色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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悪辣王:決意の一幕

■悪辣王とは■

■歴史上、幾度も出現し、世に混迷をもたらしてきた存在■

■1年前、今代の覇道の勇士が滅ぼされ、その名はさらに強い恐怖として刻まれた■

 

【なんてことだ……!! あの方がッ】

 

【くそ! 情けない勇士だぜ! どうするんだよ!?】

 

【今回出現した悪辣王は……組織を作って動いている? 厄介だ】

 

■世界に広まる動揺■

■根も葉もないような噂や、怪しげな品などが広まっていく・社会的不安定の証明■

■人々は・口々に恐怖や不安を口にした■

■その言葉は彼の耳にも届いた■

 

【はは……これが見たカった。これこそが——】

 

■邪悪に笑う乱れの者は、足を進ませる■

■民草の声を追い風にして、その勢いを強めながら■

 

●■▲

 

「……!!」

 

 クライス達に接近してくる得体の知れない男。夜闇の中で一層不気味に揺らめく存在。

 彼の一歩一歩が重々しく響き、クライスの精神を削っていき、自然とその足を後退させた。

 まだ戦えるだけの本気ゲージは残っているが、そういう問題ではない。

 こいつとは戦いたくない。

 まともに相対したくない。

 そう思わせるだけの不快感が、悪辣王と思われる人物から発生していた。

 

「クライス様、あの人は……」

 

「……サーシャ、逃げるんだ」

 

「え?」

 

 思わずいつもと違う呼び方になったのも気にせず、クライスはサーシャを抱えてこの場から離脱しようとする。

 とにかく相手はまともじゃない。

 悪辣王であろうがなかろうが、これほどの乱れを隠した存在が、こちらと友好的に接しようなどと思う筈がない。

 そこらの凶暴な野生動物の方が、まだ安心できるというものだ。

 

「とにかく早く、ここからッ」

 

 サーシャとジャスミンを抱えて全速力で逃走する。ここに来る際に使用した魔導車は使わない、遅すぎる。

 この危険人物の対処は、その後に考えれば良いことだ。

 クライスは速力を上昇させながら、両足に力を込めて、地面を勢いよく蹴ろうと構える。

 

(この荒野は山に囲まれている。その山の麓の町へ行けば、ソルジャーの守る町があるはず)

 

 果たして、ソルジャーにどうにか出来るのか?

 その疑問からは目を逸らして、クライスは魔導場から南にある町へと向かう算段を立てた。

 魔導場には、まだ最強の盾や漆黒のナイトがいるかもしれないが、助けを求めようにも、大結界の力で入ることが出来ない。サポート通信も遮断されている。

 大結界の中に入れるのは儀式場に登録した者のみで、現在は儀攻戦の事後処理のために、守護の会の関係者以外は、踏み入ることが不可能。しかし、そうなるとフードの男も関係者ということになるのだが……。

 とにかく、やはり町への逃走を行うしかなく。

 

「行くぞッ」

 

■クライスは冷や汗を流しながら、逃走劇を開始する■

 

「――行かせなイ」

 

■それを妨げる乱れの奔流が、その場を支配した■

 

「ぐッッ!?」

 

 逃走しようとしたクライスは頭を抱えて、両膝を折り、その場に蹲る。

 すさまじい苦痛の嵐が空間を染め上げて、その中にいる者を乱れの槍で串刺しにする。

 苦痛の声を上げるのはクライスだけではなく、彼が抱えていた彼女もだ。

 

「あああァッ!!」 

 

 クライスと同様に、頭を抱えてうずくまるジャスミン。

 その顔には苦痛と絶望が表れていて、いつもの明るい雰囲気は微塵もない。

 涙と涎を垂らしながら、心に刺さった槍を抜こうと必死に足掻いていた。

 

■苦痛の叫びは重なり合い■

 

「――二人とも、しっかりして!!」

 

■救いの叫びは、それを止めようと響く■

 

(サーシャ……ッ)

 

 朦朧とする意識の中で感じる、サーシャの温もり。

 彼女の自身を案ずる声が聞こえて来たクライスは、以前も救われたことを思い出し、彼女の変わらぬ温かさに驚いていた。

 これほどの異質・不快な気配が充満する中で、サーシャはただ二人を心配して、抱き締めながら必死に呼びかけている。

 今にも発狂しそうな二人の心が、彼女によって回復していく。

 

「……ほう、この【乱れ】の中でも正気を保つとは」

 

