シャニPはキヴォトスで先生になる   作:Optimum Pride

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カズサにマフィンを振る舞う

 今日の当番はカズサだ。

 せっかくなので、俺は久しぶりに、

 

「……ん〜ん〜……こんがり〜焼いたら〜」

 

 マフィンを作ることになった。

 カズサがいつも美味しいお菓子をお裾分けしてくれるから、たまに俺の方からなにかをあげようと思って。

 よく観てた料理番組の曲を歌いながら、材料を混ぜ合わせる。

 

「ほっぺが落ちちゃう〜とろけちゃう〜」

 

 カズサが喜んでくれる姿を想像すると、テンションが高くなり、手順の一つ一つが楽しく感じる。

 

「ちゃ〜う、ちゃうちゃう〜ちゅ〜みんぐ、ク〜ッキ〜ング……」

『カチン』

 

 おっと、先に焼いた分のマフィンが焼き終わった。

 カズサだけじゃなく、スイーツ研究部や他の生徒にも分けようと思って、多めに作ったんだ。

 オーブンからマフィアを取り出すと、一見いい具合に出来上がっているように見える。

 

「わー、いい香りー」

 

 よしっ、これなら抜け目がないな。かんぺき!

 カズサが来るのが楽しみだ。

 

『ピン』

 

 スマホから着信通知音が鳴った。

 カズサからのモモトークだ。彼女になにかあったのだろうと考えながらアプリを開くと、送られてきたのが動画ファイルであった。

 道中にかわいい猫でも見つけたのかな? 動画を再生する俺。

 

『わー、いい香りー』

 

 さっきまでの俺の後ろ姿が映っていた。

 

「……」

 

 震えながら後ろへ振り向く。

 キッチンの外には笑いながら手を振っているカズサがいた。

 

「やっほー先生」

「……」

 

 冷や汗が止まらない。

 まさか生徒にこんな気の抜けた姿を見せてしまったなんて。

 

「いや、カズサ、聞いてくれ」

「いえいえ、私のことを気にせずに」

 

 その笑顔をどうやって気にしないって言うのだ。

 

「カズサがいつもお菓子をお裾分けしてくれるから、俺の方からお返ししたいって思っただけで……」

「ふうん、そうなんだ」

 

 カズサはスマホを操作する。

 

『……ん〜ん〜……こんがり〜焼いたら〜』

 

 彼女のスマホから俺の歌声が再生された。

 

「可愛かったね、先生」

「いつから……そこに……?」

「20分前から?」

「え⁉︎ いるならいるって言ってくれよ……」

「ははは、ごめんね」

 

 気が抜けすぎてカズサのことに全く気づかなかった。

 

「は、ははっ……」

「先生が可愛すぎて、夢中になってちゃった」

「あの、カズサさん」

「こんな先生を私だけ独り占めるのもなんだし、スイーツ部のみんなに拡散しちゃおかな?」

「どうか、許してくれないか?」

「それはねー」

 

 カズサ、こわいからその笑顔やめてくれ。

 

「私の言うことを聞いたくれるなら、やめてあげてもいいけどー」

「できる範囲なら、なんでいい、よ?」

「自分からそれを言っちゃう?」

 

 見てくれ霧子、ここにも摩美々がいたんだ。

 キヴォトスでの生活は短かったけど、楽しかったなぁ……。

 

「焼くなり煮るなり好きにしてくれ……」

「もう先生ったら、スイーツが好きだからって先生を食べたりしないよ」

「俺、スイーツと同じ扱いなんだ……」

「じゃあ……」

 

 カズサは俺の方に寄せる。

 お互いの距離が0までに近くなり、彼女は上目遣いで俺を見つめる。

 彼女から焼きたてのマフィンに負けないくらいのいい匂いを感じる。

 

「ち、近い」

「なに? 恥ずかしがってんの?」

「違うから距離を」

「センセイ」

「ぴぃ」

 

 耳が弱いから囁かないでくれ!

