色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「またボクの勝ちだよ。ジン」
■にこやかな笑顔の友が■
■いつもの勝利を手にしながら、そんなことを言った■
■友のその顔を見て、ジンは複雑な悔しさを抱いていた■
●■▲
「……!」
そして、過去と重なる笑顔で立つのは目前の敵。
あの時よりも、さらに力を増した威圧感を発しながら、赤いスポーツウェア姿のロビーが立っていた。
右の掌から燃え盛る炎が、その熱量を増しながら大きくなっていく。
さきほどの炎攻撃とはまた違う、シンプルな灼熱の唸りがジンを焼き尽くそうとしている。
「……よう、ずいぶんと腕を上げたみたいじゃないか?」
「あはは、これでも努力はそれなりにしていたよ。お前には負けるだろうけどね!」
■敵が接近した気配はなかった■
■つまりは■
「……」
「邪魔はいらない! 久しぶりの決闘といこうじゃないか」
足元の草を燃やしながら接近するロビー。
不思議とその火は広がらずに、すぐに鎮火されていく。
森の中でこれほどの炎を発しているというのに、燃え広がらずにいるのはどうしたわけか。
「……?」
「どうしたロビン。不調か?」
「いやいや、そういうわけではないが」
少し怪訝そうな顔を見せるロビーに対し、ジンは警戒を強めながら問う。
握りしめたスマッシュアックスはいつでも牙を剥ける状態、あとは攻撃の機会を待つだけである。
相手がわざわざ正面から来るというのなら、ジンにとっても好都合。
(他の強力な守護者は動いていない……? この森にいるのは二人だけか……)
■クリスとロビー■
■この場にいるのは、二人だけ■
■なのにそれが、とてつもないプレッシャーとなる■
(やってくれる。目立つ広い攻撃……それで士気を上げたかッ)
■周囲で起きている、多数の戦闘の天秤が■
■悪い方へと傾く音を・ジンは聞いた■
(やはり最強の儀式場。立て直した……クソ!)
ロビーの登場により、守護者たちは元の調子に戻ったようだ。
かなりの数的不利な状況でありながら、なんとかゴールされるのは防いでいる。
(補正があるとはいえ、なんて強固さだッ)
ゴール地点の近くでは、防衛側の人数が少ないと防衛行動に補正がかかり、簡単にゴールが出来ないようになっている。
人数差があるほど補正が強くなるとはいえ、これだけの大人数なら一気に攻めきれるはずだった。
しかしやはり、守りの大剣は強大・堅牢。簡単には通れない。
つまりそれは、時間を稼がれているということで。
「……ッ」
ジンは歯噛みする。
今回のように、一点集中型の攻勢を行った場合、分散してゴールするよりも時間がかかる。
だがしかし、両チームの純粋な戦力差を考えると、そもそも分散していたらゴールできない。
なので、速攻でゴールを決めて次に繋げる。はずだったのだが。
(まずいッ。追いつかれるッ)
もう既に、クライス達の戦力はほぼすべて開示してしまったような状況。
この状態では、敵も大胆に動くことができ、最悪の場合は敵戦力の大部分に包囲されるだろう。
そうなったら、ゴール不可どころか全滅すらあり得る。
「……」
最強の盾二人に、最強のナイト一人。
守護者側の残りメンバーは、三人とも強者。
だが、守りの大剣は堅実な部分もあると、事前のサーシャ達の調査で分かっている。
(さすがに全員で動くことはないか……となると、【式の柱】を守っているということ)
守護者たちの動きを推測しながら、ジンは目前の敵を睨み、立ち向かう決意を固めていく。
ジャスミンたちの状況を確認することが出来ないほどに集中し、ただ己の力を研ぎすませて。
今も熱量と威圧感を増している灼熱の炎は、ジンを焼き尽くそうと唸っていた。
「いくぞ」
「うん」
■友としてではなく、敵として■
■彼らは言葉を交わして、戦闘を開始した■
●■▲
「……ッ」
「ゲスゲス、もうこれは詰んでいるゲスなぁ」
「なんですって……!!」
炎上網の中で対峙する、ジャスミンとクリス。
燃え上がる炎の波に巻き込まれないように、戦闘場所から距離を取っているが、それでも熱気は伝わってくる。
(クライスのおかげで、なんとかあの炎から逃れられたけど)
