色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「ああ……くそ。負けかッ。くそ……ッ」
「……いやー。惜しいっ。もうちょっとでしたね。本当に」
■ロリンとフジ丸は、試合終了の鐘の音を聞き、揃って肩を落とした■
■二人の肉体にあったダメージ……ひび割れは試合終了と同時に治ったが、フジ丸の表情にははっきりと悔しさが感じ取れる■
「……ぬう。まさかここまでっ」
■漆黒のナイトは、今回の試合の結果に動揺せざるをえない■
■勝つことは出来たが、正直言って両チームの総合力にそこまで大きな差はなかった■
■クライス達が加入したことにより、その爆発力は最強の守護者たちにも迫るものになったのだろう■
■そして、試合内容的に守護者たちに運が味方したと言ってもよく、それがなければ負けていてもおかしくなかった■
「まだまだ精進が足りんなっ。……ふふ、それにしても、本当に得難い好敵手だった!」
■敵と味方。それぞれの想いは交差し、様々な色を見せる■
「……あー、だめだった。かぁ」
■仰向けになったジャスミンは、息を乱しながら言葉をこぼす■
■その両目からは涙が流れ、悔しさで体を震わせている■
「なさけない……わね」
■彼女の瞳に在る迷いは、いまだに熱意をくすぶらせている■
■それを越えられていればと、さらに悔しさが増し、さらなる涙が溢れてくる■
■そんな彼女のように泣いている者もいれば、勝利に安堵し歓喜する者もいた■
■様々な想いを乗せたまま、最強の守護者たちとの戦いは幕を閉じた■
「……」
■敗北の残響は消えず■
■その鐘の音は、彼の心にいつまでも鳴り響いていた■
●■▲
■時刻は夜を回り……■
■試合が終わってから、それなりに時間が経った■
■魔導場近くにある選手の待機所から、クライスはようやく出てきた■
「クライス様」
「……」
魔導場の近くにて、平穏の象徴の姿があった。
クライスは、背負ったジャスミン(疲労で寝た)と共に、彼女へと近づいていく。
その足取りは重々しく響く。
ジャスミンの状態を確認した後、サーシャはクライスの様子に気づいて、おそるおそる言葉をかけた。
「……試合については……その」
「負けた」
呟くようにクライスは言った。
なんの気力も込められていない声はいつも通りだが、サーシャはそこに秘められた感情を汲み取った。
怠惰の中に潜んだ悲しみ・やるせなさ。
クライスは、無気力に無気力を上乗せしたような有様だ。
そうなっていることを予想できたため、サーシャもずっと声をかけられなかった。
「く、クライス様……。どうか元気を出してっ。って言っても難しいですよね……うぅ、すいません」
「ごめん、あの時の約束」
「!」
クライスは、サーシャに対して軽く頭を下げた。
彼が言っている約束とは、ある日の散歩の際にサーシャに対して言った言葉だ。
彼女が、何かを期待するような目で自身を見ていることに気づいたクライスは、それに応えるように言ったのだ。
【今度も……俺は勝つよ】
■無職の勇士を信じているサーシャ■
■最強の盾にすら、勝利するという幻想■
「……まるで、歯が立ちませんでしたか?」
「いいや」
サーシャの問いにクライスは正直に答えた。
倒した敵の守護者・内二人は最強の盾であり、それを撃破したという戦果。
その報告を受けたサーシャは驚きの声を上げて、彼のことをじっと見つめた。
瞳には確かな衝撃の色が宿っている。
彼女は、もう一度聞かせて欲しいとクライスに頼む。
「?」
クライスは繰り返して戦果を告げた。
サーシャはまたしても息を呑み、彼のことを信じられないものを見る目で見た。
何がそんなにおかしいのかと、クライスは首をひねる。
「なんだよ」
「す……すっごいじゃないですかッ。クライス様!! すごいっ」
「うおッ」
興奮した様子で、いきなりクライスに詰め寄るサーシャ。
彼女の目は輝き、己が信じる無職の勇士に対して、最大限の敬意の波動をぶつけまくった。
「いや、試合には負けたしっ」
「いえいえ! 相手は最強の盾ですよ! 充分ヤバい成果! か、快挙ですよ!! ふ、震えますっ」
「お、おう」
あまりにすごい反応が返ってきたことで、完全に面食らったクライス。
完全に落ち込んでいたことで予想外にもほどがあり、なにやらむず痒い気持ちになって、彼女から顔を逸らした。
しかし、サーシャの嬉しそうな顔を見ると笑みが隠せない。
そこに在るのは、決してお世辞の感情ではないのだ。
「こ、こ、これは村を挙げてのお祝いをすべきでしょうかッ。どうでしょうかッ。いやいや、逆に迷惑かな……」
「……」
「で、でもあの守護者……銀の闘技会で活躍もしてる二人に勝つのは、やっぱり快挙だしっ。村全体のビッグお祝いイベント開催すべきっ!?」
「いや、まあ、俺一人の力でもないし」
「く、クライス様の銅像でもっ。村に置くべきではっ???」
「やめてっ」
「だってあの最強の守護者たちを破ったんですしっ。な、なにかすべきではないでしょうかっ。はいっ」
「おいおいっ」
完全に、舞い上がっている様子のサーシャ。いやこれは混乱しているというのか。
そんなにも憧れの勇士が活躍したことが嬉しかったのかと、彼は頭を掻いた。
幻想の勇士に少しでも近づけたのなら、クライスとしても嬉しいのだが。
「サーシャちゃん」
「なんでしょうッ」
「なんでそんなに嬉しいんだ?」
「え?」