 その様子を見ていた悪辣王は、興味深そうにしている。

 包帯が巻き付けられた右手を顎に添えて、思慮を深めている様子だが、表情はフードで隠れて良く見えない。

 彼から発せられる乱れは健在で、今この時も世界を侵食していた。

 

「では殺すか」

 

 突然、なんてことのないように悪辣王は言った。

 大して重大な意味も持たない言葉であり、彼にとっては自然なことで、異常でもなんでもないのだろう。

 目前で平穏を構築する存在を壊したいという、その程度の理由で。

 

■その右手を凶器に変えて・サーシャの首をへし折ろうと振りかざした■

 

「少し時間をかけて砕くかな・精神を壊してみたい」

 

■恐るべき速度で、避けられない脅威は迫る■

■サーシャたちに対処の術はない■

 

「――させるかァッ!!」

 

■救援の刃は、悪辣王の背後から来た■

 

「ほう」

 

 背中からの斬撃を、するりと避ける悪辣王。

 その隙に、巨体の男がサーシャたちを庇うようにポジショニングする。

 悪辣王と同じようにフードを被った、守護者マルチネスだ。

 

「マルチネス、お前もいるとは好都合」

 

「……」

 

「僕から奪った物を返してもらおうか、【魔剣の勇士】」

 

■マルチネスの右手には大剣が握られていた■

■緑に煌めく、とても神秘的な雰囲気を持った魔剣■

 

「フン、貴様のような悪党に返す必要などないなっ」

 

「……」

 

 肩を並べて立つ二人の剣士。

 一人だけでも威圧感のある男たちが並ぶことで、その圧はすさまじく、両者が手に持った魔剣の輝きは強烈になる。

 漆黒のナイトとマルチネス。

 最強の魔剣使い二人が悪辣王と対峙する。

 

「……この乱れの中でも戦える……か。これはハメられたかな? こっちの仲間もきっちり潰されているようだし、意外とやるじゃないか【お前たち】も」

 

■悪辣王の言葉に、漆黒のナイトは怪訝そうな表情を見せる■

 

「……貴様を倒す為に、こちらもただ待っているわけではない!」

 

「当然の対処か。【乱れ】に耐性のある者たちを集めて、僕たちに対する駒とするというわけだ」

 

 悪辣王の予想は当たっていた。

 彼ら二人はある特殊部隊に属する、悪辣王の軍勢を相手にすることを想定した、選ばれた戦士たち。

 ある【魔導具】を奪ったマルチネスを囮として、悪辣王に属する者を誘き出そうとしていたのだ。すでに敵が島の内側に潜んでいることを想定した策。

 

「しかし、まさかの親玉の登場とはッ。しかも、守護の会に潜んでいたな……!」

 

「ああ、さっきの試合はつまらないなりに・楽しめたよ。本来の予定ではないがな。直前で気が変わって僕が行くことにした」

 

「阿呆め。これで貴様らも終わりだ!」

 

「?」

 

 漆黒のナイトの言葉に、悪辣王は疑問形の表情。

 なぜそんな結論になるのかと、まったく理解できないと、彼の頭は謎で染まった。

 

「なぜ、僕が終わると仲間たちも終わると思うんだ?」

 

「なに?」

 

「あいつらは【自由】だ。別に従えているわけじゃないな」

 

 悪辣王は、自身が頭となって乱れたちを率いているのではなく、あくまで一緒に行動しているだけだと、嘘偽りない声で言う。

 その言葉の真偽は、ナイト達には分からない。

 そもそもまだ謎も多い集団なのだ。

 どれほどの勢力で、何が出来て、どこを本拠地にしているのか……。

 少しでも情報は欲しいのだが、捕らえることも出来ていないために、敵から聞き出すことも出来ない。

 

(しかし、悪辣王本人からなら?)

 

 リーダーではないという発言が本当だとして、そう思われるほどの中心人物からなら、有益な情報も多く得られるかもしれない。

 そう考えた魔剣使いの二人は、捕縛の方向性で戦おうとする。

 

(そんなことが出来れば、な)

 

■ただでさえ最大脅威と言える悪辣王相手■

■生かして捕まえることの難易度は、計り知れない■

 

「さて、それでは」

 

■悪辣王はにやりと笑い■

 

「殺し合おうか・ルールに縛られた殺意はつまらないだろう?」

 

 どこか遠い目をしながら。

 悪辣王は儀攻戦をつまらないと断ずる。

 

「負けても命は失わない・痛みや苦痛も誤魔化されている」

 

「……貴様、我らの戦いを侮辱するか」

 

