シャニPはキヴォトスで先生になる   作:Optimum Pride

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にちゅ


ハナコと街を散策

 いつのまにか、「ハナコ」と呼ばれることに苦手意識を持つようになりました。

 親から授かった可愛らしい名前だと思っていたのですが、いつしか「ハナコ」と呼ぶ声に異質な物が入り込むようになりました。

 憧れ、尊敬、好奇心、疑い、野望。全てには、なにかしらの裏が隠れていたのです。

 お友だちと楽しく談笑する方法を忘れてしまうとかは、もはや時間の問題でしょう。

 大人になるとはこういうことを指しているのなら、大人なんかになりたくありませんでした。

 もういっそ学校を辞めて、知らないどこかでやり直そうと思いました。

 だが人生というのは不可思議なのでしょう、こんな時に限って、出会ってしまったのです。

 コハルちゃん、アズサちゃん、ヒフミちゃん、無垢かつ優しい彼女たち。

 そして。

 着ているその白コートと同じく、純粋にして綺麗。その存在を疑いたくなるような大人、私たちの先生。

 私は、彼に魅入ってしまったのです。

————————————

 困った。

 完全にハナコにやられてしまった。

 

「私の姿、露出プレイにピッタリと思いませんか?」

「な、なんのことかよく分からないなぁ?」

「ふふ、恥ずがり屋さんなんですね」

 

 俺のコートを被っているハナコは、彼女の魅惑的な声で俺を揶揄う。

 身長差のせいで、彼女の上半身から太もも以下まではコートに包まれている。他人から見ればただ厚着しているように見える、中にあるのが制服などではなく水着だと知らずに。

 

「それよりハナコ、寒くないかな?」

「私たちキヴォトス人はこれくらい平気ですよ。先生こそ大丈夫ですか?」

「大丈夫、鍛えてるから」

「ありのままで抱き合うのは結構暖かい、らしいですよ?」

「ははっ、それは遠慮しとくよ」

 

 なんでこうなったんだ。

 トリニティに来て、シスターフッドのみんなとお茶会をしただけなのに。

 帰る前にちょっと街でも見ようと思ったら、校門で水着姿のハナコと出会ってしまった。

 俺と一緒に散歩したいと言う彼女。家に戻って着替えてくれと頼んでも聞いてくれず、仕方がなく俺のコートを被させた。

 するとなんと、不思議なことに彼女はさっきとは別方向でインモラルになってしまった。

 

「先生の匂いって癖になる匂いですね。コハルちゃんにも教えないと」

 

 助けて……! 真乃……! めぐる……! 灯織……!

 摩美々との訓練で揶揄い耐性がついたと思いきや、今までにないタイプの子と出会ってしまったよ……!

 

 

「あのな、ハナコ」

「なんでしょう?」

「俺だって男だぞ、こんな紛らわしい言動をしたら……」

「襲ってくれるんですか?」

「もちろんしない……ってまだそんなこと言って!」

「あらら、そんなことってどういうことでしょうか? 私には検討もつきません」

 

 そう言いながら、ハナコは前屈みになって、コートを少しずらした。隙間から胸元が見えそうになる。

 俺は慌てて視線を反対方向に回わす。

 

「今寒いんだから、ちゃんと服を着ないと風邪引くぞ」

「ふふ、はいー」

 

 真冬なのに、顔が熱い。

 女の子への耐性をつけるのが中々難しいのであった。

 このまま主導権を握らせるのは危険だと思った俺は、自分から話を振ることにした。

 

「最近、補習授業部のみんなとはどうだ?」

「仲良しだと思いますよ、コハルちゃんなんて毎日死刑よって言ってきますし」

「は、ははっ……コハルを揶揄うのは程々にすると嬉しいな」

 

 コハルがえっちなことへの耐性をつけるのはまだまだ遠いみたいだ。

 

