色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「ぐふひひひひ――ヒ。王は失敗したか……ヒヒヒ。まあ、それならそれで勝手に遊ぶとしよう」
■笑いは重なる■
「ははははは、皆自由に動いているようだしなぁぁあ」
■異質な笑い声は■
■まるで世界を軋ませるかのようだ■
「ではでは」
「ああああ」
■小太りの男が歪に口角を吊り上げて■
「儂の宝を取り戻す時だ」
■充血した両目を、壊れる程に見開きながら■
■乱れの欠片は狂喜の叫びを上げた■
「ぐひひひひ、ハハははははは、ひヒひひヒひひひ――ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
■とても気持ちの悪い笑み■
■誰もがそう思うような、【この】世界に不釣り合いな生々しい醜さ■
■その男はそれを体現していた■
●■▲
「あー、暇だ」
「……」
「暇だヒマだ」
「……ちょっとアンタ」
「なんだよ?」
「うるさいわよ」
「俺の部屋なんだが」
■クライスの部屋にて■
■今週のジャンパーを熟読中の、ジャスミンがいた■
「……そうだけど、どんだけ暇なのよっ。このヒキニート!」
「いつも通りだ」
「そうだけどっ。そうだけど! えらそうにいうなー!!」
ごろごろ床を転がりながら、クライスは何をするわけでもなく暇だと主張を繰り返していた。
その行動に意味などないのだろう。
無職の勇士は、変わらずの怠惰っぷりを披露していた。
窓から入ってくる朝日が彼の顔にぶつかっても、やる気は0。
逆に眠くなる感じすらある。
「見事なまでの社会のゴミね」
「そうは言うが、お前だって最近は働いてないだろう」
「む」
読書しながらベッドに腰かけているジャスミンに突っ込まれるも、クライスは無気力に切り返した。
彼の言うことは正しく、ジャスミンはここ最近引きこもり気味になっていた。
悪辣王との接敵から三週間が過ぎたが、ジャスミンの精神に刻まれた傷は治っていないようだ。
(まあ、試合に負けた影響もあるか)
最強の盾たちとの試合、その話をする度に彼女は申し訳なさそうな顔になる。クライスの記憶では十分に活躍していたと思うが、何か失敗でもしたのだろうか?と、疑問を抱いてしまう。
しかも、敗北で様子がおかしくなったのはジャスミンだけでなく。
【すまない……少し一人で考えさせてくれ。……本当にすまない】
試合後、待機所内で復活を果たし、クライスの下に謝罪に来たジン。
彼はクライスに合わせる顔がないと言うかのように、一人だけでどこかへ去っていった。
結果的に悪辣王に遭遇しなくて良かったが、彼がこの事を知ればさらに責任を感じそうだとも思った。
やたら真面目というか……最初に会った時のような言動がイレギュラーだったのか。と、ジンに対する見方が変わっていくような、いかないような。
【はー、負けた……けど、正直でき過ぎな試合結果かもな。あんまり思いつめるなよ? クライス】
【そうそう。まったく、あの守護者たち相手にここまでやるとは、びっくりだわな~】
【監督は、もっと悔しそうにしてくださいよっ。おいっ】
フジ丸は普通に悔しそうで、監督はいつもの監督だった。
チームのみんなも悔しさはあれど、あの守りの大剣相手に善戦できたことを、少なからず誇りに思っている感じはあった。
あの敗北は悪いことだけではなく、ちゃんと前に進むための糧にもなっている。
が。
(……ジャスミンは、しばらくこのままかもな)
……正直、クライスとしても無茶されるより、ちゃんと休んでほしいので良かったが。
ミリアム系のような生き方は、見ていてしんどい部分があるのだ。
あの場に連れていってしまったことに対する、罪悪感の気持ちもある。
「……少し休んでいるだけよ。少しだけ」
「そういって、人はナマケモノになっていくのだ」
「アンタと一緒にするなぁ!」
「ははは、俺は歓迎するがね?」
クライスは怠け者仲間が出来るかもしれないと、少し嬉しそうな笑みを形作る。
ジャスミンは一緒にされたくはないので、彼を一睨みしてから、読書に戻って無視態勢。
どうやら、クライスの部屋から出ていく気はないようだ。
ジャスミンがプロとしてやってる【円盤戦】は、どこかの専門ジムに所属し、試合をやってスポンサーから金を貰うシステム……と、彼は聞いていた。
(しかし、食っていけるの少ないー。とか聞いたようなー)
そんな状態でこんなに休んで大丈夫なんか?的な心配が、クライスの中で過る。
まあ、どっかのギャンブル狂いじゃあるまいし、金がなくて泣きついてくるとかはないだろう。その心配はないと安心する。
もし仮に彼女に泣きつかれたら、なんだかんだで金をあげてしまいそうな自覚はあった。
(……一人でいるのが怖いのか?)