「するさ。やはり命が関わらなければ【緊張感】がない。……これは娯楽性にも影響することだ」

 

■悪辣王はさらに笑みを歪めて■

 

「楽しいだろう? 生死が分かれる戦闘の方が」

 

■二人の魔剣使いへと、攻撃を仕掛けた■

 

「ぬかせッ!!」

 

「……」

 

 地面を揺らす走行の衝撃。

 悪辣王が行った攻撃方法は、突撃しての肉弾戦。

 魔導を放つということもなく、ただ己の肉体のみで、二人の最強に連続で拳を放っていく。能力値は隠されていて不明だがその動きは凄まじく、疑いようもなく最強の一角であると言える。

 

(少年には劣るがかなりの速力ッ。さらにこれは!!)

 

 放たれる拳の乱舞を大剣で何とか凌ぐナイトは、単純なスペックよりも、その研ぎ澄まされた肉体の動きに注目した。

 己の身体能力を最大限に活かすような動きは、実際の能力値など参考にならないレベルで、悪辣王の戦闘力を上昇させている。

 

(魔導による肉体強化もなしに、これかッ!!)

 

■敵の骨を砕き、肉を貫き、心臓を抉ろうと■

■悪辣王の神拳が唸りを加速させる■

 

「――これが、魔剣の勇士スキル」

 

■目前で起こった光景に、興味を惹かれる悪辣王■

■流れが変わる■

 

「……」

 

■マルチネスの刃が二重に増え■

■否、それだけでは止まらない■

 

「二人に分身……? 忍者のよウだ」

 

 マルチネス自体が二人に増えていた。悪辣王は、興味深そうにそれを注視する。

 魔剣すらもそっくりそのままコピーされたかのように、本物のマルチネスの横に分身が存在し、同時に斬りかかるという異常事態。

 二重の刃が、確かな圧を以て悪辣王の肉体を斬滅しようと放たれる。

 

「幻影ではないか、厄介だな」

 

 動きがそれぞれ違う二つの変則刃を、機敏な動きで回避した悪辣王。

 それだけでもすごいことではあるが、流石の彼も、最強の守護者が二人という信じられない脅威を前に防戦に回る。

 それに加えて、さらに一刃。

 

「どうした! まだ俺もいるぞ!!」

 

 漆黒のナイトも健在であるのなら、最強の刃が三重で放たれる。

 実直な剣と変則的な剣が重なり合う、斬撃のコラボレーションは、悪辣王を以てしても破りがたい。

 徐々に徐々に・傾いていく勝敗の天秤。

 悪辣王は劣勢に追い込まれていた。

 

「強い……!」

 

 二人の魔剣使いを相手取って戦う悪辣王は、驚嘆する。

 彼の拳もまた、自身より一回り大きい巨体を衝撃で押し込むレベルで、想像を絶する威力を持っているのだが。

 対悪辣王の部隊は伊達ではない。

 最強戦力を倒すためには、それを二倍にした戦力をぶつければ良い。

 シンプルな策が最大限に効果を発揮していた。

 

「ははは……! 良いぞ……! どうなる・分からない、天秤不確定の殺し合い!」

 

 それでも、追い詰められた悪辣の王は不気味に笑う。乱れの中で、ダメージが【あちらの世界】よりに変化しているというのに。

 己の首に刃が押し当てられているような状況を、むしろ歓迎するかのような態度に、漆黒のナイトは背筋を凍らせた。

 表情が見えないのに・想像が化け物を連想させる。

 

「やはり貴様は危険だ、ここで仕留める!!」

 

「……」

 

■さらに勢いを増す、二人の連続斬撃■

 

「◆――【龍王の咆哮】」

 

 変化は一瞬だった。

 悪辣王の動きがさらに鋭くなり、その腕・破壊の槍によってマルチネスの心臓部が抉られた。

 

「ッ!?」

 

 驚愕する魔剣使い二者の目の前で、消滅する分身の肉体。再現された魔剣も服も残らない。

 まき散らされる血痕こそないが、分身体を貫いた悪辣王の右腕は、常軌を逸した殺傷性を有している。

 一段階上のステージに上がった王は、動きをそのままに脅威を格段に増して、魔剣使いに襲い掛かる。

 

「ぐおおッ!?」

 

「……ッ」

 

■繰り出される拳・蹴りの超絶乱射・大旋風■

■今度は魔剣使いが押される番だ■

■ギアが一段階上がった、そう思わせる動き■

 

「おのれッ!! さっきまで本気でなかったのか!!」

 

「いやいや・そんなわけではないよ」

 

