シャニPはキヴォトスで先生になる 作:Optimum Pride
彼女との初出会いは戦場にあった。
アリウス分校による襲撃、俺と対峙するアリウススクワッド。
その中の一人が、俺を酷く驚かせた。
彼女のその声、その眼差し、その姿、俺の知っているあの子とあまりにも酷似している。
だから俺は思わず口に出してしまった。
「円……香……?」
「……」
帰って来たのが冷たい目線だけ、返事がなかった。
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今日の仕事は出張だった。
ゲヘナでヒナと治安維持や近況についてを語り、無事解散。
あと昼食時間に少し給食部のお手伝いをした。俺の料理が好評だったみたいで作る側としても嬉しい。
そして今は社用車を運転しながら帰宅中。
時間に余裕があるためつい調子に乗ってしまって、散策気分で車のGPSを閉じてしまった。
その結果今は予定したルートから酷く外れていた。GPSがなければ間違いなく迷子案件である。
しかも空から大雨が降り始めたせいで、散策は予想できなかった程の窮屈なものになってしまった。
俺は知っている大通りを目指して車を走らせ、くどい雨音をかき消すために大音量で音楽を流している。
こんな時には放クラの曲が一番なんだけど、283プロのアイドルの曲はキヴォトスにまで流通していない。
仕方がないので俺はラジオの音楽チャンネルを流している。
「早く帰れないかな」と思いながら運転していると、見覚えのあるジャケットの後ろ姿が見えた。
大雨の中で傘も差さずに。
俺は車を止めて、慌てて外に出る。
「ミサキ⁉︎ なにしてるんだ⁉︎」
「先生?」
彼女はいつもの虚しい目で俺を見つめる。今にでも雨に溶けてしまいそうだ。
「早く俺の車に乗って⁉︎ このままだと風邪引いちゃうぞ⁉︎」
不幸なことに今日の出張で俺は傘を用意していなかった。
だから強引だと理解しつつ俺は車に向かわせるために軽くミサキの手を引っ張る。
「私は大丈夫、先生こそこのままだと風邪引くよ」
「大丈夫じゃ、ない!」
「ちょっ……!」
もう余裕がないので、俺は力を込めて無理矢理ミサキを引っ張った。
「先生ってこんなに強引な人⁉︎」
心の中でミサキに謝りながら彼女を助手席に座らせる。
「席が、濡れ……」
「あとで洗えばいいから」
俺も車に乗って、
「ちょっと我慢してくれ」
「どこへ行くつもり……って早っ」
さっきまでとは比べ物にならないスピードで車を走らせた。目指すのはGPSにあるここから最も近いホテル。
なぜならミサキは閉所恐怖症だから、低気圧かつ大雨の中でこの狭い車は彼女にとって毒でもあるはずだ。
でも意外なことに、ホテルに届くまでミサキから文句の一つも言われなかった。
彼女はただ静かに座っているだけ。
「強引すぎ」
車から降りて、ミサキはやっと文句を言ってくれた。
「すまん、だけどミサキが風邪に苦しむ姿はもう見たくないんだ」
病気で弱っているミサキを見るのは、この前の一度だけで十分だ。
「風邪引く以前に車酔いで気持ち悪い……」
「す、すまん! 早く部屋に行こう!」
ホテルに入ると、誰もいなかった。
どうやら完全セルフサービスのホテルで、機械が並んでいてとてもキヴォトスらしい。
一応確認してみたけどラブホテルの類ではないっぽい。
部屋に入って、俺はミサキを椅子に座らせる。
「ジャケットを貸してくれる? 浴室で乾かすから」
「はい」
「冷えてない? 風呂に入るか?」
「ジャケット以外は濡れてない」
車酔いで弱っているからか、ミサキは素直に答えてくれた。
ミサキのジャケットと自分のコートを乾かすために暖房を乾燥モードにした浴室に掛けて、タオルで頭を拭う。
彼女の隣に戻って来た時には彼女の顔色は大分よくなった。
