色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「うおおおお!! 熱血!! だ!!」
「よし、前よりもいい感じだっ。だがまだまだ!!」
「ふー、結構体力ついたわね!! これなら、前よりバンバン動けるわ!」
「つ、つかれ……ましたわ。すこし……やすみたい……」
■少し薄暗くなってきた時■
■ビーフの館近くにある、陸上トラックで■
■小雨の中、試合用スポーツウェア着て走る四人の姿■
「がんばれー」
「ふむふむ……。なるほどこういう感じですか。ジン君、ゴウト君、ヒナちゃんの情報も集まってきましたね……! 燃えますっ」
■その様子を近くで見ている二人■
■いつものローテンションクライスと、ハイテンションサーシャ■
■サーシャはノートを持ちながら、そこに超速で何かを書き込み、ぶつぶつと呟きまくっている■
■それを横目で見るクライス君、若干恐怖■
「サーシャちゃん。今回の試合、無茶はしすぎない」
「分かってますっ。でも、全力は尽くしますっ。ファイト!」
「やれやれ」
熱意が迸っているサーシャに、クライスはため息。
彼女はマネージャーとして頼りになる。
のだが、どうにも危うい感じがしなくもない。なと。無職の勇士に関わることならば、当たり前ではあるのかもしれないが。
(しかしまあ)
ミリアムとかに感じる危うさとは、種類が違う。
前向きな熱意の発露という印象で、痛々しいという風ではない。
なので、そこまで止める気にもならなかった。
「うおおお!! まだまだ!」
「……見ていろっ。必ずオレはっ」
「打倒ゼロ! 絶対ぶっ飛ばす!!」
「ううぅ……Gameやりたい……。ですが、わたくしも……あの女には……負けたくありませんわ……! 絶対ころス……!」
■それぞれの想いを胸に■
■新メンバーも加え、いよいよ最強との試合が始まろうとしていた■
■クライスの挑戦状から数か月経って、短期間ながらも彼らは急激に成長している■
「この後は不屈の歩兵団のみんなと合流しての、全体練習……チームメンバーはかなり新参者に対しても好意的……これなら本番のチームワークにも支障はない……かな。となると課題としては……」
「……」
■不屈の歩兵団に、正式にメンバー入りしたクライス達■
■歩兵団の選手たちも、クライス達の協力でスタークのチームに勝てたことを感謝し、喜んで力になってくれることになった■
■ちゃんとその後、チームの一員としてクライス達が助けになることを条件に。ではあるが■
■そんなのは自分らしくないと、ナマケモノ思う■
■彼は虚無的な瞳を揺らし■
■気怠げに空を仰いだ■
●■▲
「――ようこそ、儀攻戦体験センターへ」
スローラ村の施設の一つにて。
守護者と侵攻者の戦闘を体験するため、朝から客が訪れた。
「はじめての方ですね。では……」
対応する従業員の赤髪女性は、柔和な笑顔でいつも通りの接客を行う。
顔がとても端正なために、見惚れてしまう客も多いだろう。
村に住むカメ朗などは、割とよく見かけるが……。
やたらとうざいので軽く彼女は流している。
(最近、姿を見ませんね。カメ朗様……村の中でも……)
良くも悪くも、それなりに存在感のある陽キャ村人カメ朗。
彼の姿を、村の中ですら見かけなくなった。
聞いた話によると、現在はメイドに囲まれてヤスミノ地区に住んでいるとか。
何があってそんな状況になったのかは分からないが、メイドたちの無事を祈ってしまう赤髪女性・リリ。なんだか、自分と同じ名前の美少女が酷い目に遭っている予感……。
「儀攻戦の始まりは約200年前に遡ります」
■客に対して、儀攻戦の歴史を語るリリ■
■彼女は今日も、この場所を訪れる者たちへと、未来の可能性を手渡すのだった■
●■▲
「ふむ……カメ朗のやつ、心配はなさそうだな」
テレビを見ながらそう呟いたのは、村の長。連絡を取った村人の安否を確認したため、安堵の顔。
畳の上で正座をしながらたたずむ様は、身に纏う着物も合わせて美麗と言える。
ちゃぶ台に置いてある湯呑み茶碗を持ち、ゆったりとした動きで茶を口に含んだ。
「ヤスミノ地区で起きた……大魔導連盟崩壊事件か……」
村長がさきほどまで見ていたテレビで流れていた、臨時ニュース。
内容は、魔導を研究することを主旨とした組織が、何者かの襲撃により壊滅したというもの。
様々な勢力との繋がりもある組織であった為、話題になっているようで、村長もそれなりに驚いている。
大魔導連盟は魔導に関して優れた技術を有し、学び舎を運営してまで積極的に貴重な人材を発掘しようとしているだけあって、かなりの戦力は有しているはず。
「何者の仕業だ……?」
言いようのない不安感を覚える村長。
さらに気になるのは大魔導連盟の首領である女性が、襲撃者に拉致されたと思われる情報。
わざわざそんなことをする意味は?
