色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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試合前のナマケモノ

「主要な修行は一応終わった……が、その成果を出せなくては意味はない」

 

「……」

 

「とはいえ、一段落が着いたことは間違いないんで……まあ、なんだその……」

 

「無理すんな。コミュ障」

 

 クライスの茶々入れに、うるさいと怒鳴るビーフ師匠。

 二人の手には、飲み物が注がれたコップがあった。

 そして、ビーフの言葉で夜の祝いの幕が開く。

 

「とりあえず……食って飲んで、思いっきり騒ぐんだ!! 今はその時だ!!」

 

「おうう!! 太っ腹だぜ師匠!!」

 

「よっしゃあー!! 騒ぐわよ!!」

 

「じゃ、ジャスミン。少しうるさいよ……。でもおめでとう! 頑張ったね!!」

 

 館の一階・居間に響く大声。

 大きなテーブルに着く、サーシャを含めたクライス達七人は、コップを互いに打ち鳴らす。

 ビーフの課したメインの修行を達成した祝いとして、みんなでそれなりに豪勢な食事タイムのスタート。

 クライスは、既に寝室に行って寝たい衝動発生中。

 

「でっけェ肉!! いただくぜー!!」

 

「落ち着きのない奴だ……。正直、あんまり食欲ないなオレは」

 

「ははは!! 貧弱な胃だなァ!! おれの勝ち!!」

 

「なぬっ。ふざけるなっ」

 

 テーブルを揺らす勢いでゴウトは料理に突っ込む。隣に座るジンは、しかめた顔で料理をよそっていた。少し食欲が出てきたようだ。

 意外とジャスミンは礼儀正しく皿にサラダを盛り、ヒナはゴウトと火花を散らすように肉料理を強奪している。

 ビーフはその光景にすこし微笑んだ。

 クライス眠い。

 サーシャは普通に微笑む。

 

「ふふ、さわがしいですね。クライス様」

 

「ああ。本当に……な」

 

「お疲れですか?」

 

「いや心配しないで。大丈夫」

 

 隣り合って座るサーシャとクライスは、落ち着いた様子で食事を進めていた。

 うるさい食卓を、なんだかんだでにこやかに眺めているサーシャ。

 しぶい顔で見ているのはクライス。

 クライスは茶を飲みながら、左手でフライドポテトを摘まんでいる。食事の早さもマイペースだ。

 

「クライス様は……試合前で緊張していませんか」

 

「いや別に」

 

「す、すごいですっ。鋼の心臓っ」

 

「いやいや」

 

 強がりなのか本心か。

 クライスは、最強の盾たちとの戦闘にも臆していない様子を見せる。

 そもそも彼にとって、別に命を懸けた戦いというわけでもなく、だからこそ異世界競技で挑もうと思ったのだ。

 本物の戦争に比べれば・【あっち】での闘争と比較すれば。

 全然ましというかなんというか、【倒す】という感覚が強く、それなりに気楽に戦うことが出来ていた。

 

「ま、重くなくていい」

 

「?」

 

 彼がこの異世界に来てからというもの、ずっと感じていた想い。

 どうにもこの世界はゆったりと時間が流れ、人々はのどかに生き、自身の心に合致する。

 この島だけがそうなのか、それとも世界全体がそうなのかは分からないが……。

 それを確かめるためには、島から出て、海を行く必要がある。

 大きなロマンの始まり。

 

(だれが行くか)

 

 始まらなかった。

引きこもりたいクライスにとって、島の外への冒険なんて絶対に断りたい。

 この島程に発達しているわけでもなく、娯楽もかなり少ない中世LEVELであると知っていればなおさらだ。

 スローラ村のウマ太郎なんかは、旅好きなためによく島の外に旅行に行っているらしいが、やはり島の環境に比べると不便という話を聞いていた。

 

(この島だけの恩恵、か)

 

■ホンワカ島の現代技術■

■それを島の外に広めるのは、法律で禁止されている■

■とか言ってたような、言ってなかったようなのナマケモノ■

 

(それで実際外に広まっていないってのは、なかなか奇妙)

 

 何人かはそれを広めたり、もしくは盗んだりする者がいるのが自然に思う。

 そのルールが破られないのは、律儀で真面目というよりも、違和感を感じなくもないクライス。

 

(ま、どうでもいいや)

 

 重要なのは自分の引きこもる場所が充実しているかどうかで、外の世界がどうとか小難しいことを考えるのは【面倒】なのだ。

 そんなことに頭を働かせている暇があるなら、暇を優先するのがクライスであり・マサルだ。

 世界がどうとか無関心。

 

「だよな」

 

「?」

 

 小さな呟き。

 それと共に無駄な思考を切り捨て、仲間達と共に過ごす平穏……のような騒がしい食卓へと意識を戻す。

 この日々が続けばいいじゃないか。

 クライスはそう願う。

 

「……サーシャちゃん。俺は、ほどほどにやるよ」

 

「……」

 

「別に意気込みとかないし。な」

 

