色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「いっけー! そのままGOAL!!」
「左から来てるぞ! 援護入れ!!」
■芝生が広がるフィールド内で、選手たちの声が交わる■
■空に輝く太陽が・その場を照らしていた■
■【ダブル】のルールによる、儀攻戦が白熱の嵐を巻き起こしている■
■非公開の練習試合で、クライス達の相手はニュースでも最近それなりに目にするような、中の上以上のチームだ■
「うおっ! 強烈なアタック!! しかーし! このフジ丸の敵ではない!!」
その中で、フジ丸が盾を手に奮闘している。
迫りくる敵の剣攻撃を防ぎ、カウンター気味にそれを押し返した。
彼の口調は、まるで今ここにいないカメ朗を意識しているかのようだ。いつもはやかましいアホの言葉が、もう響くことはない。
「……なんてな。やっぱりアイツがいないと、あのバカバカしい雰囲気出せないな」
もうチームを抜けてしまっているカメ朗の影を、目で追ってしまっているフジ丸。
彼だけではなく、なんだかんだでムードメーカーであったカメ朗がいないことに、寂しさを感じているチームメンバーは多い。
「だけどまあ……その代わりっ。とんでもない奴らが入ってきたけどな!」
■フジ丸の視界の端で■
■超速の影が疾走する■
「うげっ! こいつが噂のッ!!」
「く、クライスだーッ!!」
■敵チームが、疾走してくるクライスを見て動揺する■
■地面を蹴り飛ばしながら、無気力顔・なに考えてるか分からない顔のエースが迫ってくる恐怖■
(やっぱり、このブーツいいな)
■彼が現在履いている黒いブーツは、儀攻戦において多くの選手に愛用されているものだ■
■しっかりと足に馴染むそれに、不思議な満足感があったりする■
「止めてやるっ。舐めるなァ!!」
「……」
■二人の敵選手が、クライスの前に立つ■
■両者の持つ盾が、完全に進路を塞いでいた■
■残り時間は少なく、点差は三点でクライス達が劣勢■
「これは、ちょっと」
クライスの頭の中で鳴り響く、ちょっとした警鐘。
それは、目前のブロックが容易く破れるものでないと、彼に対して告げていた。
どうやら二人はチームの中でも、かなりの強者であるようだ。守護者のスカウト関連のニュースで、見たような見なかったような……な顔。
「ぬんッ!」
叩き込まれるクライスの拳を、気合の叫びと共に防ぐ筋肉質な髭男。
盾はかなりの振動を起こすが、その防御を崩すことはない。
髭男は冷や汗を流しながらも、闘争心を強めるかのようににやりと笑った。
クライスは内心で舌打ちする。全力でないとはいえ、きっちり防御されてしまった。
敵はわずかしか後退していない結果に、やはり厄介だと認識。
「なら」
■再び突撃するクライス■
■敵の防御を突破するための、テクニックによる疾走方■
「甘いな! まだまだ!」
「うお」
■もう一人の敵選手、青色の短髪を揺らすボーイッシュな美少女が、クライスの突破を阻害する■
■髭男だけなら対処できる■
■だが、二人揃うとクライスでも手こずる■
「その程度かクライス選手! あまり、あたし達を舐めてもらったら困るよ!」
「左様。最強の盾を倒したという噂が真実なれど、儀攻戦は個人の力だけで勝てるものではない」
■二人合わせて、その名を【ツイン・シグナル】■
■相手を通さない・鉄壁のコンビと名高い■
■敵チーム衣装である、赤いスポーツウェアが彼らの結束を深めているように見える■
「……」
クライスは二人のブロッカー、その動きを興味深そうに見ている。
さっきの防御は、自身の走行を先読みしていたかのような、鋭いものであった。
100%で行けば突破できないこともないだろうが、あれはさすがに消耗激しい。
それほどの敵・ならばこそ。
「ここは通さない! 勝つのはあたし達!」
「……」
■二人なら、最強の盾にも迫る脅威性■
■まだまだこの世界には、厄介な強者がいるのだ■
