色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「ははは! やるな少年!!」
「ぐッ」
廃墟のような場所で、戦闘音が連続する。
戦っているのは最強のナイトと、最強の無職。
ナイトの持つ剣が振るわれるたびに、凄まじい風圧で空気が歪む。
クライスは拳で剣を弾き、超速でかわし、漆黒のナイトと互角に戦っていた。
彼らの周囲でも、複数の選手たちが刃を交えている。
侵攻者が求めるのは、漆黒のナイトの背後に在るGOALだ。クライスはそこに近い位置にいた。
「この時を待っていた! 俺の【世界を崩壊させる至高の魔剣】! 受けてみよ!」
「ッ」
紫色の大剣は大きさに比例などせず、信じられないほどの速度でクライスを襲う。それはナイトの速力を超えた・不可思議な現象。
かつて見た漆黒のナイトの力。
それを覚えているからこそ、クライスはそれで驚いたりはしない。
速度ならば彼だって負けてはいないのだから。
「強者と予想していた俺は間違いではなかった! 恐ろしい能力値だ! 少年!! 何か妙なカモフラージュをしているようだが、長年の勘は誤魔化せんよ!!」
「そりゃどうもッ」
なにやらうれしそうにも見える漆黒のナイトだが、クライスとしては早く決着を着けたいのだ。
しかし、撃破することもやり過ごすことも不可能で、クライスはひたすらに苦戦を続けている。
ゼロとロビーと戦ったことで消耗もあり、加えて敵は同じく最強、易々と攻略できるような存在ではない。
今のところは膠着状態であった。
「少年はもしや外から来た者なのか!? これほどの強さを持ちながら、大した名声もないとは!」
「……」
「もしよければ、ナイトの仕事をする気はないか! 少年ならばS級モンスターすらも打倒可能だろう!」
戦闘のどさくさにまぎれて、スカウトする漆黒のナイト。
それだけ、自身の仕事に誇りを持っているということなのだろうが、無職を愛するクライスとしては勘弁してほしかった。
しかもナイトといえば、アウトローな人種が多い職業である。平穏を愛する彼にとって、相性が悪いのは言うまでもなく。
スカウトは100%失敗だった。
「残念だ! しかし試合後に仕事に関する資料を渡したいのだが!!」
「結構だッ」
「ははは! 遠慮せずに!!」
「してないから」
実直な斬撃を放ちながら、クライスの力量を量るように動く。
ゼロのように、見下した雰囲気は微塵も感じさせずに、ただ強者と認めて敵を排除しようとする剣筋。
実直・油断なし・全力・隙はなし。
だからこそクライスにとって最悪の状況であり、この均衡を崩すことが出来ずにいた。
どれだけ拳を放っても、真っすぐに対処されてしまう。
(なら、やはりアレをっ)
クライスは、魔導具を出現させて構える。
取り出したのは邪悪滅殺槍(ジャスティス・グレイブ)。
なんだかんだでお世話になってる、唯一の戦闘用掃除機。
(ストックはある、まずは)
■掃除機のスイッチON!■
「ぬう!?」
ノズルから発射されたのは、白銀に煌めく毒の胞子。
C級モンスター、歩キノコから回収した広範囲攻撃手段。
特定のモンスター以外にはそこまでの効果がないが、意識を奪う事ならできる毒。
それが漆黒のナイトの体を覆った。
「どうだッ」
「――ふむ、少し眠くなった」
■あっさりと結果は出た■
■漆黒のナイトに対した効果はない■
(能力値の高いものに効果なしッ)
歩キノコの胞子に関する実験結果で、ある程度能力値の高い者には、毒の効力が薄まるというものがあった。
多少の意識の混乱程度はあるのだろうが、大して戦況は変わらない。横目でボールの位置を確認する余裕すらある。
(少しでも十分)
ナイトに掃除機を思い切り叩きつける。鳴り響く打撃音。
大剣によって防御されたが、彼の巨体を僅かに引かせることに成功。さすがの漆黒のナイトも、クライスの速度を乗せた一撃は重く感じる。
これを機会と察して、クライスは畳みかけた。
「ぐぬぬ!?」
掃除機を棍棒の様に扱う超連続打撃。
一撃の重さよりは手数によって相手を追い詰める超攻撃に、ナイトは苦戦の色を隠せない。
徐々に防げない攻撃も出てきた。
クライスは攻撃速度を緩めることなく、むしろさらにアップさせる。
「ぐおッ!!」
ついにナイトを弾き飛ばす連続攻撃。
体勢を崩された彼は、防御がおろそかになってしまう。
掃除機による追撃は止まることなく、ナイトにとどめを刺そうと振るわれる。
とにかく少しでも、戦闘不可能状態を生み出せれば。
(一気に決めるッ)
突進を仕掛けるクライス。
その速度は、頂点の域にあるものに違いない。
ナイトに避ける術はなく。
「――魔剣・崩壊」
なので避けるのではなく、全体的な防御で彼は対処した。
突進する弾丸を阻む紫色の壁。
それはナイトの全身を守るように渦巻き、上空へと昇っていく。
阻まれたクライスは後方へと弾き飛ばされながら、その光景を警戒する。
(この技はッ)
かつて見た、恐るべき威力のアイテムスキル。
多数のモンスターを吹き飛ばす、【怪物殺し】と称される奥義。
