「今の人、ガタイすごくなかったですか?」
「そんなことを言ってる余裕があるのか少年。まあ確かに私並みにあったけどね。」
冬。もう受験まで後2か月という時期であるがこの男、禪院甚爾は外でランニングをしながらあることを考えていた。甚爾の成績のことである。
甚爾の先生の評価は高いという訳ではない。むしろ平均的には低い方である。テストの点数は毎回上位に入るのだが、授業態度がとてもじゃないがいいとは言えない。授業中はずっと寝ているか屋上で暇を潰しているかのどっちかであるから反感を買われることもしばしば。そのため実技試験はともかく筆記の方は満点近く取らないといけないという状況になっている。だからと言って勉強しようかなとはならない。何故なら実技の方も他の受験生がどんな個性を持っているかわからないし、自身は持っていない。よって武器が一つない状態で他に勝ち、尚且つ筆記も取らないといけないという絶望的な状況である。そんなことを考えながら玄関に手を掛け中に入れる。
「遅かったじゃねえか。」
目の前には厚着をしたジジイが立っていた。
「なんだジジイ、どっか行くのか?」
「ああ、お前もな。」
「は?今から勉強しようとしてんのに。」
「行くぞ。」
そう言ってジジイは俺を連れて家を出かけた。電車を乗り継ぎバスに乗り続け、着いた先には懐かしい光景であった。だがそれと同時に思い出したくもないことも頭の中に流れ込んできた。それを頭の外に追いやりながら背を追いかける。
「よう、久しぶりだな扇。」
「お久しぶりです直毘人さん。」
そうジジイは入口にいた
「おい、クソガキ。」
「あ?」
「なぜキサマが来ている。禪院家の関係はないだろ。」
「俺に言うな。あのクソジジイに来いって言われたんだからしゃーねーだろ。」
「直毘人さんだちゃんと呼べ。」
「ほれ甚爾はよ来い。」
「じゃ。」
そう言って甚爾は中へ入って行く。その後ろ姿を見ながら禪院扇は考えていた。彼、禪院直毘人は元々禪院家当主であった。そのことに扇は少なからず悔しさを覚えていた。だがそれはこの
「わからん…わからねば…。」
「相変わらずでっけー家なこった。」
そう言いながらジジイの背中に付いて行く。時々俺を見て驚いて腰を抜かす奴らもいたがそれを無視して中へ入って行くと、とある部屋に入っていった。そこは、武器庫と呼べばいいのだろうか?太刀に薙刀、三節棍に槍など色々置いてあった。そこからジジイは一本、刀を取り出して俺に投げた。
「あっぶな。なんだこれ?青龍刀か?」
「それは『釈魂刀』というやつでな。俺の親父の形見の刀だ。」
「へー。そんな大事そうなもんを何で俺に。」
「それには親父の【個性】が宿っていてな。聞いたことあるだろ。昔親の使っていた大事なものに個性が宿ってるっていう事案は。」
「あーなんか聞いたことあるわ。触れたものを金に変えるものを泥棒が取ってそのまま死んだっていうやつだっけ。」
「そう。だからこれを使えば個性がお前も使える。これで入試の実技は解決したろう。」
「待て待て。こんな物騒なもん入試会場に持って行ける訳ねえだろ。まず実技試験は持ち込み不可の試験だったはずだろ。」
「ああ。去年まではそうだった。でも今年から入試制度が変わってな。サポート型の個性でも活躍できるようにと持ち込みが1点まで良くなった。」
「そんなん何処に書いてあったんだよ。」
「ほれここ。字がちっちゃくて読みにくいようになってる。あんまり知られたくはないだろ。ものによっちゃーヌルゲーになりかねんからな。」
そう言ってジジイは俺にとある紙を見せてきた。雄英高校の実技試験の概要のところである。そこの端の※をを見てみると...
『※動きや個性を補助、補強するものは一点につき持ち込みを許可する。』
...と書かれていた。
「ちっさ。」
「言うと思ったわ。だが、これで実技試験はクリアだろ。あーそうそう、この刀の個性は【あらゆるものの物理的抵抗をなくし、魂を直接斬る。】というものだ。」
「へー。魂をねえ。」
「これを無機物に効かせるために、親父はサポートアイテムを使っていたがお前にはそんなもんはいらんだろ。」
「なんでだよ。つか、試験が無機物相手って決まってる訳じゃないだろ。」
「考え見ろ。教師たちにも初見の個性がある。わからん殺しをされて勝たれたらたまったもんじゃあないし、人によっちゃー試験が詰む可能性がある。だからそういうのはない。」
「それはわかった。だが俺にサポートアイテムがいらんってどーゆうことだよ。」
「それはお前自身がわかっとるだろ。」
「…無責任ジジイがよお〜。」
そう言って刀を持って部屋を出て行く。ジジイの助け舟によって、実技試験の問題がなくなった。あとは筆記だなと思いながら玄関を出て帰路に着く。
「なあ直毘人さん。」
「どうした、扇。」
「何であんな奴に気を使ってるんですか?しかも雄英を受けるらしいじゃないですか。気でも狂いましたか?」
「んなことねーよ。まあこの家にずっと居たらそんな考えにもなるか。」
「じゃあどういう…」
「可能性を感じたんだよ。あいつは...
この世界の常識を覆す。
...そう思ってるからな。」
ガハハと笑いながら彼も家から出ていった。あの無個性のガキが世界を変える?そんなこと、できるはずがない。
できるはずがないのだ。
次回やっと本編軸に戻ります。お楽しみに!