ジャスミンを助けてくれた際に、何本かの蔓を破壊していたクライス。
その甲斐があって、上方からの炎攻撃を彼女は瀬戸際で回避した。
あと少し遅ければ、それで彼女は退場していたことだろう。
「そちら側の最強はこの様……。残ったメンバーは、さすがにこいつよりも弱いでゲしょう」
「……!」
「この男、まさかここまでの猛者とは思わなかったゲスなっ」
クリスは手の甲で、隣にある見えない壁をコンコンと叩く。
その壁の向こうではクライスが寝転がっていた。
あまりにやる気が感じられない態度に、クリスは苦笑いのような表情を浮かべる。
同時に・その無気力さが不気味にも思えた。
「ゲスゲス、それじゃあ軽くひねってやるでゲス。PRETTYジャスミンちゃん」
「舐めないでよね……! あたしだって、修行は積んできたんだから……!!」
強がるジャスミンだが、同じく修行を積んで来たはずのゴウトですら、目の前の敵に瞬殺されてしまった事実が頭を過り、その足がすくんでいた。
クリスは、余裕の顔で立ちはだかっている。
ゴールまでの距離は遠く、到達できるかどうかの不安強まる。
「……」
■彼女はどうしようかと悩み■
■考えて■
「……らしくないわね――はぁああッ!!」
「ゲス!?」
■選択肢は一つ■
■突撃あるのみ!!■
「ちィッ!!」
あまりに変わりなく、即断即決なジャスミンの突撃。
それに怯んだのか、クリスは回避を選んだ。
彼女の拳が空を切り、突撃の余波で土煙が大きく発生した。
「な、なんて直球な……さすがはジャスミンちゃん……!」
「逃げるなァッ!!」
策など要らぬ、存ぜぬ、知らぬとばかりに突撃を繰り返す暴走列車。
それは、彼女のファイターとしてのバトルスタイルと変わりなく、クリスにとってカモといえるものだった。
(なんでゲスが、今はキツイッ)
クリスの顔に焦りの色が乗っているのは、ジャスミンの猪突猛進が少なからず危険であるからだ。
先程までの彼なら、彼女の突進にも問題なく対応できた。
クリスのステータスならば、正面から受けることは難しくても、止めることは出来たと思われる。
(しかし、得意の魔導具は破壊され、隔絶を使用してしまったゲス)
クライスという想定外の怪物。
彼の対処でコストは削られ、現在のクリスは大幅に魔導力を消費した反動で、弱体化していた。目に見える能力値は減少しないため、ジャスミンは気付いていない。
それでも、彼女程度なら倒せる実力ではある。クリスはその自信があった。
(慎重にいくでゲスよ!!)
割と慎重派なクリスは、真っ向から受けて立つなどしない。
ジャスミンの突撃の隙を狙って、一気に仕留める方法でいく。
(それに加えて……)
「アああッ!!」
■気迫を全開で、向かってくるジャスミン■
■地面を吹き飛ばし、空気を破砕し、何もかも轢き殺すかの様な猛攻■
「これは不味い」
クリスの経験上、この手の敵は侮ると大けがをしかねないと決まっていた。
現に今も、恐るべき牙が研がれ続けている。
「これでどうゲス!?」
「ッ!」
■植物の縄が、再び彼女を襲う■
■その肢体を拘束する縄は、全身をぎっちりと縛り上げた■
■ジャスミンは捕らえられた獣の如く、歯ぎしりをする■
「ジャスミンちゃん、今度は逃がさないゲ……」
「まだまだァ!!」
「えっ」
■ぎしぎしと鳴る、緑の鎖が■
■強烈な肉体の駆動と共に・弾け飛んだ■
「は??!?」
■クリスは己の目を疑った■
■拘束を力ずくで破り、地響きを鳴らしながら突進してくる怪物が、目の前にいる■
「拘束されるのは、もうこりごりよッ!! どりゃあああッッ!!」
「う、うわぁ!?」
あまりの勢いに、クリスは狼狽しながら回避行動を取る。
ジャスミンの拳がそんな彼の頬をかすった。
まともに当たったわけではないのに、かなりの圧力を感じてしまうクリス。
空気ごと砕くかのような攻勢に、冷や汗が止まらない。
(舐めていたッ。これはヤバいッ)
■彼女に対する認識を改める■
■クライスに迫る強者として、警戒せざるをえなくなった■
(ジャスミンちゃんの試合映像……入手して知ってはいるゲスが、ここまでの迫力はなかったはず。何があった!?)
