色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「ぐっフッッふ」
■薄暗く、じめじめとした地下室にて■
■闇の中でうごめく狩人は、不気味に笑い続ける■
■その視点は、普通よりも上からのものだ■
「動くのはァ……【奴ら】の方が先かァッ」
■彼は、近い未来に起こるであろう騒動を思い描く■
■彼自身はまだ、闇に潜み機会をうかがっている■
「まあぁッ……。儂もそろそろ・だナァ。グふふ」
■闇は着実に近づいている■
■その先に在る・光を飲み込まんと■
●■▲
「金持ちの誘い?」
「そうなのよ、ナゴミノ地区のね」
ある日の昼、相変わらずのジャスミンはクライスの部屋である相談を持ちかけた。
ベッドに寝転がるナマケモノは、話半分に聞いている。
ジャスミンはあまり気にせずに話を続けた。
「なんでもファイターの試合が好きな金持ち同士が集まって、特別な格闘イベントを行いたいんだとか。それに招待されてるってわけ」
「へえー」
「……どうしようか迷っているのよね。いまいちモチベーションがなくて。直近で【試合】もあるし」
マットの上に寝転がるジャスミンは、盛大な溜息を吐いて、無気力なオーラを発する。
自身の部屋にいることで無気力が感染したのではないかと、クライスは一瞬本気で心配したが、そんなことあるわけないなと思い直し、遠慮なく自堕落オーラを放出した。
ジャスミン顔しかめる。
「ま、やる気出ないなら。仕方ない」
「そういうと思った。平常運転ねアンタ」
「ぶれない男と評判です」
「アンタが言うと、悪い意味に聞こえるわ!」
いつも通りに軽口を叩き合う二人。
会話の中でクライスはジャスミンの心が平常に戻ってきているような、そんな気がした。
まだ心の中で淀んでいる想いがあるのかもしれないが、これならばまた明るく活発な彼女に戻れるだろうと思う。
(仲間が増えるかと思ったが、残念)
自堕落ゴロゴロフレンドにはなれそうにないと、クライスは少し惜しいなと思ったが、辛そうなジャスミンを見たいわけでもないのでOKとした。
これからはまた元気で、トラブルを起こしまくる彼女に戻って、クライスは振り回されることだろう。
(いかん、寒気がッ)
きたる未来を想像して、クライスは身を震わせる。
また、猪突猛進ガールによってトラブル日常に戻るのはきついかもしれない。
少しはお淑やかになってくれないものかと、彼女の可愛らしい姿を頭に浮かべて思った。
「……ジャスミン。少女漫画に興味ない?」
「少年漫画の方が好きね。嫌いではないけれど」
「……」
クライスの作戦は失敗する。
というか少女漫画を読ませてお淑やかにするとか、意味が分からない策であったと後悔した。
それはともかく、彼女が漫画の影響を受けやすいのも事実であった。
【ジャスミン……なんだその腕? 包帯? 怪我した?】
【近づかない方がいいわ……くっ、離れなさい! 危険よ!】
【……】
■なんだか典型的なパターンを見た記憶、回想■
「今も」
■現在の彼女の外見■
■よく見ると、眼帯つけたり、はちまきをしたり……■
■少年漫画のキャラっぽい■
「……そういや、描いてるのも少年漫画だったな」
「悪い?」
「いいや」
ジャスミンが行っている漫画家としての活動。
まだ持ち込み段階ではあるが、その熱意をよく見て来たクライスは、彼女はきっと大成するだろうとか師匠面で思った。
読ませてもらったこともあり、普通に面白かったと記憶している。
「しかし主人公がな」
「なによ、文句あるならどうぞっ」
「ゴリラかよ」
「……」
何故かその漫画の主人公はゴリラ的外見であった。
野生のゴリラがなんやかんやあって、特殊能力ゲットした後、悪の組織と戦っていく的な王道ストーリー(主人公以外)。
主人公以外は普通に高クオリティで画力も高いため、そこだけ惜しいと思ったクライスであった。
「Gのせいか……」
「大事なのは外見じゃないっ。中身でしょうッ。ナイスガイな主人公よ!」
「ふーむ。いや今どきゴリラはなぁ」
本当に心の底から就職者Gを外見含めて愛していると、ジャスミンの声色は告げている。
何が彼女をそこまで虜にするのか分からないが、ここでクライスが己の正体を告げたらどうなるだろうか?
