このアカデミアでは俺だけに翼がない   作:のりしー

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翼人6

『悪い兄貴!バカ兄貴!2人の知り合いにバレた』

 

本来ならまだジュートの時間。

何故か俺に人格が戻っていた。

何らかの緊急事態と考え、3兄弟の連絡用掲示板を見たらこれだ。

 

その後に続く連絡用の掲示板に書いていた情報が、その知り合いが拳藤である事を示していた。

 

おそらくもう1人はМt.レディ…

 

『俺達が多重人格だっていう簡単な事情は伝えている。詳細な説明は個別に頼む』

 

その場で拳藤と約束を取り付けた。

その後タスケに変わる。タスケはタスケで約束をする必要があるからだ。

 

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 

「さ、入ってくれ。コーヒー飲むか?」

「…頂きます」

 

拳藤を部屋に招く。

個室だし都合が良かった。

 

連絡を取ると、翌日の放課後すぐに話す時間を持つことに決まった。

 

8月以来に拳藤が俺の部屋に来た。

前回とは違い、楽しい話にはならないのが残念である。

 

「ソファー座っててくれ。すぐ準備する」

「はい…」

 

部屋にコーヒーのいい香りが漂い始める。

だが前回と違い、その香りすら陰鬱な空気を纏っているようだった。

 

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 

 

「…なるほど、事情はわかりました…」

 

拳藤には全てを話すことにした。

子供の頃から多重人格ということ。

それぞれどういうヤツかということ。

それぞれの担当時間。

 

そして、おそらく10月に人格が統合されるだろう事を。

 

拳藤は様々な…色々な、本当に、何て言えばいいのか本当にわからないといった顔をしていた。

 

拳藤にしては珍しい顔。

 

でも、当然だろう。

 

「…先輩は、本当に優しい人だなって。なんて優しい人なんだろうなって前から思ってました」

 

彼女はしっかりと俺の目を見ながら、言葉を選びながら、

 

「今日、その理由がわかった気がします」

 

ゆっくり、言葉を、

 

「弟さん達の為に…本当に小さい頃から頑張って…ずっとずっと戦って来たんですね」

 

言葉をつなげる

 

「先輩は、ヒーローなんですね」

 

拳藤が俺をしっかりと見る。

 

「小さい頃からずっとずっと…誰にも認められない、誰もわからない。本当に辛くて辛くて仕方のない…そんな戦いを…誰にも気付かれないような戦いをずっと続けて来たんですね…」

 

彼女は両目に涙を浮かべながら、

 

「先輩は、弟さん達2人のヒーローをしてきたんですね」

 

「…くっ!」

 

そう言って…くれるのか…

拳藤…ありがとう…

 

思わず、俺も目から涙が出そうになった。

 

 

あの日。

俺は長男である事を強いられた。

 

最初は、辛くて辛くて泣きたいことばかりだった。

部屋で涙をこらえながら勉強する幼い頃の日々。

 

でも、そんな時テレビに彼が映った。

映ったんだ。

 

『オールマイト』

皆の憧れ。

平和の象徴。

 

俺も。俺ですら憧れてしまうようなヒーロー。

その時、俺は誰にも言わず決めたのだ。

 

俺は

 

俺は

 

俺は弟達を守る、2人だけのヒーローになるんだと。

 

 

それを、拳藤は気づいてくれた。

 

 

…あの辛かった日々。

 

そう言ってくれるだけで、報われる。

不思議な気分だった。

 

 

「先輩…一つだけ…一つだけ…どうしても言いたいワガママがあるんです…でも…」

 

拳藤は、泣きながら、

 

「でも…先輩にそれを言うと先輩を困らせちゃうってわかってるから…私…私…なんて言っていいかわからなくて…」

 

「…ありがとう、拳藤…」

 

思わず、彼女を抱きしめてしまう。

 

普段の言動からは想像もつかないほど小さく感じるその身体。

 

ぎゅっと、抱きしめた。

 

 

いなくならないで…

 

…声にならなかった言葉が、コーヒーの残り香とともに、部屋にとけて、消えていった…

 

 

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