目が、覚めた。
誕生日の朝5時。
普段起きるより、かなり早い時間。
俺は、翼人だ。
翼人だった。
何か大切なものを失った実感がある。
その代わりに、何かを手に入れた実感がある。
「………くっ!!」
枕を、噛みしめる。
寮生活だ。
声は出せない。
声にならない声。
俺は、しばらく泣いた。
泣き続けた。
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『拳藤起きてるか?少し話がしたい』
『起きてます!朝練中です』
『少し会えるか?五分くらいですむ』
『会えます!何処行けばいいですか!』
…落ち着いて、最初に連絡を取ったのは拳藤だった。
朝早い時間だったが、起きてたらしい拳藤はすぐ返信をくれた。 慌ただしい朝の時間。
少しだけ会うことに決まった。
約束場所はいつもよく会う自販機のところに決まった。
「…そうですか。そうなったんですね…」
「ああ、弟達のおかげで、俺が残ることになった…」
来てくれた彼女に、あの不思議な世界での事を話す。
それを受けての彼女の反応だ。
ある程度事情を知ってる拳藤は複雑だけど、でも嬉しいという顔をしてくれた。
その気持ちを。声に出さないのが彼女のいいところだ。
それを言ってはいけないと、ちゃんとわかってくれる子なのだ。
この世界に残って、最初に思い浮かべたのが拳藤で、本当に良かったと思う。
「拳藤…俺は、お前に伝えたい気持ちがあるんだ」
「先輩…」
「でもごめん。少し、少しだけ俺の気持ちが落ち着くまで時間をくれないか」
「………」
「すまない。でも、落ち着いたらちゃんと俺から伝える」
「……わかりました。待ってますね先輩」
「…ありがとう拳藤」
弟達は俺の事を祝福してくれるだろう。
何を遠慮するんだってきっと言うだろう。
きっと、この後の事を喜んでくれる。それはわかるんだ。
…でも、俺がそんな素直に、それを祝えなかった。
だから、少しだけ時間が欲しかった。
拳藤がわかってくれた事が誇らしかった。
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「誰だ?オマエは?」
放課後、コーヒー豆を買いに校外に出た時の話。
放課後を俺が過ごすという事の新鮮さ。
いつも弟達に頼んでいた放課後のお使いを俺がやってるという矛盾。
とても新鮮な気持ちになりながら、コーヒー豆を買って寮に戻る途中。
「…誰だ?オマエは、誰だ?」
……闇が、いた。
見れば学生服の可愛らしい少女だった。
10人が見れば10人が可愛いというその容姿。
だが…
「…誰だ?って聞いてるんですよ私は」
「……」
「誰だオマエは!って聞いてるんですよ私は!!!」
「トガ…ヒミコ……」
ジュートが最後に俺に言ったお願い。
その特徴に一致する少女。
トガヒミコだ。
間違いなくトガヒミコなのだろう、彼女が。
ジュートの最後の、お願い。
助けてあげてほしいと言った、少女。
「オマエがジュート君じゃないのはすぐわかった…」
「………」
「………せ」
「?」
「……えせ」
「トガヒミコ…?」
「………返せ」
そして彼女はこの眼光と言葉でオマエを殺してやると言わんばかりに、
「返せ返せ返せ返せ返せ!!!!」
叫ぶ!
「ジュート君を!!!私のジュート君を返せ!!!」
泣き叫ぶ。
俺を許さないと、少女が叫ぶ。
「私のジュート君を返せ!私に優しかったジュート君を返せ!私の事をわかってくれようとしたジュート君を返せ!」
良かったのに…それだけで良かったのに…
「私の事をわかって…わかろうとしてくれたジュート君がいるだけで!私の世界は金色に輝いていたのに!!!!」
彼女は泣き叫ぶ。
泣きながら俺を弾劾する。
「返せ!返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ!」
ハッキリとわかった。
今までの世界。
これからの世界。
ここから、何もかもが変わってしまうということが