「気分はどう?」
「先ほど酷くはない」
「じゃあ温かい飲み物でもどう? 持って来るぞ」
「先生……」
「なに?」
「しつこい」
「あっ」
そう言いながら、ミサキはその目で俺を睨むつける。
「保護者にでもなったつもり? 自分の世話くらい自分でできる」
「す、すまん」
ミサキはため息をつきながら、顔を横に向ける。
彼女の気分を損させてしまった。やはり女の子との距離感は難しい。
「ミサキをバカにするつもりじゃないんだ、ただ……」
「ただ……?」
「久しぶりにミサキに会えたから、舞い上がっちゃって」
ミサキを含めアリウススクワッドのみんなは居所不定だから、会える機会はそうそう無い。
しかもミサキはアリウススクワッドの中で特にモモトークを使わないから、対話チャンスはさらに少なくなった。
こんな形で再会したけど、生存確認できて俺は嬉しい。
でもミサキは不満なようで、
「キザなセリフ」
「えっ」
「先生じゃなくてホストにでもなれば?」
「ははっ」
ミサキから言葉のナイフが刺さって来る。
だけどこの対話に安心さを覚える自分が居た。
「なんで笑うんの、そこで……へくしょん!」
「……」
「……」
「なにかを飲もう」
「……好きにして」
やはりミサキは冷えたようで、俺はロビーのドリンクバーで飲みものを取ることにした。
「ちなみに飲みたいものある?」
「ない」
「分かった」
要望がないので、俺は温かいコーヒー二杯を淹れた後部屋に戻る。
コーヒーを渡すと、ミサキは驚いた顔でコップを見る。
「コーヒー……」
「うん? どうした?」
「なんでもない」
ミサキはコーヒーを一口飲むと、直ぐ苦しそうに顔を締める。
「大丈夫か⁉︎」
「に……」
「に?」
「苦い……」
「あっ」
やばい、いつもの癖でコーヒーを淹れてしまった。
ミサキは苦いものが苦手なのに。
「ミルクと砂糖持って来る!」
「子ども扱いしないで……!」
「待ってて!」
「ちょっと!」
俺は逃げるように部屋から出る。
これはいけない、完全に283に居た頃の気分だった。
コーヒー、いつも円香に淹れてあげたから。
「やってしまった」
さっきの対話といい、コーヒーといい。
心の中で完全にミサキを円香と同一視してしまった、二人が似ているだけあって。
そっくりな容貌と声、クールな性格、幼馴染ユニット(部隊)のまとめ役。
とは言えいくらなんでもミサキに失礼すぎる。
自分のやらかしを反省しながら砂糖とミルクを持って帰ると、コーヒーをまた飲もうとするミサキが見えた。
「待って待って! ミルクと砂糖あるから!」
「バカにしないで……ゲホッゲホッ!」
「もう、言わんこっちゃない」
無理矢理コーヒーを飲もうとした結果、ミサキは咽せてしまった。
咽せが止むまで、俺はミサキの背中をさする。
そのせいか、ミサキは涙目になって、
「離れて」
と俺に怒った。
彼女に従って、俺は部屋の向こうにあるベッドに座る。
「すまん、近すぎた」
「……」
返事が来ない。ミサキはムキになっているようだ。
もしはつきさんがこの場に居たら「女の子を怒らせちゃダメですよ〜」と文句を言われるのだろう。
283に居た頃といい今といい、俺って女の子を困らせる才能があるのかもしれない。
「俺はここにいるから、なにがあったら呼んでくれ」
「……」
このままだと埒が明かないので、俺はミサキを一人にすることにした。
持って来たタブレットを開き、事務作業をする。
画面の中のアロナに「先生は鈍感バカです」と言われた。苦笑しかできなかった。
しばらく仕事をしていると、
『ドゴン!』
窓の外から雷の音が聞こえる。雨はさっき以上に酷くなったみたいだ。
アロナも「怖すぎます!」と言いながら自分を写すウィンドウを閉じた。こうすれば外の声が聞こえなくなるのかな……?
