色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「襲撃されている……ですと?」
「そうなんだ、それはともかくこの最新モデル【サポート通信機】どう!?」
いきなり驚きの現状を伝えてきた、大王の地位に座する麗人は、緊張感の全くない態度で自身の持つ魔導具を自慢する。
とはいえ、ローラの対応はそれなりに冷静で、いつもマイペース大王に振り回されていることがうかがえた。
その様子を眺めるドックとマリグナは、苦い顔の中に驚愕と焦りを混ぜた、なんともいえない表情だ。
「どうと言われても……こちらから魔導具は見えない」
「声質はどう!? オリジナルに近くなっていると思うのだけれど!」
「……あんまり、分からない」
大王が言いたいのは、サポート通信機の参考元である、就職者が使うサポート通信の性能と比較しての声質改善。
参考にして作成されたとはいっても、この魔導具の性能は本家の通信よりも劣っていて、そこに対する不満点は割と多いのだった。
大王が持っているのはその中でも最新式で、声質の評価が良しとされている。
「ええ、結構高かったのになー!」
「貴女にとっては……はした金でしょうに……」
「うーん、貧乏根性が染み付いていかんね。あはは」
「……妹に見習ってほしい……デスね、あのギャンブル狂い……」
「?」
完全に雑談モードになってしまう二人。
それを見ていた男性二人組は、我を取り戻したかのよう雑談を中断させる大声を出した。
緊急事態であるはずなのに、何を魔導具の話題で盛り上がっているのか!
放たれた言葉はごく当たり前のものだったが、ローラはやれやれと首を振った。
「……なにを余裕のない……。大王たるもの……島民が安心できる……平常心……が必須では……?」
「なんだと?」
「まさか……彼女が簡単にやられるとでも……」
■ローラは、笑みを大王二人に向ける■
「助けは……いりますか……?」
「いやいや、何言っちゃってんの。いるならとっくにそう言ってるでしょ」
「でしょう……ね……ふフ……」
軽い調子で返答する女大王に緊張感はない。
それは能天気なわけではなく、充分自分で対処できるという自信が溢れているからで、心配無用と暗に告げていた。
画面の向こうにいる彼女は、にんまりと笑って言う。
「これでも元凄腕ソルジャーだし。そこらの就職者には負けないなぁ」
「ふふ……衰えてはいないので?」
「鍛え直したよ。乱れにはアタシの力も必要になるでしょうし」
通信機から聞こえてくる、戦闘音のようなものを聞いている男二人は、顔を青ざめさせて彼女の無事を祈っている。
しかし、親交の深そうなローラはまるで心配などしていない様子だ。
「元ソルジャー……【最凶の盗賊団】を壊滅させた……シルビア・ベリオン……貴女はそんなに弱くないでしょう……ネ」
■ローラの言葉は、10分後に証明される■
■戦闘音が止み、シルビアの声が響く■
「……終わりました?」
「うん。だけど困った」
「?」
「逃しちゃったよ。捕縛は無理だった」
「……逃した。優れた速力を持つ貴女が……?」
「というよりね、全員始末されちゃった」
■シルビアの目前には■
■地面にぶちまけられた、大量の赤があった■
「追い詰めたら……いきなり内部から破裂しちゃった。なんの力だろうね?」
「口封じ用の魔導……などですか。生け捕りは難しそうです……」
「ふむふむ。しかし乱れたちに統率やルールなんて、あってないようなものだって言うけど」
シルビアは、破裂する寸前の乱れたちの表情を思い出す。
完全に予想外の驚愕と恐怖の顔。
つまりは【味方】に対して知らぬ間に何らかの細工を施し、冷酷に切り捨てた。
悪辣王の一派とはどういう集まりであるのかを、シルビアやローラはしっかりと再確認する。
やはり平穏とは相容れぬ、ルール無用の狂暴な集団であると。
「じゃあ急いで、アタシもそっちに向かうね。魔導車は壊されたけど……ちょうど、お手頃なモンスターも発見したし」
「お手頃なモンスター……ああそういえば貴女の職業は……」
「【調教師】だよ。忘れた? どんな魔獣や幻獣でも、絶対に従えちゃうんだから!」
●■▲
「来ましたね……」
古城のような場所の、大きく開けたバルコニーにて。
ローラが、青い空を見上げると上空に小さな点が見えた。
それはどんどんと大きくなり、はっきりとした形が見えてきて、彼女は友の到着を確信する。
