色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「はぁあ……」
■ため息を吐くクライス■
■やはり強いと、目前のブロッカー二人を見て思う■
「あたし達の実力分かったかな! クライス選手!」
「……」
活発な盾の少女の笑みは、ブロッカーとしての確かな自信にあふれている。
彼女はクライスから見ても強力な選手で、その朗らかな態度は、チームの清涼剤のようなものなのだろうと思えた。
正直言って、今の状態で突破するのは難しいだろう。
「まいった。強いな本当」
「あはは! あのクライス選手にそう言われるなんて、光栄だね! 強敵と認めるかな!?」
「ああ・認める」
■クライスは、楽しそうな彼女の言葉にうなずきを返し■
「だから、こっちの【同類】も認めてくれ」
「なに?」
■その視線を、ブロッカー達とは別の場所に向ける■
「! まさかっ。そういうことか!」
■クライスの視線が向く先■
■そこでは、一人の少女が疾走していた■
「はっ、はっ……!! もう少しでゴールっす!」
金髪のミディアムヘアをゆらす、整った顔立ちの少女リナ・その手にはボールがあった。
汗を流して息を乱しながらも、その瞳には強い熱意の光が輝いている。クライスと比べれば遅いが、充分洗練された、努力の垣間見える走りでゴールへと向かっていく。
チームの新入りである彼女は、周囲の状況をよく確認しながら、しかして足止めることなく一直線。
「あの女を止めろ! 早く!」
「ああ! あと少しで試合——ぐあッ!?」
■彼女を止めようとした敵選手数人■
■彼らが、二つの斬撃によって裂かれていく■
「おっと! だめですよー! うちの新人ちゃんがかわいいからって、そんなに群がったら! それは成敗!」
「アナタも新人でしょう……に。まあ……彼女には指一本……触れさせません……わ。後輩です……し、ふフ」
■ロリンとヒナによるブロック■
■ボールを持ったことによる【デメリット】を考慮した、迅速なフォロー■
■それによって、リナの進むべき道は明確に照らされていく■
「あ、ありがとうございます先輩! う、うおお!!」
■地面を蹴る両足に力をこめて、気合と共に進んでいく■
■決してそこまで優れた選手ではないが、その両目に宿る熱気は、ここにきて強さを増していた■
■流れる汗は青春の証か、文字通りの全力疾走■
■彼女の走りを見て、焦りを浮かべるツイン・シグナル■
「くっ、あっちを止めないとっ。いやしかしッ」
「いかせんぞー」
ツイン・シグナルの二人なら、彼女を止めることは十分に可能だろう。
目の前に、最大の脅威であるナマケモノいなければ。
「わあああ!!」
■叫びと同時に、ゴールに到達するリナ■
■瞬間、光が彼女を祝福するかのように舞い散る■
「やったー! やった! やりましたー!!」
よろこぶリナと、それを受けて士気が上がる周囲の味方たち。ヒナとロリンも、密かに彼女に向けてサムズアップをする。
クライスは相変わらずの無気力顔で、気の抜けた感心の声を上げた。
「BALLを持ちながら直接ゴール、ってことは。一気に四点……か?」
クライスの言う通り、リナのゴールによってチームは逆転。さらに士気上昇中の味方たちが、ヒナとロリンの加勢もあって善戦しているのが見えた。
勝利の天秤は、間違いなくクライス達へと傾いている。
彼は無気力な視線を、目の前の盾コンビへと向けた。それはほぼ無意識な行動だ。
「く……!! 舐めていたのはこっちだったようだっ。クライス選手以外にも、こんなにヤバいのがいるとはねッ」
「不覚……!!」
■二人とも、悔しそうに歯噛みしている■
■そして■
「――絶対勝ちたい!! 負けたくない!!」
「無論っ。まだ試合の行方は分からないっ。最後まで!」
■すぐにそれをバネにして、勝利への欲求に変える■
■まだ負けはしないと、心が叫んでいる■
「……」
クライスはそれを見て、再びの戦闘態勢へと入っていった。
既に面倒くさくなっている感はあるにはあるが、なんだかちょっとだけやる気が出たような出ないような。
さっさと速力で二人を置いていって、別のゴールへと向かえばいいものを、何故かここに残って強敵と戦おうとしている。
自分らしくない行動に自嘲する。
「ま、たまにはいいか」
■彼はそう言って■
■ツイン・シグナルへと、攻撃をしかける■
■その足は、不思議といつもより軽く感じた■
●■▲
■試合終了の鐘が鳴る■
■そこに込められた響きは、様々な感情を巡って、形を成していく■
■無職はいまだ、その場に立ち止まったまま——■
「……試合終了、か。悔しいなぁ。まったくさっ」
■ツイン・シグナルの片割れの少女が、ぼそりと言った■
■彼女の顔には大量の汗が流れ、疲労の色が強い■
■しかし、どこか満足そうでもあった■
「つかれた」
クライスも多少は汗を流している。
まだ余力を残してはいるが、らしくないことをしたせいで、ここ最近行った複数の試合の中で一番疲労していた。
こんな時は、サーシャが差し入れてくれるものを食べるのが一番。疲労回復効果ばっちり。彼女は、そこらへんも隙なく気を回してくれる。