「でも不思議ですね」

「なにかだ?」

「先生はなんで一度もコハルちゃんに死刑判定されたことないのでしょう?」

「いや判定される方が難しいと思うぞ」

 

 コハルはピュアな子だし、よほど際どいことをしない限りは普通に接してくれるんだけどな。

 でもハナコ意味深い笑みを浮かべて言う、

 

「先生のことですから、なんなかのハプニングが起きるはずと思いますが」

「俺への印象は一体……? でもハプニングか」

 

 俺なりに真剣にコハルに接して来たと思うが、ハプニングなんて……。

 

「あっ、一回だけあった」

「あらあら、教えてくれませんか?」

「大したことじゃないんだけどな」

 

 一度だけコハルが転びそうになって、危うく彼女を支えたけど、壁ドンみたいなポジションになってしまっただけだが。

 

「怪我してないかって聞いても返事してくれなかったな。思わず焦り出したら、彼女が急に顔真っ赤になって逃げ出したんだよね。今考えてみるともしかして怒らせてしまったのか?」

「あらあらあら」

「あの、ハナコ……?」

「これはコハルちゃんに詳しく聞かないといけませんね、ふふふふふ」

「ほ、程々にしてくれると嬉しいな」

 

 その笑顔があまりに怖く、深掘りするのをやめた。

 こんな風にお話ししていたら、いつのまにか付近の商店街にたどり着いた。

 

「せっかくだし、行きたい店とかある? 付き合うよ」

「お恥ずかしいながら、この商店街に来るのは初めてなんです」

「えっそうなの」

 

 確かに、トリニティってかなりのお嬢様学校だし、校内の施設だけでも気持ちよく生活できる。

 外とあまり関わりのない子が居てもおかしくない。

 

「じゃあハナコに商店街を見せないとダメだな」

「私の初めて、先生に奪われてしまいました」

「き、聞かなかったことにするよ」

「先生のい・け・ず」

「困らせないでくれ……おっと」

 

 急に、前から猫人の子供が走って来た。

 ぶつかる前に優しく彼女を受け止める。

 

「ほらっ、人とぶつかったら危ないだろ」

「あわわ、ごめんなさい……あっせんせいだあ!」

「ははっ、魚屋さんの子じゃないか」

「せんせいはなにしにかたの? またおしごと?」

「そうだな、休みだからみんなと会いたんだ」

「ほんと! あそんでくれるの?」

「うん、お姉さんも一緒だよ」

「私もですか⁉︎」

「やった! わたしママにせんせいがきたっていいにくる!」

「もう、走ったら危ないぞ!」

「わかった!」

 

 こうして、彼女はまるで嵐のように去ってしまった。

 

「元気なんだな、どこの子どもでも」

「あの、先生」

「どうしたハナコ?」

「あの子は先生の知り合い?」

「この商店街に少しお世話をされてな」

 

 ハナコと商店街を回りながらよく行く店を教えることになった。

 

「この肉屋のコロッケは美味しいんだ」

「おや! 先生じゃないか! しかもトリニティの別嬪さんと一緒だ!」

「こんにちは親父さん」

「すげえかわいい子だな、あんたは先生の彼女さん?」

「えっかかか彼女ですか⁉︎」

「ちょっと親父さん、ハナコはただの生徒だよ」

「そんなこと言って、満更でもないだろ?」

「はいはい、すまないなハナコ親父さんはこんな人で……ハナコ?」

 

 ハナコの方を見ると、彼女の顔は下へ向いていて、体がふるふるしている。

 

「ハナコ? 大丈夫?」

「は、はい! そ、そうですね、先生と恋人になったら毎日⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎が……」

「ちょっと待ってハナコストップ!」

 

 一瞬体調不良にでもなったと思いきやいつものハナコだった。

 俺たちのやり取りを見て、親父さんは笑いながらなにかを取り出した。

 

