色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「――乱れの動きは特にないか」
「はい。データ上はですが」
「……」
■ヤスミノ地区・山中■
■【安寧の太陽】・隠された拠点……■
■悪辣王の出現によって、そこの警戒も強まっている■
「乱れ共め。こそこそと動いているようだな」
「前の、一度補足した賊は捕まえそこねましたしね……」
大きなモニター(乱れ探査用魔導具)がその部屋には存在し、ホンワカ島のマップを映し出している。
マップ上には何の反応もない。獲物がいれば光の点によって示される筈なのだ。
それを見た中年男性は舌打ちを一つした。
「さすがの奴らも、この島で迂闊には暴れんか」
「世界的に見ても強者が多い地ですからね。前の襲撃で警戒も強まっていますし」
「……」
モニター前に座って、何やら機械操作を行っているクールな雰囲気の女性。彼女はセミロングの緑髪を揺らして、背後に立つ己の上司に振り返った。
「あまりお気になさらず。あの時はアレが最善だったんですよ。……乱れの脅威は想定以上だった」
「……まったくだ、忌々しい」
■白髪混じりの男性コニーは、眉間のしわを深め■
■以前、自身が命令を下した時を思い出す■
【前みたいに命令してくれりゃいいんですよ。偉そうで偉そうじゃないコニーの旦那】
以前の悪辣王一派襲撃。
その際に、元ソルジャーの有名ファイターに助力をお願いしたコニー。
彼ならば、十分乱れにも対処できると判断した結果の末路は、とてつもない悪夢となってコニーに襲いかかった。
■発見された死体を、目に焼き付けて■
■拠点部隊長は、必ず乱れを排除すると誓った■
(スミスを殺害した奴らもこの島に潜んでいるはず。絶対に逃がさん)
なんの反応もないマップを睨み、そこに隠れた脅威を見つけ出す決意を強めたコニー。
そうした時、ふとある人物のことを思い出した。
「クライス……」
この前の悪辣王との戦いで活躍をした、無名の侵攻者。
主に守護の会の意向で試合結果の詳細はボカされているため、いまだ知名度はそこそこのままであるが、情報機関がある話を世間にばら撒いていた。
■最強の守護者! 二人陥落か!?■
■謎の侵攻者の正体は!■
■守護の会の威信揺らぐ!?■
(などと、世間に噂が広まっているようだ)
さらにその情報の信憑性を高めるように、守護者の一人ゼロが現在仕事を休んでいる。なにやら、敗北のショックで引きこもっているとコニーは聞いている。
ということで、クライスは噂の人物的な立ち位置になっているのだった。
(真実は知っている。最強の守護者二人を倒したクライスの力……味方になれば頼もしいが)
漆黒のナイトが特殊部隊に誘ったという話だが、果たしてその首を縦に振る時はあるのか?
そもそも乱れに対して完全な耐性があるわけではなく、その実力を発揮できるかも怪しい。
いまいち謎の多い人物であるのもマイナスポイントだが、今はそうも言っていられない状況かもしれない。
(少しでも戦力は欲しいがな)
未だにクライスからの返事はなく、望み薄と言えるかもしれないが、期待はできるかもしれないと考えている。
悪辣王が狙った可能性があるということは、それだけの何かがクライスにはあるのでは?
「ふむ」
悪辣王の一派に対する備えは、この瞬間も着実に積み上がっている。
後は敵を探し出すのが重要となるが、それも足掛かりは存在した、
順調とは言えないが、やることをやっていくしかない。
(気になる動きは……【ナゴミノ地区】の奴か)
■地図上の一点に集中するコニーの視線■
●■▲
「ゼロの様子は?」
「困った、変わらず萎れている」
■昼の守護の会・本部■
■立って言葉を交わす二人の男女■
「ロビー、貴方は何か知っているのかしら?」
「あはは、どうだろうね。確信があるわけでもないけど」
「ふぅん」
■ロビーが見たゼロの様子は……■
【うぅぅ……まけたぁ……あんなやつにまけちゃったぁ……】
■ゼロが毛布にくるまりながら、震えていた姿を思い出すロビー■
【ぼっちで弱くて……わたしってなんなのかなぁ……もうわかんないよ】
■見たことないような萎れっぷりに、苦笑いを浮かべるしかなかった■
「あはは……」
本部のロビーで、対面して会話をしているのはロビンとベルファルス。
儀攻戦から復活を果たした彼は、ゼロとは違い通常運転で守護者業務を行っていた。
あの試合を経て親友との仲がそれなりに戻ったためか、彼はそれなりにご機嫌な様子だ。心なしか、その服装がいつもより二割増しで派手に思えるベルファルス。
【ジン……あの……】
【……何も言うな。分かってるよ。言いたいことは。気にしていることは同じだろう】
【!】
【別に気にする必要はない。確かにオレは……まだまだ【本気】が足りないからな】
■試合後に交わした、親友との会話■