回避できるかは怪しく、まともに当たったらただでは済まないだろう。
しかし諦めるわけにもいかない。
(避けるッ)
速力を最大にして、魔剣の光を回避することを選択。
ナイトは必殺の眼光を崩さずに、この一撃で決める構え。
振るわれる大剣は果たして――。
(ここで負けるの、なんかいやだ)
■ちょっと決意のクライス■
■彼の意思は、いつの間にか固まっていた■
「ふむ! いい目だ! しかし、その陣形で避けられるかな?」
「っ」
■右に避けようとしたクライス■
■が、他の選手たちが邪魔で、行動が阻害される■
(これはっ)
いつの間にか、クライスの左右に人の壁が構築されている。
敵選手たちが、戦いながら少しずつ生み出した陣形・クライスを封じる罠。
それは少しの硬直時間を発生させ。
「それで充分——詰みだ少年」
■大剣からエネルギーが迸り■
(まず——ッ)
■極大の斬撃が、周囲の選手ごとクライスを飲み込んだ■
■轟音が響く■
「……」
大きな土煙が舞い、地響きが鳴る、まるで爆弾でも使用したかのような攻撃。
だんだんと土煙が晴れていき、攻撃の結果が明らかとなった。
「……ほう、そうなったか」
■ナイトの前方には■
「く、クライスッ。無事かッ」
「ふー。間一髪でしたね。いや寒気したー。……これで【裏】の仕込みも……フふ」
「……助かった」
■クライスを守るように立つ、盾を持つフジマルとロリンの姿■
■二人ともボロボロだが、その顔には笑みがあった■
「二人……いやもっといたが、消滅したか。大したものだ。あの一瞬で」
「……」
■さきほどの攻撃直前■
■クライスが少しだけでも人の壁を破り、そこから何人かの味方選手が、彼の盾となってくれた■
■エースであるクライスのことを、信じての行動だろう■
「さて、敵側の選手も削れましたね! これはチャンスですよ! チャンス!!」
「さて、どうかな?」
「あ・ハ。いい強がりです。嫌いじゃないですね」
対峙するクライス達と最強のナイトの、視線が交差して弾ける。
ロリンはニヒルな笑みを浮かべながら、超速で漆黒のナイトへと肉薄した。
彼女の着ているドレスは破れているものの、それが逆にまるで変わらないロリンの平静さ・その不気味さを強調している。
「ぬおお!!」
「なんのっ!」
■激突する、柔と剛の剣■
■パワーで勝る相手を、ロリンはなんとかいなしている■
(どのタイミングで来る! 少年!!)
■ロリンの相手をしながらも、漆黒のナイトはクライスの走りを警戒する■
■周囲で守っていた味方も少数ながら加わり、同じくクライスを注視している■
「まあ、警戒するか」
■やはり、クライスに対する警戒は強まる■
■だからこそ■
「じゃ、頼んだ」
■それ以外の選手に関しては、警戒が弱まってしまう■
「なッ!?」
漆黒のナイトの視界端で、フジ丸がボールを投げる体勢に入った。
わずかに正面からずれた、横にスライドしながらの投擲だ。
さっきの巨大斬撃のどさくさにまぎれて、どうやらボールは彼の手に渡ったよう。
それに気付いたナイトは、止めるための行動に移ろうとする。
(まずいッ。これはッ)
止めようとしているが、【止められない】。
彼の持っている剣のアイテムスキル、その効果は超速の斬撃を放つというもの。
しかし。
【あの剣の動きはですねー。斬撃を放つ直前の段階になったらもう、キャンセル・返品不可なんです。そこを突きましょう! まあ、少し情報収集する時間いりますけどねー】
■同じ守護者である、ロリンの情報と作戦開始の合図■
■それによって、ナイトの攻撃による隙を突くことが出来た■
「ぬうッ!!」
「ア・は」
敵の投擲を止めに行きたくても、すでに剣を振り下ろすモーションは止まらない。
その時を待っていたフジマルは、全力をもってボールを投げた。
「おおッ!!」
気合いを入れて放たれた一投。まだまだ未熟ではあるが、それなりに洗練されたフォーム。
ボールは一直線にゴールへと向かう。
ナイト以外の選手のスピードでは、止められない。
「ナイス。フジ丸」
■ボールはゴールへと吸い込まれ■
■式の柱が光を放ち、解放された■
■漆黒のナイトを突破し、今回の攻防を制したのはクライス達■
「仕込み・成功ー!」
この一投のために、ナイトが守っている方向とは逆側に、シューターを多く配置していた。その甲斐あって、こちら側の一回のゴールで決められたのだ。
それが功を奏し、なんとか漆黒のナイトという強敵を出し抜けたことに、ロリンは微笑しながら剣をさばく。
「ぐッ! まさかこんな……完璧なタイミングでッ。しかもあの体勢で見事な一投を……!」
「いやー本当。うまくいって良かったです合図。あはは」
ロリンは、漆黒のナイトを逃さない。
クライスというエースを、この先の勝利へと導くために。
少しでも時間を稼ぐ構え。
「後は、任せましたー。絶対勝ってくださいよー。ファイト!」
「……ああ」
■もう聞こえないほど遠いが■
■クライスは、なんとなくで返事をした■
■彼は、あと少しの残り時間を索敵で確認し、ため息を吐いた■
「ま、やりますか」
■不思議と足軽く■
■彼は、この試合における最終地点へと向かう■