「先輩。去年の1年ヒーロー科の期末試験の実技試験の内容とかご存知ですか?」
日々が過ぎ、7月になった。
いつもの校内の自販機の前。
拳藤とタイミング良く会ったので、毎度毎度の世間話を軽くしている。
「1年の期末か…確か入試の時と同じロボット倒すやつだった気がするけど」
「そうなんですね。それなら多分皆ちゃんと頑張ってるし何とかなるかな?」
「甘いぞ拳藤。最近色々イレギュラー多いから、相澤先生辺りが多分もっと実戦的な内容に変えてくるんじゃないか?」
「…あー、確かにそれめっちゃありそう…」
あーそんな楽させてくれないか…と拳藤は天を仰いだ。
「ま、頑張れよ」
「そういう先輩はどうなんですか?期末試験」
「んー…まあ何とかなるだろ」
「うわ…流石2年経営科のトップ…余裕ですね」
「そーでもないが、まあ他に特技や趣味もないし、せめて勉強くらいはな」
俺達3人はそれぞれの記憶の共有は出来ない。
それぞれの人格で経験した記憶を引き継ぐことは出来なかった。
ただ、体験した経験や記録は引き継ぎが出来た。
俺の勉強や、ジュートのトレーニングやボクシングがそうだった。
俺が勉強を頑張れば、後の2人にその知識を引き継ぎ出来る。
俺が今勉強を頑張っている理由である。
「そういえば先輩の趣味って聞いた事無かったですね」
小首をかしげ問うてくる拳藤。
「別に趣味らしい趣味と言えるものは…あ」
「?先輩?」
「あったな趣味。コーヒー淹れることかな」
元々勉強でブラックコーヒーを良く飲んでいた。
そこに弟達がドリップコーヒーのセット一式をプレゼントしてくれた。
やってみるとアレは非常に奥が深い。
色々豆だとか挽き方とかお湯の注ぎ方や温度など気にする事が多い。
今は動画で色々検索することも楽なので、色々調べながら試行錯誤し楽しんでいる。
これは趣味といってもいいだろう。
そんな事を拳藤に話すと、
「えードリップコーヒーの道具一式揃えてるんですか!いーなー羨ましい!結構高いですよね全部揃えると」
「あー…まあそうかな」
実際は弟たちが買ってくれたので知らないけど。
「いーなー…家で豆を挽いてから飲むコーヒーって憧れるなあ…」
そこで、あっ!と彼女は思いついたように、
「先輩!今度先輩の淹れたコーヒー飲ませてください!」
「そりゃなんというか…男の1人暮らしの家に来るつもりか拳藤…」
「あ…そうですね…流石に良くないですねすみません…」
「…まあ、何か機会があったらな。一応覚えておくよ」
「…そうですね。私もその機会を楽しみにしてます」
「それまでは頑張って期待に応えられるようなコーヒーを淹れられるよう練習しとくさ」
…出来れば、俺がいる間にその機会があるといいんだが。
「あはは!じゃあ期待してますね!私は何かお茶請け考えておきます!」
そんな俺の内心も知らず、拳藤は楽しそうに笑った。
俺という人格が居なくなったら、彼女はどうするだろう?
もしかしたら泣いてくれるだろうか?
ふと、そんな事を思ってしまう。
…ダメだ。らしくない。
未練らしきものを、俺は持ってはいけない。
そんな7月のある日。
もうすぐ期末テストが始まり、終わる。
そうすると夏休みだ。
あっという間の一学期だった。
俺の残りの学生生活も、後3ヶ月。
出来れば穏やかに過ごせるといいんだけど。
ジュートからはヴィラン連合なる巷の話題を集める組織にスカウトされたと報告があった。
なのでしばらく用心し、なるべく夜暗い道を歩かないようにとも。
本格的な夏が始まろうとしていた。