助かるが、とりあえず彼女がどうしたいか聞いてみないことには……ただ、サーシャのマネージャー的性質からして、きっちり泊まって選手たちの状態を把握しようとはするだろう。
……それはそれとして、彼女の顔を見れたことはうれしいので。
「一緒に歩こうか」
「は、はい、もちろんですっ。お供します!」
■散歩の再開■
■今度は、とてもうれしい同行者もいる■
■こういうので良いのだ、彼の散歩は■
「~♪」
「……」
少し前を歩くサーシャの背中を眺め、ふりふりの尻尾に目を奪われるクライス。
いやしのパワーをすごく感じ、モフモフタイムに入りそうになるのであった。
「はっ」
「?」
(また、無意識の内にモフモフしようとしてたっ)
両手をワキワキさせるクライスは不審者丸出しであるが、サーシャは例えモフモフしても許してはくれるのだろう。
それだけの関係性は築けているのだ。
朝昼晩の食事を作る時、彼女はすごいウキウキしているし、尻尾を枕代わりにして寝ることも許してくれるし、やはりなんだか距離感近めの二人。
クライスの方も、別に遠慮することなくすんなり馴染めている。
しかし。
(それは、俺が勇士だからか?)
■そんなことを、思ったりすることがある彼■
(……)
■彼女が見ているのは、本当に自分の姿なのかと■
■不安感のようなものもあったりする■
「サーシャちゃん」
「はい?」
「聞きたいことがある」
■クライスは、振り返ったサーシャと向き合う■
「えーっと」
「はい」
「んーっと」
「はい?」
■言葉は出てこず■
「そこの岩に座ろう」
「??」
■よく分からないことを言ってしまう■
「……」
「……???」
「……はぁ」
丸く大きな岩に並んで座り、ただ静かに流れる川を眺める。
自分で何がやりたいのか分からなくなってきたクライスは、ゆらゆらと泳ぐ小魚に無言で助けを求めた。
返事なんて返ってはこない。
「……ぬおッ」
「きゃっ!?」
■水面が破裂し、人型の影が現れた!■
■とっさにサーシャをかばうクライスは、後方に退避■
「……」
「お前はッ」
「あわわっ」
■影はタコ+人魚の謎生物であった■
「――何者だ、貴様ら」
■無駄に格好いい声である■
■言いたいのは俺の方であると、クライスは思うのである■
■とりあえずサーシャを逃がす態勢は、充分に整えていた■
「見られたからには死んでもらおう。人間ども」
「いや、勝手に見せたんだろ」
「問答無用! 武士なら潔く!!」
「人の話を聞けッ」
■両手を用いて、水鉄砲を放ってくる生物■
「つめたッ。地味につめたッ」
「ほらほら! なすすべなしか!!」
「このーッ」
■戦闘シーン省略■
「ぐはッ」
「ふー、勝った」
■クライスは水に濡れながらも、タコ人魚を撃破した■
■彼の着ていた地味なTシャツが少し濡れ、川遊びでもした後のようだ■
「強いな……ッ、貴様」
「やかましいわ」
「どうやら、最低限の資格はあるようだな。勇敢な若者よ」
「状況を説明しろ。意味わからん」
■勝手に納得したタコ人魚は■
■口から何かを吐き出した■
「黒い……」
「さあ、受け取るんだ。その誇りある許可証を」
「イカ墨まみれ……タコっぽいのにイカ墨っぽい」
いきなり出現したモンスター的なのが、なにかを渡そうとしている。
そんなアイテム、受け取りたくはないクライスは一歩後退。
しかし、そのアイテムが顔面に飛んできたために思わずキャッチしてしまった。
「早くするんだ。クライスとやら。師匠……ビーフの弟子よ」
「……いらない。というか、おっちゃんの知り合いかい」
拒否したクライス。
受け取ったものを投げ返し、それをタコ人魚はキャッチする。
「ぬぅ・つれないやつだ」
「当然の反応だ」
「ふむ。まあいいか。聞いていたとおりの実力者だった」
そのまま謎の人物は背を向ける。
クライスの制止も聞かずに、タコの人魚は小川を泳いで去っていった。
サーシャは突然のことに口をぽかんと開け、半ば放心状態になっている。
クライスも実際混乱中。
「……な、なんだったんでしょうか……? く、クライス様。お怪我はっ」
「さっぱりだ……お?」
「えっ……って、きゃああああああッ!?」
クライスが、サーシャの安全を確かめようとした時だった。
彼女の胸元が水で透けているのが目に入ってしまった男子クライス、とっさに目を逸らす紳士的プレイを出来たらいいなぁと思いながら、思い切りサーシャの恥ずかしい姿を凝視している。