 ジャスミン等が得意とする、武人の言を用いた肉体強化による戦法。

 それを使っているわけでもない、なにかしらのカラクリがあるわけでもない、ただ強いのはその肉体。

 

「どうした、その程度ではないんだろう?」

 

 強力な肉体と究極の技。

 これこそが悪辣王の強みであり、最強の魔剣使い二人を相手にしても優勢に立てる最強の矛。

 マルチネスの分身を仕留めた技ですら対処は難しいというのに、王はまだ手札を残しているとナイトは確信している。彼は最悪の未来を想像して叫んだ。

 

「くっそおおお!!」 

 

■夜闇の中で輝く悪辣王の牙■

■それが、赤色を広げようと漆黒のナイトの心臓を狙い――■

 

「おおオッ」

 

■全力の光を発する勇士が、それを妨げようと割り込んだ■

 

「!!」

 

 悪辣王の拳とぶつかり合う、無職の勇士の拳。

 復活を果たしたクライスが、全力のスキル行使で最強の肉体に立ち向かう。

 全開の速力で、悪辣王の技巧と拮抗しているように見える、異常な域の肉弾戦。

 しかし、クライスの顔はまだ優れない。

 

(くそ、気分が悪いッ)

 

 目の前の悪辣王と対峙する勇気が持てない。

 能力値以前の問題で、乱れの元凶と戦う意志を折られかけていた。

 もし二人の魔剣使いがいなければ、とっくに敗北している有様。

 試合後の疲れもあり、決してコンディションは良くない。

 

(それでもッ)

 

 ぎりぎりの意志をなんとか繋ぎながら、悪辣王の神拳を凌いで、少しでも力になろうと足掻いていた。震えて動けないサーシャと、戦える精神状態ではないジャスミンを想いながら。

 その甲斐はあった。

 押されていた戦況に光が射し込み、再び悪辣王を打倒する機会が生まれる。

 

「少年!! このまま悪辣王を魔導場まで押し込むんだ!!」

 

「!?」

 

 漆黒のナイトが言った言葉に疑問を感じるクライス。

 しかし声色は勝利の光を信じたもので、血迷った発言ではないと思えた。

 

「分かったッ」

 

 三人の連続攻撃は勢いを増して、悪辣王の神拳を防ぎ、彼を背後の魔導場まで徐々に押していく。

 吹きすさぶ攻防の嵐は荒野に大きな爪痕を残し、地面を砕き・裂き・破壊しながら、終息の時が見えてきた。

 

「ははは、やるな【無職の勇士】! 予想外の健闘だ!」

 

「……っ」

 

 クライスのことを無職の勇士と呼ぶ敵。

 悪辣王に自身のことがばれていることで、クライスは背筋を凍らせた。

 さっきの試合、やはり最後に出てきた選手は、この悪辣王だったのだとも思った。

 小さくなにかをつぶやきながら、彼は消耗した状態で悪辣の王に挑む。

 

「マルチネスッ!!」

 

■クライスの後悔を晴らすように■

■漆黒のナイトは合図を送った■

 

「――」

 

■マルチネスは急速後退し■

■一瞬、動きを止めて■

 

「なにか・する気か」

 

■それを見た悪辣王が、笑みを深めながら右腕を・マルチネスを仕留めるために駆動させた■

■それを止めるために、クライスと漆黒のナイトが間に入る■

 

「止められるかな? 二人で」

 

「ぐ、おッ!!」

 

「……ッ」

 

 悪辣王の動きは格段に鋭い。

 たとえトップクラスの選手二人であろうと、消耗した状態では数秒の時間稼ぎすら出来ない。

 人数が足りない。

 

「――なら、三人ならどうよッッ!!」

 

「!」

 

■そこで割り込む、明るく力強い声■

■地面を響かせながら、暴走特急ジャスミンが悪辣の王に突っ込む■

 

「うおりゃああッ!!」

 

■響き渡る衝突音■

■魔導の効力も+した、クライス以上の突進力■

 

「な……んでよッ!?」

 

■それすらも、悪辣王を揺るがすことはない■

■わずかに後退させた、ただそれだけ■

 

(この固さッ。まさかこれで魔導強化なしッ!?)

