色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「――では、両陣営の準備が整いましたので」
■どこからともなく響き渡る声は■
■そこに集った、就職者たちに向けられている■
■彼らは競技用スポーツウェアや、自前の魔導具を身に着け、開戦の合図を待つ■
「……」
「へへへ、ついにだなッッ!!」
集まった者たちは、二つの陣営に分かれて、別々に位置している。そして、決戦の時を今か今かと待つ。
宿した熱意はそれぞれだが、大きく二つに分かれる意志。
すなわち挑む者と守る者。
カメ朗たちやクライス(一応)が属するチーム、不屈の歩兵団。
それに対するは最強の儀式場。
「これより、【儀攻戦】を開始したいと思います」
■宣言される決戦の時■
■同時に、魔導場の外縁部が変化を見せる■
「いよいよッ。よーし! 燃えてきた!!」
「……やはり……緊張はします……ネ」
「この緊張感もまた良し! ってね!」
待機している挑戦者たちの目の前に広がる光景は、【何もない荒野】が黄金色に侵食されていくもの。
それは知っていても神秘的に思える光景だが、目を奪われている場合ではなかった。
これこそが開幕の合図に他ならないのだから。
「心の準備はいいなッ!! お前ら!! このおれ! チームの絶対的主力! カメ朗さんについてこーい!」
「前者は当然!! お前が主力なのはNOだ!!」
「なぬぅ!? 反逆か!!」
「なんて、カメ朗がこの場にいたら言ってただろうな。あいつどこに行ったんだろ」
■クライス達のチーム。その数は、スターク達と戦った時と同程度■
■彼らは全体的に、強力な意思をまとわせている■
■それこそがチームの最も強い特徴と、言わんばかりの覇気■
■一人を除いて■
「カメ朗風の戯れ言はともかく、準備なんてばっちりに決まってるわよね!」
「……ああッ」
「まずまず……でス。まあ、公式の試合は始めて……ちょっとですガ……それ意外なら経験はある……ので」
■黄金の荒野に踏み出していく集団■
■目指す先は、儀式場の核となるポイント■
■侵攻者が全ゴールを制覇するか・守護者がそれを制限時間内守り切るか■
■それによって勝敗は決する■
「……はぁ」
一番後ろを億劫そうに走るナマケモノは、これから迫りくる壁を思い浮かべてため息を吐いた。
間違いなく、疲れることになるという未来に憂鬱を抱く。
正直、少し後悔している部分がなくもない。
「ま、やるか」
前を走る仲間達の意思が溢れた背中を見て、さすがの彼も覚悟を決めた。
こうなってはそこそこ頑張るしかない。かもしれないと。
■黄金に染まった世界に、一歩入り■
■その先に広がるのは……■
「おお……!」
「なんて幻想的なっ。これが最強の儀式場」
■深緑に染まった森に■
■木々の間を飛び回る銀色の蝶と、水の球体のような物体■
■荒れ果てた荒野など、どこにもなくなっていた■
■そこは紛れもなく、魔導場■
「魔導場って本当にすごいわよね……っ。色んなのがあって、いまだにビックリ箱よ!」
「儀式場を利用して生み出されているから、余計にな。造りが丁寧だ」
■魔導場とは言え、なんの制限もなく自由自在とはいかない■
■作成困難な要素もあるし、コストが掛かる設定・仕組みだってある■
■そういった縛りを緩くするのが、儀式場の力の一つ■
「ここが守りの大剣の内部……。おれたちの決戦フィールド!」
「うおおおお!! おれも燃えてきたー!!」
クライス達は、ついに最強の守護者との決戦舞台に上がった。
しかし、まずは敵のゴールに侵攻しなくてはならず、それに対する敵の防衛も未知数。
とはいえ、それは突入してきた彼らも同じ条件。敵も侵攻者を警戒していることだろう。
既に、儀攻戦の駆け引きは始まっていた。
■魔導場内には、装備型の魔導具以外は持ち込めないが……■