無意識下のことなので悪気はない。と、彼は言い訳をするだろう。
(白、ブラジャー、水玉模様――)
一瞬にして情報を読み取ったクライスは、サーシャの両腕による隠ぺいをかい潜った。
その視線には、よどみしかないゆえに逆によどみがないと彼は思い込んでいる。
サーシャは顔が赤く染まっていた。体はぷるぷると震えて子犬のようで、可愛らしい。
「そ、そんなに凝視しないでくださいっ。やぁっ」
「無意識だ。悪気なし」
「ひ、開き直ったッ!?」
予定調和の言葉を言い放つ彼の堂々とした態度に、衝撃のサーシャ。
クライスは腕を組み、さきほど見た光景を脳に刻みこんでいた。
恥じらうサーシャは、チラチラとクライスを見ていて、彼の反応が気になるようだ。
「ふぅ」
「ま、満足した表情ですねッ。な、なんで?」
「(ラッキー)」
「ばっちり見ましたよね……ううぅ。はずかしいっ。……貧相な体とか思われてないかな。やだなぁ」
■その時だった■
■激しく、天地を揺らす轟音響く■
「っ」
「ひゃあああッ!?!」
突然のそれに跳ね上がったサーシャは、無意識の内にクライスに抱き着いた。
彼もまた、無意識の内に能力値を上げて、サーシャをかばうように立ち回る。
目つきが一瞬で変わる彼は、冷徹な視線と聴覚によって、危機を察知する感覚を研ぎ澄ませていく。
「――離れるな」
「は、はいッでしゅっ。クライスしゃま!」
■いつになく、真剣な声のクライス■
■周囲の確認が済み、思考を次の段階・危機予測へと繋げていく■
(……今のは)
■その目が空を見遣る■
(雲が弾けた?)
■雲は千切れ飛び、大地はわずかに揺れている■
■クライスは、まだ警戒を解かない■
「収まったか」
「み、みたいですねっ。ななな、なんだったんでしょうっ。こ、こわい……うぅう」
「……」
(サーシャちゃんの感触がぁッ)
ぷるぷる震えながら抱き締めてくるサーシャにドキドキしながら、なんとかクライスは言葉をつむぐ。
最近、こういうのを試されている気がしないでもない。
「こ、これ以上はッ、アカンッ」
「す、すいません。腰が抜けてッ」
「なんぞッ」
それでは離れるわけにも行かず、彼はひたすらに理性の我慢大会を開催した。
なんか本当に最近、理性をごりごりと削られるイベント多しと思う気がしないでもない。
自分の周りに美少女が多いのを、いまさらながらに実感していた。
「(さっきのブラジャーが脳裏にッ)」
「ぷるぷる」
「(ふぅ)」
「――く、クライスさま。もう大丈夫ですっ」
●■▲
「……そうですか、現在の状況はそんな感じで」
「ああ」
「みんな頑張っているんですね……! あのビーフコーチに認められるなんて、すごいですっ。なかなかないことですよっ」
「そうみたいだな」
「ですっ。……他の選手も見てもらえないか、交渉してみましょうか。で、でもきっとダメだろうなぁ」
「……」
■サーシャに、みんなの努力を教えると■
■彼女は、熱意を瞳に宿して奮起した■
■すでに、マネージャーとしての活動プランを、頭の中で構築しているようだ■
「わ。私もサポート手伝わないとっ。まずはアレをこうして……手配してっ。アレも必要かなぁ?」
「すごいやる気」
「守りの大剣に勝つには、やっぱり……ううん、それとも? 試合映像確認もっとしないとっ。セッティングも進めて……日程調整! うぅ、時間足りるかなぁ」
「……」
めまぐるしく動いている風の、サーシャの脳内。目がぐるぐるしていて混乱しているようにも見える。が、楽しそうだともクライスは思った。
これからの未来に想いをはせ、どうなったらより良くなるかと努力する。そこになんの迷いもなく、停滞したままの怠惰は存在しない。
(ああ)
■サーシャは、とても充実した顔を見せている■
■本当に、選手をサポートするのが好きなのだろう■
■その性質はまさしく光・それでこそ彼は彼女を好きになったのかもしれない■
「俺も……」
「え? なんですかっ?」
「いや、なんでも」
高速で手帳に何かを書き込んでいるサーシャを見て、クライスは言おうとしたことを引っこめた。
少しだけでも手伝おうか。そう口にしようとしていた。
怠惰な自分らしくない気まぐれに、おかしくなって笑いそうになってしまう。
(じゃましたら悪いな。大人しくしておくか――いつも通り、一人だらけていればいいさ)
■自分に言い聞かせるように、彼はそう思った■
■曇り空が、雨を落としたそうに泣いたような気がした■