色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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鐘の音は・その断絶を越えて

■奇妙な形の照明が点在する、薄暗いトンネル・ある特定の魔導具の性能が制限されるポイント■

■奥には開けた空間があり、その中央にはゴールである終点が■

■クライスは、そんな場所を走っていた■

■彼の周囲には、味方選手数名がいる■

 

「ラストスパートだッ! 頑張ろうぜクライス!!」

 

「これもしかして! 勝てるかもしれねぇ……! よな!」

 

「……ああ」

 

■そして■

■試合残り時間は、あと数分もない■

■クライスは索敵魔導でそれを確認し、目前の光景を見遣る■

 

「はぁ。めんど」

 

 敵選手が十人以上、終点を守るように布陣している。

 今回のルールでは、ゴール前に移動する魔導が使えないので、スタークの時のような心配はないが。

 それでも相手は熟練の守護者。

 最強の盾でないからといって、侮れるような相手とは違う。

 

(俺のスキル残量も。残り少ない)

 

■クライスのスキルは、怠惰を力に変えるチート技■

■だが力を使えば消耗し、無制限に使えるわけではないので、温存を考えたりする必要がある■

 

「ここは通さん……!! 我々にも意地があるッ!」

 

「最強の盾には及ばんが、守護者の力を味わっていけ!」

 

■通路を塞ぐように布陣する、守護者の集団■

■当然、守りを固めて時間を稼ぐつもりのようだ■

 

「固そう」

 

■クライスの目から見て、守護者たちの持つ大きな白銀の盾は、スターク戦のように容易く突破できるものではない■

■時間がかかる=敗北の未来を想起させる■

 

「――さらに食らえッ! クライス!」

 

「おっ?」

 

 その荘厳なる盾に注視していて、不意を突かれた。

 いや、残り時間が少ないからか。

 

「あ、やばっ」

 

■様々な模様が、クライスの視界で弾け■

■彼は、魔導の嵐の中に飲まれた■

■それを行った敵選手たちは、確かな手ごたえを感じていた■

 

「どうだ……! クライスッ」

 

「あの焦った表情、やはり情報通り魔導力が弱点か」

 

■クライスの魔導力の低さ■

■それは、彼を警戒していた守護者たちも知ることだ■

 

「どうにかこのポイントで仕留めて、終わらせる必要があった……が、直撃だな」

 

■クライスを逃げ場のない、狭いポイントで待ち伏せ■

■残り時間の少ない状況になって、焦っているところで、攻撃魔導を不意打ち気味にぶち込む■

■それが守護者たちの作戦だった■

 

「……しかし」

 

■そう、しかし■

 

「――びびった」

 

■そう上手くはいかないかと、熟練の守護者たちは、魔導の嵐の中から出てくるクライスを見て思う■

■正確に言うと、彼はそもそも魔導群に飲まれていないが■

 

「こっちもびびったよっ。防御間に合ったー!」

 

「あんなレベルの魔導、対処できるか不安だったけど……!」

 

■クライスと共に走っていた、味方たち■

■彼らの助力のおかげで、切り抜けることが出来ている■

 

「そんなッ。それほどの熟練者が、あっちにもいたのか!?」

 

「いや、あの掃除機は……!」

 

 クライスが手に持っている、魔導具の掃除機。

 それが、魔導攻撃の嵐を切り抜けるためのキーであると、直感的に守護者たちは理解した。

 

(なんとか、なった)

 

 無職の勇士の魔導具掃除機は、魔導など特定のものを吸引する力がある。

 それを利用し、敵の魔導攻撃を回収・間に合わないものについては、吸引の力を利用して軌道をそらし、なんとかいなすことに成功した。

 だがしかし、それでもすべての魔導に対処するには、味方の助力が絶対必要であっただろう。

 

「く、くそっ。もう一度だァ!」

 

■再び展開される、魔導の弾幕■

■クライスの掃除機は、もう魔導を回収できる容量が残っていない■

 

「撃てー!!」

 

■クライスに迫る炎や電撃などの魔導群・その先には、敵守護者たちの盾■

■これらに対処するには、仲間たちの援護と掃除機に在る魔導の力だけでは足りず■

■いくつかの魔導を動いて回避しながら、あることを思った■

 

「じゃ、それ使うか」

 

■クライスは、掃除機の吸引力を利用し■

■自分を通り過ぎて後方にある、敵の放った魔導を【捕らえた】■

 

「なっにッ!?」

 

 さっきやった、吸引による軌道そらし防御。

 それを今度は、照準を【魔導師】本人に向けて実行する。

 

「返す、いらん」

 

■凄まじい吸引力によって、巻き戻りのように軌道を変えるいくつかの魔導群■

■それが、強力な破城槌となって敵選手へと襲いかかる■

 

「う、おおッ!?」

 

「なんで、こっちに——ッ」

 

 敵集団の、意味の分からない状況による動揺。

 クライスがさっき回収した魔導の発射。

 仲間たちの援護。

 

「うわあああッ!?」

 

■それらが重なり合い、最強の守護者チームを揺るがす矛となった■

■炸裂した魔導が強力な壁を揺らす■

 

「――こじあける」

 

■パワー&テクニックによる、敵選手の防衛破壊■

■クライスのそれは、揺らいだ壁に効果を大きく発揮した■

 

「ぐああッ!?」

 

「まずい、突破されッ」

 