アロナとの対話すらなくなり、雨音と雷の音だけがこの部屋を満たしている。
ミサキの方を覗きと、コーヒーは飲み干され、彼女は目を閉じている。
仮眠でもしているのかな?
じゃ椅子よりベッドに寝った方がいいと思い、ベッドから立ち上がろうとすると、
『ドゴン‼︎‼︎‼︎』
今日一番の雷なのかもしれない。すると部屋の明かりが一気に消えた。
「停電⁉︎」
「先生どこ⁉︎」
ミサキが慌てる声で俺を呼んだ。
「俺はここにいるよ」
「どこ⁉︎ 見えない⁉︎」
パニックになっているようで、俺は慌ててミサキの元へ走る。
「大丈夫、俺はちゃんといるから」
「先生⁉︎ あ......」
俺を感じ取れたようで、ミサキは少し冷静さを取り戻した。
「こわくない、安心して」
「はぁ…… はぁ……」
やはり閉所恐怖症からか、彼女の呼吸は荒れている。
このままだとミサキが苦しめられる、早く電気をなんとかしないとと思い、俺は外に向かおうとする。
「もしかしたらここはなんらかの応急措置を用意していたかもしれない、ちょっと探しに……」
「ダメ!」
ミサキからとは想像できないほどの大声で止められて、彼女は俺の手を掴んだ。
「一緒に、いて、先生」
その声には不安が満ちていた。
そこで俺は我に帰った。
確かに電気を修復しようとするのは正解ではあるが、ミサキの場合はそうじゃない。
円香なら、不安でも強がってしまう、ある程度我慢できる。
だけどミサキにとって、不安は命取りなんだ。
俺はまた、二人への対応を混ぜり込んでしまった。
「すまない、俺はここに残るよ」
情けない、情けなさすぎる。
先生としても、人としても。
ミサキ、本当にすまない。
俺はもう一つの椅子をこっちへ引っ張り、ミサキの隣に座る。
「先生、いる?」
「いる、絶対君から離れない」
俺はミサキの手のひらを握りしめる。
その手はとっても冷たい。
「ミサキ」
「先生……」
ミサキの手は震えている。
一回だけミサキとエレベーターの中に閉じ込められたことがあるが、今の震えはその時以上だ。
「ミサキ、もしかして」
「はぁ……はぁ……なに?」
「雷が苦手なのか?」
「……」
ミサキは軽く頭を縦に振った。
だからさっきは目を閉じていたのか。
眠いからではなく、怖さを紛らわすために。
「察しの悪い先生で、すまん」
「それはもういい、だから」
「……」
「そのまま……」
ミサキは俺の手を握り返す。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫、大丈夫」
今にでも消えそうなミサキを繋ぎ止めるために、ひたすら優しく声を掛けた。
「先生……」
「なに?」
「窓の外が、見たい」
「うん、分かった」
片手がミサキの手を握り締めながら、もう片手でミサキの椅子を窓に向かわせるように移動する。
「これでいい?」
「ありがとう」
窓の外の景色は、雨のせいで青一色に染められている。
とても冷たくて、寂しくて。
「気分はどう?」
「少し、楽になった」
「高いの大丈夫?」
「今は、大丈夫」
窓の外からの僅かな光に照らされる、ミサキの顔。
それがまるでダイヤのようで、とても美しい。
「窓を見る時」
ミサキは静かに語り始める。
「なぜか安心できる。窓の外の景色を見て、ビルの群れを見て、自分のことが、少し気にならなくなる、肉体の苦しみを誤魔化せる」
「手を、離した方がいい?」
「それはダメ。先生の手は、ちょっとだけ、違うから」
「そっか、ありがとう」
ミサキは俺を信頼しているってことだろう。こんな状況でも少しだけ嬉しかった。
彼女は語り続ける。
「息が苦しい、周りがなにも見えない、まるで世界の中に私だけ一人ぼっちみたいで」
「大丈夫、俺がそうさせない」
「大きな、窓。見ているとね。まるで私が、吸い込まれているようで」
