色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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燻りの布石

「ほああ!!」

 

 ピンク色の髪を乱しながら疾走する美少女。

 トカゲ型モンスターが吐き出す体液の効果にもめげず、彼女は荒野を突き進む。

 汗を散らしながら、美しきFIGHTERは暴走特急と化すのだ。

 

「ゴリラ女」

 

「聞こえてるのよッ。こんのッ!!」

 

「うわあああっ」

 

 ジャスミンから飛んできた魔導弾を見て、あわてて逃げるクライス。

 彼は修業風景のあまりの荒々しさに、思わず失礼なことを言ってしまった。

 ジャスミンはモンスターの攻撃を回避しながら、さっきのと同じ魔導を放っている。その魔導の威力すら着実に上がっている。

 

「命◆踏破◆踏破◆踏破◆大砲!!」

 

■発動される魔導・【大砲】は■

■最後に詠唱を行うことで、その威力を倍増させる効果がある■

■その代わり、消費される魔導力も大きいが■

 

「あんたもくらえッ!!」

 

■ジャスミンの両手から発射された、真っ黒な魔導砲弾■

■それが、モンスターの頭部に命中する■

 

「ジャストヒット!!」

 

 勢いよくガッツポーズのジャスミン。

 当たった攻撃はモンスターを大きく怯ませ、どう見ても効いている。

 この前までは、まったくダメージが通らなかったはずなのに。

 

「ほー、やるな」

 

「だろう。ジャスミンのやつ、気合いが入っていてなぁ」

 

「……」

 

 ジャスミンが、熱心に努力しているのは知っている。

 真っ直ぐな彼女は、ひたむきに勝利のために走り続けている。

 その姿は太陽のようであり・もしかしたら、クライスがちょくちょくジャスミンの練習を見にくる理由もそれかもしれない。

 

「ぎらぎらしてるな」

 

 ジンもゴウトも、ヒナもジャスミンも、明日の熱意を胸に抱いて突き進む。

 立ち止まっている暇などないと、足を動かし、両手を振るい、あがきながら進んでいく。

 それをクライスは。

 

(――鬱陶しいな。少し、だけ)

 

■その一瞬だけ■

■彼の纏う雰囲気が変質した■

 

「……」

 

 その変化を敏感に察知したビーフは、彼に対してするどい視線を送った。

 困惑気味の顔で、クライスの怒気を感じ取ったのだ。

 少し心配にもなるような気配に、一瞬なにを言えばいいのか逡巡する。

 

「……ふむ。つくづくお前は健全な競技者とは言えないな。クライス」

 

■クライスの内面にある歪さ■

■それは、自分の手に余ると思う■

■……そこで踏み出せるほど、勇気のある人物ではなかった■

 

「……さて」

 

 そして、クライスは迫ってきているのを感じる決戦について考えた。

 敵は今までにないほどに強大で、手強いだろう。

 果たして、クライスの力がどこまで通じるのか未知数。

 今までの敵は怠惰スキルで蹴散らせるLEVELであったが、今回はそうはいかないだろう。

 苦戦する可能性は大いにあった。

 クライスとしては絶対に避けたいが、かといって他力本願でも勝てないだろう。

 

(ジン達の成長に期待する)

 

 クライス以外のメンバーの熱意はすさまじく、成長速度はおそろしいものがあった。

 これならば、割といけそうな気がしないでもない。

 やはり他力本願気味に感じるのは、気のせいということで流す。

 

「……」

 

■熱意を宿さぬ死人の目のまま■

■彼は、決戦に挑むことになるだろう■

 

●■▲

 

■何度かの試合を経て、最低限の挑戦資格は得た■

■ついに、クライス達はその門を叩く……■

 

「――では、こちらで審査を終えましたら、また改めて連絡いたします」

 

「はい。お願いします」

 

■正午■

■守護の会・ナゴミノ地区支部■

■ロビーの受付カウンターにて、彼は椅子に座って何かを書いていた■

 

「……」

 

■書類への記入を終え、それを受付に提出した……男の名はジン■

 

「……よしっ」

 

 ジンは受付の女性と話をして、守りの大剣の【儀攻戦】の申請を終わらせた。

 心なしか、女性の顔が疑わしいものになっている気がする彼。

 イタズラではないかと思われているのだろう。

 その実力で、本当に最高峰の儀式場に挑むつもりかと。

 

(まあ、オレには大した実績もないしな……)

 

 勇士ではあるが、目立った成績を残しているわけでもない就職者。

 それならば最強の守護者たちに挑むなど、バカバカしい話ではある。

 それだけ、最強の盾は次元が違うのだ。

 身のほど知らずだと笑われても、おかしくはない。実際、目の前の女性も心の中では笑っているかもしれない。

 

(だが、絶対に勝つさ)

 

 笑いたければ笑えばいいさと。

 その意志は折れることなく、先の勝利を見据えている。

 決戦の時のために、みんなで修行を行ってきたのだ。

 辛くて逃げ出したい気持ちが心を苛むこともあったが、もう二度と逃げ出したりはしないと誓ったから。

 

(最強を撃破する――必ず)

 

■力強く立ち上がる■

■受付に背を向け、歩き出す■

■決意を漲らせ、ジンは修行の場へと戻っていく■

■その途中■

 

「あっ、失礼するっす。もしかしてジン君っすか?」

 

「?」

 

 戻ろうとして、出入り口の自動ドア付近で軽い調子の男性に声をかけられる。

 これといった特徴のない服装の、黒髪男性。

 身長はジンと同程度で、体格はそこまでがっちりした感じではない。

 

「君は……いやまさかっ」

 

「ははは、そうっすよ! きちんと調べてるみたいですね! いやーうれしいな!」

 

(守りの大剣の――守護者!!)