■戦斧の勇士である彼は、敗北のショック以上の熱を瞳で燃やしていた■
「あの、クライスとか言う挑戦者。に負けたことが悔しかったのね。ふふ」
「……負けたとは限らないんじゃないかな?」
「その顔で隠す気あるの笑えるわよ」
「……」
ゼロのことを気遣っているのか、ロビンは試合内容について誤魔化すが、ベルファルスにはバレバレだった。
というか、調べようと思えば調べられるので隠蔽は無駄なのだ。
「ふふふふ、まさかゼロに勝ってしまうなんて……。クライス様様ね(どうせ、相手を舐めてかかったのでしょうけど)」
侵攻者クライスに感謝すると共に、興味を抱くベルファルス。
ルーキーの身でありながらゼロに勝利するなど、前代未聞であり、守護の会内部で混乱が起きていることだろう。
最強の盾の威信にヒビを入れるという意味では、彼女にとっても歓迎すべき事態ではないが。
(会ってみたいわ)
■寒気を感じる笑みを浮かべたベルファルス■
「まあ理由は分からないってことで……それに加えて、マルチネスが長期の休みなんてなぁ」
「あからさまに話題を変えたわ。まあ、付き合ってあげるけど」
「ほっ」
「マルチネスは……自身の執着に向き合う時が来たのよ」
ベルファルスが語る同僚の事。
ロビーはそれを聞いて疑問符を浮かべたが、彼女は特に説明を行おうとはしない。大きなガラス張りの壁の向こうに見える風景を見ながら、謎の多い同僚のことを憂いるのみであった。
●■▲
■人気のない草むら■
■そこに響く叫び■
「おおお!!」
ジンが振るう斧は鋭さを増して、強大な力を持った大きな猿のモンスターへと振るわれる。
が、それはモンスターの拳によって弾かれた。
バランスを崩した彼は尻もちをつき、あまりにも硬くて強大な壁を睨む。
「――どうだ。【覇道の勇士】に勝つための修行は」
「はっ、なかなかに上手くいかなくて、苛立つなっ。こんちくしょうッ」
背後に立つビーフ師匠に悪態を吐きながら、ジンは斧を強く握りしめ、立ち上がった。
彼の目前にいる猿は白銀の輝きを放ちながら、お前には絶対に壊せないと圧力を放っている。
「【覇道の勇士】が子供の頃に技の修行に使っていたモンスター、まだまだお前ごときには壊せんさ」
■純粋な戦闘において、最強の勇士である男・覇道の勇士■
■ジンは新たな壁を前にしている■
「……こりゃあ、とても倒せると思えないんだが」
「覇道の勇士は8歳で倒したらしいぞ?」
「……!!」
ジンが目標にする最強の男。
目標人物との壁を実感して肩を落とすが、今の彼はその程度で挫けたりなどしない。
もう、逃げて後悔するような真似はごめんなのだ。
それに……。
【別に。……盾壊したし】
クライスに対して試合後に謝罪を行ったが、彼は気にするなと言ってくれた。
どうやらロビーが何らかのフォローをしてくれたようで、自身が全く役に立たなかったわけではないことを知れたジンだが。
(騎士の誓いに……言い訳は無用ッ)
当然、ジンはそれで納得は出来ない。
約束を果たせなかったことは事実であり、悔しさや申し訳なさで腹が立って仕方がないのだ。
ならばと彼はビーフ師匠を頼り、さらなる修練地獄を望んだ。
全てはもっと強くなるために。
悪辣王という脅威の存在もあり、その想いを強めていく。
(そして、今度こそ……)
友に勝利の道を示す。
不甲斐ない騎士のままではいられない。
必ずやこの雪辱を晴らしてみせると、瞳に灼熱を宿し、ジンは斧を振るう。
もうこれ以上の新たな超強力スキルとかは期待できないが、それならそれで基礎能力を上げることはできる。
「……急激に強くなりたいのなら、方法があるにはある。誰でも使えるわけではないが、お前なら使用条件をクリアできるだろう」
「……」
「だが、分かっているな? ……何回も言うが前回の試合は、お前たちの運が悪かった部分も多く、状況次第では勝てる可能性も十分あった。……【やつ】が全力で戦わないことを前提にすれば、ではあるが……。とにかく、お前たちは現在でも弱くはない。決して」
■ビーフ師匠は、ジンの覚悟を試すように言った■
「御託はいい。さっさとよこせよ修練を。万の苦痛でも、億の修行でも……強くなるためなら越えてやるさッ」
■ジンは迷いなくそう言った■
「……よくいった。ではジンよ、頼むから……再起不能にはなってくれるなよ?」
まるでかつてそうなった弟子がいたかのように、ビーフ師匠は心の底からジンの挫折を避けたいと思っている。
戦斧の勇士ジンは、誇張なしで、これから世界一の修練苦痛を味わうことになるだろう。
その先にあるのは挫折か成功か。
走り出すジンの瞳には、一つしか映ってはいない。
■これは、守りの大剣との試合後すぐの出来事■
■以降、クライス達はジンに連絡が取れなくなった■
■最後に彼が残した言葉は■
「必ず戻る。その想いに応えられる選手になってな」
■再起の男は言った■
■その瞳に在る熱を、より一層燃やしながら■