たとえば……。
■「そんな! ゴリラじゃないなんてッ」■
(ゴリラが好きなのかもしれない、可能性)
正体を告げる気は更々ないが、もし言ったらどうなるかは興味がある。
普段の自身の扱いを見る限りでは、ヒーロー的な幻想が壊れて思い切り失望されるかもしれない。
それはそれでショックなクライス。
「……やっぱり知らせない方が良いか」
「?」
そもそも、討伐対象としてナイトに狩られるモンスター扱いのG。
下手に中の人を知っている人物を増やすのは、かなり面倒なことになりそうな予感もして、軽々しく正体を言うことは出来ない。
ジャスミンに隠し事をしろなんて、カメに音速を超えろと言うぐらい無謀なことだと彼思う。
「はぁ」
「いきなり、なんでそんなに落ち込んでるのよ。辛気臭いわね。何かあった?」
「いやいやGはそんなに格好良くないぞとな」
「む、アンタに何が分かるのよっ。いちいち下げてくるわねっ。漫画で言えば、絶対最強クラスで頼りになるHEROよ!!」
「――クライスさん……Gのことをご存じで……?」
■第三者の声が部屋に響く■
「……」
「クライスさん……?」
「おい、いつの間に俺の隣で寝ていた」
「昨日の夜から……寒かったので」
「!?」
いつの間にやらクライスの横で寝ていた、変質者勇士。
お得意の気配遮断スキルであるのは分かるが、いきなり出てこられるのはやっぱりびっくりするし、というかずっと近くにいたとか怖いと感じる。
夜にやっていたアレコレを見られたとすると、顔が青くなるのも仕方なしか。
「寝ながら、わたくしの胸を……あんな情熱的に……っ」
「え、まじで?」
「まじデス……! げへへって笑ってました……わ」
「……」
「わたくしを逃がさないよう……両腕でしっかりと拘束して……! うぅ……汚されてしまいましたわ……!」
ヒナの発言に動揺するクライス。
ジャスミンの発する空気が、冷えたものに変わっていくのが分かる。
この場合、自身に軽蔑の念が送られるのはおかしい気もするが、クライスはなんとか弁明しようと口を開く。
「誤解だ、話を聞け」
「分かってるわよ、アンタがおっぱい大好きな変態だってことは。フン」
「……いや別にっ。……普通に好きではある」
「変態」
「いやおかしい。普通だ普通っ。過敏すぎっ」
ジャスミンからの空気がさらに冷たくなった。
なんだかすねているような……気もする。
クライスは懸命に判断して、これ以上の弁明を中断、ヒナの相手をすることにした。
「……ヒナ、Gがどうとか言っていたな?」
「ええ……わたくしも狙っているのです……。その首を……!」
「おいおい」
ヒナの目は暗殺者のそれに変わり、クライスは彼女がナイトであることを思い出した。
モンスターを討伐する役目である・職業ナイト。
ならば当然、S級モンスターの中でも変わり種のGに注目するのは不思議ではない。
漆黒のナイトも狙っているという話だし、クライスは胃がきりきりしてきた。
「最強のモンスター討伐集団、ファンブル・ナイトも……討伐に動き出しましたし……」
「ぬおっ」
「……?」
クライスの嫌そうな反応にヒナは疑問。
村を救った英雄を倒すことに忌避感を抱いているのかと、勝手に解釈した。
「残念ですが……危険なモンスターは排除しなくては……! 正義のため……!! ですわ……!!」
「金だろ、お前は」
「……フフ」
■ヒナの瞳は金で埋まっている■
■金銀財宝なんでもござれで、富に対する執着……いや、それを使うことに対する欲望。つまりギャンブルや娯楽系への欲■
■どうやらまた金欠になったらしい■
「ギャンブルか」
「それもありますが……最近、ゲームに嵌まっていまして……。大人買いです……!!」
「お前の家、テレビとかあったっけ?」
「ここで……やっていますが?」
ヒナに言われて気付いたクライス。
最近テレビを購入したサーシャ宅にて、何故かテレビゲーム機が置かれていたことに。
サーシャは特にゲームの趣味はない。
クライスもまだテレビゲームを購入していないし、ゲーム機購入の覚えもなし。
なんか最近流行のゲーム機っぽいが、そこら辺には敏感な女だなというのが感想。
「そうか、ダンボールハウスからわざわざ」
「ふふん……戦略的……ですわね。なでなでしてくれても……いいですわよ?」
