「そーいや来週の雄英体育祭だけど、休憩時間とか暇だから暇つぶし付き合いなさいよ」
Мt.レディ事務所でのバイト中の事だ。
来週、彼女は雄英高校体育祭の警備で来校する。
この前のヴィラン襲撃が、少々過剰とも言える数のヒーロー達を警備に駆り出していた。
他のとこの警備大丈夫なんだろかと思う。
まあヒーロー飽和社会と言われるくらいだし問題ないのかな?
「あーすみません…できれば校内で目立つことしたくなくてすみません…」
正直、彼女と体育祭の出店や屋台を冷やかすのは楽しいと思うのだが、校内は兄の時間である。
キャラの違いを突っ込まれるとややっこしいことになる。
「…ふーん、ま、アンタにも色々あるんだろしねりょーかい。今回は先輩達とぶらぶらする事にするわ」
「すみません」
こういうところは大人、流石大人と思わされる。
なんたってヒーロー名にレディが入るくらいだし。
時に暴君の様に振る舞うが、それを除けばいい人だった。
ちゃんと色々察してくれるし。
「その辺の仕事終わったら今日はキリのいいとこで上がっていーわよー」
「あざっす!!」
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
事務所を出て駅に向かう。
「あ、そういえば伝言板にコーヒー豆買っといて、って連絡あったな」
伝言板とは3兄弟が連絡用に使っているアプリだ。
自分が活動している時に他の2人にお願いや注意をする必要がある時に書き込む。そこに兄からの要望があったのを思い出す。
家まで帰る途中にコーヒーショップに寄るの忘れない様にせねば。
ジュート君とバイトで入った初給料を出し合って買ったドリップコーヒーのセットはかなり好評だった。
買って良かったなあと思う。
…でも、本来こんなもんじゃ今までのお礼返しとしては全く足りないのだ。
どうやって兄に償うべきか考えるとお腹が痛くなってくる。
兄に平日の学校の時間を担当してもらい、放課後と土日を僕とタスケ君で使う。
なるほどなるほど、確かにそれぞれが過ごす時間という意味では釣り合いが取れるのかもしれない。
集団での生活を強いられる学校は、確かに固定の人格で過ごした方がいいしね。
なるほど最も合理的だ。
ただ唯一、兄にとってそれがとてつもなく残酷な結論だという事にさえ目を潰ればだけど。
誰でも子供なら学校の勉強なんて嫌いだろう。
放課後や土日で友達と遊ぶ方が楽しいし、楽しみに決まっている。
…僕らは、その時間を幼い兄から奪って過ごしてしまった。
そして嫌な学校での勉強だけを押し付けたのだ。
コレがとてつもなく残酷な事だと気付いたのは、恥ずかしながら中2の時だった。
穴があったら入りたい、とかそういう次元の罪悪感ではなかった。
兄は、自分が友達と遊びたいであろうその時間を全て僕たちに与えてくれた。
結局それは、兄が友達と遊ぶ時間を奪った。
友達は兄にいなかった。
遊びの誘いを全て断る必要があるのだ。至極当然としてそうなるだろう。
それが原因で、軽いイジメもあったように思う。兄は隠しているけれど。
…本当に優しいのだ、ウチの自慢の兄は。
だから、その時から義母を通じて兄に内緒でジュート君と文通を始めた。
最初は気付いてなかったジュート君だけど、途中で兄への残酷な仕打ちに気づき、僕と同様の罪悪感を得たようだ。
兄に内緒の話はそれからもたくさん続いた。
高校行ったら2人でバイトして、まずは兄にプレゼントをあげよう、ってのもその一つだ。
こんなもので、今までの10年以上の償いには全く足りないとはわかってる。
だから、2人で決めたのだ。
「「17の誕生日までは、お互い目一杯悔いなく楽しもう」」
そして、
「「もし誕生日が来て、誰か1人メインの人格を選んでいいのなら、僕たちは消えて残りの人生は兄に過ごして貰おう」」
と