【世界は広くて・自由……そういうことだ】
■また、だれかの言葉が脳裏を過る■
■それは彼にとって、光と言えるもの■
「はぁ」
ため息を一つ。
同時に、視界の端から飛んできた魔導攻撃を避ける。
「くそ! 外したか!」
どうやら、敵選手の援護による風の弾丸魔導のようだ。
この試合中に、魔導攻撃を向けられる機会が結構多いことに気付く。
それはつまり、そういうことなのだろう。
「よし」
再びの突進。
今度はさっきよりも、少し強めのスキル強化で、連続攻撃を仕掛ける構え。
それに対するツイン・シグナルは不敵な笑みを見せている。二人の盾を握る手に、緊張と絶対の自信によりさらなる力加わっていく。
そこには絶対に突破させないという、強い意志があるように思えた。
「……ふーむ」
■凄まじい連続音が鳴る■
■パンチが盾にぶつかって、弾かれる音だ■
「はは! なにさ! そんなに同じ攻撃繰り返して、やけになったのかな!?」
「是非もなし。まだルーキーの少年には荷が重い……というものだ」
■かなりの熟練ブロッカーである、二人の動きを■
■じっと見ている■
「……そろそろ、かな」
「なに?」
クライスがポツリとつぶやく。
その言葉の意味を二人が咀嚼する前に、大きな衝突音が響いた。
「なにがっ。一体ッ」
「衝撃っ。右後方からっ。まさかッ」
■クライス達とは少し離れた地点で、別の敵選手たちが一人の選手を止めようとしている■
■しかし【彼女】は、怯まずに突進する■
「はぁああッ!! りゃあ!!」
「うおっ。噂には聞いていたが、なんて圧だッ!? この女!!」
「なんとしても止めろッ! こいつはクライスの次に要警戒の選手だ!」
みなぎる力を発散するかのように、その少女は拳の連打と突進によって、力ずくで道を切り開こうとする。
それは、純粋な突破力の総量で言えばクライス以上の脅威。風圧によって横に流れる桃色の髪は、美麗の象徴か否か・敵にとってみれば鬼神のごとき存在にも見えるか。
紫の戦闘スーツに包まれた肢体が、しなやかかつ強靭に駆動し、筋力の猛りを爆発させていく。
「もう一人の怪物ルーキー……! だが、止められんことはない!」
ジャスミンの前に立ち塞がるは、20代後半風のがたいの良い黒髪男。
魔導具の鎧を身に着け、敵の攻撃をブロックすることに長けた選手である。
彼の容姿を見たジャスミンは、以前に見たファイターの雑誌の、【次のスターライトファイター候補!!】という特集で紹介されていた男性であると気付く。
彼の眼はジャスミンをしっかりと捉え・その内側に秘めた能力値を暴こうとする。
「ぐっ。かわいい……ッ。じゃなくて集中!!」
■しっかり見ると、彼女の美しさもしっかり解像度上昇■
■一瞬だけ、集中力が揺らいでしまう■
「――ほう。これはすさまじい攻撃力。さすがだ」
■だが、一瞬で調子を戻す■
■その目は、彼女の能力値をしっかりと認識していた■
「攻撃・迎撃形態。【甲殻—A01】」
「!」
■黒髪男の着ている鎧が、刺々しいデザインに変化する■
■血のように真っ赤なそれは、触れるものを死滅させるかのようだ■
「なによそれ……っ。ちょっと格好いいじゃないッッ!!」
「え?」
「あの漫画に出てくる鎧にちょっと似てる……? 気になるっ」
気のせいか目を輝かせているジャスミンに、黒髪男は虚を突かれたかのような反応を返す。
なにかが彼女の好みに触れたようだ。
それはそれとして、勢いを弱めることなく、敵の鎧を砕こうと突撃をかます。
■すさまじい衝撃音が響く■
「……この破壊力ッ。たいしたものだッ」
■だがしかし、赤き鎧はジャスミンの攻撃を受け切った■
■黒髪男は両手で彼女をしっかりと掴み、その動きを大部分止めている■
■鎧の一部が破損し、押されてはいるが、一応のブロックは成功していた■
「ぐぐッ、ぐ!! このッ!」
「……ッ。この圧力ッ! 君の攻撃力は、純粋な筋力から構成されているもののようだなッ!」