「彼女さんが元気そうでなりよりだ! ほらよっ!」

「だから彼女じゃない……ってこれって?」

「出来たてのコロッケだ、彼女さんと一緒に食べな」

「ありがとう、ちょうど食べたかったんだ。えっとコロッケ二つは……」

「俺の奢りだ」

「えっ、ダメだよ! ちゃんと払うから!」

「いいっていいって! 俺みたいなおじさんのことより、彼女さんとデート頑張って」

「もう……分かった、お言葉に甘えるよ」

 

 親父さんの推しに負けた俺は、もう一つのコロッケをハナコに渡した。

 ハナコはちょっときょとんとしたようだ。

 

「店主さん、ありがとうございます」

「先生といいアンタといい今の子って固いな。こういう時はコロッケが足りないって強請るくらいでちょうどいいんだぜ」

「うちのハナコは律儀だからそんなことしないぞ」

「へいへい、お暑いぜ」

「今度はちゃんと買いに来るからな、じゃあ行こうハナコ」

「は、はい」

「毎度あり!」

 

 その後、俺たちはしばらく色んな店を回った。

 

「先生! 余ったからあげるよ」

「新鮮な野菜だ! 持って帰りな!」

「この前はありがとうさん、そのお礼だ。このネックレスは彼女に似合うぜ」

 

 通過した店はことごとくなにかを俺にプレゼントしに来るから、気づけば両手が一杯一杯になってしまった。

 

「すまないなハナコ、荷物持ちまでさせてしまって」

「私は平気ですからご心配なく。でも驚きました」

「うん?」

「先生って人気者なんですね」

「ははっ、大袈裟だよ。ただここのみんなが優しいだけ」

「そう……なのでしょうか」

「ハナコに物をあげる人もいたんだろ? 初対面の人にも優しいんだここは」

「うん、先生がそう仰るのなら」

 

 そして商店街を一通り回って、やっと魚屋さんまで辿り着いた。

 猫人の子が俺を見た瞬間、嬉しそうに俺を呼び掛けた。

 

「せんせい! こっち! ママ! せんせいがきたよ!」

「あら本当?」

 

 店の中から店主のお姉さんの声が聞こえた。

 そして中から二人の女性が出て来た。

 

「先生いらっしゃい」

「こ、こんにちは、なのです!」

 

 一人は店主の猫人お姉さん。

 もう一人は、

 

「正義実現委員会の方、ですか?」

「そうだよ」

 

 この商店街で知り合った正実の子であった。

 

「部活はどうだった?」

「先生のおかげでうまくいけてる、なのです!」

「ははっ、それは良かった」

 

 彼女はどうやら魚屋の手伝いをしているらしい。

 健気な姿を見て、思わず彼女の頭を撫でたくなった。

 

「よく頑張ったな」

「えへへ」

「ん……」

 

 隣にいるハナコは、なぜか不満そうな声を出した。

 

「ハナコどうした」

「なんでも、ありません」

 

 すると正実の子はさっきまでハナコのことに気付かなかったみたいで、驚いた。

 

「ハナコ……? ってハナコさん⁉︎」

「ハナコとは知り合い?」

「違うのです! ただ、ハナコさんはトリニティの中でも有名人で……」

 

 彼女はもじもじしながら、気まずそうに言う、

 

「私なんかがと一緒で、畏れ多いと言いますか……」

「え? どうして?」

 

 ハナコの方を見ると、彼女の顔は少し暗かった。

 

「大丈夫、私は気にしていませんから」

「気にしていませんって、君……」

 

 ハナコは打ち解ける気がないみたいだ。

 だけどお互いのことを嫌っているわけではないようだし……。

 トリニティ内になにが起きたのかが分からないが、普段元気なハナコのこんな姿はよろしくなかった。

 俺はハナコの腕を掴み、隣まで引っ張った。

 

「すまんハナコ」

「えっ先生⁉︎」

「確かにハナコは綺麗で美人だけど、怖い人じゃないんだよ」

「そう、なのですか?」

「ハナコも! ちゃんと話せば相手もきっと分かるよ!」

「ですが……」

 

 無理矢理二人を面と面を合わせて、話し合いをさせる。

 

「とりあえず挨拶してくれないかな?」

「こ、こんにちは……」

「こんにちは、なのです」

 

 ううんやっぱりじれったいな、これをどうすれば?