当然の疑問を軽く問うたクライスに、サーシャは一瞬固まった。
その反応に地雷を踏んだかと思ったが、彼は構わず彼女の目を真っ直ぐに見た。
ここで、この疑問を晴らしておきたいと思ったからだ。
「なんでそんなに好きなのかって、ことですよね?……分かりました、話します」
「……」
遂に話す時が来たようだと覚悟の顔のサーシャに、相変わらずの無気力クライス。
彼らは、面と向かって過去を共有するのだった。
「ナゴミノ地区に住んでいた……子供の頃、私は無職の勇士を敬愛していました」
■しかしこの世界では■
■無職の勇士がバカにされている■
【やーい! やーい!】
【そんな情けない勇士なんて、覇道の勇士の足元にも及ばないぜ!】
「周囲の子供たちは、いつもそのことをバカにしていたんです」
【ははは!! 無職の勇士!? ――笑わせるッ!!】
■その中には、最強の盾のゼロもいた■
「それがすごい悔しくて……ッ。私はっ」
「……」
「無職の勇士は……最強で最高の勇士だって……知ってほしくて……! そうだから……だから……?」
「そうか」
小刻みに震えながら語るサーシャの言葉を聞いて、クライスは納得がいったという風に頷く。
今までクライスの活躍を望んでいたのは、子供の頃の苦い経験もあったのかと。
だからこそ、彼女は大勇士になることを望むのかもしれなかった。
あくまで彼の推測に過ぎないが。
(しかし、活躍が知られれば目立つ)
無職の勇士の勇名を広げれば広げるほど、クライスの求める平穏から離れていくのは変わらない。
彼女の想いを知ったところで、今までクライスが辿ってきた道のりを変えるような真似は容易ではない。
彼は苦悶に表情を陰らせる。
「いいえ、大丈夫ですよ。クライス様」
「え」
そんな顔をしないでほしいと、サーシャは優しく言う。
クライスの苦悩をきちんと理解した上で、彼が無茶をする必要はないと、温かさで包みこむように告げた。
いつもと変わらない笑顔で。
「貴方は……いつも無気力そうで、だらしなくて、ダメ人間のようなところもあります」
「あれ、説教?」
いきなり、駄目出しされまくってしまうクライス。
本当のことなのだが少しショックを受ける。
「でも、仲間のために頑張れて、とても強くて格好いいところもあります」
サーシャは胸を張って言葉を続ける。
本当に伝えたい言葉はこっちだと、言葉に込められた熱でクライスに言っていた。
「貴方は……とても素晴らしい人で、それだけで私は十分なんですっ。焦らないでくださいっ」
「いやいや」
サーシャの言葉を否定したくなるクライス。
なにやら自分のイメージが彼女の中で膨れ上がって、無駄に美化されている気がしてならない。
彼は自分がサーシャが思うほど素晴らしい人間ではないと、申し訳なさそうに言う。本当に情けない男なのだと伝えた。
「そんなことないですよ。きっと……クライス様は自身が思っているほど、情けなくなんかありません」
「……」
「いつだって、そうです」
どこまでもクライスを信じている瞳で、サーシャは言い切った。
それに対して彼が感じるのはむず痒い気持ちだけではなく、心の痛みもだ。ぎしぎしと軋む精神の音がクライスを責め立てる。
自分でも疑問に思うほどに強く。
「……」
痛みを感じながらも、なにやら達成感のようなものも生まれていく心。
サーシャが、今のままでも良いと言ってくれた。
ならば、無理をして生きることもないかと、安堵の気持ちが湧いてくる。
(俺には合わない生き方だ)
ただ平穏に。
ただぐうたらと。
怠惰の海を泳いでいく、魚になること。
それこそがクライスという自分の根っこにある、純粋な欲求だ。
ならばこれからもそう生きていこうと、彼は強く決意した。
サーシャたちと共に・平穏なる日常アニメのような日々を――。
■死死死死死狂死死死死死・見乱つけ死タ・狂狂狂狂狂狂死狂狂■
「――ぐッ、あ」
■異変は突然に起きた■
■クライスの全身に、言いようのない悪寒が走る■
「く、クライス様ッ!?」
「……ッ!!」
■悪寒の正体は背後■
■先ほどまで儀攻戦を行っていた、魔導場から■
(なんだ、これは)
この、異常な不快感には覚えがあった。
かつて村を襲った、凄まじい乱れのモンスター群。
クライスが倒したキルシュと、同様の気配を発する存在。
いや違う。
これは、明確に彼女とは違うとクライスは感じた。
(比較にならない、乱れッ)
世界そのものを急速に侵食するかのような、おそるべき乱れの片鱗が流れてくる。
魔導場からどんどんと接近するそれに、クライスは身を震わせて、なにも出来ずに棒立ちになっていた。
サーシャの声すらどこか遠くに聞こえ、乱れの足音が脳に直接響き渡るかのような、、ガンガンガンという感じの音が、近付いて、遠ざかって、そう遠ざかってくれとクライスは心の底から願った。
「あ、ああッ」
■魔導場を囲む大結界■
■すでに黄金色の輝きが失われたそれから、誰かが出てきた■
「――」
■両腕に巻かれた包帯と鎖■
■黒いフードを深く被り、視線はよく分からない男■
■彼が歩く度に、世界が狂っていくような錯覚■
「お前、は」
大した確信があったわけではない。
しかしキルシュ以上の乱れを放つ存在となれば、その候補は自然と頭に浮かび、それしかないと答えを出していた。
そうだ、こんなにも強大な乱れ・あの存在以外に一体誰がいるのかと。
「――悪辣王ッ」
■クライスの言葉を聞いて■
■フードの男は、口が裂けるような笑みを零した■