色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「……」
■夜風に当たりながら■
■館のバルコニーで思案中の怠け者■
「あー」
夜風は冷たく穏やかに、クライスの肌を撫でつけていく。
館を囲むように広がる木々が静かな音楽を奏で、孤独感や神秘感をより強く感じられる。
その中で、クライスは何をするでもなく居た。
視線は揺れる木の葉に向けたり、夜空に向けたり……ゆっくりとさ迷っている。何かを見つけようとするわけでもなし、目的もなく自堕落に行われる行為。
時間の無駄に相違ない。
「いまさら」
無駄なんて・いくらでも積み上げてきた。
彼はそんな無駄で無為な時間の方が、必死に死力を尽くして、混沌と苦痛を積み上げるような時間より好きだ。
血反吐なんて当たり前に吐きたくないし。
ずっと自堕落の海を泳いでいたい。
「……」
そう出来れば一番なのだが。
なんやかんやで、色々な面倒ごとに首を突っ込むことになってしまっている。
できれば引きこもったままでいたいというのに、周囲の状況がそれを許さない。
やる時はやらなければ・そういう時だってある。
問題はそれが、やらなければになってしまっている、本当にただ面倒なだけの時間になってしまっていないかということ。
そう——この世界に来る前のように。
「ふう……まいった」
ため息を一つこぼし、クライスは今回の異世界競技が終わったら引きこもる計画を練る。
大勇士だとか、悪辣王だとかそんなものは関係ない。
異世界に来る前も今も、求めるものは変わらないのだから。
そう、自身が求めるものは。
【マサル。一回勝負してみるか?】
■だれかの影が、頭をかすめる■
「……」
「おっすッ!!」
「!」
いきなり背後から声をかけられてしまい、それなりにビビるクライス。
声の主は分かり切っていた。
この暑苦しい声は、否が応でもなんか体育会系の部活動的な雰囲気想起させる。
「ゴウト……」
「何をしみったれてやがる? 試合の日はもうすぐだぞ!!」
「なんでもない」
「ははは、それならよし!! 体調悪いのかと思ったぜ!!」
輝く白い歯を見せながら、豪快に笑うゴウト。
クライスはそんな彼を見て、少しだけ羨ましいと思った。
見るからに悩みがなさそうである豪快さ。
困難にぶつかっても、そのまま突き進んでいきそうな熱血を感じる。
「ついに……オレたちは最強に挑むっ。腕が鳴るぜ!! なっ!!」
「いや別に」
「なッ!!」
同調圧力的なものを飛ばしてくるゴウトに、クライスはうんざり顔。
体育会系の、こういうノリを嫌っているので当然だが。
声の大きさも相まってウザさ全開である。
「ははは、強き壁に臨むと同時に友の力になれる!! 一石二鳥ではないか!!」
「……」
「やるからには絶対に勝たないとな!! クライス!!」
「……そうだな」
しぶしぶといった感じでゴウトのノリに付き合うクライスは、空返事で対応する。
なんか一人で燃え上がっているゴウトは、ノリノリで己の意気込みを語るのだった。
「修行の成果を見せてやるぜ!! オオ!!」
「おおー」
「声が小さい!! そんなんでどうする!!」
「はぁ」
静かに涼みに来たというのに、ゴウトの熱気のせいで台無しになってしまう。
だが、心の淀みのようなものが減ったようにも感じる。あまりに前向きすぎる言動のせいで、悩みがバカバカしくなってきた。
自分にはない前向きな明るさに当てられて、熱血人間に変貌していく精神……。
「なんてことはない」
いつものようなローテンションのまま、涼みを止めて屋内に戻ろうとする。
そこで、ふと立ち止まる彼の足。
ゴウトの方に向き直り口を開く。
「ゴウト」
「む、なんだッ!!」
クライスはゴウトと向き合いながら、何かを言いたそうに口を動かすが。
何も言葉は発されることなく、無言の時間が数秒間続いた。
「言いたいことがあるならハッキリ言わんか!! クライスゥ!!」
「……」
「民家がないからいいが、声うるさい」
言いかけたことを奥に秘め、淡白にゴウトを斬って捨てた。
いきなりまともな批判をされたことで、熱血漢は固まる。
そんな様子などスルーして、クライスは屋内へと戻っていった。
●■▲
■そして屋敷の廊下……■
「……」
「なにを呆けている。悪党めー!」
「はぁあ」
見たことのあるようなロボットに、通せんぼされた。
早く寝室に戻って休みたいクライスは、鋭い目つきでそれを威嚇する。
間違いなく、以前に壊した迷惑襲撃ロボットであった。
「どけ」
「HAHAH!! 悪を逃すかァ! スーパーロボットたる我が矜持を舐めるなァ!!」
「?」
人型ロボットは、自身をスーパーロボットと呼称した。
どこかでそんな単語を聞いた覚えがあるような、ないようななクライス。
正直、眠くて頭が回らない。
「ふふふ、スーパーロボットとは何か知らないようだな。授けてやろうか叡智を」