 すると猫人の子が不満そうに走って来た。

 

「おねえちゃんたちなにしてるの! はやくあそぼう!」

「ごめん、今行くね」

「でかいおねえちゃんもいっしょにあそぶの!」

「はい⁉︎」

「子どもが頼んでるんだ、ハナコも行っておいて」

「せんせいもくるの!」

「ははっそうだった、一緒に行こうハナコ」

「分かりました……」

 

 こうして、俺たちはしばらく一緒に遊ぶことになった。

 そして時間が過ぎて、俺がそろそろシャーレに戻る時間になった。

 

「まだ今度遊ぼう!」

「せんせいとおねえちゃんバイバイ!」

「ハナコさん! 良かったらまたお話ししよう、です!」

 

 ハナコも、二人に向かって手を振った。

 

「今日は楽しかったな、ハナコはどうだ?」

「そう、ですね」

「どうした?」

 

 さっきまで子どもと楽しく遊んでいたはずのハナコは、なぜか切なそうな顔をしていた。

 

「もしかして、さっき無理をさせてしまったか?」

「そんなことはありません」

「そ、そっか」

「どうしたんですか? 私は元気いっぱいですよ! ほら今でも⬛︎⬛︎⬛︎が……」

「ストップストップ! 今は街中なんだぞ!」

 

 ハナコはそんなことを言っているが、どう見てもから元気にしか見えなかった。

 どうしよう、なにがダメだったのか全く検討もつかない。

 せめて彼女の元気をつける、なにかの材料探して周りを見渡す。

 隣の壁に貼ってあるチラシが目に入った。

 

「へー、ここあたりの公園で桜が咲くらしいよ」

「本当ですね」

「しかも特殊な品種で、キヴォトスではここにしか植えてないみたいだ」

「そうですか、桜……」

 

 すると、ハナコはなにかを考え始めた。

 

「どうした?」

「先生は桜が好きなのでしょうか?」

「そうだな、結構好きだ、風流だし心を癒すし」

「桜色をどう思っていますか?」

「桜色? そりゃ綺麗だし好きだと思うよ」

「知ってますか、先生?」

 

 ハナコは、微笑んだ。

 その表情と声から、俺は魅惑的ななにかを感じた。

 彼女はそのまま前屈みし、手で俺の胸元をなぞる。

 逃げたいが、ちょうど壁の方に背中を向けているから逃げられない。

 

「ハナコ⁉︎」

「桜色がするものって、桜の花だけじゃありませんよ」

「ちょ、近い!」

「例えば、女の子の、あそことか」

 

 ハナコの下ネタはいつものことなのに、なぜか今回だけハナコからの圧というか、心を揺さぶるなにかが強く、反抗しようとしても頭がうまく回らない。

 

「桜の木の下に咲く、もう一つの桜色。もちろん、咲く方法は、は・だ・かで、です」

「君なにを言って⁉︎」

「このままだと、私は裸になっちゃいますよ、公園で。先生は私を阻止しなければなりません」

 

 彼女はもう一度、コートをずらした。

 俺は余裕がなさすぎるあまりに、目を閉じることしかできなかった。

 

「そ・れ・と・も」

 

 彼女は俺の耳元で囁く。

 

「一緒に服を、脱いでくれますか?」

 

 彼女の魅惑の囁きに、俺は……。

 

「このバカ!」

「あいたっ!」

 

 俺はハナコの頭に向かって軽くチョップした。

 