「ミサキ?」
「今でも、そのまま窓の外に吸い込まれてしまうそうで」
「おい」
「このまま地面に落ちたら、この苦しみから解放されるんじゃないかなって」
「なに言ってんだミサキ!」
「先生は、私と一緒に落ちてくれる?」
いつかの言葉が、脳内によぎる。
『私と一緒に、溺れる気もない癖に』
あの少女と、似たような言葉。
やはり似ているんだな、この二人、自分を嫌ってしまうほどに。
「嫌だ」
「私が、そう望んでいるのに?」
「死んでも嫌だ」
「生きていても、なにもないのに?」
「あるさ!」
俺は両手でミサキの手を力強く握りしめる。
「この世界にはまだたくさんのものがミサキを待っている! 綺麗なものが待っているんだ! 俺が保証する!」
「それはただの詭弁」
「それでも、信じないとなにも始まらない!」
「……うるさい」
ミサキの言葉の冷たさは、俺の芯を凍らせるほどだ。
「これだから嫌い。綺麗ごとばっかり、そしていつも私たちを裏切る」
「そんなことない!」
「あるよ! 私が生まれてからずっと! サオリ姉さんも! 姫も! ヒヨリも! みんなを騙してきた」
「ミサキ!」
「もう疲れた。お願い、私と一緒に落ちて」
同じだ。
『お前の手を掴むくらいなら、溺れて死ぬ』
俺にとって大事な二人、攻めて来る同じ選択。
なら、答えは同じだ。
「そうだよな、助けを求めるのは苦しいよな」
「なにを」
「俺が勝手に助けるよ、ミサキを」
「まだ綺麗ごと……」
「そんなことはどうでもいい! 絶対に助ける! ミサキが何度も落ちても! 何度も引っ張り上げる! この命を懸けて!」
「先生……」
「だからお願い……自分の命を……無下にしないでくれ」
気付けば、両頬が濡れていた。
涙が流れている。
俺はここまでミサキのことを思っているんだなって、自覚させられた。
「なんでそんなことが言えるの」
「ミサキが、大事だから!」
「生徒として、それとも……」
「生徒としても、一人の女の子としてでも」
「歯が浮くようなセリフ」
彼女はため息をついた。
「先生、ごめん」
「ミサキ?」
「先生の気持ちを、察せなかった」
「そんなことない! 俺が不出来なだけだ!」
「私は、先生のことが苦手だった」
「え……」
ミサキはちょっと気まずそうに言う。
「キラキラしていて、綺麗ごとばっかで。だけどそれだけじゃない、先生の目には」
「えっ」
「私じゃない別の誰かが写っていたような気がした」
「そんなこと……!」
「マドカ、だっけ?」
彼女の口から、予想もつかない名前が聞こえた。
「なんで、それを」
「私と初対面の時、先生がその名前を呼んだから」
「覚えて、いるんだ」
「うん、自分でもびっくりするほど、頭から離れなかった」
「そっか……」
「先生が不自然な行動をする度に思ってしまう、『あの人となにか関わりがあるんだな』って、ついにムキになってしまって」
「すまん……」
「そこは否定しないんだ」
「最低」と言った彼女、だけどその言葉はどこか嬉しそうだった。
「俺は、先生失格だよね」
「だけど、さっきの私を思う気持ちは、本物?」
「うん、それを信じて欲しい」
「そうでしょうね。あんなに綺麗な泣き顔は、人生初めて見た」
「えっ」
ミサキは、微笑んだ。
「私の手ずっと握ってくれるなら、許す」
「うん、絶対に離さない!」
「調子のいい人」
俺は本当に先生失格だ、勝手な思いでミサキを振り回したことにも気付かず。
「正直に言うよ、最初は、多分ミサキに対して円香と重なって見えた部分の方が多かった」
「最低」
「ははっ、だけどミサキと交流するにつれ、心が変わったんだ。子供舌で、意外と脆くて、優しくて、アリウススクワッドのことを思っていて」
「私をバカにしてない?」