時々だが最近のジャスミンは、何かに怯えてびくびくしていた。
いつも明るい彼女らしくない、暗く濁ったような目を見た時、クライスは乱れの音が聞こえてきた気がして目を逸らした。
だが、やはり間違いなくジャスミンは何かを脅威に感じているようだ。
(聞くべきこと)
クライスはその脅威について聞きたいと思っていたが、下手に聞くと危険だと、今までの人生で培った乱れに対する勘が告げているようで動けない。
ジャスミンの方から話してくれるのを待つのみで、歯がゆいとも思うが、これが最善だと思っている。
(面倒だ)
色々と頭を悩ませて誰かの悩みに対処するなど、自分にできることとは思えないし、やりたくもないのだが、一応友人のことなので踏ん張る。
こうなったのも全て悪辣王のせいだと、内心で舌打ちしながら、クライスはジャスミンの漫画雑誌を見つめた。
「おい、そういえばソレ」
「?」
「?じゃないぞ。それは俺のだろうが」
「そうだけど?」
「そうだけどじゃないぞ。俺が読めないだろ」
クライスは、今週のジャンパーをまだ読んでいなかった。
最近は看板作品が大きな盛り上がりを見せ、品薄になることが多いジャンパー。
コンビニ店員とのコネを使って安全に入手したクライスだが、色々あったことでまだ読めていなかった。
「今日中には読み終わるから待ってて」
「だめだ、読むのなら金を払え」
「ケチ臭いわねっ。あり余るほどに金を持ってるくせにっ」
「なに言ってる。家を建てたらヤバい程度だぞ。余裕なし」
クライスの貯金はまだそれなりに残っている。
元々そんなに金を使いまくるタイプではないため、徐々に減っていく感じだが、家の建築を行うとほぼすっからかんになりそうだった。
そうなっては、怠惰で平穏なる生活が崩れてしまう。
(困る、めっちゃ困る)
■やはり、金こそ平穏なる日々に必要なものだと思う■
■いや、持ちすぎるとそれはそれで厄介なことになるのだが■
■一応、今はプロチームに所属しているので、稼ぐ手段があるにはある■
(そろそろ、【ファイティングラウンド】でもやるか? 結構でかいイベントに……いやしかしなー)
ファイティングラウンド……就職者によるバトル系のイベント。
ファイターとはそれで金を稼ぐ人種のことで、ジャスミンは特に【円盤戦】でそれなりに有名なプレイヤーである……というのは、クライスでも知っている。
彼も、一度彼女の試合を見にいったことがあるが……。
(綺麗だった)
正直なクライスの感想は、ジャスミンが美しかったという一点。
試合で見せた、日常ともまた違った彼女の一面。
荒々しくも真っすぐで、どこまでも覇気に溢れた輝かしいバトルスタイル。彼にしては珍しい惹かれ方であった。
正反対だからこそ、惹かれるという奴なのかもしれない。
試合内容があまり頭に入らなかった。
(まあ)
そんなことを正直に言ったら、ジャスミンに気持ち悪いと白い目を向けられかねないので、彼は黙っていたのだが。
しかし、もう一度くらいはあの姿を見てみたいとも思う。
(……俺が戦ったら、恐ろしく冷めた試合になりそうだ)
勝つことは出来るかもしれないが、エンターテイメントとしては失敗。
そんな有様になることを想像できて、苦笑いを浮かべるクライス。
どうにも汗を流して青春なんてのは難しい。
(……適当に混沌戦でもやるかな)
異世界競技の中でも、混沌戦(生き残りバトル)は力量を誤魔化しやすいと言えた。数が多くてやかましいのが欠点とは思うが。それと彼にとっては長い試合は面倒くさい。
なにはなくとも面倒くさい。
(……ファイターとして本格的活動する、か?)
公式のファイターとして大会に出た場合、賞金獲得の際にいくらかのボーナスが付くなどのお得な事があり、それなりのメリットが存在した。
ファイターでないと出れないイベントもあるので、やはりそっちの方が良いと思うのだが……。
(めんどい)
面倒くさいのだクライスは。
というか、イベント参加のための手続きすら面倒くさい。
戦うのだって面倒くさい。
面倒。
面倒。
なにもかもが鬱陶しい。
(だるい)
■この気怠さは■
■かつての自分を思い出させるものだ■
「はぁ」
クライスは反回転してうつ伏せになる。
マットに顔を埋めて一瞬だけ息を止め、また吐き出す。
自分がなにを目的に動いているのかも不明瞭になる、ずんと沈んだ心の内が、もっと沈んでいく。
「ああ」
そうだ自分もなんだかんだで、色々とあって参っていたらしい。
細かいことが億劫になるぐらいに、精神的に疲弊していたとクライスは気付いた。
あの悪辣王が自身に向けた悪意を思い出すだけで、身が震えて、頭に浮かぶ最悪の未来が離れなくなる。
その・邪悪な笑み。
(あいつは、危険だ)
何も言葉を交わさなくても、相手の顔を見なくとも、己の天敵であることが分かってしまう程の乱れの奔流。
平穏を壊し。
生を死に変え。
クライスの大切なものを、踏みにじるだろう行動原理。
「……ッ」
ついに出遭ってしまった悪辣の王は、その姿を強烈にクライスへと刻み付けた。
忘れたくても忘れられない化け物の姿・なぜ笑っているのか全く理解できないような、受け入れられない価値観。
「なんなんだよ、お前は」
心の底からの嫌悪感を込めてクライスは呟いた。
理解したくもないし、考えるのも嫌な圧倒的な天敵の姿を脳内から追い出す。
だというのに、数秒後にまた悪辣王の姿が浮かんでくる。
怠惰なる平穏を邪魔する乱れの記憶に、クライスは静かに苦悩するのであった。
「……」
■そんな中でも、記憶の中に浮かぶ・光がある■
■それは――■
【ああ、楽しいさ】
■ある言葉が響く■
■それは、きっと彼にとって大切な言葉■
■始まりの合図■