「ボクの思い過ごしなら良いが……」
■村長は窓の方へ目を遣りながら■
■強く祈った■
「どうか……この平穏をお守りください。我らが祖よ」
■150年ほど前■
■この村の始まりに、村長は想いを馳せた■
●■▲
「――つまりよォ。オレは納得いってないってことだッ」
「……ふーん。まあ、気持ちは分からなくもないけど、試合はもうすぐよ。もめている場合?」
「フン! その態度も気に食わねェ!! この傲慢女がァ!! お前をウチの主力とは認めないぜ!」
「……言ってくれるじゃないっ。少しカチンときたわ!!」
石造りの大きな空間。メラメラと周囲が燃えている、四角形の大きな石畳のフィールドにて。
二人の選手が言い合っている。
一人は身長180cmほどの、大柄でいかつい顔の茶髪男性。
もう一人の彼女……ジャスミンは、そんな彼に対してまるで怯まずに、凛とした態度で迎え撃っている。
二人や、その周囲の選手たちの格好は試合用のもので、【不屈の歩兵団】の練習中であると思われた。
「また……ヒートアップ……しています……わね。ふフ……」
「あー。ボックスの奴はプライド高いからなぁ。新米がエース級の扱い受けていることに、不満はあるわな。そりゃあ」
「……フン、それならば試合で示せばいいことだろう。いちいち噛みつくことか?」
■二人のケンカを並んで見ている、休憩中らしきヒナとフジ丸とジンの三人■
■彼らは慣れているのか、特にいさかいを止める気はないようだ■
「やれやれ、いつものかっ。勘弁してほしいな……」
少し遠巻きにケンカを見ているのは、無精ひげを生やした、いまいち覇気のなさそうな男。よれよれのTシャツを着ている。
彼……ラックはこのチームの監督であり、しかしてトラブル対処が面倒なために、静かに距離を取っている。
その隣に立つサーシャが、不安そうな顔でジャスミンを見ていた。
「あ、あわわ……。ジャスミンまたケンカをっ。ど、どうしよう止めなきゃっ。で、でもっ」
「……」
歩兵団のマネージャーとなった少女、サーシャの頼りなさそうな姿を横目で見るラック。
震えた子犬のような彼女に、頼りになるような部分など感じられず、実際彼もそう思っていた。
そう、思っていた。
「変わるもんだな。しかし」
■不安がりながらも、手元のメモ帳に高速で何かを書き込んでいるサーシャの姿■
■それを見て、ラックは首を左右に軽く振った■
「うおおおおッ!! 熱血!! 青春ッ!! だッ!! 頑張れ!!」
サーシャ達からさらに少し離れた地点では、ゴウトが熱血トレーニング中。
完全に鍛錬集中でケンカに気付いていないのか、彼は豪快に腕立て伏せを行っている。
ただし一人ではないが。
「がんばれクライス!! お前なら出来る!! 自分を信じろ!! 諦めるなよ!! いけるいける!! がんばれー!!」
「ううぐぅ」
■ひょろひょろと腕立てする、クライスの姿もあった■
■そんなに回数重ねてもいないのに、汗流し・息乱れ■
■スキル補正なしによる鍛錬だ■
■サーシャ達に練習参加してほしい的な気持ちを示され、しぶしぶ参加したのだ■
「……」
■なんかトラブル起きてる■
■近くの熱血漢うるさい■
■そしてナマケモノは決意した■
(やっぱ練習いやだ。かえろう)
●■▲
「――とんでもないクズね。ゼロは」
「はっきり言いますね!?」
■守護の会:本部■
■建物一階の中央に座する巨大な盾のオブジェが、金色の光を放った■
「守護者として、【最強の盾】のイメージを悪くするミジンコよ。依頼する客が減ったらどうしてくれるのかしら? いっぺんシバいたほうがいいのかも」
「こ、こわいこと言いますねっ。相手は守護の会のトップなのに……ッ」
盾を受け止める円柱型の台座に背を預ける、長く濃い紫髪の女性。
妖艶な顔つきにウェーブのかかった髪に加え、ラフスタイルな服を纏っている。前掛けのようなものに隠れた下半身はスパッツで覆われ、健康的で躍動的な美女という風な人物だ。
彼女が目を向ける相手は守護の会:本部の事務担当従業員。ピンクなショートヘアの制服着用美人さん。
「それはそうよ、だって……」