「どうしてですか先生!」

「こっちのセリフだ! 女の子は気軽にそんなこと言うんじゃない!」

 

 彼女へのドキドキより、怒りが勝ってしまった。

 

「水着はまだしも、裸は絶対にダメ! ハナコはかわいいんだから、危ない人になにかされたらどうする!」

「か、かわいい……」

「ハナコになにがあったら、俺は耐えられないし、補習部のみんなだって悲しむんだぞ」

「はい……」

「今度また同じこと言ったら怒るぞ! すっごく怒るぞ!」

「今も怒っているんじゃないですか」

「ハナコ」

「すみません」

 

 怒られたせいか、ハナコはしょんぼりした顔になった。

 こんな顔するなら、もうちょっと節度を持ってくれればいいのに。

 俺は、ハナコの頭を撫でる。

 

「全く」

「先生?」

「裸になるのは絶対無理だけど、桜を見るだけなら大丈夫だから」

「えっ」

「ここの桜が咲いたら、俺はハナコと一緒に見に行きたいな」

「本当、ですか?」

「うん、ハナコの桜色の髪に合わせて、桜の花もきっともっと綺麗に見えるぞ、ハナコだけに」

「……」

 

 あれっ、小ジョークを言ったつもりだけど、なんか反応がない。

 やばい、これは絶対滑ったやつだ。

 

「あの」

「……」

「ハナコ、さん?」

「……行きましょう!」

「えっ」

「絶対行きます! 二人で、一緒に! 桜を見に行きましょう!」

「は、ははっ、約束するよ」

 

 ジョークが完全に無視されてしまった。

 ま、まあ、ミスター・三流コメディアンと言われるよりはマシなのかもしれない。

 ……。

 やっぱりショックだわ。

 でもハナコは元気を取り戻したみたいだし、これでハッピーハッピーってところ。

 桜の力ってすげえ。

 そして、俺たちはトリニティの校門まで戻った。

 

「今日は楽しかった」

「先生、コートは」

「今度ちゃんとした服を着ている時に返してくれると助かるよ」

「分かりました、じゃあ綺麗に洗ってお返ししますね」

「えっ、洗えるのかな?」

「心配いりません、新品同然なクオリティにしますから」

「ははっ、それは楽しみだ」

 

 そろそろお別れを告げるようとすると、ハナコは突然言い出した。

 

「先生、聞きたいことがあります」

「どうしたいきなり」

「先生はどうして、私の露出を見逃してくれたのでしょうか?」

「えっ」

 

 そんな覚えは全くないけど。

 

「もし先生がその気なら、私にもっと厳しくすることだってできるはずです。ですがさっきも、『水着はまだしも』とおしゃいました」

「……」

「先生のお考えが、知りたいです」

 

 俺の考え……っか。

 

「確かに、最初はハナコの露出に困っていた。できれば阻止したいと思った。だけど」

「だけど?」

「きっと、ハナコにとって、露出はなにか大事な意味があるんじゃないかって、なぜかそう思ったんだ」

 

 ハナコは賢い。いつも奇行をしているように見えるが、その裏ではいつも周りの人を心配している。

 俺といい、補習部のみんなといい。

 だから俺はハナコを信じる。

 

「もしハナコにとってそれが必要なら、俺はそれを応援したい」

 

「もちろん真冬で水着とか、さっきみたいに裸になるとかは応援できない」と補足する。

 

「限度のある範囲でハナコがやりたいことをやるなら、俺はそれに全力で応じたい」

「先生は、本当にすごい人です」

「そ、そうかな?」

「私のことを、こんなに思ってくださって」

「ははっ、そうなんだ」

 

 やばい、褒められてめちゃくちゃ恥ずかしい。

 

「そう思ってくれるのは嬉しいけど、俺はそんな立派な人じゃないだよ」

「そうでしょうか」

「このスーツを脱げば、ただの人並みの凡人なんだ」

「……ふふ、そうですか、ふふふ」

 

