このアカデミアでは俺だけに翼がない   作:のりしー

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オリジン

目の前には顔面血だらけの男。

おそらく、自分も同じようなものなんだろうけど。

おんなじ顔をしてるのだ。

頭突きしまくれば自然そうなっているだろう。

 

…しばらくすると、男の体から光の粒子が立ち上り始めた。

少しづつ少しづつ。

 

それと同じようなペースで、男の輪郭が薄れていく。

そして、やがて男の体は綺麗に消えてしまった。

 

「勝った…って事でいーんかこれ?」

「わからないけど…最悪の最悪は免れたのかな?」

 

ジュートとタスケ。

 

俺たち3人が見知らぬ男に吸収され統合される。 

その最悪の事態はどうやら避けられたようだった。

 

「良かっ…た」

「兄さん!」

「兄貴!」

 

気が抜けて、気づくと俺は後ろ向きに倒れてしまっていた。

 

思い出した様に両腕と頭に激しい痛みが襲いかかってくる。

 

「ぐっ…」

 

本当に、すごい無茶をしていたようだった。

 

「兄さん…ありがとう」

「まーた助けられちまったなー兄貴に」

「いいのさ…だって俺は2人の兄なんだから」

 

3人で笑いあう。

普段顔を合わせることの出来ない兄弟。

 

奇跡のような光景だった。

まるで普通の3兄弟のように、俺たちは笑いあっていた。

 

…しかし

 

「!」

「これは!」

「…クソが!」

 

いつの間にやら、俺たちの体からも光の粒子が立ち昇り始めていた。同時に、体の輪郭が薄くなっていく。

 

「統合拒否したから皆消えちまえってことかよ、クソ!」

「わからないけど…どうもそんな感じだねこれは」

 

ジュートの言葉に、タスケが頷く。

本来、ここは消えていった男の元に人格を統合する為の場だったのだろう。

その男が消えてしまえば、俺たちは用済みってことか!

 

あんまりだ。

あんまりじゃないか!

 

せっかく3人でここまで頑張って生きてきたのに、こんな終わり方はあんまりじゃないか!

 

「…ジュート君」

「…わかってるよ。出来るかどうか分かんねえけどやってみるか」

 

「2人とも、何を?」

 

2人は、地面に倒れている俺の両脇に跪くと、俺の胸元に手を置いた。

 

俺の胸。その上にジュートの手が、その上にタスケの手が重なる。

 

「2人…とも…」

 

「あ!なんかいい感じ!」

「思いつきだけど上手く行きそうだなこりゃ」

 

…気がつくと、俺たち3人の体から光の粒子が立ち昇るのが止まっていた。

 

…そして、2人の光の粒子が俺へと降り注いでいた!

その粒子が俺の光と混ざりあっていた!

 

両腕の傷が、額の傷が癒えていくのを感じる。

 

「タスケ!ジュート!2人とも何を!!」

 

「元々2人で相談してたんですよ」

「誰か1人しか生き残れないってんなら、そりゃ兄貴だろってよ」

 

「やめろ!2人ともやめるんだ!」

 

「やめませんよ」

「やめねえよ」

 

「こんなことしたら!2人が消えてしまうんだぞ!」

「「知ってる」」

 

2人は、俺を穏やかな目で見ていた。

 

「今まで長い間本当にありがとう兄さん。僕はこの兄弟で生まれて幸せでした」

「俺もだ兄貴。今まで本当にありがとう。辛い役目ばかり押し付けてすまねえ。ほんとに感謝してる」

 

「消えるなら俺が消える!どちらかが生き残ればいいじゃないか!」

 

「だから決めたんですよ」

「生き残るのは兄貴だってな。いいじゃん多数決だ。文句ねーだろ」

「そんな!!!」

 

両腕がどんどん癒される。

おそらく額の傷も。

 

合わせて、2人の体が、どんどん薄くなっていく。

 

「今までたくさん我慢してくれた兄さん。これからは僕達の事を気にせず、何処にだって行っていいんですよ兄さん。兄さんは何処にだって行けるし、何にだってなれるんですから」

 

「俺達の分まで未来を楽しんでくれよ。ほんとに何も気にするな。彼女とか今まで作って無かったろ?好きな人や友達と今まで出来なかった分幸せに過ごせばいいんだ」

 

「タスケ…ジュート…」

 

涙が、止まらない…

 

「兄さんには、もう何処へでも飛んで行ける翼もあるんです。僕らの事は気にせず、未来へ羽ばたいて下さい」

 

「…翼…だって…?」

 

「気づいてなかったのかよ?さっき兄貴飛んでたんだぜ、背中の翼で」

 

ふと、個性の事を思い浮かべた。

何処にもいけない俺にあった、飛ぶことの出来ない翼を。

 

「兄さんは、もう自由です。僕らだけじゃなく皆のヒーローになってもいい。経営科の道をそのまま進んで経営に携わってもいい」

 

「んでさっさと彼女作って結婚してガキでも2人くらいこさえてくれよ。なんならそいつらに俺たちの名前つけてくれればいい」

 

「それはいいアイデアだね。でも兄さん。本当に僕達の事を気にせず、自分の道を進んでくださいね」

 

「待てよ…待てよ待てよ2人とも!俺は!お前達を守りたくて!」

 

「もう十分守ってくれましたよ兄さんは」

「だから、兄貴はこれからは自分を大切にしてくれ」

 

 

「タスケ!ジュート!」

 

「変に悩み過ぎて引きこもったり自殺とかはやめてくださいね」

「だな、それは俺たちに対する最悪の冒涜だぜ」

「兄さんは、これから先自分と、僕達もいた体を目一杯幸せにしてくださいね」

「ああ、そうしてくれよ。なんせその身体は俺たちのものでもあるんだから」

 

どんどん薄くなる2人の体。

「だから、悲しむのはこれでやめましょう。最後は皆でお互いに感謝しながら行きませんか?」

「タスケ…」

「バカ兄貴にしてはいい事言うな。俺様もそれがいいや」

「ジュート…」

 

「ありがとう兄さん。ジュート君。僕は2人と兄弟になれて本当に幸せでした」

「ありがとうよ兄貴とバカ兄貴。俺様も2人と兄弟で楽しく過ごせたよ。多分この3人じゃなきゃ無理だっただろうぜ」

 

「さあ」

「兄貴」

 

悲しい。2人との別れが悲しい。

でも嬉しい。自分が情けない。情けないのに自分が残れる嬉しさもあるんだ。

なんて醜いんだ俺は。

なんて弱いんだ俺は。

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで…

 

「兄さん」

「兄貴」

 

消えかかる2人。

こんな俺のために消えてくれる2人の大切な弟達。

俺でいいのか?

本当に俺でいいのか?

残るのは、本当に俺で良かったのか?

 

良い訳ないだろう。

2人だって残りたかったに決まってる。

 

でも…この2人は…

 

俺なんかの為に、自分達を犠牲にする事を選んでくれたんだ。

 

俺の…自慢の弟達だ…

だから…

 

「タスケ…ジュート…今まで本当にありがとう。俺は…2人の兄をやれて、本当に良かった。幸せだった…」

 

だから…最後は感謝で別れよう。

 

弟達は、俺が残る事を望んでくれたのだ。

だったら、俺がクヨクヨ悩み過ぎるのは2人の気持ちを無駄にするような事だ。

 

「本当にありがとう…また、来世でもなんででも、この3人で兄弟になりたいよ。そうなれるのを望むよ俺は」

 

「「「ありがとう」」」

 

そして2人が完全に消えた。

世界が、光輝いた!!!

 

 

 

 

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