無形の剣   作:--

5 / 11
人斬り5

 

 牢を抜け出した訪重郎は市丸から何かを命令されたわけではなかった。霊力を封じる手錠を外され、自由の身となる。だが、それが公に認められた自由であるわけではないことは彼にもわかった。

 

 市丸から渡された外套は想像以上の代物だった。それを着て鬼道の要領で少し霊圧を加えると、外部からの霊圧感知を完全に遮断できる機能が備わっていた。さらに背景と同化して視覚的にも透明化できるようだ。隠密機動用に開発された装備だろうか。

 

 訪重郎はそれを着て、市丸の後ろをついて行った。これから起きることを見ていろとしか言われていない。訪重郎の質問に答えてくれる気配はなかった。ただ、後をついていくしかない。市丸を無視して何もせずにいることの方がまずい気がした。

 

 そして着いた場所は中央四十六室だった。尸魂界全土から選りすぐられた四十人の賢者と六人の裁判官からなる最高司法機関だ。一般の死神はおろか、隊長であろうともおいそれと立ち入ることはできない場所だ。

 

 罪を重ねることに対する忌諱はあるが、それ以上に市丸への不信感が勝っていた。訪重郎を脱獄させ、こんなところまで来て何をするつもりなのか。

 

 いくら迷彩装備があろうとさすがに議会室の中まで踏み込むことはためらわれたので、外で待つことした。しばらくすると数名の死神が集まってくる。中には十番隊隊長である日番谷冬獅郎の姿もあった。議会室に入るとしばらくして血相を変えた様子で飛び出し、どこかへ行ってしまった。

 

 中で何かあったのか。確かめるべきかと迷っていると、市丸に動きがあった。年若い女の死神を連れてどこかへ歩いていく。うろ覚えだが五番隊の副隊長をしている雛森とか言う死神だった。

 

 市丸と雛森は清浄塔居林へと向かっているようだ。ここは瀞霊廷において唯一の完全禁踏区域。いかなる理由があろうとも踏み入ることができない場所で何をしようというのか。

 

 市丸から目を離すべきではない。その直感を信じて後をつけた。そしてその先で思いもよらぬ人物を目にする。

 

「藍染隊長!」

 

 暗殺されたはずの藍染が現れる。一命を取り留めたのか、あるいは誤報だったのか。よくわからないが、ひとまず良かった。そう思いかけた。

 

「さよなら」

 

 同じ隊の副隊長であるはずの雛森が藍染に斬られる。刀で腹を一突きにされていた。藍染の生存を心から喜んでいた様子の雛森は、一転して絶望の表情を浮かべ斬り捨てられた。市丸はただ、藍染のそばに付き従っていた。

 

 訪重郎が混乱していると、そこに日番谷隊長が駆け込んでくる。倒れ伏す雛森の姿を見た日番谷は、血濡れた刀を持つ藍染と市丸を見て即座に敵と判断する。

 

「ずっと俺たちを騙してやがったのか!?」

 

「騙したつもりはないさ。ただ君たちが理解していなかっただけだ。僕の本当の姿をね」

 

 日番谷は斬魄刀を開放した。それも真名の開放である卍解だ。訪重郎は初めて卍解というものを目にした。凄まじい霊圧が凍てつく冷気となって吹き荒れる。余波だけで体の芯まで凍り付いてしまいそうだった。

 

 早くここから逃げなければ氷漬けにされてしまう。氷雪系最強と謳われる日番谷冬獅郎の斬魄刀『氷輪丸』。しかしその卍解は、藍染の一刀のもとに斬り伏せられた。

 

 何が何やらわからない。ひとまず訪重郎は雛森がいるところまで避難していた。ここだけ冷気が綺麗に避けて通っていたからだ。ついでに回道で雛森に応急処置を施しておく。致命傷ではあるがまだ辛うじて息はあった。

 

「やはりここにいましたか。藍染隊長……いえ、大逆の罪人、藍染惣右介」

 

 訪重郎が治療に当たっていると、今度はよく知った人物の声が聞こえた。別世界のように凍り付いた棟内に現れたのは、卯ノ花烈と虎徹勇音。訪重郎が属する四番隊の隊長と副隊長である。

 

