色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「うりゃああ!! ああ!!」
「……!」
■大きな鉄柵に囲まれた、少し薄暗い平原■
■クライスとは別の場所での、激しい攻防■
■選手たちがぶつかり合い、複数の火花散らす■
■その中で、ひときわ輝く太陽があった■
「これで、どうよッ!!」
■桃色の髪をなびかせながら、大地を踏みしめ進む暴走少女■
■その破壊的な突進は、並の選手を寄せ付けない■
「……」
■そう、つまり■
■その突進を、剣一本で止める彼・マルチネスは並の選手ではない■
「やあああっ!!」
衝突するマルチネスの剣と、ジャスミンの拳。
凄まじい轟音が鳴り、嫌でも周囲の選手たちの注意を引く。
方や身長180cm越えの巨人・方や美しく戦場を蹂躙していく、破壊の暴走列車。
強大なる力の象徴を持った二人が、試合終盤の局面を彩るのだった。
「らぁあああッ!!」
■ジャスミンの両拳が、空間をねじ切るように連打される■
■それは乱暴な乱舞でありながら、どこか美しさと可憐さも感じさせるような、強さと美の結晶■
■彼女のスター選手としての潜在性が見え隠れする、美麗かつ狂暴である突進■
「……」
■それを見事に受け切っているのは、最強の守護者の一角・フード付きローブで全身を覆った大男■
■緑色の刃を有する大剣によって、ジャスミンの攻撃の衝撃にも怯まず、ゴール前の鉄壁を築いている■
「くっっそ! なんて固さ!! 調子狂うわねッ!!」
「……」
「びくともしてないッ!? この……ッ!!」
ジャスミンの超絶POWER・破壊力をもってしても、揺るがぬ不動の山の如し。
ビーフの修業で鍛えている彼女ですら手こずる、その堅牢さ。
まさしくそれこそ、最強の盾である証明と言えた。
加えて、現在のジャスミンはかなり消耗している。
(やっぱり、あの攻撃はまずかったわねッ)
■ここに来るまでの戦いで■
■ジャスミンは複数のダメージを受け、万全とは言い難い■
■相手も消耗はしているだろうが、ジャスミンは運悪くかなりの一撃を食らってしまっている■
「らああッ!! ああ!!」
そもそも、一度気絶まで追い込まれていて、そこから気力で試合復帰したのが異常な展開。
彼女の復活・指揮によって、チームメンバーが活気づいたのは言うまでもなく。
クライスの動きが序盤で封じられた不運による不利的状況を、なんとか押し戻そうとしていた。
ここまでで、充分に貢献していると言っても過言ではないだろう。が。
「――迷いが見える。何を悩む?」
「!?」
■マルチネスの静かな声、響き■
■同時に、ジャスミンは少し後方に弾かれる■
「ぐッ! ……この! 何よ迷いって!!」
「そのままの意味だ。集中し切れていない」
ジャスミンは再び突撃し、マルチネスの巨体を吹き飛ばす勢い。
だが、やはり彼は大して動かず、鉄壁としての役割を果たす。
それに対し彼女は目を細めて、一旦後退した。
「……!」
■息を整える彼女の頭に、マルチネスの言よぎる■
■迷い・集中無■
(あるわよ迷いならッ……! 言われなくても……!!)
ジャスミンの中に渦巻く悩み。
それは、円盤戦と呼ばれる異世界競技の選手として、このまま続けていくかというもの。将来性や収入がどうとかそういう問題でなく、自分がやりたいかどうかが彼女にとって大事なのだ。
(心のどこかで、くすぶっているモノがあった……迷走している自覚はある、けどッ)
クライスに手伝ってもらった創作活動なども、その迷いの表れと言えるのだろう。
自分では試合に集中しているつもりでも、無意識に心鈍らせていた可能性は否定できない。
そう考えて・ジャスミンは。
考えて。
「――ああッ、もうッ。知るかァッ!!」
「!」
■狂暴に吠える・悩める少女■
■同時、地面を揺らす・両足の駆動■
「うああッ!! りゃああ!!」
「これは……!」
■さきほどまでを凌駕する、破壊的侵攻突撃■
■発する威圧感が段違いで、マルチネスは一瞬だけだが気圧された■
「ッ」
■マルチネスが有するスキル、【守護の背水】■
■そして、【魔剣】が有するスキル【専心防壁】■
「……来いッ!」
守護の背水の効果:自身の近くかつ背後に式の柱がある場合に発動可能、防御力を急激に上昇させる。代わりに、使用者はその場から移動することが出来なくなる。戦闘行動は可能。
専心防壁の効果:防御力が一定以上を超えているANDスキルの効果などで行動を封じられている場合に発動可能。打撃と斬撃系の攻撃に対して強い耐性を得る。ただし、魔剣で一定回数防御しないと使用者の体全体に効果は発動しない。また、発動して一定時間経つと解除される。
(両スキル・維持可能。万全の態勢)
■マルチネスの防御は、万全発動■
■揺るがぬ鉄壁がそこに在る■
「――オオッ!!」
「なッ」
■轟音と衝撃が発生し■
■魔剣を叩くジャスミンの拳によって、鉄壁にひびが入った■
「なんというッ。ぐッ!」
■魔剣ごと、マルチネスを押し込んでいく圧力・パワー■
■地面を削る彼の両足は止まらず、後退していく■
(これはッ。防御破壊の魔導かッ!)
ジャスミンの周囲に渦巻く、半透明で水色の魔導エネルギー。
これは、魔導の一種・【武人の言】の【砕く】。
魔導・スキルによる防御効果を、破壊し弱体化させる、攻撃する者にとって有効な魔導だ。
彼女はビーフに言われたことと、あの修業の日々の感覚を反芻し、凄まじい集中力を発揮して魔導を維持する。
「らあああッ!!」
「ぬ、ぐおおッ」
■止まらない・その力の発露■
■切り札となる彼女の得意魔導を、出し惜しみなしでぶつけてくる■
■この瞬間だからこそ、破壊の魔導は最大限の効果を発揮した■
「な、ん、というッ!」
■マルチネスを押し込む、ジャスミンの魔導+パワー■
■それは、修業によって強化されたものだ■
■モンスターの体液によって変質した、悪い足場での突撃+スキルによる防御を持つモンスター■
■二つの困難が、彼女の突進力を更なる高みへと昇華した■
「これがッ、あたしのッ——!!」
■ジャスミンは、ある言葉を言おうとして■
■暗く重い影が頭を過り、それを遮られた■
「アああッ!!」
■叫びを上げる、獣のごとき少女■
■その動きが停止した■
「……」
彼女の突進の勢いが止まり、マルチネスは未だ健在。その肉体を粉砕するには、まだまだパワーが足りない。
彼はゆっくりと口を開く。
「素晴らしい・その可能性」
■式の柱から発生する、ゴールした証である光■
■ジャスミンは、マルチネスを式の柱まで押し込んでいた■
「どんな、もんよ……ッ!!」
■心の中で、ガッツボーズを取るジャスミン■
■その髪も肢体も汗に濡れ、今にも倒れそうなありさまではある■
■しかし、瞳に映る情熱の火は力強く輝いていた■