■妖艶な美女は口端を吊り上げて■
「この私、【ベルファルス・オーディナー】も最強の一角。むしろ戦果なら負けていないのだから」
■最強の盾であることを誇示した■
「戦績の上では……たしかに互角ですけどっ」
「守護者としての守護成功数は同等、ただし半年に一回ある守護評価では私の方が若干上よ。つまり彼女はミジンコ」
「あわわわ……」
ベルファルスの言葉に、女事務員は辺りを見回す。
不安げなその顔は、言葉を聞かれてはいないかというもの。
最強の盾同士の喧嘩なんて、巻き込まれたくはないだろう。
「フフフ、互いに同期として腕を磨いてきたけれど、あの女の悔しがる顔以上の美酒はないわね」
「は、はぁ」
「一年に一回の栄光……【不滅の盾】……今年は私がいただくわ」
ベルファルスがいうのは、最強の守護者に贈られる栄誉の事。
一年間の守護評価などから、その年のMVPを決めるシステムが守護の会にはあった。
その座を狙う守護者は多く、しかし当然ながら歴代の不滅の盾は、全員最強の盾の中から選ばれている。
「ゼロさんは……今年も張り切っていますね」
「一度も選ばれたことないから当然ね。哀れな……」
(いやアナタも……言わないでおこうっ)
最強の盾で選ばれるメンバーは、だいたい決まっていた。
守護者としての振る舞いなども評価対象であるため、純粋な実力差というわけでもないが、決まった三人の内の一人が毎年受賞している。
それを見るたびにゼロとベルファルスは歯噛みしていた。
「フフ、今年は儀式場に挑む無謀な挑戦者も多かったし……守護評価はバッチリよ。給料もモリモリ……!」
「でしたねぇ。強くなると、必然挑戦する人も減ってしまいますし……」
「【需要】があるしそうでもないわよ。私が受け持っている儀式場は、どれも特級だもの」
守護者は儀式場を掛け持ち可能で、最強の盾ともなれば依頼も多い。
儀式場ごとの特性によって成果は左右されるものの、彼らは安定した評価を得続けていた。基礎的な力がそもそも桁外れなのだから当然の結果。
トップの実力は伯仲で、わずかな差が頂点とそれ以外を分けるのだ。
(だから……期待しているのよね。少し)
悪そうな笑みを浮かべるベルファルス。
想いの先は、ライバルとも言えるゼロの今後の試合。
その結果次第で、彼女を頂点から蹴落とすことも出来るやもと。
(倒してくれないかしら……フフ。噂では、あのスタークを完璧に抜き去った選手が相手と)
■最強の盾を破る■
■無敵の矛を想像した■
●■▲
「……?」
■空気を裂くような、鋭い音■
■肌寒い風が揺れている■
■散歩中にそれが聞こえたので、クライスは夜道を歩いた■
「……」
「うおおっ!!」
音の出所に到着すると、そこには鎧姿のジンがいた。
己の得物である斧を勢いよく振りながら、空気の寒さと相反するような汗を流している。
誰が見ても熱気を感じるような光景で、彼の強い意志がそこにはあった。
一心不乱に・目的に向けて愚直に突き進む。
「……」
木の陰に身を隠しながら、クライスはその様子を見ている。
いつだったか……誰かが自分に言った言葉があった。本当におぼろげな記憶ではあるが。
何故かそれを思い出したので、頭の中で反芻する。
【無駄ってことはないな。努力するのが遅くても、目的には届かなくても、積み上げているものはあるんだから、無駄ってことにはならない。それを無駄と笑う奴なんて、ちゃんちゃらおかしいのさ】
■今の自分には、耳が痛い言葉■
■なので、クライスはジンの鍛錬を見て……確かめたいと思った■
「うおおお!!」
■次の日も■
■その次の日も■
「まだッ!! まだだ!!」
■ジンの振るう斧の力強さに陰りはなく、むしろ鋭さを増している気すらした■
■今にも倒れそうなほどに息を乱し、体がふらついても、しっかりと芯を残した動きを維持する■
■途切れることない熱意、どこまでも続くかのような決意の光■
「……そうか」
■それを見届けたクライスは、静かにそうつぶやいた■
■いつの間にか試合の日は目前に迫り、積み重ねの結果が出る時がやってくる■
■最強の守護者たちとの戦い——その果てを見たいと、彼は思った■