 こじ開けられた、敵選手たちの防衛ライン。

 クライスによる突破系の攻撃は、敵をガンガン弾き飛ばすようなそれではなく、必要最小限の力で敵の防衛の脆さを突くもの。

 敵にダメージを与えるのではなく、あくまで突破口を開くのに特化した技だ。

 現在のようなスキルが減少している時でも、それなりに上手く機能する。

 

「よしッ! クライス!」

 

「いっけー!! お前ならやれる!!」

 

■味方の声援を背に受け■

■彼は開けた空間に出て、あと少しで届くゴールへと——■

 

「――」

 

■一瞬■

■たった一瞬だけ・クライスはそれを感じ取った■

■ああ・それは、無意識によるもので、試合前にも感じたことがあるような■

 

「は?」

 

 持っていた掃除機が・凄まじい衝撃と共にひび割れた。

 それは、襲いかかってきた攻撃に対して、即座に防御した結果だ。

 ほぼ反射的な防衛行動・間に合わなかったら、そこで終わっていた。

 

「ッ」

 

■続けて迫る、破壊の打撃・左腕を■

■即時後退で回避する■

 

「へえ。今のを避けたか」

 

「……」

 

■クライスの前に立つのは、【好青年】といった感じの黒髪男性■

■そんな彼が、さっきの一撃でクライスの【左腕】にひび割れを起こした■

 

(速い・少なくとも、今の俺より——ッ)

 

 いくら消耗もあるとはいえ、自身を超えるSPEEDにクライスは驚く。

 そして、左腕に受けたダメージが示すのは、敵の攻撃力の高さ。

 この短いやり取りだけで、いきなり現れた敵選手の脅威が分かってしまう。さきほどの攻撃を受け流せたのは、それなりに運が良かっただけかもしれない。

 

(なんだ・こいつは)

 

■クライスは■

■再び、両足に力を込めた■

 

(まだ・まだ)

 

■消耗が激しい■

■なのに、まだこの試合を放棄したいと思わない■

■無気力なりに少し頑張ろうとしている、のかと■

 

(まだ——)

 

■ああ・そうだ■

■そんな風に・さ■

 

 

 

「――だが、負けか」

 

■脳内に鳴り響く、物悲しい鐘の音■

■それは決着の合図■

 

「タイムアップです。両チーム戦闘行為を中断してください。……お疲れ様でした」

 

■儀攻戦の試合時間、終了■

■それまでに、儀式場の侵攻を行えなかった場合■

 

「侵攻者側の敗北です。この度の儀攻戦の勝者は【守りの大剣】となります」

 

■この儀式場を管理する【守護の会】のメンバー■

■その口から告げられる、敗北の知らせ■

■試合終わりの言葉も、彼の耳には入らない■

 

「……」

 

 呆然と立つクライス。

 それは、彼がこの結果にショックを受けている証拠だ。

 そんなに乗り気ではなく、別に試合自体に敗北してもなんともない。いつも通りに軽く流すはずだった。

 なのに、何でこんなに悔しさを感じているのか。

 分からなかった。

 

(……いつの間にか)

 

 そういつの間にか。

 彼は、この試合に勝ちたいと普通に思っていた。

 勝利して、仲間のあの頑張りを価値のあるものにしたいと思っていたのだ。

 自分でも気づかない内に、似合わない志を持っていた。

 

(そうだ、もっと早く)

 

 ゼロを倒した時点で、もう間に合わない可能性あると分かっていた。そこで諦めれば良かっただろうに、何故か彼は走ったのだ。

 さらに時間が経過しても勝利のアナウンスはなく、ヒナが失敗したことも予想できていた。

 なのに漆黒のナイトと戦ってまで抗った。

 クライスからしてみれば不可解な行動。確かにゼロに対する敵意はあったが、ここまでやるとは。

 

(ああ、やっぱり)

 

 ようやく気付いた勝利への想い。

 しかし結果は無情に告げられて、クライスは無気力に佇むのみ。その場を照らす照明の光が、不気味に点滅しながら彼の精神を覆う。

 彼の戦果は間違いなくチームトップクラスで、活躍はしていたし、事実敵の最強クラスを撃破した。

 だが負けは負けだ。

 彼女に言ったことも果たせなかった。

 

(久しいな)

 

 久しく感じていなかった気がする、無力感。

 みんなで力を合わせても、負ける時は負ける。やはり自分一人の力では、勝利を手にするなど無理な話だった。

 漆黒のナイトに言えば、何をうぬぼれているのかと言われそうな考えだが、自身の最強スキルならそれも可能なのではないかと思ってはいたのだ。

 出た答えは最強クラスには普通に苦戦するし、仲間の頑張りがなければ、勝利目前にすらいけなかったということ。

 

(それでも)

 

 自身が一番強いのだから。

 どうにかして、勝利を手に入れるべきだったとも思う。

 もっと頑張れば、もっと努力すれば、もっと死に物狂いになれば……。

 そんな仮定の話に意味はない。

 頑張っても頑張れないからこそのクライスであり、異世界転移者のマサルだ。

 どこまでも火の灯らない心を抱えているくせに、悔しさを捨てられず、完全な諦観を持てない。

 どこまでいっても中途半端な己の存在に、不愉快さや歯がゆさを感じ、鬱屈とした想いを強めるのだった。

 

「……」

 

■ああ本当に■

■なんて無様な■

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