 どうやら卯ノ花隊長は暗殺された藍染の検死を行った際に違和感を覚え、ずっと調査を続けていたようだ。藍染の死体は巧妙な偽物であると断定し、ついにその所在を突き止めここへ来た。

 

「読みは良いが惜しいな。死体の人形なんてちゃちなトリックじゃない。見せてあげよう。砕けろ『鏡花水月』」

 

 藍染は自らの斬魄刀を惜しげもなく披露する。その能力は『完全催眠』。彼の斬魄刀の開放の瞬間を見た者は五感の全てを乗っ取られると言っても過言ではない、常識外れの能力だった。

 

 裏切りの種明かしをした藍染は姿をくらませる。何の術かわからないが、市丸を連れてその場から煙のように消えてしまった。

 

 すぐに虎徹が縛道にて藍染の霊圧探知を行った。縛道の五十八『掴趾追雀』にて藍染たちが双極の座する丘にいることを突き止める。さらに縛道の七十七『天挺空羅』にて藍染の正体と居場所を各隊の隊長と副隊長に伝令する。いずれも極めて難度の高い縛道である。見事というほかない。

 

 卯ノ花は治癒能力を持つ斬魄刀『肉雫唼(みなづき)』を開放した。負傷した日番谷冬獅郎と雛森桃の救命措置に当たる。そこで重傷だったはずの雛森の傷がほとんど治されていることに気づいた。意識のない彼女が自分で手当てをしたとは考えにくい。

 

「この傷の治し方は――」

 

 卯ノ花は虚空を見つめる。そこには誰の姿もなかった。

 

 

 * * *

 

 

「ルキア……!」

 

 双極の丘にて一護は叫ぶ。その喉からは血がこみ上げた。藍染に腹を切り裂かれているのだ。その傷は深く、背骨一本でつながっている状態だった。即死してもおかしくない重傷である。

 

 藍染は強すぎた。ルキアの魂魄に隠された『崩玉』が取り出される。目的を達した藍染にとってルキアを生かしておく理由はない。一護は必死にもがく。ルキアを助けるため、体を引きずってでも向かおうとしていた。

 

「動かないでください黒崎殿。本当に死んでしまいますよ」

 

「だ、れだ……?」

 

 そんな一護のそばに誰かが寄り添った。外套の迷彩が解除される。訪重郎は一護の背に手を当てると回道を行使した。

 

「お前、訪重郎か!? 俺のことはいい! 頼む、ルキアを!」

 

「大丈夫です。ここに来たのは某だけではありませんから」

 

 続々と隊長、副隊長が集まってくる。浮竹、享楽、砕蜂、夜一、狛村、朽木、そして山本総隊長。

 

 藍染は確かに強い。だが、この数の隊長たちを相手にしてはさすがに逃げられないだろう。ルキアは白哉が負傷しながらも救出に成功し、藍染、市丸、東仙の三名は隊長たちに取り囲まれた。

 

 役者はそろった。幕が引かれる。その幕は、天から降ろされた。空に空いた巨大な亀裂から目が覗く。『大虚(メノスグランデ)』の大群だった。

 

 『反膜(ネガシオン)』と呼ばれる光が藍染たちを包み込む。大虚が同族を助ける際に使う特殊な光の結界であり、光の外と内とは干渉不可能な完全に隔離された世界となる。

 

「大虚と手を組むとは……地に堕ちたか、藍染」

 

「傲りが過ぎるぞ。最初から誰も天に立ってなどいない」

 

 神すらも立てぬ天の空座に彼は立つ。そう言い放つと、藍染は訪重郎へと一瞥をくれた。一筋の反膜が訪重郎を目がけて降り注ぐ。

 

「訪重郎……お前……!?」

 

 一護が信じられないものを見る目を向けていた。一護だけではない、様々な死神から殺気を向けられる。まだ傷を直しきっていなかったのだが仕方がない。訪重郎は藍染の方へと向き直った。

 

「“同志”十間坂訪重郎。君の答えを聞こうか。我々と共に来るか、否か」

 

 酷なことを聞くものだ。ここで否定したとしても訪重郎の立場は危うい。どうあっても藍染とのつながりを疑われてしまうのだから。なので正直に答えることにした。

 

「藍染殿、きっとあなたは某の望むものを用意してくださるでしょう。某は“こちら”側にいていい死神ではありません」

 

「それで?」

 