 このままだと、本当にカズサに食べられてしまう……!

 捕食される前のうさぎのように震えていると、カズサは耳元で呟いた。

 

「私と一緒に」

「ん……」

「お茶会しよう」

「えっ」

 

 俺の声を聞いて、カズサは俺から離れてケラケラと笑った。

 

「ははは、間抜けた声」

「え、え、すまん」

「なに謝ってんの、ははは」

「あの、カズサ?」

「ははぁ、なーに?」

「それだけでいいの? 要求」

 

 混乱極まりない俺がそう聞くと、カズサはまた笑いそうな顔になる。

 

「それでいいよ」

「お茶会くらいなら頼まなくても」

「そもそも先生はやましい事なにもしてないじゃん、私が勝手に動画を撮っただけだし……それとも」

 

 カズサは俺に近く、

 

「私に、いじられたいわけ?」

「ちょっとカズサ!」

「おっと、先生はドキドキした?」

「大人を揶揄うじゃない」

「ははは、ごめんごめん」

 

 今の若い子は元気だなって思いながら、俺はため息をついた。

 

「分かった、お茶会にしよう。元からそのつもりだし」

「やった!」

「食材の片付け手伝ってくれるかな? 後で使うから」

「任せて」

「はぁ……」

 

 やけに嬉しそうなカズサを見て、俺は怒りたくても怒れなかった。

 片付けが終わった後、俺たちは休憩スペースの方でお茶会を始めた。

 休憩スペースは283プロ事務所を参考にしたもので、ソファの前には小さなローテーブルとテレビが置いてある。

 ソファの隣に座ってるカズサは用意したマフィンを一口食べた。

 

「マフィンはどうだった?」

「すっごく美味しい! 先生はパティシエの才能があるんだね」

「ははっ、ありがとう。でも上手なのは才能とかじゃなく、ただスイーツをよく作ってただけなんだ」

「よく作ってた?」

 

 なぜかカズサの声のトーンが低くなり、俺をジト目で見据える。

 

「私、先生がスイーツ作れるなんて今日初めて知ったんだけど」

「ここでのお菓子作りは初めてだからな。外の世界に居た頃はよく知り合いの子たちに作ってあげたけど」

「知り合いの子たち?」

 

 みんないつも気持よく食べてくれるから、気付けば上手になったんだ。凛世と透と甘奈は俺のスイーツに目がないみたいだし、円香にもミスター・パティシエって怒られたな。

 

「カズサにだけ隠してたわけじゃないんだ、ごめんね」

「その知り合いたちって、全員女の子?」

「よく分かったな、そうだよ」

「まさか先生」

 

 カズサはスマホをいじって、

 

『ほっぺが落ちちゃう〜とろけちゃう〜』

 

 俺の歌声を再生した。

 

「わー! わー! わー!」

「彼女たちにも聞かされてないよね?」

「再生止めて! 頼む!」

「はいー」

 

 再生を止めてくれたけど、彼女は不機嫌そうだった。

 

「心臓が爆発しそうだよ……」

「って、結局どうなの?」

「そこはちゃんと弁えて……あっ」

 

 俺、円香にめちゃくちゃ揶揄われたことがある。

 

「一回だけあった、しかも今みたいに動画撮られたな」

「はぁ‼︎」

「うわっカズサ⁉︎」

 

 カズサが大声出したと思いきや、めちゃくちゃ顔を詰めて来た。

 

「あんな姿を、女の子に見せたの⁉︎」

「は、はい、やはりだらしなすぎたのか?」

「ちがーう!」

 

 なななななに、目が血走っているぞカズサ⁉︎

 

「ちなみにあの女の子とはどんな関係?」

「関係……?」

 

 俺と円香の関係。

 プロデューサーとアイドル……いや状況をややこしくしそうからやめよう。

 仲間、友達……いや円香は絶対にそれを嫌がる。

 