「あったりまえでしょう! あたしのは小細工なしのパワーよ! 倒れなさい!」
「……!」
■一口に攻撃力と言っても、その内訳は様々だ■
■武器の威力なのか、純粋な身体能力なのか■
■ジャスミンの場合は、後者によるもの■
■敵の攻撃力を見抜く能力・それによって、黒髪男はなんとか対処に成功した■
「悪いが倒れはしないッ。こちらにも自負がある!」
「!!」
「【鎧の勇士】! その真骨頂をお見せしよう!」
■鎧の勇士の纏う魔導具が、紫色に変色し、牛の角のような形状の兜が彼の頭を守る■
■威圧感の増した鎧の勇士、その圧力がジャスミンを縛りつけた■
「ぐッ、いきなり強くなった……ッッ!?」
「いいや違う。君に合わせてスタイルを変えただけだ。それだけの強者と認めよう」
「……!!」
「君の突破力は、あの暴走的かつ破壊的なRUNも関係しているな? こうやって一度勢いを止めてしまえば、押し合いで勝つことは不可能じゃない!」
■鎧の勇士は、勇士の中で守りに優れている者■
■そんな情報を思い出したジャスミン■
「ぐッ! どいつもこいつも勇士ってやつはッ。厄介ね!」
吐き出した言葉には、クライスやヒナ、ミリアムへの想いが乗っている。
ただまあ、ジンのように、逆にデバフが発生するような勇士もいるにはいるのだが。と、彼女は思った。
戦斧の勇士は、なることで逆に能力が下がったりもするのだとか。
「君も厄介……ではあるが、思ったよりも強くはないな。正直な話」
「なっ」
「見えているものと違う。期待はずれな結果だ」
■挑発するような、鎧の勇士の言葉■
■それと同時、ジャスミンの左腕を掴む彼の右手が、刺々しく形状変化する■
「ぐ、ああッ!?」
「肉体を破壊する、鎧の勇士の攻撃手段……地味だが、なかなかダメージがあるものだろう?」
「くっ、電撃攻撃って感じねッ!」
■ジャスミンの左腕に刺さったトゲから、直接的にショック攻撃を与える技■
■強力な防御技によって動きを止めた敵に、追撃を加える容赦ない攻撃だ■
「じわじわ体力を削っていく……これであたしを止めようってわけ……!」
「その通りだっ。まともな押し合いでは分が悪いが、これなら……」
「……なめるんじゃ、ないわよッ!!」
「なッ!?」
ショック攻撃を受けながら、ジャスミンはただシンプルに前進する。
汗を浮かべながらも、彼女は熱意を火にくべて、メラメラと闘志をたぎらせていく。その様はまさに、美しき女戦士と言えるものだ。
その力の発露によって、鎧の勇士は徐々にではあるが後退させられている。
彼は驚きの表情を浮かべるしかない。
「ばかなッ。こんなデタラメな馬力……!! 異世界競技者として、ここまでとはッッ」
「はぁああッ!!」
「これほどの力は……ッ。まるでッ」
■ジャスミンの力に圧倒され、目を見開く■
■瞬間、鎧の勇士の脳裏によぎる影■
■精神を粉々に砕いた・その巨体・他を圧倒する肉体の力、蹂躙の最強■
【——脆い】
■怪物が彼に対して放った言葉■
■それが今も、鎧の勇士を砕いたまま——ああ、奴は幻影なのではないか? そう思いたくなる絶望的存在■
「う、うあッおおお!」
「!!」
「負けんッ。負けたくないッ! 勝ってみせる! この過去をもって!!」
「……ッ!」
■裂帛の気合いをもって、勇士はジャスミンを食い止めようとする■
■気力によって実力差を埋める、それが実際に行われていた■
「こ、のォッ!!」
「はぁああ!!」
焦るジャスミンと、奮闘する鎧の勇士。
いまだに押しているのはジャスミンの方だが、気力という側面では逆の立場になっている。
彼女は歯ぎしりしながら、それでも真っ直ぐに進んでいく。
「俺たちもブロックに入るぞ!!」
「ジャスミンさんは強い!! だが、僕たちも入れば勝てる!!」
■フリーになった敵選手二名が、ジャスミンを食い止めようとその腕を伸ばす■
■さすがの彼女も、三対一では分が悪いことが明白だった■
「――おっと、そうはさせないってもんですよ! うおりゃー!!」