「ですが、まだ貴殿を信じ切ることができないのです。貴殿の強さをもっと知りたいのです。某に教えていただけませんか」

 

 信じるに足るかどうかはそれからだ。藍染は薄ら笑いを浮かべた。

 

「不遜な回答だな。いいだろう。これから私は三界を支配すべく動き始める。すぐに強さを知る機会は訪れるだろう。その時にでもまた返事を聞かせてくれたまえ。君が生きていればの話だが」

 

 そう言うと訪重郎を保護していた反膜が取り払われた。見捨てられたのだ。藍染にしてみれば研究素材の一つとして面白い個体だが、無理に仲間に引き込むつもりもなかった。ギンが興味を示していたので一考しただけのこと。計画には何の支障もない。

 

「いえ、そのような手間は取らせません」

 

 反膜が消えたことで訪重郎を取り押さえようと動いていた副隊長たちが立ち止まる。“在れ”と唱えた訪重郎の手元にはするりと刀が現れていた。それを腰だめに構えたからだ。

 

「この場で教えていただきます」

 

 何をする気か、答えは明白。訪重郎は居合の構えのまま、藍染を見据えている。斬ろうというのだ『反膜』を。

 

 馬鹿げていた。この場にいる誰もが不可能と思えばこそ藍染を追えずにいる。その様子を藍染は観察していた。去ろうと思えばいつでも虚界(ウェコムンド)へと撤退できる。だが、逃げたと思われるのも癪だった。一つ、見物でもして帰ることにする。

 

 訪重郎は無防備だった。全神経を剣に集中させている。他のことは一切、何も考えていなかった。剣に注いだ霊圧を研ぎ澄ませていく。

 

 彼の斬魄刀、松正の能力を一言で表せば『形状変化』である。これ自体はほぼ全ての斬魄刀に備わると言っていいありふれた能力だ。ただ特殊な一点があった。それは刀が訪重郎にとって“常に理想の形として手に収まる”ということだ。

 

 すなわち、彼が振るうに適度な刃渡り、重量、重心、その他細微な造りとなる。そのため見た目は浅打とほとんど変わりない。始解すると、わずかに形状が変化するだけ。持ち主にしかその違いは判別できない程度の変化である。

 

 その本質は、ただひたすらに“理想の形を反映する”ことにある。もし訪重郎が望めば阿散井恋次のような蛇腹剣の形にすることもできるし、朽木白哉の千本桜すら再現することが可能だろう。しかし、それはあくまで可能性の話だ。現実的ではない。

 

 訪重郎にそんな想像力はないし、そもそもそんな形の剣を望んではいないからだ。心の底から望む一つの形。それが今手にしている一振りの刀である。彼が望めば刀がどこにあろうと手中に収まる。刃こぼれしようと瞬時に形を戻す不壊の剣。

 

 これに何の不満があるだろうか。最高の相棒だと思っている。しかし、それでは足りないこともある。無形流の奥義を使う上では不足だった。

 

 その剣理の極致は『形無き剣』。形ごときに捉われているようでは至れない。物をもって物を斬ろうとしてはならない。そんな矛盾を抱えた剣を作らなければならない。

 

 そこで彼は何も考えないことにした。何も考えないことを理想とした。刀を見るからそこに形が表れる。不見、不覚を剣とする。鞘に収まっている状態であれば、その中身は認識の外だ。在るか無いかすらもわからない。

 

 

 

「無形流・抜刀『無相』」

 

 

 

 刀を抜き放った瞬間を誰も目にしていなかった。現に抜かれてはいない。ただ、その不覚の理想が叶うのみ。緑色の剣閃が空を分けた。

 

 藍染の反膜が砕け散る。その頬に薄っすらと一本の赤い線が走った。

 

 誰がその結果を予想できただろうか。騒然となる。藍染は笑みを深めた。

 

「面白いな。私も少しばかり、君の力に興味がわいたよ」

 

 空の裂け目に立っていた藍染が降りてくる。それに市丸と東仙が続いた。

 

「私は彼の相手をしよう。ギンと要は他の隊長たちの足止めを頼む」

 

「承知しました」

 

「ひゃあ、無茶言いはりますなぁ」

 

「なに、すぐに終わる。必要なら『十刃(エスパーダ)』の使用を許可しよう。まだ試作段階だが、時間稼ぎ程度には使えるだろう」

 

