「タスケー疲れたー」
事務所のドアが開くや否や、Мt.レディが声をかけてくる。
本日のパトロールは終了のようだ。
「お疲れ様です、はいおしぼりと麦茶置いときますね」
「ありがとー」
「肩も揉みましょうか?」
「…それはやめとく。けっこう汗かいたし」
雄英高校の期末テストが終わり、夏休みに入っていた。
今日のように真夏の太陽さんさんさんだとそら汗もかくでしょうしね。
女性としてそんな状態で男に近くに寄られるのは余り気のいいものでもないでしょうよ。
「あー!早くお金貯めてもっと良い事務所に引っ越したいわー!!せめてシャワー付いてるところ!」
「ですねえ」
Мt.レディ。
個性 巨大化
間違いなく強力な個性なんですが、巨大化で体のサイズを自由に選べないのである。故に、それによる弊害が彼女の懐事情を圧迫しているのだった。
Мt.レディがその個性を活用し活躍すればするほど、周囲の物を破壊してしまう。
活動、活躍、破壊、弁償。
活動、活躍、破壊、弁償。
…その無限ループが続き、活躍すれどもすれども彼女の懐事情は改善の兆しが全く見られないのである。
「あーあ…ヒーローになんかなるんじゃなかったわー…そりゃ皆にチヤホヤされるのは嬉しいけどさ。頑張っても頑張っても結局お金にならなきゃ頑張る意味なんかないじゃないの」
「もしもヒーローにならなかったら、ってやつですか。いーですね~そーゆーifの話。ちなみにヒーローじゃ無ければ何になりたかったんですか?」
そう聞くと、彼女は上を見上げ、唇に人差し指を当てしばらく考えると。
「とりあえず大学普通に行ってから就職かな?」
「おー無難ですね~。ちなみに何系のお仕事に?」
「職種ってゆーか、金持ちが多そうな職場。確実に玉の輿か稼ぎのいい旦那捕まえられそうなとこ」
「仕事内容で選んですらいない!!!」
そう言うと彼女はこちらを呆れた顔で見て、
「当たり前でしょそんなん。遊び相手なら顔。ちゃんと付き合ったり結婚なら金。前も言ったじゃん」
「確かにブレてはない強い信念!」
彼女はククク…と黒い笑みを浮かべ、
「どーせだったら大学時代にちゃんといい彼氏を見つけておいて本命はキープしつつ。バレないように裏で遊びまくってまくってもー遊びは十分!ってなって社会人2年目くらいで結婚が理想よね」
「想像の中の黒い将来設計が具体的過ぎる!!!」
それ彼氏さんは果たして幸せなんだろうか!!!
「…ま、でもそーゆー道には結局行かなかったんだし、なんだかんだヒーローも悪くないしね。選んだ道で頑張るしかないのよね」
「そーですよね。ヒーローも悪くないですよね。感謝のお手紙とかもたくさん来ますし」
「感謝より現金書留で送って欲しいけど」
「この正直者さん!!」
そうして、彼女といつもの時間を過ごす。
「…え!」
「?どーしたの?」
「いや、テレビのニュースで…」
「…マジ、これ…」
つけっぱなしにしていたテレビのニュース。
画面では緊急ニュースが流れていた。
雄英高校1年ヒーロー科の合宿がヴィラン連合の襲撃を受けたと。
負傷者多数。
ヴィランに拐われた生徒、1人。
「………」
心配事がたくさんある。
一つは拳藤という兄の知り合いの少女。
もう1人は、ジュート君の知り合いのトガという少女。
前まで安全な所にいたはずの自分。
その周囲にも、暗雲が立ち込め始めているのだろうか?