『悪い兄貴!バカ兄貴!2人の知り合いにバレた』
本来ならまだジュートの時間。
何故か俺に人格が戻っていた。
何らかの緊急事態と考え、3兄弟の連絡用掲示板を見たらこれだ。
その後に続く連絡用の掲示板に書いていた情報が、その知り合いが拳藤である事を示していた。
おそらくもう1人はМt.レディ…
『俺達が多重人格だっていう簡単な事情は伝えている。詳細な説明は個別に頼む』
その場で拳藤と約束を取り付けた。
その後タスケに変わる。タスケはタスケで約束をする必要があるからだ。
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「さ、入ってくれ。コーヒー飲むか?」
「…頂きます」
拳藤を部屋に招く。
個室だし都合が良かった。
連絡を取ると、翌日の放課後すぐに話す時間を持つことに決まった。
8月以来に拳藤が俺の部屋に来た。
前回とは違い、楽しい話にはならないのが残念である。
「ソファー座っててくれ。すぐ準備する」
「はい…」
部屋にコーヒーのいい香りが漂い始める。
だが前回と違い、その香りすら陰鬱な空気を纏っているようだった。
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「…なるほど、事情はわかりました…」
拳藤には全てを話すことにした。
子供の頃から多重人格ということ。
それぞれどういうヤツかということ。
それぞれの担当時間。
そして、おそらく10月に人格が統合されるだろう事を。
拳藤は様々な…色々な、本当に、何て言えばいいのか本当にわからないといった顔をしていた。
拳藤にしては珍しい顔。
でも、当然だろう。
「…先輩は、本当に優しい人だなって。なんて優しい人なんだろうなって前から思ってました」
彼女はしっかりと俺の目を見ながら、言葉を選びながら、
「今日、その理由がわかった気がします」
ゆっくり、言葉を、
「弟さん達の為に…本当に小さい頃から頑張って…ずっとずっと戦って来たんですね」
言葉をつなげる
「先輩は、ヒーローなんですね」
拳藤が俺をしっかりと見る。
「小さい頃からずっとずっと…誰にも認められない、誰もわからない。本当に辛くて辛くて仕方のない…そんな戦いを…誰にも気付かれないような戦いをずっと続けて来たんですね…」
彼女は両目に涙を浮かべながら、
「先輩は、弟さん達2人のヒーローをしてきたんですね」
「…くっ!」
そう言って…くれるのか…
拳藤…ありがとう…
思わず、俺も目から涙が出そうになった。
あの日。
俺は長男である事を強いられた。
最初は、辛くて辛くて泣きたいことばかりだった。
部屋で涙をこらえながら勉強する幼い頃の日々。
でも、そんな時テレビに彼が映った。
映ったんだ。
『オールマイト』
皆の憧れ。
平和の象徴。
俺も。俺ですら憧れてしまうようなヒーロー。
その時、俺は誰にも言わず決めたのだ。
俺は
俺は
俺は弟達を守る、2人だけのヒーローになるんだと。
それを、拳藤は気づいてくれた。
…あの辛かった日々。
そう言ってくれるだけで、報われる。
不思議な気分だった。
「先輩…一つだけ…一つだけ…どうしても言いたいワガママがあるんです…でも…」
拳藤は、泣きながら、
「でも…先輩にそれを言うと先輩を困らせちゃうってわかってるから…私…私…なんて言っていいかわからなくて…」
「…ありがとう、拳藤…」
思わず、彼女を抱きしめてしまう。
普段の言動からは想像もつかないほど小さく感じるその身体。
ぎゅっと、抱きしめた。
いなくならないで…
…声にならなかった言葉が、コーヒーの残り香とともに、部屋にとけて、消えていった…