「…ってことでクラスが対A組で盛り上がってるのはいいんですけど、一部盛り上がり過ぎというかなんというか…悩みがつきないって感じです」
「そりゃ大変だなあ。優等生の辛いところだ」
「そうなんですよね…いつの間にやらクラスのまとめ役なのやら姉御的ポジションなのやらになっちゃうし…まあ、嫌いじゃないからいいんですけど」
雄英高校ヒーロー科1年A組がヴィランの襲撃を受けて数日後。
愛飲しているコーヒーが売っている雄英内の自販機前でばったり出会った拳藤との会話である。
世間はヴィランの襲撃に果敢に立ち向かった1年A組を称賛する一方で、一部に影を落としているようだった。
「まあ長い学生生活だ。いくらでも逆転のキッカケはあるさ。頑張りなよ」
「そうですね。とりあえずは5月の雄英体育祭で頑張ってみます!」
ぐっと拳を握り固く決意する拳藤。
前向きで良いことだ。
俺と違って、彼女には輝かしい未来があるのだから。
「おーい、一佳どこー!」
「あ、クラスメイトが呼んでるみたいです。先輩、またそのうち!」
「おう、またな」
ペコリお辞儀する彼女。
「おーい、こっちだよー」
そして背を向け彼女を呼ぶ声の方に向かっていった。
少し離れたところを探していたクラスメイトらしき少女達もこちらに気づく。
近づく拳藤と、その後ろに立っている俺。
双方を見比べて『お!』という顔をし始める少女達。
その輪に向かって、拳藤が歩いていく。
拳藤が少女達に合流するやいなや、気の強そうな子主導で何故かその場でスクラムを組み出す1年女子達。
『拳藤、ちょっと話を聞こうじゃないか』
『アッハイ…』
みたいな事なのかね、知らんけど。
さて、今日の授業も残り少し。
まだスクラム組んでる少女達を横目に、俺はその場を立ち去り教室に向かった。
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全ての授業が終わり、学校を出て自分の家に帰宅する。
学校から歩いて10分ほど。
学生向けアパートの一室が俺の家だ。
今はここで一人暮らしをしている。
雄英高校付近は全国から学生が集まる都合上、学生アパートが多い。
その為良心的な学生価格で部屋を借りる事が出来た。
6畳のワンルーム。風呂トイレ別がありがたい。
こちらの事情がある為収納は少し多めとしている。
荷物を降ろし、早速コーヒーを淹れる準備。
ドリップスケール。ドリッパー。コーヒーサーバー。コーヒーミル。フィルター。ドリップポッド。湯温計。
コレらはありがたい事に、弟2人がバイトの初給料で買ってくれたものだった。
『今までありがとう。これからもよろしく』
2人のメッセージを見て、嬉しさの余りめちゃくちゃガン泣きしてしまった。
正直これまで色々あってあり過ぎて、そう簡単には語り尽くせない人生を過ごして来た。
でも、あの瞬間、2人の兄をやれて本当に良かったと思えたのだ。
本当に、心の底から。
…淹れたコーヒーを飲むと、手元にお香を準備する。
部屋には3種のお香がある。
白檀
金木犀
生姜
このどれかを焚き、ベッドの上で目を瞑り集中することで、俺達は人格を切り替えるトレーニングをしている。
白檀が俺。
金木犀はタスケ。
生姜がジュートだ。
平日学校の時間を俺が過ごし。
月水の放課後と土曜日をタスケが。
火木の放課後と日曜日をジュートが。
金曜日の放課後は2人が交互に利用している。
テスト期間などは俺が少し多めに時間をもらう。学校行事が絡む時も同様だ。
この形に納まるまで一悶着どころか何悶着もあったのだが…まあ別の話だ。
今日は木曜日なのでジュートの時間となる。
生姜のお香を焚き、ベッドに横たわる。
さてお休みなさい。
世界が平和でありますように。