「私と契約して、魔法少女になってよ!」
………。
……………?
「いや、私ももう46歳のおじさんだからね。魔法少女にはなれないと思うよ」
「いや、わたしもなれるかどうか分かんないけどさ!?やってみようよ!」
おねがいだよ~。とすすり泣く魔法の杖。
この世にはとりあえずで結んだ契約でたいへんなことになってしまう人もいるのだ。
というかアニメではその台詞で契約を結んだ人がたいへんなことになってしまったような。もう観たのはずいぶんと前だからはっきりと覚えていないが。
「ね~。おじさん!一回!一回だけだから!お願い!!」
「ダメです。得体の知れない杖とは契約は結べません」
「そんな~!」
ひゅんひゅんと私の周りを飛び回る杖がお願いしてくるがお断りする。
ダメなモノはダメ。嫌なモノは嫌と言えるようにならないと社会に出て大変な思いをするのだ。
「他の人に頼んでみたらいいんじゃないか?」
魔法少女になるのが夢って女の子も少なくないだろうし。
「なんでか分からないけど他の人には私の姿は見えないんだよ~!」
「む」
たしかにやっと私の姿が見えたとか言っていた気がするな。
「ねー!おじさん!話を聞くだけでもいいから!」
「……わかった。話を聞くだけだよ?」
「……うん!おじさん!」
話を聞くだけでいいならその方がいいだろう。このままずっとついてこられても困る。
ひとまず嫁にやっぱり今日は遅れると連絡を入れてから近くの公園に向かう。
この時間なら子供はいないだろうし話をするのにはもってこいだ。
自販機で缶コーヒーをかった後ベンチに腰を下ろす。
「それじゃあ話を聞かせてくれるかな」
「うん!えっとねー…………」
話を要約するとだ。
かつて獅子宮芽依は魔法少女だった。腕には自信があり、魔法少女の誰が最強なのかという議論があれば必ず名前が挙がるくらいには強かった。その強さが邪魔だったらしく悪の組織の幹部の一人が【封印】の力を持っていて、その身と引き換えに獅子宮をこの『魔法の杖』に封じ込めたらしい。その姿になってから人々の記憶や記録から獅子宮芽依の存在が消えて、周りの人から姿が見えなくり声も聞こえないようになってしまった。それからは様々な場所を訪れて自分のことが見える人を探していて、とうとう今日私という獅子宮が見える男が現れた、と。
「その話を聞いて思ったのだけれど、どうして私には見えるのかな?」
「それは、私にもわかんないよ~。おじさんが特別だからじゃない?」
「特別……」
私はふつうのおじさんなんだけどなあ。
「でも、契約して魔法少女ってのはどういうこと?」
「う~ん、わたしの感覚的な話になるんだけどね?わたしの内側から魔法少女のパワーを感じるの。だけどどうやってもその力を使えなくてね。これは一人じゃ無理だと思ったから誰かの力を借りたいんだよ」
「そういうことならーーーーーー」
――――――私が手伝えるのなら手伝おうか?
それを言葉にしようとしたとき近くから爆発音が響いた。
「爆発!?」
「近いね。おじさん、行ってみようよ!」
「あ、こら!待ちなさい!」
ピューと飛んで音がした方向に向かう獅子宮を追いかけた。
音の発生場所は近かったのですぐに目的の場所までこれた。
「ま、魔物だーー!!また魔物がでたぞ!!」
「はやく、はやく避難を!!」
「まって、まだ子供が……!」
見ると、先ほどと同じケモノ型の魔物がいて、近くには子供が倒れていた。魔物はまだ子供には気づいていないようだが気づかれては一巻の終わりだろう。白薔薇と黒薔薇、2人の魔法少女のコトが頭をよぎったがあの2人も魔物退治にいったので、いつこちらに戻ってこれるか分からない。
「獅子宮くん!」
「おじさん!どうしたの!?」
「君ならーーーーー君なら、この状況をどうにかできるかい!?」
「―――!!おじさんが協力してくれるなら!できる、かも!」
「そうか!では頼んだ!」
どうにかできるかは分からないが子を持つ親として指をくわえたまま静観するわけにもいかない。どうにかできるかもしれないのなら、行動しない手はない。
獅子宮ステッキが私の手に収まる。
「……!!これは!!おじさん!」
「ああ!」
「私に続いて!『変身』!」
「変身!」
そう口に出した途端、ステッキからとんでもないエネルギーが私の中に流れ込んでくるのを感じた。謎の光に包まれ、私のスーツが溶けていく。肉体にエネルギーが宿るのを感じながら手の先、足の先から新たな服が生成されていく。気がつけば可愛らしいフリルなデザインのスカートと衣装にチェンジしていた。
「『獅子の様な熱い心でみんなを照らす!魔法少女ライオンハート!参上!!』」
口が勝手に開き、喋っていた。というか私の声が私の声ではなく、女の子の声になっていたような……というか、ライオンハートはリチャード1世のことだが……。とかツッコミを考えていたが、感覚がおかしい。身体が軽い……?