 

 名をクリス。

 そこまで目立った情報があるわけではないが、それが逆に不気味だ。

 最強の盾ではないが、厄介な相手には違いないはず。

 ジンは警戒し、そのステータスを確認……というレベルではないが、推し量ろうとする。

 

(……意外と低い?)

 

 見える能力値はそんなに高くはない。

 当然それは、最強クラスと比べての話であるが。

 

(オレより【すべて】高い……かッ)

 

■強くなっている実感を、くじこうとする■

■大きな壁■

■そのプレッシャーを、彼は味わっている■

 

「ジン、何やってるのよ?」

 

「お!」

 

■出入り口の自動ドアから入ってきたのは、ジャスミン■

 

「うひょー、かわいい娘! あれ、まさかジャスミンちゃん!?」

 

「ええ!? だ、誰ですかッ!?」

 

「ファイターで活躍しているだろ! ファンなんだよ!」

 

「ちょ、ちょっと近いっ」

 

 いきなり激しくよろこんで、グイグイ迫るクリスにジャスミンは困惑。

 勢いのままに彼は、ジャスミンの両手を握ってきた。

 

「ッ!?」

 

■ジンの腕が伸び、クリスの手を無理矢理引き剥がした■

 

「やめろ、少し馴れ馴れしくないか?」

 

「おっと、彼氏さんとかだった!?」

 

「違う。一緒に戦う仲間だ」

 

■残念そうな顔をするクリスを、睨むジンの対峙■

 

「わ、悪かったよ。ごめんごめん」

 

「フン……」

 

 慌てて謝るクリス。

 ジャスミンは動揺し、ジンの後ろに隠れている。あと少し遅かったら、クリスを殴り飛ばしていた……かもしれない。

 申し訳なさそうに何回も頭を下げるクリスに、ジンはようやく怒りを収める。

 同時に、ジャスミンが彼をぶっ飛ばさなくて良かったと安堵。

 

「いや、ごめんね。ファンだからついつい」

 

「次からは気を付けてくれよ。ジャスミンは……人見知りなんだ」

 

「え、そうなんですか? そんな風には見えないけど……」

 

 怯えている様子のジャスミンを見て、一応は納得した様子のクリスは、がっかりと肩を落とした。

 好きだった女性にふられた心境なのだろう。

 それどころか、彼女から威嚇のこもった視線を受けまくっている。ちょっと怖くなった。

 

「残念だ……。積極的なアプローチ過ぎたかっ」

 

「……」

 

 そんな様子のクリスに油断なく視線を送るジンは、少し考えた。

 ここで、少しでも守りの大剣の情報を引き出しておくべきかと。

 しかし、割とそこらへんはキッチリしてそうな相手だ。

 

「君は……守りの大剣のメンバーで間違いないんだよな?」

 

「そうですよ。守りの大剣の……最強です!」

 

「!?」

 

「あ、ジョークっす!」

 

「……」

 

「ははは、面白くなかったですか? 今の発言はみんなに内緒で……」

 

 へらへらと笑いながら両手を振るクリスに、ペースを崩された。

 実はこの男策士なのではと、一瞬思うジン。

 まあ、ただの軟派男の可能性の方が高いが。

 

「――聞いていたぞ。この軟派男が」

 

「うげぇ!?」

 

■女性の声に振り向く三人■

■そこには■

 

「お前が最強だって? ええ?」

 

「いやそのー。ジョークっすよぉ」

 

「笑えないなぁ。私のプライドは傷ついた、また躾けてやろうか?」

 

「ははは……かんべんっ」

 

 頭を掻いて目を逸らしまくるクリスの態度で、どちらが格上かよくわかる。

 現れた彼女・最強の盾、ゼロと比較して。

 

「それはそうとだ、お前がロビンの言っていた奴か」

 

「!」

 

「ふむ……。これは……」

 

 見定めるようにジロジロとジンを見ている彼女に、ジャスミンは不快そうな顔だ。やはり彼女に対する印象は悪い。

 そんな顔などお構いなしにゼロは、挑戦者である戦士の力量を確かめようとする。

 ジンも負けじと、堂々とそれを受け入れた。

 

「――それなりといったところ。まあ、実戦に期待しよう」

 

■そう言うと、ゼロの瞳は興味を失った■

■完全に眼中にないという態度■

 

「……舐めてくれるな。さすがは王者の余裕か?」

 

「当然だ。まず、同じステージに立てるかも怪しいだろう。お前たちは」

 

「……!!」

 

 なんの嫌味もなしに放った最強の言葉。

 それは事実であるから当然で、自然に出てしまう暴言。

 言い返したい気持ちになったジンだが、出来なかった。

 なぜならば、自分に関していえばどうしようもない事実だからだ。

 

(化け物がッ!!)

 

■ジンが感じるゼロの強さは、ロビーに劣らないもの■

 

「理解したか? これが格の違いだ」

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