「すまない、正確な言葉が出てこなかった。だけど、それらが重なって、一つだけが確かに言える」
「……」
俺はミサキを、真っ直ぐに見つめる。
「ミサキという生徒を持っていることが、俺の誇りだ」
「なにそれ、王子様にでもなったつもり……うう」
「ミサキ⁉︎」
瞬間、ミサキは倒れるかのように体から力が抜ける。
「大丈夫、気を張ってたから、その反動が来ただけ」
「すまん、ミサキの体調を……」
「だからもういい……はぁ……はぁ……」
辛いはずなのに、ミサキは微笑んでいた。
「手を、離さないで」
「うん!」
「あと……」
「うん」
「マドカのことについて、教えて」
「えっ」
「それを聞いたら、気が休めるようになる気がする」
彼女の口からの意外な言葉。
もっと、円香のことを嫌っていると思ったから。
「分かった。外の世界にいた頃、俺はアイドル事務所のプロデューサーを務めていたんだ」
「そうでしょうね。甘い言葉で、たくさん女の子を騙してそう」
「ははっ、円香にも同じことを言われた。アイドルの一人は、円香の幼馴染である浅倉透っていう子が居てな」
「ちなみに、うちの誰に似てる?」
「それはちょっと難しいな。でもユニークなところで言えば、アツコに似てるかもしれない」
「姫に、っか」
「そこでだ、円香がアイドルになりたいと言って、実質事務所にカチコミに来たんだ」
「姫が胡散臭い男に騙されたら、私だって同じことする」
「手厳しいな。円香には、幼馴染を騙したとか、監視するとか、色々言われたなぁ」
「そこで先生は?」
「円香をスカウトした」
「えっ、どういうこと」
「無理矢理円香をスカウトしたんだ」
「ボロクソ言われたのに?」
「俺は確信したんだ、円香はダイヤの原石だって。一目惚れでもしたかのような感じで、本人に言ったら絶対怒られるけど」
「先生、もしかしてドM?」
「そこは否定したいな。それからね……」
その後、雨が止むまでひたすら円香のことを語っていた。
雨が止む頃には、空が赤く染められ、夕暮れになっていた。
「ミサキはもう大丈夫」
「先生のお陰様で」
「じゃあミサキを拠点までに車で送るよ、車に乗っても平気?」
「これでも一応手配犯だけど、私、一緒の車に乗って大丈夫?」
「その時は一緒に捕まろう」
「バカバカしい……」
「ははっ、それにミサキはかわいいんだから、手配犯なんかに見えないと思うぞ」
「……殴るよ」
ミサキと雑談しながら駐車場まで歩く。
「そう言えばミサキ腹減ってない?」
「別に」
「俺腹がペコペコでさ、せっかくだし一緒に食べよう?」
「好きにすれば」
「なにかリクエストある?」
「どうでもい……」
すると、ミサキが足を止めた。
「さっき言ってたエビグラタンって料理、試してみたい」
「そっか! 分かった! いくらでも奢るぞ!」
「うっさい」
よしっ、ミサキと楽しく話せたな。
その後、俺たちはエビグラタンを食べて、無事ミサキを拠点まで送った。
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拠点のテントの中で、私は今日の先生とのことを考えた。
あまりにも自分らしくないことばかりで、恥ずかしすぎて死にそうだ。
「樋口……円香……」
先生が言ってた、顔も声も性格も私にそっくりなアイドル。
アイドルなんてキラキラした職業に、私がなれるとは思わないけど。
心が、もやもやする。
私の知らない女の子。彼女のことを語る先生が、今までで一番生き生きしていた。
それを見て、今までなかった感情が心の中で芽生えた。
樋口円香に会ってみたい、彼女とお話ししたい、そして……。
彼女と私のことを、先生に……。
頭が回らない。
私はクマのぬいぐるみを抱きしめながら眠りについた。
その前に、一つの思いが頭に浮かんだ。
あの感情って、嫉妬なのかな?