大きな風圧を発生させながら、巨大モンスターが煉瓦の床に着地した。
「ドラゴン……」
ローラの目の前に着地したのはA級モンスター、【グリーンドラゴン】。
緑の強靭な肌を持ち、全長10~15mの大きな威容を放つ、ヤスミノ地区に生息しているドラゴンだ。
口から突き出た大きな牙が凶悪性をプラスさせているが、今は安全なモンスターと化していた。
その背から、床に飛び降りてきた女性によって。
「――到着っと。いやはやトラブルで遅刻しちゃったなぁ」
「どうせ寝坊したんでしょう……」
「……しそうにはなったけどっ。ちがうよっ!」
黒色のミニスカスーツを着用し、両足を同じく黒いストッキングで包んだ彼女。
健康的な肢体が服の上からでも分かるシルビアは、太陽のように明るい笑みを友であるローラに向けた。
動作の一つ一つが洗練され、きびきびとしている。
「細かいことは気にしない! 乱れを退けたことを褒めてほしいなぁ!」
「取り逃しましたが……ね」
「いやぁ、アレは対処しようがないでしょう。死体は研究機関に回収されたけど、何かしらの手掛かりがあるといいね」
「さて……どうでしょうか……。わたくしとは……違いますから……あの手の人種は……」
ローラが疑問を抱いているのは乱れたちの性質についてだ。
きっちりと証拠を残すこともあれば、完璧に証拠を消すこともあるのが悪辣王の一派。
逆にそれが相手の動きを予想できない要因になっている部分もあり、ソルジャーたちも手を焼いているのだ。
「【あの怪物】が……いるという話も聞きますし……侮れない者たち……ですわ」
ジャンケンで決まった手ばかりを使ってきたかと思えば、いきなりルール無視で殴りかかってくるかのような無軌道な行動指針。
合理性すら無視することがある故に、きっちりと真面目に手堅く動く組織よりも、ある意味で脅威を増している。
正攻法ならば、単純な戦力では勝っているはずの島の強者たちも対処はしやすかっただろう。
「敵の目的すらあやふや……ですしね」
「正確に把握しようと思うから、あやふやに感じるの。もっと大雑把に捉えないと!」
「というと……?」
「島の平穏を壊すことが目的。シンプルにそう考えようよ!」
■だからこそ奴らは許さないと■
■シルビアは瞳をぎらりと光らせた■
「さあ、奴らを倒す為にも……【銀の蛇】に会いに行こうか!」
「……ええ」
■集まった地区長と大王は向かう■
■この島の根幹に関わる存在の下へと■
●■▲
「――集いましたな。島の安寧を守る者達よ」
■厳格な男性の声が会議場に響く■
■さきほどとは違い、この場には島の支配者たちが集まっている■
「……残念ながら一人欠けてしまったが」
「……」
円を描くように配置された椅子に座る島の地区長・大王。
椅子の一つは空になっていて、それが何を意味するのかはこの場の全員が理解していた。
イヤシノ地区の地区長が座していた席を眺める中年程度の男性が、微妙な表情で溜息を吐いた。
「阿呆のゴールドは地区長の恥さらしだな。立場を忘れて勝手に死にやがるとは」
「……殿方は地区長の中でも武力に優れていた……ですよ? わたくしも……過去に試合で戦ったことがありますが……とてもお強く……」
「だからこそ周囲の警護をおろそかにして、結果殺されてしまった。油断しすぎの無能だろう」
「……」
髪を茶色く染めた少し肥満気味の地区長、ロンズ・ルーはゴールドを嘲笑う。
彼はイヤシノ地区に隣接する【ネコロビ区】の支配者で、いつもゴールドと張り合っていたので(ゴールドは適当にあしらっていた)、その態度は特におかしくはない。
ただしローラは、ロンズの態度にわずかな悲しみも見たが。それは気のせいかもしれない。
「……その話も含めて、まずは【主】を現出させてからだ」
「そうだね。さっさとやってしまおう」
■椅子の円形の中心に■
■四人の大王が集った■
「さあ、扉を開こうか」
■彼らの立つ床には、神秘を秘めた陣が描かれている■
「我らの祖……島の安寧を創りし【銀の蛇】に通じる扉を!」
高らかに言う老練で長身な大王が懐から取り出したのは、扉を開く鍵となる小さな像。
それは、この世界の【はじまりの者】を模した、まるで神秘を纏ったモンスターのようにも見える【伝説の魔導具】。
四人の大王が取り出した魔導具によって、彼らの頭上に黄金の光が溢れ出し・そして――。
■送信——完了■
■コンタクト開始——■