色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「こ、このッ」
あんまりな態度にジャスミンは何かを言おうとするが、さすがの彼女もあまりの威圧感に委縮している。
これから自分がこの怪物に挑むとなると、身震いもするというものだ。
ある程度の領域に達した選手であるからこそ、彼女はゼロに強い恐怖も感じる。
が、それでも引かずに強い眼光を真っ直ぐに向けた。
「ファイターの女……名前は忘れたな」
「んなッ!?」
「悪いね。いちいち弱者の顔を覚えられるほど、記憶力は高くない」
あっさりと言うゼロに悪気はなさそうだが、それが逆にジャスミンの神経を逆なでする。
そもそも、ゼロは彼女にとって印象最悪な存在なのだ。
サーシャをイジメていたことを許してはいない。
ぶっ飛ばしたい気持ちが高まっている。
「ふふん、なにも言い返さないのか? とんだ臆病者だな」
「ぐ……!」
「まあ、あの……なんといったか、覇気がなさそうなくず男の仲間には相応しいが」
■完全に、見下し切った態度であるゼロ■
■ジンはその言葉に怒りを覚えて、反射的に手を出しそうになる■
「――!!」
■ゼロの背筋に寒気が走った■
(この男……ではなく、背後)
■彼女が振り返った先には■
「おそいぞ、なにやってんの」
■黒いTシャツを着た、無気力そうな少年の姿■
(こいつか……? 今の威圧感は)
ゼロはクライスを注視して、彼の真価を計ろうとしている。
その珍しい様子に、クリスもクライスに興味を持ったようだ。
「【迷惑】なやつの相手してないで、早くいこう」
「……」
ゼロを挑発するかのようなクライスの言葉。
彼にしては珍しく、敵意が分かりやすく表れている。心なしか、いつもよりも他者に対する心の壁的なものが強く在った。
自分の方を見ないクライスの態度に、ゼロは挑発を返すように言った。
「ふふん、怖くて私の方を見れない――」
「――ていうか、あんた誰?」
その瞬間、場の空気が凍った。
相手はこの島、いや、世界における最強の一角。
だというのに、臆せず彼女と接する無気力な少年。
ゼロの鋭い眼光すら受け流す彼は、大した実績があるわけでもないのだが……。
■だからどうしたと、無職の勇士は威圧する■
■それすらも面倒くさそうな・怠惰なる威圧■
「悪いけど、どうでも良い奴のことを覚えられるほど記憶力ないし」
「……!!」
「じゃあな。知らない人」
的確に地雷を踏み抜いている音がする。
ゼロは顔を赤くした後、体を震わせてうつむいていた。
クライスは構わずにジン達を連れて、その場を離れようとする。
「お、おい。クライスっ」
「あんた時々、とてつもなく切れ味増すわよね……」
「そうか?」
呆気にとられた仲間たちを後ろに、クライスは自動ドアへと一歩踏み出した。
ゼロの方を振り返ることはなく、ただ前へと歩く。
「――」
「!?」
そんな歩みを邪魔する障害が現れた。
意識の隙間に入り込むような登場の仕方。
灰色のローブで身を包んだ、180はある体格の持ち主。
静寂と荘厳を併せ持った雰囲気を放ち、クライスの前に立ちふさがる。
「マルチネス……」
「マルチネスさん!」
ゼロ達の反応を見て、ジンは謎の男の正体に気付く。
守りの大剣には一人だけ謎に包まれた人物がいて、サーシャ達がどれだけ調べても簡単な情報しか分からなかった。
その男の名こそマルチネス。
ステータスは確認できないが、ゼロやロビーと同格の威圧感を発する存在。
「……」
「……」
そんな男の登場を前にしても、クライスはただ無気力に視線を向けるのみ。
一体何を考えているのか分からない表情。
(はやく帰って寝たい)
■クライス思う、我ナマケモノであると■
「どいてくれ、大切な用事があるんだ」
「……」
■無言で数秒■
■その後に、マルチネスは道を開けた■
■彼は特に何も言わないが、クライスを注視しているのは分かる■
「そんじゃ」
「……失礼する」
「……試合の時は、よろしくお願いします。ええ本当にっ。――ほえ面かくんじゃないわよ! 金髪女!!」
■彼女のその怒りは、なんに対してのものか■
■ジャスミンの気迫が響いた後■
■クライス達は施設を後にする■
「いやぁ、なかなかどうして……」
「……」
「ゼロさん?」
残されたゼロは無言のまま立っている。
クリスは疑問に思って声をかけようとするが、いきなり彼女は笑い出した。
びくりとクリスは震える。
心臓に悪い類の、めっちゃ冷え冷えする笑いの音程。
「はははっ、まさかここまでコケにされるとはな……」
「だ、大丈夫っすか?」
