色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
■イヤシノ地区南端の町・【シード】■
■物静かでゼニゼニタウンとは正反対の土地で、たくさんの自然をその目にすることができる■
■あらゆる果物の産地として知られ、そこに目をつけた交易上手の手によって、中心地はかなりの賑わいを見せていた■
■ゴールドの館は、そんな町の海沿いにあり■
■周囲に民家の影はなし■
「ほっほー」
館二階の壁に空いた大穴から、目前に広がる景色を眺めるリーチェ。
朝日を受けて美しくきらめく水面は、彼女の興味を惹くに十分なようだ。
子供の様に純粋に目を輝かせて、小さく揺れる波と光の合わさった芸術を、心のままに楽しんでいた。
「もっと見てようかなぁ」
自身の気配を察してソルジャーの部隊がやってくるというのに、あまりに暢気な少女の態度は、人によっては不気味にも映るかもしれない。
しかし彼女に大して策があるわけでもなく、単に異常なほどのマイペースなだけだ。
「ふっふんー」
人差し指で短銃をくるくると回して満足気な顔のリーチェは、本来の目的を忘れてしまったようだ。
己の銃弾で吹き飛ばしたゴールドのことなど忘れ、海鑑賞を鼻歌混じりに続けている。
「——舐められたものだ。ワシも」
リーチェの肉体に大きな重圧がかかり、全身の動きを封じられる。
「わ!?」
「動けんだろう? 価値のないものの行動を許さない、世界の縛りだ」
「!??」
■リーチェの後方から忍び寄る足音■
■それはゴールドの生存を告げる■
「すごいじゃないか今の一撃は。銃使いの就職者はこの島にもいるが、あれほどの威力は初めて見る」
「ぬぐぐっ」
「だが捕まえた。このままソルジャーに引き渡そう。色々と情報を吐き出させるために、本当の【拷問】を受けるだろうが、自業自得と諦めたまえ」
「ご、ごーもんっ?」
全力で世界の縛りから抜けようとしているリーチェは、ゴールドの言葉に反応する。
しかしそれは恐怖の反応ではなく、極めて平常心を崩さない緊張感のない反応。
彼女の反応は純粋という名の狂気だ。
ゴールドはそれに顔をしかめる。
「あはっ、それ知ってるっ。【ザント】がよくやってる遊び!」
「……?」
「人をさらって、部屋にこもってチクチクざくざく遊ぶの! わたしも一回やったけど……あんまり面白くなかったなぁ」
「……」
「あははは!」
■残虐な光景を語る少女の顔は■
■罪悪感という概念が、すっぽり抜けている■
「さすがは乱れか。純粋な悪意というやつかな?」
ゴールドは呆れているような感心しているような、どちらとも取れる顔で少女の体に手を伸ばす。
ソルジャーが来るまでの用心に、肉体をいくつか壊しておく必要があるためだ。
「悪く思うな、悪意がなければ許されるという話でもない。むしろより罪深いという意見もあるだろうしな」
「???」
■道徳や秩序を、本気で理解できないリーチェは■
「痛いのやだよっ。いじめないでっ!!」
■大きく叫んだ■
「おうヨ。弱い者いじめは止めないとナ」
■応える声は上空から降ってきて、館に着弾した■
「ぬおッ!?」
館の上半分が吹き飛ぶほどの、圧倒的な衝撃波が発生する。
ゴールドは、とっさに後退して上空からの奇襲を回避したが、その衝撃によって吹き飛ばされ、リーチェとの距離が開く。
彼女も同じく吹き飛ばされたが、奇襲を行った人物がそれをキャッチした。
「あっ、マリオくん!!」
「まったく、なにやってんダ。簡単にやられそうになりやがって」
「ごめんー。聞いていた以上につよいよー」
受け止めた人物は、金の髪を生やしてとてもガタイのある男性。腰布しかない格好はリーチェ以上に露出多し。
すさまじい破壊をまき散らした彼は、館裏の地面に着地し、地震のような振動を起こした。
それでも壊れない肉体の強さは、ファイターに通じるものがある。
「ははは、今ので仕留めてはいないだろうナ。あのおっさん」
「えー、死んだんじゃない?」
「んなわけナイ。何故ならあいつは」
■マリオの周囲に、黄金の鱗粉のようなものが発生■
■それは、そのまま凄まじい爆発を起こす■
「――元スターライト・ファイターだからナ」
■急速回避を行ったマリオは、リーチェを抱きかかえながら爆炎の向こうを見る■
「……この歳で激しい運動はきついな。既に筋肉痛決定だ」