 

 その堅牢さはマルチネスにも匹敵するのではと、ジャスミンは戦慄する。

 そして、自身がそんな怪物の間合いに入っていることを認識し、背筋を凍らせた。

 

「あア」

 

■殺意の右腕が、ジャスミンへと伸び■

 

「いや・壊したらまずいか。【約束】してた」

 

■なぜかそれが、途中で静止した■

 

「ッ!!」

 

「おっ」

 

 ジャスミンがその隙を逃さずに後退し、クライスがその離脱を手助けする。

 クライスの超速の拳をそれなりにさばきながら、悪辣王は彼の陰になって姿の見えないマルチネスへと関心を向ける。

 そして、その勘ともいえる思索は間違いではなかった。

 

「――準備完了」

 

■マルチネスの静かな声■

■ついに動き出す、魔剣の勇士の本領■

 

「はは、なにを見せてくれルんだ?」

 

■クライスを右拳で弾き飛ばし、悪辣王は笑いながらマルチネスを見る■

■彼の魔剣が届く間合いではない・だが、届かせてくると王は直感した■

 

(アイテムスキル、【無刃の魔剣】)

 

■振り下ろされた魔剣が■

■見えない・動かない刃で悪辣王を襲う■

 

「これはッ」

 

 さすがの悪辣王も、反応できずに直撃を受けた斬撃。

 驚くのは攻撃を受けた側だけではなく、与えた側のマルチネスもだ。

 

(我が奥義で、ノーダメージとはッ)

 

 悪辣王の肉体に傷はなく、恐るべきことに自身の肉体のみで彼は斬撃を防いだ。

 尋常ならざる神拳と技巧に加えて、鉄壁すらも生温い肉体強度。

 現状、彼に致命打を与える攻撃方法はクライス達にない。

 

「なに?」

 

■ダメージはないが■

■悪辣王の肉体は、背後にある魔導場内へと強制転移された■

 

「へえ、変わった効果だ」

 

■魔剣の勇士の奥義は、斬撃の対象人物の前後空間を【切り裂く】■

■それによって、届かなくても斬撃を当てることができ、さらに敵を後方へと飛ばすことが可能■

■悪辣王であっても、例外ではない■

 

「だからこそ、【準備】をしていた!!」

 

■魔導場内に飛ばされた悪辣王は■

 

「!」

 

■自身の周囲に黄金の輪のようなものが複数発生し、困惑を浮かべた■

 

「何が……?」

 

 黄金の輪に刻まれた読めない文字は、輪の中をぐるぐると回転しながら、その速度を速めていく。

 周囲にあるのは森の木々で、この輪を発生させた何者かが潜んでいる可能性はあるが、とにかくコレをどうにかしなければならないと悪辣王は判断した。

 

「どうにもできんよ、それは貴様の天敵だ!」

 

■漆黒のナイトの言葉通り■

■悪辣王は対処の暇もなく■

 

「ぐ、おおォ!」

 

 黄金の光に飲まれていく悪辣王。

 それは異物を排除する浄化の光にして、彼に対して特攻とも言える儀式場のシステム。

 この時のために、漆黒のナイト達が仕込んでいた秘密兵器。

 

「――【安寧の灯】」

 

■心安らぐような優しい光が■

■最悪の乱れを、平穏の中から消し去った……■

 

「はは――」

 

■その直前に・王は笑った■

 

「異物たちよ……どうか存分に楽しんでくれ」

 

■楽しそうに・どこか期待するように、笑った■

■クライスは、彼の笑みから目を離せなかった■

 

●■▲

 

「倒した……!!」

 

「……」

 

 魔導場に入って、悪辣王の排除を確認したクライス達。

 彼の姿はどこにもなく、儀式場の管理者もその最後を記録している。

 安堵の息を吐いたのはクライス達だけではなく、二人の魔剣使い達もだ。

 あまりに突発的な襲撃に、彼らも疲弊の色が隠せない。

 

「助かった、本当に感謝する少年」

 

「……あいつはどうなった?」

 

 漆黒のナイトの感謝など頭に入らず、恐怖の権化たる王の行方をクライスは問う。

 これで終わったとはとても思えない。

 悪辣王はまだ生きているはずだ。

 あの男の子供のような笑みが・恐怖を煽る。

 怯えている様子のサーシャと、疲労が激しいジャスミンを守るようにして、彼は戦闘態勢を続けていた。

 

「……生きているさ。まだ終わってはない」

 

「……」

 

 分かり切っていた答えでも、実際に聞くとうんざりしてしまう。

 つまりまた、悪辣王と対峙するかもしれないということ。

 平穏を壊す、最悪の乱れと戦えと言うのだ。

 

「悪辣王がどうなったかを説明する前に……まずこの島の成り立ちについて伝えておこう」

 

■ホンワカ島と儀式場の関係性について、ナイトは語り出す■

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