「いや、ほめてない」
あの段ボールハウスではテレビも使えないことに気づき、納得はするが、ヒナの図々しさはある種の武器ではないかとクライス思う。
もしや、ゲーム機もサーシャにねだったのでないかと予想。
「さすがにそれは……自分で買いましたよ……っ」
「そうか、すまん」
「まあ……2Pコントローラーは……買ってもらいましたが……!」
「やっぱりな、この野郎」
「ふふ……これで二人で出来ますね……! わくわく……!」
予想通りで安心するようなしないような、クライスは呆れがちに溜息。
ヒナは、多人数パーティーゲームで何をプレイするか彼に相談している。
そんな中ジャスミンは。
「ヒナ……G様に手を出すことは許さないわよ!」
「ほほう……?」
■ゆらりと立ち上がったジャスミンは■
■何故かファイトスタイル■
「なにをそんなに……怒っているんデス?」
「G様は村の恩人じゃないっ。討伐するなんて恩知らずだわ!」
「理由は……それだけですの? ふフ……」
上体を起こしたヒナと睨み合うジャスミン、バチバチ状態でうんざりクライスくん。
起こった女の戦い的な何かに挟まれた状態は、部屋の外でやってくれよと言いたくなる。
「まあ……想いゴリラを助けたい気持ちは分かりますが……果たして彼は貴方が思っているような存在なのでしょう……か?」
「なんですってっ」
「よく知らないでしょう……ゴリラさんのこと……・そう……うわべだけ……」
神妙な表情でジャスミンに問いかけるヒナは、ちらりとクライスのことを見遣った。
その視線に、自分の正体を勘付かれたかとびくりとした彼は、露骨に顔をそむける。
ヒナの紫色の瞳は、蛇のようにねっとりとクライスに絡みつくようだった。
そこに宿る執着は・危険なもののように感じられると、彼は思う。
「ジャスミン……それは幻想かもしれません……」
「……!」
■ヒナの一言■
(まあヒキニートだしな)
■勝手に納得してるクライス■
■だがしかし、妙にヒナのケンカ腰が気になる■
「上等じゃないっ。表に出なさい! ヒナ!」
「望むところ……ですわ……! この間の借りを……!!」
「ちょ、待てお前らっ」
このままでは、血みどろの殺し合いが発生するかもしれない。
二人から漏れる敵意はそう思わせるほどのもので、クライスは慌てて止めに入った。
しかし二人の熱は収まらない。
健闘も空しく、彼女たちはギリギリの死闘を演じることになる――。
■READY GO!!■
「卑怯よ!? そのアイテムは禁止!」
「ふふ……ゲームに卑怯もくそもありません……プログラムされたルール内なら何をしてもよし……!」
「このーっ! 正々堂々戦わんかー!! 小僧ー!!」
「またなにかの漫画の影響……受けましたわね……?」
■数十分後■
■一階の居間でレースゲーム対決!■
■ヒナの方が優勢!!■
■彼女が熟知したゲームであるがゆえ、ジャスミンのアクションゲーム適性をもってしても、勝つのは困難と言えた■
「……そんなノリか。はぁ」
「クライス様も一緒にどうですか? コントローラーの予備はばっちりですっ」
「んー。今はいいや」
杞憂だったことに安堵したクライスは、テーブルに着いてサーシャに淹れてもらったお茶を飲む。
彼女はクライスの分も買ってくれたみたいだが、レースゲームをやるような気力が現在なし。
大人しく、楽しそうにゲームプレイしているヒナ達を見て、楽しむことにする。
「ふーむ」
美少女二人がゲームをしているだけで、とても絵になる・スパチャが飛びそうな光景。
なにより二人ともいい笑顔だ。
目の前で繰り広げられている死闘を見ながら、無職の勇士は。
(この光景を壊すのか)
悪辣王に対する感情が強まっていく。
ゲームをして死闘とする、二人のどこか楽しそうな顔や、窓から見える外の風景。
穏やかな昼の中で聞こえる子供たちの声。
そして。
「クライス様?」
「……サーシャ」
■目前の彼女の首が■
■ぽきりと折れる姿の幻視■
(不愉快だ)
平穏だからこそ浮かび上がる闇の光を感じて、クライスは億劫そうに首を振った。
そうして日々は過ぎていき、それなりの試合をこなしていき、【双天】の異名で知られる中堅超えチームとの試合の日を迎えた。
——乱れが起こす事件の日までは、まだ少し足りない。