 己の眼前で騒ぐ仲間達を見ながら、自分のスタンスを再確認した。

 異世界競技に挑むと決めたのは自分だが、あれはその場の勢い的なものもある。

 ゼロは気に入らないやつだとは思っているが、だからといってそこまで頑張る気もなかった。

 怠惰を愛する彼にとって――。

 

「面倒はごめんだ」

 

 そう言って、茶を口に流し込む。

 これ以上の理由を語る気はないし、これが全てであるという雰囲気。実際、彼の覇気がない理由なんてそんなものなんだろう。

 空虚な心はそのままに・ただ生きている。

 

「はい……貴方がそれを望むなら、わ、私はそれで構いません……っ」

 

「……」

 

「く、クライス様の幸せを願っていますから……はいっ。うぅ。でもでも」

 

「めちゃくちゃ未練ありそう」

 

 サーシャの言葉はまるで自分に言い聞かせるようなものだが、クライスの方針に異論は挟まない。

 ゼロとの戦いを勝利で収めて欲しいのは、間違いなし。

 それでも、無理に勝ってくれとまでは言えない。

 勝つために全力でサポートする気力に満ちた、そんな目はしているが。

 

「……」

 

 彼女の無言の不満を感じ取ったクライスは、それから目を逸らすように食事に集中する。

 重い期待を背負うなんて遠慮したい。

 それもまた面倒であるのだから。

 ……例の最強の勇士とやらは、どんな期待を背負って戦っているのだろうか?

 想像するだけで吐き気がしそうだ。

 

(そう……面倒で、怠い)

 

 だるい、怠い、ダルイ……ひたすらに気力が湧かない。

 無理して気力を引き出そうという気すら起こらず、ただ怠惰の海に沈んでいく。

 やる気を出せ?

 やれば出来る?

 そんな精神論なんかで、根本の無気力感をなくせたら苦労はなく、この世は働き者ばかりで万々歳だろう。

 常に頑張って気力に満ちた奴は、きっと心の形からして違うのだろうとクライスは思う。

 その心というモノも、変えようとすれば変えられるものなのかもしれない。

 ただ少なくとも、自分にはとても無理なように思えてしまう。

 

(俺は……こういう人間だ。ただ、はじめからそうだったかと考えると――)

 

■少しだけ・彼は心の奥に沈む■

 

「やってやんぜ!! 必ずあいつらをぶっ倒す!!」

 

「うるさいわよ、少し静かにしなさいな。……でもまあ、その意気込みだけはよしね。ほえ面かかせてやるわっ。絶対ッ!」

 

「おうよ、燃えてきたッ」

 

■見渡す仲間達の顔は■

■とても、燃えたぎった熱意で彩られていた■

 

「……」

 

■さびしさが頭を過る■

 

「もぐもぐ……」

 

「なーにを辛気臭い顔してるのよ。まさか、びびってるんじゃないでしょうね?」

 

「どうだろうな」

 

「しっかりしなさいよ! 癪だけど、アンタがウチのチームのエースなんだから!」

 

 ジャスミンの言葉を無気力にスルーし、サラダのトマトを摘まんで、ぱくりと口に含んだクライス。

 瑞々しい酸っぱさを口に広げながら、これからのことをぼんやりと考える。

 未来に待ち受ける強敵たちは、この世界におけるトップと考えて間違いない。

 要するに、数日後の試合である程度測ることが出来る。

 クライスの持つ怠惰スキルの真価・この異世界における立ち位置を。

 

(どこまで通じる……かね)

 

 最高の結果は余裕で勝利だ。

 同時に、それはほぼ100パーセントあり得ないと感じていた。

 ならば最悪の結果は。

 

(敗北・苦戦)

 

 思わず顔をしかめてしまう未来を想像して、クライスはお茶を誤魔化すように一気飲みした。

 この世界に来てからの最強無敵な快進撃をくじかれるなんて、そんなことは普通にごめんだ。

 なぜなら、これから他の儀式場に挑むさいに苦戦する可能性が出てきてしまうのだから。

 げんなりするのは当然である。

 

(……なぜだ)

 

 自分の考えに疑問を抱いた。

 勇士として、覚醒を果たすことを前提にしていた。

 勇士の上にある領域、【大勇士】。

 一説によれば、悪辣王を打倒する存在はこの大勇士に分類されるとか。

 その覚醒条件は様々で、ひとたび覚醒すればとてつもない力が宿るという……。

 

(そこまでやらなくても……なんて思う気持ちはある)

 

 わざわざこれ以上の力を、苦難の先に求める意味もないのだから、無理に儀式場を占領なんてしなくてもOK。

 そんな疲れることやりたくないし、面倒だ、面倒なんだ。

 彼の心に渦巻く想い、怠慢の色に染まっていき――。

 

【無職の勇士はすごいんですっ。どんな勇士よりも格好よくて、それでそれでっ】

 

「……っ」

 

 無邪気に語る少女の輝く瞳が、その色を別のものに変えようとする。

 彼女はどこまでもクライスの可能性を信じ、その進化を期待している。

 ならばこそ。

 

「……困る」

 

「うおおお、決着を着けるぞ!! ヒナ!!」

 

「上等……食卓を支配するのは……わたくし……!!」

 

■さわがしい食卓の中で■

■クライスは、静かに苦悩する■

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