 俺の話を聞いて、ハナコはなぜか笑った。

 そして、

 

「先生」

 

 ハナコは俺を見つめて、

 

「ありがとうございます!」

 

 今日一番眩しい笑顔を見せた。

 

「そう言ってくれて嬉しいよ、じゃそろそろ時間だから俺帰るね」

「分かりました、また今度」

「うん、桜も見に行こうな!」

 

 よしっ、ハナコと楽しく話せたな。

 こうして、ハナコとの散歩は終わった。

 社用車に戻り、俺は力が抜けた。

 

「疲れたーっ」

 

 ハナコと一緒にいるだけで、心臓がバクバクする。

 コハル、俺にも分かったよ、君の気持ち。

 なにより。

 

「すごい笑顔だったな」

 

 最後の笑顔は、今日で一番ドキドキした。

 もし283プロに戻れたら、彼女をスカウトできないかな?

 そんなバカなことを考えながら、俺は帰路についた。

 ちなみにその後本当に新品並みの綺麗なコートが返された。

 

——————————————-

 

 私は先生のコートを抱き締めながらベッドでゴロゴロしていました。

 

「先生の、匂い」

 

 先生は本当に不思議な人です。

 大人なのに、真っ直ぐで、優しくて、キラキラで。

 商店街の時は、本当にびっくりしました。

 みんなから愛されて、遠慮なく接してくださって。

 私の欲するものを、先生はまるで生まれながらにして持っていました。

 そしてあの正実の子と出会いました。最初はぎこちなかったけど、最後は仲良くなれました。

 彼女の言葉は、忘れられそうにありません。

 

『先生と知り合ったのは、ここで起きた事件がきっかけなのです。この商店街が襲われて、私たち正義実現委員会は手助けしたのです。だけど私が足手纏いなせいで、犯罪者を逃してしまっただけでなく、この魚屋さんを破壊してしまったのです。ただでさえ戦うのが下手なのに、もう人生の終わりだと思ったのです』

 

『先生は偶然この作戦に巻き込まれたのです。被害者なのに、私を庇ってくれたのです。一緒に商店街のみなさんに謝って、一緒に怒られて、店修復の手助けをしてくれたのです。しかも先生は教えてくれたのです、たとえ戦うことができなくても、人助けでみんなを笑顔にできるのなら、それも立派な正義実現委員会の一員であることを。お陰さまで今は商店街のみなさんと仲良しになれたのです』

 

 先生は失敗を愛嬌に変えて、困難を乗り越えて、そして一人の少女を助けました。

 私がどうしてもできなかったことを、簡単に成し遂げました。

 混乱しました。私と先生の差は一体なんだったのでしょうか、なんで私は先生になれなかったのでしょうか、頭がぐちゃぐちゃになった。

 先生もきっと私のように薄暗い思いを持っているはずです、完璧な白のはずがありません。

 暴走した結果、先生に怒られました。

 今思い返してみては恥ずかしさのあまり穴にでも入りたい。

 だけど、おかげで私はようやく分かったのです。

 

『ここの桜が咲いたら、俺はハナコと一緒に見に行きたいな』

 

 先生に呼ばれることが、悶絶するほど嬉しかったです。

 結局私はただ、先生と一緒に桜を見たかっただけでした。

 回にくどいことを言い出して、その目的はただの一言。

 私は、もっと素直になるべきでした。

 ただただ素直でいてくれただけの先生のように。

 人と関わることを恐れすぎて、素直になる方法を忘れ去られました。

 だから、先生と別れる前に、一度だけ素直になることにしました。

 先生との心の距離が、近くなった気がしました。

 

「スーツを脱げば、ただの人並みの凡人、ですか」

 

 本当に、おかしな言葉ですね。

 私は先生に丸裸にされました。

 今度は先生がスーツの下を、たっぷりと見せてくださいね。

 

 

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