色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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霧に隠れて・それは潜む

「……勝った」

 

 消滅した宿敵の姿を確認して、クライスは安堵の息を吐く。

 かなりギリギリの戦いであった。

 下手をすれば負けていてもおかしくない、心休まらない戦闘は、クライスの心を締め付けていく。

 もう十分に頑張ったのではないかと思う。

 だが、まだやることは残っていると否定する心。

 

「はぁ」

 

 もううんざりだとため息一つ。

 なんでこんなにも疲れてまで、試合の勝利を目指すのかという疑問はあるが、とにかくまだ終わってはいない。

 敵は残り二人。

 しかも、苦戦したロビンとゼロに匹敵するかもしれない強者だ。

 特にマルチネスは不明点が多く、対処はかなり困難と言えるだろう。

 

「はあぁ」

 

 早く帰ってゴロゴロしたい。

 ソファーに沈んで、安売りしていたお菓子を貪って、ひたすらに惰眠を行いたい。

 そういえば買っていたまま読んでいなかったコミックがあったなとか、使っていないクーポン券があったが外出しないので使わないままだろうなとか、そろそろ自身の新しい家を建てるべきかとか……。

 

 色々な雑多な何気ない日常を想いながら、彼は走っていた。

 少し頑張るそんな気概で。

 

(めんどい)

 

 思いながらも疾走は止めない。

 先行したヒナに追いつく勢いで、本気ゲージを使って彼は爆走を続ける。

 この儀式場のエリア詳細と、式の柱・終点の位置を反芻。それすらも脳が拒絶しようとするが、無理に駆動させる。

 向かうとすればどこになるか……。

 

■ある声が聞こえてきた■

 

「……」

 

 クライスは考えた。

 ヒナの方は、彼女を信じて任せるべきと思う。きっと合流できることだろう。

 ならば、向かう先は決まっているようなもの。

 

「他のだな」

 

■さらに速度を増して、クライスは最終目的地へと行く■

■ある種の決意を秘めながら■

 

「じゃ、頼んだ」

 

「――はい! お任せ! やるぞー!」

 

■そんなクライスの周囲で■

■三人の敵選手が、守護の剣士に切り裂かれる■

 

「ぐああッ!?」

 

「すみません先輩。でも、手は抜きませんよ?」

 

 華麗に舞うような・洗練された剣技でクライスを守る、少女剣士ロリン。

 ゼロとの交戦前に、彼女と合流していたのは幸運だった。

 そのおかげで、横やりなしで戦いに集中することが出来た。

 

「さて、それでは行きましょうか! やってやりますよわたしは!」

 

「ああ」

 

■残り時間は半分を切り■

■無職の勇士は、新メンバーのロリンと共に、残る式の柱へと行く■ 

 

●■▲

 

「……見えた」

 

 時間を遡り。

 最後の式の柱が置いてある、霧の深い地帯を走るヒナ。

 数メートル先すら見えない濃い霧の中を、素早く進むことができるのは、道しるべとなるものがあるからだ。

 

(光る道……)

 

 淡く光る、地面のラインが奥へと続いていた。

 これは魔導場を作成した者が、あまりに侵攻者側に不利な為に作ったギミックで、それを所有者であるナイトも完全放置している。

 儀式場を内包した魔導場を弄るには、守護の会を通さなくてはならないが、基本的に変更権利は所有者にもある。それでもまるで変える気がないのは、世界を変える漆黒のナイトがある程度のフェアな勝負を好むからだろう。

 

(結構な……騎士道……! いいカモとネギ……ですわ!!)

 

 ヒナはほくそ笑む。

 自身にとっての武器を考えながら、踏み出す足を速めて、先に待ち受けるであろう敵を想像した。

 残りの守護者はおそらく二人。

 ゼロはクライスが仕留めるだろう。

 そう確信している。

 

(あのようなクズに……勇士様は負けないッ。負けてはならない……!!)

 

 となると、残りの二人をどうにか対処すれば良いだけのこと。

 それの難易度が高いことを理解しながら、彼女は愛する勇士のために、その速度を更に更にアップさせて、決戦の時を待つ。

 一人はモンスター討伐のプロの中で最強とされる人物:この儀式場の所有者として守護者の任を行うナイト。

 もう一人は謎の多い守護者にして、【能力超過】しているという噂を持つフードの人物。

 

(最も警戒すべきは……マルチネス……?)

