このアカデミアでは俺だけに翼がない   作:のりしー

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翼人〜俺だけに翼がない2〜

『拳藤、暇だったら部屋にコーヒーでも飲み来るか?』

 

『行きます!』

 

夏休みも終わりが近づく頃、雄英高校は全寮制に変わった。

 

1人暮らしの家に女の子呼ぶのはアレだが、まあ校内の寮で昼間呼ぶなら問題もないだろう。

 

もうすぐ3時。勉強の休憩にもちょうどいい時間。

 

そう思い拳藤にメッセージを送ると、割と早めに返信があった。

 

夏休みの合宿以来、気落ちしていた拳藤。

 

少し気晴らしになるといいんだが。

 

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 

「お邪魔しまーす!物少な!あ、でもカリモクの1人用ソファー!テーブルもいい感じ!先輩の部屋内装カフェ風なんですね」

 

「まあね」

寮の外で合流した拳藤と、2人で寮に入り俺の部屋まで案内する。流石に先輩の寮を1人で歩かせるのは大変だろうし。クラスメイト達にはジロジロ見られたがまあ仕方ない。

 

俺の部屋は1人暮らしの部屋で使っていた家具をそのまま持ち込んでいる。

テレビは見ないのでテレビとテレビボード無し。

テレビ代わりはタブレットとノートパソコンで十分。

 

その分空いたスペースにカリモクの1人用ソファと、食事も食べれる高さに合わせたウッドの天板にアイアンの足を組み合わせたテーブル。

 

後はベッドと勉強机と椅子。

 

そんなシンプルな部屋だった。

背が186と高いので、余り物を増やすと窮屈なのである。

 

「準備するからソファー座って待ってろ」

「はい!ありがとうございます」

 

ティファールでお湯を多めに沸かす。

その間に豆の量を測る。

2人分だと400ミリリットルくらいだろうから、豆は25グラムくらいか。

 

スケールで豆を測り、コーヒーミルに入れて豆を挽く。

中挽き。ゴリゴリと小気味いい音とともに豆が挽かれていく。

 

「うーん、いい香りですねー挽きたての粉って」

「だろ。最初俺もそう思った」

 

ティファールでお湯が沸き上がる。

最初にドリップポッドにお湯をある程度入れる。

 

このお湯でドリップポッドを軽く温めると同時に、そのお湯を使いフィルターのリンスとコーヒーサーバーを軽く温める。

 

そのお湯は最後コーヒーカップにいれてカップを温めておく。

 

「先輩のコーヒーカップシンプルですね」

「拳藤のは可愛いデザインだな。女の子って感じだ」

「あはは…自分らしくないかなとも思うんですけどね」

「そんなこと無いと思うぞ」

 

せっかくだから、お気に入りのコーヒーカップがあるなら持ってくるように伝えている。流石に紙コップは味気ないだろうし。

 

それぞれのカップにお湯を入れてカップを温めておく。

ドリップポッドにティファールからお湯を移し、湯温計で温度を測る。少しすれば適温の90℃になるだろう。

 

その間に挽きたての豆をドリッパーに入れて、トントン叩いて平らにならす。それをスケールの上にのせたコーヒーサーバーの上にセットする。

 

「…湯温もちょうどいいな。さて、淹れていくか」

 

まずは中心からのの字を書くようにしてお湯を丁寧に注いでいく。そして30秒ほど蒸らす。

このスケールは重さとタイマーの機能が両方ついているタイプ。

どちらも簡単に確認出来るのでありがたい。

 

「んーいい香り」

目を閉じ香りを楽しむ拳藤。気持ちはわかる。ほんとに最初は感動するのだこれが。

 

その後、約50グラムずつお湯を15秒のペースで7回に分けて注ぐ。大体2分〜3分の間に淹れるのがいいらしい。

 

「…ふう。後はこれでお湯が落ちたら軽くサーバー回して飲めるぞ…拳藤?」

「………」

 

お湯を注ぐのに集中していたので気づかなかったが、拳藤の様子がちょっとおかしい。

 

テーブルに頰杖をつき、まるでひなたぼっこしている寝かけの猫みたいな穏やかな顔でこちらを見ていた。

普段しゃんとしている拳藤にしては珍しい。

 

「拳藤?」

 

「…はっ!」

 

再度呼びかけると、彼女はようやく気づき、

「す、すみません!ちょっとぼーっとしてました!」

赤面しアワアワと慌てだす。

「大丈夫。いい香りするもんな。うっとりするのもわかる」

「あはは…お恥ずかしい…」

「さて、飲むとしようか」

「あ、私クッキー持ってきました。急だったからいつも部屋で食べてるので申し訳ないんですけど」

 

そう言って茶請けを出してくれる拳藤。

 

温めていたカップからお湯をポッドに戻し、コーヒーを注ぐ。

 

「いい香り…頂きます」

「どうぞ。気に入ってもらえると嬉しいけど」

 

香りを楽しんでいた拳藤が、カップに口をつけて飲む。

 

彼女は満面の笑顔を浮かべ、

 

「美味しいです、先輩!」

 

そう言ってくれた。

 

「そっか、気に入ってくれて良かった」

 

自分もコーヒーを飲む。上手く淹れられているようでホッとした。

普段自分の為にしか淹れないコーヒー。

それがこうして人を喜ばせる事が出来るのは素直に嬉しい。

 

ふと、考えてはいけない未来を幻視する。

 

彼女とこの後も過ごしていく未来を。

 

弟達を犠牲にして。

 

…ダメだ。ダメだダメだダメだ。

 

考えてはいけない。

未来を望んではいけない。

俺はどこにも行けない。

 

どこにも行ってはいけないんだから。

 

「…?先輩?どうしました?」

 

「…いや、何でもない」

 

心配そうな彼女。

…今は考えるのはよそう。

せっかくの楽しい時間。

この時間を楽しむことに専念しないと。

 

もったいない。この時間が。

 

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