「やっぱりナ。さすが、【探索事業】を行っているだけのことはある」
スーツは少し損傷しているが、ゴールドは無傷で煙の中から姿を現す。
それを見たマリオは、空中で即座に魔導具を展開。
出現した大きな斧は、邪悪な黒い蛇がとぐろを巻いているような柄になっている。
ゴールドはそれを見て、興味がありそうな様子で「なるほどそれが」とつぶやいている。
「アイテムスキル【大地の裁断】」
空中で振るわれた大きな斧は轟音を鳴り響かせながら、大きな赤色の斬撃を飛ばす。
斬撃はゴールドに向かって恐ろしいぐらいに真っすぐ飛び、巨大な斬撃痕を大地に刻んだ。
だが、攻撃目標は難なくそれを避けた。
地面を蹴る動作は最小限に、それでいてまるで緩みがない回避行動だ。
「へ、速いな。あっさりとは壊せんカ」
攻撃を放った本人はなぜか嬉しそう。
マリオは地面に着地して、斧を力強く構え、猛スピードで自分に向かってくる敵を睨んだ。
迫るゴールドの右拳を斧で防ぎ、そのままそれを振るって攻撃に転じる。
相手の機敏な動きは攻撃を回避し、今度はがら空きになったマリオの胴体に蹴りを放つ。
それをマリオは柔軟な体の動きで避けて、一旦敵との距離を離した。
「いい動きだ。柔軟性を鍛えているようだな」
「はは、柔軟運動を欠かしたことはない! 得意を伸ばすってな!」
肉体を器用に操るパワーファイター。
マリオはそう形容するに相応しい武人で、その修練が感じられる肉体にゴールドは称賛の念を抱いた。かつては武闘派であっただけあり、洗練された力には思うところがあるようだ。
だからといって手を抜くなどあり得ず、むしろ逆なのだが。
「少し昔を思い出すな! いやはや、もうそっちは完全引退と思っていたが!」
笑いながらゴールドは、距離を詰めての接近戦主体で戦えるように立ち回り、斧による攻撃をある程度抑制していく。
その動きは徐々にだが洗練されて。
かつてファイターだったころの感覚が、自分に近しい強者との戦闘で磨かれ、恐るべき刃と化していく。
「マリオー援護するよー」
「!!」
銃撃音が連続して、ゴールドは銃弾を腕や腹に受けてしまう。
少し離れた地点に立っているリーチェが、銃口を彼に向けながら、無邪気に笑っている。
その笑いは、次の瞬間に疑問に染まった。
「アレ。なんで傷ないの?」
■ゴールドの肉体に傷はなく、ただスーツが破れたのみ■
■さっきからまるで攻撃が効かないことに、リーチェは疑問を隠せない■
「世界の守りだ。価値のあるものを守る、な」
「??」
「……この世は、見えない力で縛られている」
ゴールドは指を鳴らした。
そうすると、まるで見えない巨大な槌で叩かれたかのように、リーチェの体が弾き飛ばされた。
さらなる疑問に襲われるリーチェは、遠くまで飛ばされ見えなくなってしまう。
「ワシの使う魔導は、その力に干渉して利用するものだ」
「ほう、興味深いナ。分析してどうにかなる類かナ?」
「……まあ、そんなに便利なものでもない。扱いが難しいのだよ、どうにも不安定でな」
■自嘲気味に、世界の秩序を手繰るものは笑った■
■そんな彼に向けて飛んでくる攻撃■
「定まっていることは一つ。価値のあるものを守り・価値のないものを排除する」
■ゴールドは、マリオの放った斬撃を右手で【掴む】■
「!!」
「不思議だろう? 大きさを無視して害となる要因を掌握する防御法だ」
「斬撃掴むとか反則だロ」
「キミたちに言われたくはないよ。秩序を無視して死を招く、ルール違反者」
マリオですら動揺する力を見せつけるゴールドの背後で、大きな戦闘音が鳴り響いた。
どうやらリーチェと安寧の太陽のメンバーたちが交戦したようだと、ゴールドは冷静に考える。
マリオもそれに気づいたが特に慌てた様子はない。
「仲間が心配ではないのか?」
「はは、あいつも混迷の太陽だ。過剰なフォローは必要ないだろウ」
「混迷の太陽……」
「それに、どうやらお前がこの町の最大の守りのようだしな。だロ?」
「……まあ、この町に襲撃があった場合はきっちりと防衛を行う。とは契約しているがね。お気に入りの別荘もある町だ」
そう言いながら、ゴールドは自身の破壊された別荘を眺めて、悲し気な顔になってしまう。
彼なりに思い入れがある場所だったようだ。
「――とっておきを見せてやろう。忌々しい来客者」
■イヤシノ地区を統べる傑物が■
■今、その力を解放する■