「大丈夫だとも……。心配なのは敵の方だろう? ん?」
クリスは彼女の声色の変化に気づいていた。
声の中に秘められた禍々しい敵意や、荒々しい怒り。
笑い声がまるで楽しく聞こえない異常。
クリスは無意識に彼女から距離を取り、苦笑い。
「試合が楽しみだ……」
「そ、そうですね」
びりびりとした何かがゼロの周囲に走り、思わずクリスはさらに一歩離れた。
周囲の従業員や客も、その気配を察して彼女を避けていく。
その圧は、受付カウンター前方に置いてある、【大きな銀色の盾】のオブジェに反射して拡散していくかのごとし。
彼女の【真骨頂】が表出していた。
「――完膚なきまでに叩き潰してやる」
■最強の盾は・敵意を光らせた■
●■▲
「いよいよ……試合の日も近いか」
「だなー」
「お前は本当にやる気なしだな……。本当に競技者か?」
少し夕焼けに染まってきた時。
二階廊下で、並んでジン達の修行風景を観察しているビーフとクライス。
ジン達の持つ石はほとんどが変色し、修行の終わりが近づいていることを意味していた。
クライスは度々その修行風景を見に来ていたが、暑苦しい空気が壊れることはない。
「……はぁ」
呆れた風に息を吐くクライスは、とりあえずこの修行の終わりを見ていようと思った。
どうせ今日は暇なのだ、友人たちの頑張りを眺めているのも悪くはないと。
思いながらも、それすら少し面倒くさい。
「うおおお!!」
「ラストスパート!!」
■気合いの叫びが木霊した■
「……」
■そして、終わりの時はやってくる■
「……よくやった。おまえたちっ。本当にッ」
■ビーフの呟きと共に■
■ジン達の持つ石が砕け散り、空気に溶けていった■
■これが修業終了の合図■
「や、やった……!!」
「う、おおッ。しゃあああああ!!」
体の重みが消え去ったことで、凄まじく解放された気分になる二人。
その場に膝を突き、大量の汗と涙を流しながら、乱れまくった息を整えている。
長く苦しい修練の終わりに、ジン達はその喜びを分かち合うのだった。
その熱意の発露に、ナマケモノは感情が見えない表情をふと見せた。
「大したやつらだ……! ここまでの根性はなかなか見たことがないぞッッ!! ふむッ!!」
「うわ」
いきなり号泣し始めるビーフに、引くクライス。なんだか熱血コーチみたいだと思う。
それでもビーフは構わず泣き続け、一階に下りる階段の方へと走っていった。
クライスは動かない。
かける言葉が見つからないのか、それとも。
「感動したぞお前らぁ!! よくやった!! よくやったぁああ!!」
「いてて!? 背中叩くなよぉ!!」
「疲れているんだが……!!」
ばしばしと二人の背中をたたくビーフ。上半身裸なので直に響く。
すでに疲労困憊のジン達は、それだけで倒れそうになった。
すると、彼らに向けて何かが飛んでくる。
「うお! 飛来物CATCH!!」
「なんだっ」
ジン達がキャッチしたそれは、冷たいペットボトルだ。
少し離れた所から、クライスが投げてきた様子。
相変わらずの無気力さで彼は歩いてきて、二人に言葉を放つ。
「ま、おつかれさん」
まったく熱意のこもってない声色で言い、ささっと背中を向けて去っていく。
あまりにそっけない態度に、口をぽかんと開けているジン達。
そして、クライスらしいといえばクライスらしいという結論に至り、受け取った水分を補給する。
「生き返る……!!」
「うおお!! これはまだまだ修行できそうだ!! がはは!!」
水分補給を行ってゴウトは復活。
彼は勢いよく立ち上がったかと思いきや、いきなり倒れてしまった。
ビーフは呆れた顔でゴウトに言う。
「無茶すな。素直に休めばいいんだ……休息大事!!」
「お、おう。師匠っ」
「フン。ようやくだな……」
■そこから数分経ち■
■ジンとゴウトの二人が気を緩めた■
■その時だった■
「――」
■疾風が、その場に座った二人を襲い■
「うおうッ!??」
「なんだッ。いきなりッ」
■それを両者ともに、危なげなく対処した■
「……」
「なにすんだクライスッ!! こわっ!!」
疾風の正体は、クライスの放った手刀×2。
それをジンとゴウトは、即座に反応して立ち上がり、見事に己の腕で防いでみせた。
前までの彼らだったら、全力でないとはいえクライスの攻撃を防ぐなど不可能だっただろう。
「合格、か。これでいい?」
「ああ。面倒なことを頼んで、すまんかったなクライス」
「本当にな」
■どうやらビーフの差し金だったようだ■
■クライスはあくびをしながら、元いた場所へと戻っていく■
「師匠ゥうッ!! どういうこっちゃ!!」