「ビジネス……パートナー?」

「ふうんー? 随分考えたじゃん」

 

 どうやら俺の答えに納得していないようだ。

 

「まさか彼女とかじゃないよね?」

「違うよ、彼女俺のことが嫌いだから」

「嫌いなのに先生の料理姿を録画した?」

「ははっ……なんでだろう」

「怪しい」

「本当だって」

 

 カズサはため息をついた後、「絶対心が弄ばれてるパターンじゃん」と呟いた。

 

「そりゃ動画を撮りたくなるわ、これは先生がよくないね」

「分かってる、ちゃんと反省するよ」

「なにも分かってない! あのな!」

「はい?」

「先生がこのままだといつか襲われちゃうよ!」

「えっ」

 

 襲われる? どういう意味?

 

「それってどういう……?」

「頼れる大人の男性がこんな抜けた姿を見せられたら、私じゃなかったら先生を襲ったよ!」

「まど……彼女に襲われてないけど?」

「いーやあの子は絶対苦労した!」

「というか襲われるってどういう意味だよ!」

「ふん、とぼけちゃって」

 

 カズサは両手を俺の肩に置く。

 

「今から少し力を入れれば、先生を押し倒せるんだよ」

「そんな冗談はよくないぞ」

「冗談じゃない」

 

 彼女の目は、とても真剣だった。

 

「本気だよ」

「……」

「先生がそんな言動したら、いつか押し倒されるよ」

「……」

「言うべきことあるでしょう?」

「カズサ、ごめん……」

「よく言えました」

 

 カズサはひと安心したようで、手を肩から離してマフィンを食べ始めた。

 

「本当に、先生ったら」

 

 正直、俺は今でも襲われることの真意が分かっていない。だって俺を押し倒してもなんにもならないし。

 だけど、カズサがそこまで真剣になってくれたんだ。

 

「ありがとう、カズサ」

「えっ、いきなりだね」

「俺のことを心配してくれて」

「別に、ただの当たり前のことを言っただけだし」

「カズサは優しい女の子だな、そういうところ俺は好きだぞ」

「それはどー、はっ?」

 

 瞬間、彼女のマフィンを食べる手が止まった。

 

「今、なに言った?」

「カズサは優しい女の子だなって」

「違う、その後」

「俺はカズサの優しいところが好きだって」

「ーーーっ!」

「どうした」

 

 俺の答えを聞いた途端、カズサはブルブル震える両手で顔を覆う。

 

「えっ⁉︎ 大丈夫⁉︎ 俺のマフィンでお腹壊した⁉︎」

「こいつ……! 本当……! 襲う……!」

「えっなに⁉︎ よく聞こえないぞ⁉︎ 大丈夫か⁉︎」

「先生のバカ……!」

 

 うっ……しまった。他のことを言うべきだった。

 その後も、カズサは終始不機嫌そうだった。

 罰として今度の休みに一緒にスイーツデートをしろと言い渡された。

 ちなみに俺が「罰なんかしなくても言ってくれたらいつでもカズサとお出かけするぞ」と言ったら、彼女はさらに不機嫌になった。

 女心は難しい。

 

————————————

 

 我慢できた私は偉すぎる。

 今日のことを振り返った私はこの結論に辿り着いた。

 

「先生のにぶちん野郎……!」

 

 女の子たちを誘惑して、しかも自分の行為に全く自覚がない。

 あんなイケメンが子どもみたいにはしゃぐ姿を見せられたら、女の子だって狼になっちゃうよ。

 しかもキヴォトス外にもライバルがいるなんて私聞いてないよ!

 でもおかげでデートの約束が出来た。ある意味今日一番の収穫である。

 

「今度のデートで絶対に先生を堕としてやる!」

 

 結果、私は寝る時間までひたすらデートのためのコーデを研究したのであった。

 

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