■その代わり、便利な魔導が使えるようになる■
「――じゃあ、探るぜ!! 【索敵】!!」
ゴウトがそう言うと、儀攻戦の状況を探れる便利魔導が発動。
近くにあるゴール地点を調べる。
そうすると、いくつかの進むべき道が定まってきた。
「……よし、それでは。事前作戦通りに」
「ふフ……目にもの……見せてやり……まスか……ネ」
「このカメ朗様がいるんだ。怯える必要はないぜ! ヒナ! へへ!」
「うざい……いないはずの……カメの幻聴……聞こえる……」
その先に待ち受ける戦いを想像して、自然と緊張を高めながら、彼らは進むべき道へと。
最強の守護者との儀攻戦、その序章の幕が開こうとしていた。
●■▲
「よーし! 今度こそは、ロビーさん達の独壇場を防ぐぞー!!」
銀の蝶が舞う森に響くのは、陽気な男の誓いの言葉。
この男こそは敵守護者の一人である、いまいちパッとしないクリスという男。
彼はいつも通りの平凡な格好で、侵攻者を求めて太陽の下を歩いていた。というか、ゴールの周囲をぐるぐる回っている。
彼の他には、それなりの数の敵選手集団。柔軟に防御形態を変える、熟練の守護者たちである。
「ふふふ、そして……! ゆくゆくは最強の盾の一角に……!」
意気揚々というスタイルで歩くクリス。
見た感じ警戒心は薄く、心ここに在らずという雰囲気だ。
それは強者ゆえの傲りか。それとも。
「――だが、弱いはずはない」
「同感ね。……最強の盾と一緒に戦う奴だもの。だからって、負ける気はないけどっ」
「狩り……の時、ですわ……!」
そんなクリスの姿を既に捉えている、ジャスミン達の部隊。
敵を撃破するために布陣した侵攻者チームは、完全な臨戦態勢で待機している。
それは大物を食らうハイエナの如き慎重さで、一気に敵の一角を崩さんとする姿勢。
「さあ、どこからでもかかってこい! 侵攻者――」
■意気良しなその声・周囲に響き■
「お望み通り……かましてやるわよッ!!」
■それに応じるように、状況は動いた■
凄まじい魔導の嵐が、クリスを飲み込んだ。
「!?」
大砲の如き一撃は、ジャスミンの十八番の一つ。
強大なモンスターの体躯すら砕く、轢殺無慈悲の直球魔導大砲。
中距離用攻撃としては、ジャスミンの持つ手札の中で最強である。
「オおお!!」
同時に放たれる発破。
草むらから飛び出したゴウトは、地面を踏み砕きながらクリスに迫る。
その走力は魔導によって強化されていて、修行の成果が如実に表れていた。
「うおらぁッ!!」
土煙の向こうにいる標的に向けて、突進するゴウト。
間違いなくの全身全霊。
詳しい情報がないのなら、無駄な小細工は必要ないというばかりの攻勢。
それは轟音を響かせ、森を震わせ、開戦の号砲と化した。
■続けて出現したのは■
■侵攻者チームの軍団■
「こ、こいつらっ。まさかっ」
「【集中】かッ!」
■守護者たちを包囲するように、ジャスミン達は侵攻してくる■
■当然、守護者たちも予想はしているが■
■その数は予想以上だった■
「多い! 奴ら!!」
「完全に一点集中部隊!? そりゃそういう戦法になるとは、思ってはいたが。しかしッ」
■その場の守護者部隊を、はるかに超える数■
■自チームの戦力のほとんどを、一点のゴールへの侵攻に投入している■
「駆け引き・牽制なしの直球攻勢ってこと……にしては、嫌な部分を突いてきやがる!」
「まったくだッ」
■動揺する守護者の部隊■
■その理由は■
「これハ……癪な部分もありますガ……我がライバルの予想……的中!」
■侵攻者の軍隊は、守護者たちの防備が比較的薄いゴールを攻めていた■
■守りの大剣は、敵チームの傾向に合わせて極めて柔軟に防御態勢を変える■
■それが裏目に出て、逆に行動を読まれ、防御が偏った隙を突かれた■
