拳藤一佳という少女と初めて出会ったのは、たしか始業式が終わって少し経った日だったと思う。
「はいこれ、取れましたよ先輩」
飲み物の自動販売機の下に落ちた500円玉。
指が届きそうで届かない微妙な位置。
奥に転がってしまい取るのに難儀していたところ、通りががった彼女が親切に個性で取ってくれたのが出会いだった。
個性《大拳》
手を少し大きくした彼女は、膝が土で汚れるのも全く気にしないかのようにさっと硬貨を拾ってくれた。
「ありがとう助かったよ」
「いえいえ、お役にたてたなら良かったです。これでも私ヒーロー見習いなんで」
そう言って、イタズラっぽく笑う。
恩着せがましいところの感じられないさっぱりしたいい笑顔だった。
取ってもらった硬貨をそのまま自動販売機にいれ、目当てのものを購入する。
ガコンっ
「あ、クラフトボス ブラック!」
ペットボトルに入ったブラックコーヒー。
取り出したそれを見て、彼女は思わず出てしまった!という声をあげる。
「それ美味しいですよね、私も売ってるのだと一番それ好きです。へーこの学校自販機でコレ売ってるんだラッキー!」
「へえ、確かに美味いよなコレ」
実は売ってるのだと俺も一番コレが好きだった。
昔から続くロングセラー商品で、俺以外にも愛飲者が多いようだった。
「あ」
そこで今さらながらに彼女は
「私はこの春ヒーロー科に入学した1年の拳藤一佳です。よろしくお願いします」
そう言えば名乗ってなかったな
「2年の経営科、
これが拳藤との出会いだった。
広く人も多い学校なので、出会ったといってもそれきりになるだろうとも思っていたのだが、結論そんな事にもならなかった。
これ以降、このクラフトボス ブラックの売ってる校内自販機の辺りでちょくちょく出会い話をする仲になるのだから縁というものは不思議なものだ。
ちゃっかりした彼女は中間や期末の過去問など持ってないかなど聞いてくる。
他ヒーロー科の実技試験は去年どんなのがあったか知っているか?など。
まあそれは少し未来の話となる。
その後少し会話し、クラスの友人に呼ばれた拳藤と別れる。
未来は希望に満ちている。
そんな輝くような前向きな力強いエネルギーを拳藤からは感じる。
それは彼女だけでなく、彼女の友人達も。
それどころか極論言ってしまえばこの学校の生徒全てから感じるものだ。
未来は無限に広がっている。
輝くような未来が。
自分はどこへでも飛んで行けるのだと。
俺以外の全ての生徒が、そう思い通うのがこの雄英高校だ。
俺だけだ。
俺だけが、違う。
この学校で俺だけが異質だった。
俺は何処にもいけない。
飛んでいくことを望めない。
未来へ羽ばたくことは、出来ない。
望んではいけないのだ。