肉体を強化する類の、魔導強化の光。
複数の色が混ざり合い、支え合い、ファイターの肉体を補強していく力。
それが彼女に見られないのは、決して弱いからではない。
彼女が強いからこそ、肉体強化系の魔導が意味を成さなくなっている。
(成長している……確実に、強くッッ)
短期間で一気に駆け上がるルーキー。
この現象には覚えがあるクリス。
高い壁を前にした人間が、それを超えるために足掻き、己を飛翔させようとする展開。
急激な成長が発生する流れだ。
「げ、ゲスゲス! 警戒して正解!」
「次は当てる!! 覚悟しなさいよ!!」
■激戦は、激しさを増していく■
■ジャスミンという怪物はその中で、敵選手を蹴散らしながら着実にゴールへと進む■
●■▲
「オオッ!!」
迫る火の勢いに負けないように、その手に持った斧を振るう。
彼が受けたかつての炎と似ているが、猛威は比べようもないほどに上だ。
ジンは目を逸らさない。
「見せてやるッ!!」
眼光を鋭く漲らせ、戦斧の勇士としての力を解き放つ。
しかし迫る炎も強大無比。逃げ場など見つからない。
単純に強大だけならまだ良かったのかもしれない。
(単純に多いッ!!)
その猛威の理由は【瞬間的な連射力】。
ひたすらに炸裂する炎の矢が、ジンの視界を埋めていく。
焼却◆拡散◆射出の魔導を組み合わせた、超絶拡散火炎遠距離攻撃。
並の魔導使いが使っても、単なる目くらまし程度にしかならないそれが、ロビーが使用するとすさまじい殲滅兵器と化す。
ジンはその灼熱に飲まれ、燃え尽きる未来を幻視した。
(だが、用意はある)
彼には、この時を想定して用意していた秘策がある。
その内の一つが、戦士の職業によって覚えたスキル。
ジンが現在装備しているスキルは、対ロビンに特化した構成であり、限られたスキルコストの中で必死に考えたものだ。
炎耐性、射出耐性などなど……そのすべてが、この展開を想定して組み上げられたもの。
もし違う展開になっていたら逆効果になっていたかもしれないが、親友ならばきっと戦いを望むと思って、ジンはそれに懸けた。
(なので更にッ)
ジンが着ている黄金鎧が輝く。
焼却の魔導に反応したそれは、ジンの炎魔導耐性を急速に上昇させて、彼を勝利に近づけてくれる。
この炎の中を進み・親友と雌雄を決するために。
(さらにさらにッ!!)
ジンは斧を炎の矢にぶつけた。
向かってくるそれらすべてを残さず打ち落とすように、疾風怒濤の勢いで、休まず怯まず連続で斬って・斬って・斬りはらって――。
(勇士スキル! 【死線の連撃】!!)
それは、滝の修行で開花した勇士スキル。
迫りくるモンスターを迎撃するために、必死になって放った技。
窮地でなければ発動できない大技だ。
「オオッ!!」
つまり彼は窮地に陥っている。着ている鎧は溶けていき、熱波は肉体を蝕んでいく。
これほどまでの準備をして、新たな技を習得して、決死の覚悟で臨んで。
それでも、一瞬で致命に至る状況から抜け出せない。
これが敵との絶望的なまでの差だ。
遠い遠い勝利への道を、一歩か二歩進めた程度の行動にしかなっていない。
「あはは、やるねジン!」
■無邪気に笑う最強は■
■まだ底を見せていない■