「すまんなぁ。本当は普通にゆっくり休ませたかったんだが……ま、修業の成果が出てたじゃないか」
「……やれやれ、スパルタな師匠だな」
■ビーフは、彼らの修業の成果をしかと見届け■
■密かに思案する■
●■▲
「――ハァッ!!」
気合いのこもった叫びがその場に響く。
それと時を同じくして、モンスター一体が弾けて・飛んだ。
日が照った修業場での一幕。
そんな場所にクライスは立っている。
「ほー、やる」
クライスの前に広がる光景は、桃色の髪の少女が、自分の倍以上ある巨体を吹き飛ばしたもの。
地面は大きく削られ、上がった土煙の中に立つのは凛々しくまばゆい女ファイター。
彼女はその拳を高くかかげて、勝利のポーズを取った。
あまりに堂々とした姿は、格好よさと美しさを両立させたものであった。
「……なに? あたしに見とれた? クライス」
「おっと、誤解されてるな」
「すかしてやがるわね……。いつかあの時のリベンジしてやるわ! 覚えてなさい!!」
「えー」
クライスに向けて、鋭い眼光を飛ばすジャスミン。
今の彼女に睨まれると、さすがのクライスもひやりとするというもの。
それほど、ジャスミンから発せられる強者のオーラがすごい。
したたる汗が光を反射し、彼女の幻想的な女戦士感を強めている。
「……」
見とれているというのも、あながち的外れではない。
その立ち姿は、本当に魅力的に見えた。
「……ちょっとクライス。なによそんなにジロジロ見て」
「いや」
■少し恥ずかしそうに、問いかけるジャスミン■
■クライスは適当にごまかす■
修業の終わりを見届けた彼は、すかさず退散することにした。
彼女に対して、適当に買ってきたスポーツ飲料(サーシャおすすめ)とタオルを投げ渡す。
これまたクライスの気まぐれだ。
「わっ! ……何よ、アンタにしては気が利いてるじゃない」
「ま、おつかれ」
「……ありがと。助かるわ」
互いに、ぽつりとそんなことを言い残した。
気のせいか、クライスはその距離がいつもより近くなったような気がする。
●■▲
「……」
木々を揺らす戦闘による振動。
その元を辿って走るクライス。
おそらく修行も、クライマックスであると予想している。
また違う修業場での一幕だ。
疾風のごとき勇士が、美しく空中を舞いながら、己の得物を振るっていく。
「なんの……ッ」
■木々を巡り、高速で移動する影■
■それを捉えようと多数のツル!■
「甘いです……わヨ……! はっ……!」
機敏な動きで、迫るツルを回避していくヒナ。
それはまるで修行前と違う動きであり、彼女の成長がうかがえるものだった。
クライスは感心した様子で見ている。
これほどになるまで、どれだけの汗を流したのか? 彼女のボロボロの服を見れば、決して楽ではないことは分かる。
ジャスミンやジン達もそうだが、生活のほぼすべてをトレーニングに回すような生き方は、クライスからするとちょっと信じられない。
「フフ……」
一方のヒナは妖艶な笑みを浮かべながら、興奮しているかのように呼吸を乱している。
彼に見られているという事実が、ヒナに喜びを抱かせるのだ。己のどんな姿でも見てほしいと・さらにさらに頬が赤く染まっていく。
その動きがさらに洗練され、加速していく。
ツルを伸ばすモンスターへと、勢いよく接近し――。
「――斬」
オークっぽいモンスターの首がはね飛ぶ。
まるでブレのない見事な一撃。
想い人に見せつけるように、彼女は優雅に着地した。
「……あ」
しかし、それなりに体力は削られていた。
着地した足はバランスを崩し、ヒナは前のめりに傾く。
「おつかれさん」
そんな彼女の体を、さらりと抱き留めるクライス。
これまでの労をねぎらうように、優しく静かに受け止めた。
ヒナは少し驚いた様子を見せたが、すぐにその身を彼に預ける。
そのままじっと動かない。
はぁはぁ言いまくってて、正直怖いと思うのはクライスくん。
「どうでしたか……?」
「格好よかった。やるもんだ。えらい」
「……ふフ。うれしい……です……わネ」
クライスの言葉に、頬を赤らめるヒナ。
彼女の両腕がクライスのことを抱き締め返し、そのままわずかな静寂が流れる。
お互いに発する言葉を探しているのか、それともこのままが良いと感じているのか。
ただ二人の息遣いが響く。
「……クライスさん。……必ず、お役に立ってみせます……」
「……」
「そして……」
■彼女の雰囲気が一瞬・変わり■
(わたくしが……一番、【相応しい】ということを……!!)
■危険な輝きが、瞳の奥で生まれた■
(ヌルヌルみれなくて、やっぱり少し残念)
■クライスいつも通り■