「なっ」
「き、君はッ」
■カバーに入ろうとした敵選手■
■両者の胴体が・真っ二つに裂かれた■
■刀のきらめきは、さらに研磨されているようにも感じる■
「ぐ、おッ」
「ばかな……っ。こんなに速かった……か?」
消滅する敵選手二人を尻目に、守護者ロリン・ネイドスが推参した。
正式にチームメンバーになった彼女は、比較的そこまで目立った活躍はないものの、主力の一人と言える働きを見せている。
魔導具であるドレスを纏いながら、戦場を優雅に舞う・美しき女武者。
「! おっと!」
■ジャスミンの援護に入ろうとするロリンが、横からの攻撃に反応する■
■刀によって、飛来したそれを受け流す■
「これはー。魔導弾かなー?」
「行かせんぞ! 守護者!!」
■敵選手の男性が、長銃のようなものをロリンに向けている■
■遠距離系魔導具であるそれは、魔導力の弾を武器にして放つもの■
「この距離からだと、ちょっと速すぎるかナ? うおー。重労働ー!」
■少しピンチそうな声を出しながら■
■彼女は笑って刀を構える■
■その得物を見た敵選手が、ぴくりと反応する■
●■▲
「あーめんどい」
■ロリンが、飛び道具使いと対峙している時■
■クライスの方は、変わらず盾使い×2に苦戦■
■今日は特に、あまりやる気が出ないので、そこまで不思議でもないのだが■
(まー、でも)
■ブロッカーたちの動きを注視しつつ、周囲の選手たちへも気を配る■
■当たり前の行動ではあるが、それは面倒なことなのだ■
■そんなこんなで・一瞬でも気を抜くと■
「うおっ」
再度飛んできた魔導攻撃・雷鳴の一撃を、ギリギリで回避する彼。
さっきから何度かクライスを狙って飛んでくるが、撃ってきた敵はある程度の距離を取ってくるために対処が難しい。
クライスの脅威を分かっているからこそ。とはいえ、そこで本当に適切な領域を実行するのは、敵選手の練度を感じさせた。
「厄介、他のやつも」
つぶやいた言葉は、複雑な感情を混ぜて。
決して悪い感情だけではない。
「ふーむ」
そんな風に、クライスがちょっと思案している隙。
そこを狙って、魔導攻撃を放とうとしている魔導師の男が一人。
彼は魔導力を強化する黒いローブを着て、その奥で狙いを定める瞳をぎらりと光らせていた。
その光は功名心に染まっている。
「あのクライスを倒したとなれば、大手柄だ……!!」
■クライスに最大威力の魔導をぶつける■
■そのために、魔導師の男は長い詠唱を試みる■
「踏破◆踏破◆——!!」
■魔導力の高まりによって、気分が高揚していく彼■
■視界に映るクライスへと、照準をしっかりと定め、さらに気合いを入れる■
■これが当たれば、クライスとてかなりのダメージを受けるだろう■
「くらえッ!!」
■魔導が発動■
「ごッ!?」
■する前に、彼の胴体が見えない刃に貫かれる■
■突如出現した、美しき暗殺者の手によって■
「し、まった……! すでにこっちに来ていたか……!!」
「ええ……役目は済みました……わ。ふフ……」
怪しい狂気的な笑み浮かべ、気配絶ちの達人・疾風の勇士ヒナは、倒した敵選手から即座に次の獲物へと目を向ける。
刺された魔導師の男は、胴体から広がるひび割れを止めることできず、そのまま後方へと倒れていく。
彼の視界では、さきほど見たヒナの姿がしっかり刻まれている。
(麗しい……まるで姫のような可憐さと・狂気性の融合、か)
倒されたというのに、彼女の選手としての完成度や純粋な美しさに、魅了されてしまったかのような状態。
それほどまでに、美と強さが両立した選手だったのだ。
(——熱愛、ゆるすまじッ)
■クライス選手とヒナの熱愛の噂■
■それが脳裏をよぎり、モテない男魔導師は恨めしそうに消滅した■
「わたくし……まだ……」
■まだ、クライスに魔導を放とうとしている選手がいる■
■ヒナはさらに勢いを強め、その者たちを狩っていく■
■その瞳は、めらめらと燃えていた■