【敵がこう来たら、こういう風に動けば隙を突けるはずです! た、多分っ。うぅ……すいませんっ。ふ、不安なので、もう少し精査しますね……】
■サーシャが主体となって、構築された策■
■それは見事に、ゴール位置が試合ごとに変化する儀攻戦の状況を読み取り、初手を成功させた■
「うおおお!! 一気に攻めろー!!」
「最強の盾がいない、今がチャンスだー!!」
「あたしの突進!! 目に焼きつけろー!!」
ジャスミンが主体となった部隊が、敵陣深くまで切り込んでいく。
その構えは速攻一筋。
ここで最終決戦かのような勢いで、突き進んでいく。
「舐めるなっ。我らの守護を!」
■ジャスミンの突進を防ぐ、守護者数人■
■彼らが持つ盾は、重々しくぶ厚い鉄壁■
「舐めてるのは……そっちだぁあああァッ!!」
「う、おッ!?」
しかし暴走機関車は止まらない。
鉄壁を力任せに破壊し、ゴールへと更に接近していく。
その度に新たなブロッカーが出現するが、それも何秒持つか分からない。
■侵攻者たちの優勢で、この場は進んでいる■
■が■
「……!!」
ゴウトは確かな手ごたえを感じていた。
渾身の拳はまず間違いなく敵を捉え、己の力の全てを炸裂させることに成功。
完全に決まったと思える最高の一撃。
「なんでだ……!?」
だからこそ疑問が止まらない。
目前の結果に対して、納得が行かない。
「――いやいや、分かり切っているでしょう?」
軽薄な笑い声を発しながら、ゴウトの拳を右手で受け切った結果。
守りの大剣の守護者クリスは、大して動揺も見せずにその場に立っていた。
見たところ、魔導で強化した様子もない。
つまり、素で強化したゴウトを上回るということであり。
「現実的な実力差でゲスよ」
■クリスの左手が光を放ち■
■ゴウトの胴体を槍が貫く■
「ごふッ!?」
「弱すぎる、身のほどを知るでゲス」
■そのまま容赦なく、ゴウトの肉体は消滅した■
■あっけない退場、攻勢の勢いを削ぐ事態■
(馬鹿な――)
その光景を見ていたジン達は、あまりの展開に言葉が出ない。
決してゴウトは弱くないのだ。
クライスやジャスミン……一部の例外を除き、その実力は、伯仲しているというチーム。
それなのにあっさりと敗れた。敵の中で、最強の盾ですらないと思われる人物に。
「ゲスゲスゲスッ!!」
珍妙な笑い声を上げるクリスの顔は、すでに邪悪さを表していた。
普通だった髪の毛は逆立ち・目は鋭く光る。
今まで被っていた皮を剥ぎ取り、己の本性を剥き出しにした。
「このォォ!!」
「ゲス?」
クリスに突進する高速の影。
地面を踏み砕くかのような勢いで疾走するジャスミンは、最大の突進力で攻撃を仕掛ける。
ゴウトを倒した事実に怯んではいるが、楽に勝てないのは初めから分かっていたことだ。
ならば、隙を見せずに仕掛けるのが最善。
元より彼女は。
「突撃するしか能のない、暴走列車なのよォッ!!」
裂帛の気合いが込められた、轢殺の鉄塊弾!
「ジャスミンちゃん、相変わらず可愛いでゲス」
だが、彼女の肉体が動きを止める。
それを絡めとるは、地面から発生した植物の縄。
「うぐっ!? なによ!?」
緑の鎖はファイター用の衣装を纏った彼女の全身を縛り、クリスまで届かせない。太く強靭な蔓が動きを完全に制止させている。
クリスの余裕の顔は、たとえ止めずとも対処は出来ると言っているが。
彼が左手に持った長く赤い槍が、容赦無用で放たれた。
「バイバイでゲス」
■槍は死の閃光を描く・ジャスミンの体へと■
■助けは間に合わない■
「させるか」
■そう、彼(クライス)を除いて■
「ゲス!?」
幅広の穂先をクライスの右手で掴まれ、槍はその動きを止めた。
クリスの腕力を以てしても、ぴくりとも動かず、クライスの実力のほどを認識するには十分な事態。
直感でクリスは気付く。
同時に、槍の先が握力のみで砕かれた。
(こいつは――危険ゲス!!)