「いらない」
「かつて……偉大なる機械皇帝様が……、その源流をお作りになられた……。それから発展を続けたロボット技術は、今に至り究極の力を再現するようになったのだ!」
「へえ」
興味もなさそうに聞くクライスは、目をこすった。
スーパーロボットはお構いなしに話を続けている。
「そして私は!! その中の一種!! 【ベルゼファー】!!」
「……」
「高機能駆動!! 動作インストール機能付き!! エネルギーは長持ち安全!!」
(そういえばカメ朗)
ロボットといえば、意味も分からずに去っていったカメ朗を思い出す。
あの時はいきなりの事態に夢かもしれないとか逃避していたが、おそらくアレもスパロボなんだろう。
一応カメ朗が無事らしいことは確認しているが、フジ丸や村長たちはなんだかんだで寂しがっている。
飛んでいった彼の行く末が、気になるっちゃっ気になる。
……目の前のロボットに、飛行機能とかはないようだが。そこで、クライスの頭に天啓が下りてきた。
(美少女メイドロボ……)
身の回りの世話を任せることができる、メイド型ロボットの可能性。そんなものがあっても不思議ではないだろう。
もし存在するのなら、大金を払ってでも入手したいものだと思う。
男のDREAM……いや、どこかの館のメイド長とかも、血眼になりながら探していそうな気がする謎の直感。
「あるか?」
「あるにはあるが……邪な悪党なんぞに、同胞は売れんなァッ!!」
「そうかい」
後で、調べてみようとは考える。
それなりに金は残っていたはずなので、購入はできる可能性がある。
決して邪な考えはないとも。
彼は心の中でそう繰り返す。
「さあ、それでは食らうがいい。私の――」
ベルゼファーが、言葉を言い終わるより前に。
「あっそ」
「は?」
■その首から下の感覚が消失し■
■クライスの顔が近くに見えた■
「!??」
「はぁ。めんど」
頭をクライスに掴まれている。
というか、頭だけしか掴むところがない。
一瞬にして、鋼の肉体から頭がもぎ取られてしまったようだ。
「な、なにをしたァ!!」
「ひきちぎった」
「おのれェ!! いったい何の魔導だ!?」
「使ってないぞ」
■勝負は決し■
■ベルゼファーは……■
「ぬおおお!! なんたることだ!!」
ツボが置いてあった台の上に、放置された首。
朝になって、ビーフに発見されるまでそのまま。
一応分かりやすいところに置いたのは、なんとなくカメ朗のことが頭をよぎったからだ。
●■▲
■ベットの前に立つ■
■いつもの光景があったが、気にせず寝る■
「……」
ベッドに沈み、クライスは睡魔の渦に飲まれていく。
隣で寝ているヒナの様子はスルーし、とにかく自身の夢の中へとレッツゴー。
しようと思ったものの、布団の中で彼女がやたらとねちっこく触ってきたり、鼻を押し付けて匂いを嗅いできたり、セクハラしてくるので阻害GO。
やたらといい匂いも近くでするので、正直もっと離れてほしい。贅沢は言わないから。
「やめろ」
「ふひヒ……。そんなこと言っても……体は正直ですわよ……。はぁ……ハぁ……。たまらないです……わっ」
「……」
■無理やりヒナを、ベッド端へ移動させる■
■抵抗されたが、一回頭を撫でたら大人しくなった■
「よし。寝る」
ぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような思考の中で、穏やかな流れを見つけ、それを引き寄せ、身を任せる。
安寧はすぐに訪れた。
「……?」
今日は少し感じが違う。
眠りに落ちる領域の前で、だれかの影が立ちふさがっているようだ。
安寧の場所を阻む存在を前に、クライスは苛立ちを強めた。
「どけよ――」
その手を伸ばし・障害を排除しようとした。
が。
「ッ」
凄まじい悪寒と共に、伸ばした手を引いた。
目の前に立つ影は、触れてはならないと直感したためだ。
おどろおどろしい気配のみが、彼の心臓をわし掴みにする嫌悪感を与えてくる。
「だれだッ」
目を逸らしたくなるような歪みを睨み、問いかける声は震えている。
なにを恐れているのか自分でも分からない。
「……ッ!?」
■どろどろとした影の顔が■
■剥がれるように・変質していく■
「うああッ」
■その顔は――■
(心の中にある不安・乱れ)
■おぼろげに脳を刺激した■
■強烈な痛み■
「――クライス様」
闇に染まる視界の中で、気持ちの良い音色。
それを頼りにクライスは走り出す。
急いで・慌てて、乱れから逃げ出すように。
「サーシャッ」
そうすると闇は置き去りにされて、彼を蝕む乱れも消し飛んでいく。
なので早く。
こんな気色の悪い闇から逃げて、もっと速く走るように。
「ああッ」
光は輝いている。
ずっとそこで輝きを放って、温かい何かで闇を晴らしてくれる。
しかし・それなら。
(それなら?)
もう一つ、彼の中で輝く光。
それは一体・何・だれ?なんだろうか――と。