『先輩はGWは実家帰ってるんですか?』
『いや、帰らないよ。家は都内だからすぐ帰れるし、4月こっち来たばっかだからね』
『あーそれわかります私も家千葉なんで。今日もこっちに残るクラスメイト達と打倒!A組!の特訓予定です!』
『そらせっかくのGWにご苦労さんだな。ケガしないよう気をつけて頑張れよ』
…と返信。
月が変わり5月のGW。
拳藤から来たメッセージに返信する。
余り早く返しすぎるとあれなので1時間に1回くらいのペース。律儀に彼女もそれにペースを合わせてくれるので、休日の勉強にはいい息抜きとなっていた。
こちらも事情がある。
夜とか土日はスマホ見ないからあんま返信出来ないけどそれでいいか?
と聞いたがそれでも、と連絡先の交換を希望した拳藤のお願いで連絡先の交換は済ませていた。
体は1つで心は3つ。
本来ならスマホ3台が理想だが、生憎そこまで金に余裕もない。
通話とメッセージが出来るアプリで3ID取ることも考えたのだが、結局緊急の連絡などがあった時対応出来ないので辞めた。
3兄弟がそれぞれ誰とどんな連絡取ってるかモロバレなのでプライバシーもへったくれもないのだが、まあ今さらだし…という事でこういう事になった。
実家かあ…実家ねえ…
義理の両親の家を思い浮かべる。
俺達には両親がいない。
母親は俺が4歳くらいの時に亡くなった。
父の詳細は不明だ。
当時売れっ子アイドルだったらしい父は、見目麗しい自分のファンの女の子と一夜と言わず何度かの火遊びを重ね、結果俺が産まれた。
グラドル見習いだった母親は父との結婚を望んだそうだが、結婚を望まぬ父と向こうの事務所の圧力もあり、子供の養育費を含む多額の口止め料と引き換えに別れる事になったそうだ。
出産とそれらのショックもあり、母親はメンタルが崩壊。
産まれた子供への危険を心配した周囲の人の影響もあり精神病院へ行き、やがてそこで息を引き取ったそうだ。
他人事みたいだって?実際そうさ。物心ついてからの母親の記憶なんて無いに等しい。
正直、あの人が母親という意識はあまりない。
行き先の無くなった俺を引き取ったのは母親の兄夫婦だった。
彼らは贔屓目抜きにしても、実の子供と同様に俺を育ててくれたと思う。それは養育費として母が残した金をある程度使ってもいいという条件下の元でではあるが。
自分の血の繋がっていない子を育てるのだ。
そうでも無ければ善意だけでは難しいだろう。
特に、俺達に関してはだ。
成長の過程で、俺は俺だけでなく、ひょっとして俺達なのではないか?という事に兄夫婦が気付いたのはいつ頃だったか?
最初は幼年期によくある子供の言動不一致程度と思っていたようだが、どうもこれは本当におかしいと考え、ついに母親と同じ精神病院へ。
そこで、俺は俺だけでなく3人の人格を持つ事がわかった。
1〜2年の通院と入院を経て、3人の人格の上手な切り替えと役割分担が決まった。
長男が俺。平日の学校担当。
次男タスケ。月水の放課後と土曜日担当。
三男ジュート。火木の放課後担当と日曜日担当。
『翼人はお兄ちゃんだから、大変だけど頑張るんだよ』
…残酷な義父の言葉だ。
だけど、今のこの兄夫婦の優しさと善意が母親の残したお金と、彼らの良心に頼るしかないものだと思った俺は、この案を受け入れるしかなかった。
多重人格で揉め事ばかり起こすような子供を、一体誰がいくら金をもらえるからといって善意だけで育てられるだろうか!
そうして俺達の本当の人生が始まったのだ。
…だが、それも、後少し。
俺達3人に共通する、1つのイメージがある。
誰が言ったとかではなく、何故かそれが絶対的に正しく、間違いなくそうなるであろうという確信が。
不思議と何故か、3人とも同じ事を確信していた。
神がそう決めたと、そう啓示があったかのように。
《17歳になる誕生日。10月10日俺達の人格は統合され1つになる》
不思議と間違いなくそうなると、3人全員がいつからなのかそう確信していたのだ。
そこで、俺の役目は終わりだ。
この今までの長男としての日々。
統合され、その後の人格がどうなるかわからない。
でも、選んでいいなら俺は弟2人のどちらかに人格の主導権を委ね、俺は消えるつもりだった。
タスケは愛嬌があり、要領もいい。誰とでも上手くやっていけるだろう。
ジュートは強力な個性持ちだ。もしかしたらヒーロー科に編入しヒーローとして歩むのもいいかもしれない。
俺には、何も無い。取り柄は勉強くらいだし趣味も特に無い。
あの2人のどちらかが、このまま生きてくれれば一番いい。
俺の個性は翼
『なんだか、ガンダムとかの背中についてそうな翼ですね』
拳藤の表現だがまさにその通りだった。
メカメカしい感じのバックパックに、小さな機械風の翼。
それを背中に出現させるのが俺の個性だった。
特に空を飛べるとか特徴は何も無い。
空を飛ぶことの出来ない役に立たない翼は、まさに俺そのものだった。
俺には、翼がない。
空を飛び、何処かへ、未来へ行くことの出来る、翼が。
俺は何にもなれないし、なる気もないのだから。