「……ありがとね。付き合ってくれて」
「へ?」
■片割れの少女が、頬をかきながらそんなことを言う■
■クライスはぽかんと口を開けた■
「わざわざ戦ってくれなくても、そっちは良かったのにさ。……あたし達の意地のために、残ってくれたんだろ?」
「……いやぁ?」
「ははは、照れるなよ! そうなんだよ絶対!」
「……」
■クライスは気まずそうに目をそらす■
■自分でもよく分からない、変なそわそわ感を感じた■
■少女は少しだけ彼に接近し、にこやかな笑顔を向ける■
「思った人と違かったなぁ。クライス選手……もちろんいい意味で!!」
「あ、ああ。そうか」
■どうにも落ち着かない気持ちになって■
■クライスは、太陽の光で満たされた周囲の光景へと目をやる■
■選手たちの表情は様々なれど、だいたいやり切った感情を浮かべていた■
「次は勝つ! リベンジ待ってて!!」
「……ああ」
■その言葉に、少しだけだがうなずきを返すクライス■
■返したあと、これまた少しだけ頭をかいた■
「だけど、次はもっと強いよ」
●■▲
「勝ったけど……それは良いんだけど……」
試合場で空を仰ぐジャスミンは、ぽつりとそんなことをつぶやいた。目の前には鎧の勇士が立っていて、彼の鎧はところどころが砕けている。
だが、ゴール地点まではそれなりの距離があり、それこそが彼女と鎧の勇士の戦闘結果を示す。
少しずつだが、ジャスミンが押し込んではいた。
しかし、結局敵を突破することは叶わなかった。
「恐ろしい才能だ……! ルーキーでこれとはッ」
気が抜けたようなジャスミンとは対照的に、鎧の勇士は目の前に立つ彼女を驚愕の目で見ている。
パワーファイターとして見れば、既に上位と言ってもいいレベルにいる、美女と野獣が組み合わさったような選手。
正直、自分がなぜ彼女を止められたのかも分からない。
(こちらが十全に力を発揮できたのか——それとも)
■鎧の勇士は目前のジャスミンに、畏怖と敬愛によって見とれていた■
■そんなことも我関せず、彼女はどこか不完全燃焼気味に立っている■
●■▲
「試合終了……ですわね……」
「疲れました~。もう、死ぬわ! これ!」
■ロリンとヒナは、戦闘態勢を解いている■
■遠くに見えるクライスへと、二人とも視線を送っていた■
■彼はちょうど、ツイン・シグナルの少女と会話を交わしているところだ■
「雇い主さまが、また女のコといちゃいちゃしてるー。これは許せないなー。ねー?」
「……処刑します……ワ……。うフふ……ッ。まあ……あの方が素晴らしい人……であるのは……事実なのですが……。だからといって……ッ」
「わあっ。これはすごい邪気ですねー。ヒナさんSTOP!! まあDIDN‘T STOPになる未来みえみえですけど! 一応止めとかないといけないよなー。なー」
今にも見えない刃で、クライスと相手の少女の首を刎ね飛ばしそうなヒナは、嫉妬と殺意のオーラがすさまじい。試合後で汗もそれなりに流れているが、まだまだ暗殺できそうな雰囲気を漂わせていた。
それを見ているロリンも疲れたようではあるが、ヒナの動きを面白そうに見ている。
「あぁ……わたくしの勇士さま……! わたくしは……!! アナタの役に立つために……!」
■ヒナは、ふと昔を思い出した■
【……まだ……でしょうか……? はやく……】
■そこで、彼女は——■
「……」
動きを止め、視点をクライスに固定したまま、なにかを深く・深く考えている。
重なる彼の姿は、チームメイトに囲まれて、みんなから称賛の言葉を受けているものだ。
ああ、それが網膜に焼き付くような感覚はなんだろうか?
みんなで力を合わせ、努力と奮闘のすえに得た勝利の光景。
「く、クライス先輩っ!! どうだったでしょうか! 私の走りっ。はっ!」
「すごかった」
「すごかったって!? 具体的にどのぐらいっすか!? サインPLEASEしてもいいレベルッ!? ですかッ!」
「いや、それはめんどいからいやだ」
「そんなッ!? あんまりっす!!」
クライスに、熱心に話しかけている新入りの少女。
リナの瞳は、尊敬する選手を見ることできらきらと輝いていた。彼女は、クライスがいるからこのチームに入ったと言っていた。
まだ未熟な部分がありながらも、確かなセンスを感じさせるプレイで活躍を重ねているようだ。
「自分! まだまだ精進するっス!! 先輩の役に立ってみせます!!」
「おー、がんばれ」
「な、なんだか気持ちがこもってないっす!」
■そんな彼らの様子を見ているヒナは■
■鋭く目を細めた■
「……」
■その歯ぎしりの音は、おそらく誰にも聞こえなかっただろう■
■当然彼の耳にも■
「あーめんど」
■試合が勝利に終わったからといって、すべての選手が満足できるわけではない■
■それはそうなのだが■
「まーでも、そんなに……でもないか」
■試合後の疲労に身を任せるナマケモノは■
■少しだけ笑みを浮かべて、その場にただ立っている■
■その視界では、チームのみんなが勝利の喜びに湧き立っていた——■