身体を見下ろすと私の姿はスーツ姿ではなくライオンをイメージとした魔法少女のドレスへと変貌していた。いや、変貌を遂げていたのは服だけでなく、身体が……私の身体が女の子になっていた……!!
「どうなってるんだ………!?」
(おじさん!そんなことより今は子供を!)
そうだった。今はそんなことを思っている暇などない!
子供を助けるために魔物へと一歩踏み出すーーーーー。
「――――うわっ!!」
あまりの加速に止めることができず、そのまま魔物へと突っ込んだ。魔物との距離が一瞬で近づく。
(このままじゃぶつかる……!)
魔物とぶつかるのはいいとしても魔物を突き抜けてそのまま壁とぶつかる。なんとかとまろうと急ブレーキを掛けるが止まることができず魔物を吹き飛ばし、壁と激突した。
「いたっ……くはないのか……?」
(おじさん!魔法少女は魔力によって身体能力が上がってるし、ある程度は攻撃も効きづらいよ!)
なるほどなあ。
と、関心している場合ではない。倒れた子供を安全な場所まで運ぶと魔物と向き合う。先ほどぶつかったダメージが効いているようで睨むようにこちらを見ている。
軽く身体を動かす。
軽い。
中年の自分の身体は思うように上手くいかない。転んでしまう中年の多くは若い頃の動ける自分をイメージして身体を動かすがイメージに身体がついてこないから転んでしまうのだ。
IT技術者として分析するのは得意だ。先ほどの身体の動きから逆算して動きをイメージする。私に武術の経験など無い。
だから、蹴るだけだ。まっすぐ行って蹴り上げる。
「フッ………!」
先ほどとは違いコントロールされた速度で接近する。それでも速いが。
そのまま反応が遅れた魔物を蹴り上げる。
「GUGYA!?」
蹴り上げられた魔物はそのまま霧となって消えた。
これで……!
(油断しないで!もう一匹いる!でっかいの!)
「!!?」
ビルとビルの間からゴーレムのような魔物が手に持った棍棒のようなもので攻撃してきてたので咄嗟に避ける。
「あぶないなあ!」
(おじさん!おじさんは今わたしの身体を動かしてるの!変身直後とかの台詞とか今の回避だってそう!おじさんは知らないかも知れないけど私の身体が戦い方を覚えてる!信じて!!)
「……!わかった!やってみよう!」
流れ込んでくる感覚に抗わない。手をグッと握って地面を蹴って飛び上がった。そのままゴーレムの顔に向かう。
(いくよ!必殺の!)
「ライオンパンチ!」
拳から放たれた一撃は容易くゴーレムを吹き飛ばした。ゴーレムはそのまま地面と激突して霧となった。
「勝った……んだよね……」
(やったね、おじさん!初勝利だ!)
手にジンジンとした殴りつけた感覚がある。
ふとあたりを見回すと避難は完了しているようで誰もいない。
魔法少女の2人は他の場所で戦っていたのかこちらには来なかった。
だから、私が戦ってよかったのだろう。と、謎の達成感がこみ上げてくる。
この日。
この街に新たな、3人目の魔法少女が誕生したのだ。
【獅子宮芽依】
かつてどの最強ランキング掲示板にもトップ3入りを果たしていた実力者。
自分の名字にもあるしかっこいいのでライオンが好き。自身の部屋にはライオンの抱き枕がある。
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