■無気力そうにコチラを見る目が■
■逆に不気味な気配を感じてしまって■
■全身が震える■
「【収束】:【連結】!!」
■クリスは、砕けた槍の力を解放した!■
「ッ」
砕けた槍が光へと変貌した。
赤い光が渦を巻いて、クライスの動きを封じようとする。
光の蛇はクライスの体に巻き付いて、強力な力で制止させた。
「……!」
ぎしぎしと感じる圧力は強大無比。
並の就職者ならば、このまま絞め殺されていたであろう。
(スキル【来年から本気出す】――40パーセント解放)
■しかして彼は無職の勇士■
■生半可な技では縛れない、自由の使徒■
「ゲス!?」
■ひび割れる赤い蛇は■
■最強のスキルによって、力任せに引き千切られた■
(ありえないッ。小細工もなしに千切ったでゲス!?)
そもそも物理的に千切られることは、正当な対処法ではない。
専用のスキルや魔導具を用いて対処するのが、無難であり、そうでなければまともに対処できない筈の特級魔導具。
大した意味もなさずに消滅した槍を見て、クリスは確信した。
(こいつだけ別格。最強の矛になりうるかもしれんでゲスッ)
想定外の強者にクリスは顔を歪めた。冷や汗が止まらない。
見える能力値はとてつもない上昇をみせており、それ以上があるのではと思わせる。
そんなクライスは、淡々と破壊の拳を敵に向けた。
「――念のため、保険をかけといて良かったゲスッ」
■クライスの突き出した拳が、固い壁に阻まれる■
「?」
見えない透明の壁に阻まれたことで、後方に下がろうとするクライス。
しかし後頭部を壁にぶつけてしまう。
つまりは、後方にも壁があるということであり。
「ゲスゲス、【限定魔導】・【隔絶】!!」
■限定魔導■
■儀式場内でのみ使える魔導である■
■ゴウトが使った索敵も、これに当たる……のだが。今回のは、誰でも使える便利さとは違う■
「おいおい……!! 嘘だろっ。いきなりっ」
遅れてきたジンは驚愕する。
隔絶は、対象一名を透明な壁で覆い。その動きを封じることが出来る。
絶対に破れない強力さだが、必要となるコストの多さと制御の難しさという欠点がある。
それを、クリスは上手く扱ってみせたのだ。
味方の最強のカードを封じるという結果で。
「くそッ」
さきほどからクライスは、がんがんと壁を叩いているが、まるで壊れる気配がない。
強固な壁は彼を囲んで、その行動を封じることに成功していた。
「ゲスゲス! 無駄でゲスよ!! それはかの有名な【断絶の刃】でも壊れないでゲス!!」
冷や汗を流しながらも安堵するクリス。運任せの技ではあったが、上手くいった。
これで、一定時間脅威は何も出来ない。
「あとは……ジャスミンちゃんたちを料理するだけっ」
クリスの狡猾な目が、ジン達を捉える。
ジンはなんとか迎撃しようと、魔導具を構えた。まだチームの態勢は崩れていない。
この程度で屈するぐらいなら、初めから最強の盾に挑戦などしていないのだ。
立て直せる可能性は充分にある、現在の状況を鑑みてジンはそう判断した。斧を強く握り締めて、洗練された闘志をクリスへとぶつける。
「!?」
■上空からの敵意を察知した瞬間■
■ジン達の視界が、炎のきらめきで染まった■
■同時に複数の、味方の悲鳴が聞こえる■
「これは――ッ!!」
ジンには覚えがあった。
この灼熱をまき散らす攻撃は、かつて見た友の技。
つまり。
「あはは、悪いねジン」
■ジンの目前に■
■最強最大の敵が降り立った■