 最大の敵戦力が藍染であることは明らかだが、市丸と東仙を無視することもできない。黒腔(ガルガンタ)から次々と現れる大虚たちも脅威だった。中には『破面(アランカル)』と呼ばれる上位個体の姿まである。

 

 その大侵攻も藍染にとっては余興にすぎない。訪重郎と藍染が対峙する。

 

「君のその能力についておおよその見当はついている。綱彌代家が遺した失態の残滓だ。死神でありながらその力を扱えることは評価しよう。では、他に何ができる?」

 

「他に? いえ、某にできるのは分けることだけ。強いて言えば、先ほどの剣技が人様に自信を持ってお見せできるただ一つの奥義です」

 

「なるほど。では、君の底はもう知れてしまったわけか。残念だ」

 

 『無相』こそが訪重郎に使える最高の技である。藍染はそれ以上の何かを訪重郎に期待しているようだったが、応えることはできそうにない。

 

「まあいいさ。持ち帰って魂魄を解析すればわかることだ。それでは君の望み通り、私の強さを教えてあげよう」

 

 問答が終わる。ここから先は一瞬たりとも気を抜けば命を落とす闘いになる。訪重郎は刀を構えた。その刀身に若葉のごとく鮮やかな緑が差す。

 

 これ以上ないほどに彼にとって理想的な“剣”だ。すなわち十全に能力を行使することができる。しなやかに、解き放つように一歩を踏み出した。

 

「どこを見ている?」

 

 しかしその虚を突くかのごとく、藍染の声は訪重郎の背後から聞こえた。朽木白哉との闘いで見た『閃花』を思い出す。反射的に剣を背後に向けて振るった。振るってしまった。

 

「覚えが悪いな。『鏡花水月』の能力については既に説明しただろう」

 

 訪重郎の剣は空を斬る。彼の背後には何もなかった。確かに感じた藍染の気配は霞のように消えていた。幻覚を見せられたのだ。

 

 『鏡花水月』の開放の瞬間を見た者は、ある物に対して別の物であるかのように誤認させられる。この完全催眠に一度でも陥った者はその後、無制限に能力の対象となる。訪重郎は清浄塔居林にて既に鏡花水月の始解を目にしてしまった。

 

 刀を振り払い、致命的な隙をさらした訪重郎に藍染の攻撃をかわすことは不可能だった。彼の体に冷たい刃が差し込まれる。

 

「すまない。どうやら私が君に教えてあげられることはありそうもない。なにせ次元が違いすぎる」

 

 藍染の刀は的確に訪重郎の鎖結を貫いていた。これでは霊圧を操ることができない。回道も使えない。勝負はついたかに思われた。

 

 まるでこの機を待っていたかとばかりに訪重郎の霊圧が急激に高まった。藍染は目を見張る。確かに鎖結を破壊したはずだった。訪重郎は弱るどころか留まることなく霊圧を高めていく。

 

「無形流・色閾『開扉』」

 

 あふれ出す霊圧を込めた一刀が放たれた。訪重郎が分けたものは“景色”である。藍染を含む画一枚を二分した。

 

 藍染はその攻撃を見て、まず刀で防ごうとした。そこでふと、受けるのはまずいと思い至り、回避した。藍染からすれば見てから逡巡して回避するに余りある攻撃速度だったということになる。

 

 訪重郎の一閃は藍染の身にかすりもせず通り過ぎる。ちょうどその背景にいた最下級大虚(ギリアン)の巨体が分断されて滑り落ちた。特に狙ったわけではない。たまたま視界に入っていただけという理由で切り分けられる。

 

「妙だな。今までの君の実力を考えればこれほどの規模の霊圧を駆使した攻撃ができるとは思えないが」

 

「はい。ですので、分けておきました。鎖結と魄睡を」

 

 この闘いに臨む前に訪重郎は自身の鎖結と魄睡を能力で切り分け、回道によって培養し、自分の体へと戻している。彼の体内には現在、八つの鎖結と魄睡が存在していた。

 

 その霊圧は隊長格に匹敵するほどの大きさとなっていた。本当はもっと数を増やしたかったのだが、これ以上霊圧の出力を高めると肉体そのものが耐え切れず崩壊してしまう。現に今もダメージを受けていた。その狂った説明を聞いて藍染は微笑む。