 

 やはり危険なのは、情報が少ないマルチネスか。

 そもそもナイトの方はモンスター専門であり、対人系の力に優れているわけではない、ならばやはり守護のプロである人物を警戒すべしだろう。

 式の柱の周囲に配置された選手たちを、なんとか気配遮断で潜り抜けながら進んでいく。

 

(さて……)

 

■そして霧の先に■

■その壁は姿を見せた■

 

「来たな。侵攻者」

 

 式の柱を背にして立つ男。

 革鎧の上に青いマントを身に着けて、紫に輝く大剣を両手に、ヒナを待ち受ける者。

 ナイトのナイト……この儀式場の主である。

 赤く光る眼光が彼女を見据えた。

 

「……」

 

 そして隣には。

 漆黒のナイトと同等の体格を持った、ローブで全身を包んだ男。

 フードによって顔は見えないが、誰だかはよくわかる危険人物。

 最後の盾:マルチネスが立っていた。

 

「最悪……いえ、最高……ですわねッ」

 

 思わず呟いていた一言に、ヒナは苦笑する。

 想像していた展開とは言え、実際にその通りの光景を目にすると、心をくじかれそうになるのは止められない。

 足を止めそうになったが、それは駄目だと自身を叱責する。

 速攻で勝負を決めないとならないと、すかさず戦闘態勢へと移行した。

 

(魔導具……セットッ。後はタイミング……!)

 

 視えざる刃をマルチネスとナイトへと向ける。

 無形のそれは、二人同時に敵を切り裂くべく、その形を最適なものに変化させていく。

 

「!」

 

「……」

 

 曲がり・捻じれて、二人の正面と背後から襲い掛かる風の刃。

 不可視であるが故に回避は困難で・風であるが故に最適自在。

 クリアルベール:疾風の勇士の魔導具。

 

「薄い刃だ」

 

■軽く振るわれた大剣で、風の刃は砕かれる■

 

「な……ッ」

 

 切り札と言うべき攻撃を軽く払われた。なんの力も込めていない筈の一振りは、彼女のどんな攻撃よりも強いということだ。

 これが最強との差であり、ヒナが立ち向かわなくてはならない壁。

 これほどの脅威に勝利しなければいけないのだ。

 

「……ッ!!」

 

 プレッシャーの中で歯ぎしりして、それでも彼女は諦めない。

 二人の強者の内、一人にすら軽くあしらわれている状況でなんとかしようと。

 

「――遅いな、それではA級モンスターが関の山だろう」

 

■非情な斬撃は■

■対処不可能な速度で来た■

■ナイトの剣がヒナを捉える■

 

「!!」

 

■しかし驚きは、斬撃を放ったナイトから出る■

 

「これはッ。まさかギミックか!!」

 

 斬撃で切り捨てたのはヒナではなく霧。

 攻撃の直前に霧に変化したヒナ、彼女の姿はナイトの視界のどこにもない。

 

「しまった!」

 

 気付いた時にはもう遅い。

 鳴り響く戦闘音と、漆黒のナイトの後方で光る式の柱。

 つまりそれは結界の解除が行われた証であり、まんまと守護者の二人を出し抜いた結果だ。

 霧のギミックを用いて突破した。

 さらに、彼女の前進と同時に、何人かの敵選手がマルチネスを攻撃している。彼女以外にも気配遮断系がいたのだろう。

 今回の試合場のギミックを事前に知っていて、ヒナと同様のスキルを持つ選手たちを多めにした配置。

 

(この霧は、気配遮断系スキルを補助する性質を持つ……! しかしここまで上手く扱うとはッ)

 

 最強クラスの選手すら翻弄できるのは、ヒナの気配遮断スキルの高さあってこそだ。

 出し抜かれたナイトとマルチネスは彼女を追いかけようとするが、ヒナ以外の選手による妨害魔導攻撃で、見失ってしまう。

 彼女が向かう先は式の柱か終点か。

 ならばそこに向かうべきなのであるが、ここで一つ問題があった。

 

(マルチネスも俺も速力はかなり低い)

 

 二人とも最強クラスには違いないが、比較的速力は低い傾向にあった。

 となると相手もそれを見越して、準備している可能性が存在する。

 具体的に言うと、一度追い抜いてしまえば絶対に追いつけないような、スキル構成や魔導具。

 修業の成果によって手に入れた、モンスターに対処するための速力&隠蔽スキルが、ここで発揮されている。

 

(速力偏重スタイル……!)

 

■ナイトの予想は当たっていた■

■彼らは、もう追いつけない■

■気配遮断スキル持ち数名も、ナイトたちの動きを阻害してくる■

 

「……!!」

 

 もう邪魔する者のいない道行きを、全力疾走するヒナ。虹の橋のようなものを渡り、その先のゴールへと。狂気的な笑みを強めて行く。

 後少しで自分たちの勝利。

 そうだ、勝ちとは何も敵を撃破するだけではない。とにかく試合に勝利すればいいのだ。

 これは、異世界競技というルールのある戦争なのだから。

 

■霧が完全になくなった■

■橋は、あと半分ほどある■

 

「はハ。運が・いい」 

 

■男の声が響いた■

 

「……は?」

 

■ヒナの首が・刎ね飛ばされた■

 

「――――?」

 

 ヒナは何が起きたのか分からない。

 何も起きていないと思いたい。

 のに、もう操作権を奪われた肉体はどうにも動かない。

 彼女の消滅は決まってしまった。

 最強の盾ですらない、謎の選手の手によって。

 

「――いヤ。悪いかな?」

 

■彼女が最後に聞いたのは、そんな言葉■

■疾風の勇士は、試合の結末を見ることなく退場した■

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