 

「時に進歩とは既存の常識や良心の及ばぬ犠牲の上に成り立つものだ。もっと君の持つ価値を見せるがいい」

 

 小手調べはこの辺りで十分だろう。訪重郎は眼鏡を外した。こんなものをつけていたところで藍染を相手に意味はない。目に見えるもの全てを疑わなければならないくらいなら、いっそのこと見ない方がましだ。

 

 人間だった頃は眼鏡なんてものは持っていなかった。極度の近視によりぼやけた視界が常だった。だが、彼には周囲の物を把握できる力がある。存在を感じ取ることだ。物体から力を引き出す前段階。これを使えば存在がそこにあるか否かを判断できる。

 

 見分けられると言うべきか。これも微弱ながら分ける力の一端と言えるだろう。鏡花水月は凶悪ながらも万能ではない。思いのままに敵を操るような術ではない。ならば対処のしようはある。

 

「五感や霊圧探知に頼らず君なりの方法で私の姿を捉えようというわけか」

 

 地を駆ける。疾風のごとく接敵する。存在の有無がわかると言っても目で物を見たように感じ取れるわけではない。それでも藍染の存在する位置を間違うことはなかった。間違いようもなく強大だからだ。

 

 だが、訪重郎の剣は藍染に届かない。確かにその瞬歩は一流と呼べる域にあるが、藍染から見ればただ足が速いだけのことだった。移動速度が速いだけで、剣速がそれに並んでいるわけではない。

 

 もっとも、ただの死神が相手であれば一息のうちに三枚におろしていただろう。それだけの速度をもってしても藍染には届かない。

 

 剣を振るという行為はそれが有効にならなければ隙を作ることと同義だ。藍染は後の先を取ればいい。訪重郎は反撃を必死に回避する。特別な能力などなくとも藍染の霊圧が込められた刀は何の抵抗もなく訪重郎を切り裂くだろう。

 

 薄氷を踏むような攻防だった。全身全霊で立ち回る。遠く及ばないことは最初からわかっていた。藍染の真の強さは斬魄刀の能力ではない。完全催眠に頼らずとも他を圧倒する戦闘力だ。

 

「『破道の一 衝』」

 

 均衡は崩された。藍染が鬼道を使用する。それは最も序列の低い破道だが、藍染の指先から放たれた衝撃波はまともに食らえば気を失いかねない威力を伴っていた。使おうと思えばこんな初級の術よりももっと殺傷力の高い破道を使えたはずだ。遊ばれている。

 

 凄まじい衝撃が走る。防いだはずが、受け流しきれずに剣を弾き飛ばされた。すぐに松正を呼び戻す。

 

「在れ――」

 

「遅い」

 

 しかし、間に合わない。解号を唱える隙さえない。藍染の刀が迫り来る。訪重郎はその攻撃に合わせるように宙をひっかいた。

 

 無形流・抓撃『乱丁』

 

 剣には及ばないが、爪も刃物だと付会すれば急拵えの武器になる。空間に爪を突き立て、搔き乱した。藍染の刀が直撃する軌道からわずかにそれる。

 

「在れ『松正』!」

 

 抓撃から流れるように技を繋いだ。藍染に生まれたわずかな隙を突く。再び訪重郎の手に戻った刀は、藍染の首を捉えていた。音すらも途絶える。目まぐるしく立ち回っていた訪重郎と藍染、両者の動きが止まった。

 

 そして、藍染はぱちぱちと手を叩き称賛の言葉を贈った。

 

「おめでとう。私に一太刀入れたことを誇るといい。これで君も理解できただろう。己の身の程というものを」

 

 訪重郎の刀は藍染の首に止められた。薄皮一枚すら通らない。藍染の霊圧は常軌を逸していた。その密度と結合力は凄まじく、訪重郎の力をもってしても切り分けることは叶わなかった。

 

 隊長格である朽木白哉にさえ通じた訪重郎の能力は、藍染を相手に何の意味もなさなかった。死力を尽くし、持てる技の限りを尽くしてようやく当てた一撃は無意味だった。藍染は回避する必要すらなかったのだ。

 

 それでも訪重郎は諦めていなかった。数歩下がって仕切り直し、剣を構える。その目から闘志は消えていなかった。

 

 

 

 

 








藍染は強い、まだ勝てない…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。