無形の剣 作:--
鳥のさえずりも心地よく、うららかな日差しが差し込む午後のひと時。綜合救護詰所の離れに建てられた座敷の一室で、卯ノ花烈による華道教室が開かれていた。
月に一度、開催されており、忙しい仕事の合間を縫って多数の死神が参加していた。日々の務めに忙殺される毎日を送っているからこそ、このような癒しは必要である。
華道に男女の別はないが、荒くれ者も多い死神稼業もあってか風流に親しみのない男には見向きもされないため、自然と女性死神の方が集まっている。
その中にあって男である訪重郎の姿は浮いていた。彼はこの教室に通い始めてかなりの年月が経つのだが、今になって悪目立ちしている理由はよからぬ噂と白い羽織のためだろう。
訪重郎は手慣れた様子だった。題材となる花とそれを引き立てる花たち。全体の構成を見ながら、迷いなく生けていく。その出来は一見して素晴らしい仕上がりだ。
「相変わらず上達しませんね、十間坂隊長」
「面目次第もございません、卯ノ花隊長」
卯ノ花に指摘された訪重郎は頭を下げた。どちらかと言うと作品のことよりも“隊長”と呼ばれることにまだ慣れず、気恥ずかしかった。全くそのような器ではないことは自分自身、重々承知している。
訪重郎の作品は技術的には何の問題もなかった。しかし、悪く言えば教科書通り。見る者が見ればわかる。いつも彼の花には“自分”がない。魂がこもっていなかった。卯ノ花とのこのやり取りも、何度繰り返したかわからない。
訪重郎はこの華道教室に通い始めたきっかけを誰にも話したことがなかった。花太郎にすら話していない。単なる息抜きだと言ってごまかしている。
実は、卯ノ花に恋心を抱いていた時期があった。身分違いも甚だしい若気の至りである。もちろん、思いを伝えたことはない。訪重郎も歳を取り、遥か遠い昔の思い出として蓋をしてしまった感情である。
今はもう卯ノ花をそのような相手として見てはいない。彼が最も尊敬している死神だ。こうして華道に興じる時間は訪重郎にとってかけがえのないものになっていた。
先日、試合をした万代のことが頭をよぎった。彼にとっての藍染惣右介という存在は、訪重郎にとっての卯ノ花烈と同じなのかもしれない。花を生ける手が止まった。
「雛森さんは今日も来ていないようですね」
雛森もこの教室の常連だったが、あの一件以来、顔を見せることはなくなった。以前から訪重郎と雛森は特に話をする間柄でもなかった。こんなことになるなら仲良くしておけばよかっただろうかと詮無い考えを巡らせる。
藍染は五番隊の日常を作り出し、そして破壊した。壊れることはいずれ避けられない運命だった。それだけなら言い方は悪いが、見捨てられた者たちは絶望するだけで済んだかもしれない。
だが、そこに訪重郎という異物が紛れ込んでしまった。隊士たちの行き場のない思いの矛先が全て訪重郎へと向いている。果たしてこのまま訪重郎が五番隊に留まることは正しいのだろうか。害にしかならないのではないか。
「卯ノ花隊長のご期待に沿えず申し訳ありませんが、某にはやはり荷が重い。某では、藍染殿の代わりにはなれないようです」
卯ノ花の勧めを契機として隊長職に就くことになった。その彼女の前で愚痴をこぼすとは、いつもの訪重郎らしくない。それだけ精神的に弱っていた。
そんな訪重郎に対して、卯ノ花が叱責や助言をすることはなかった。今は華道教室の最中である。もう一度、花を生けてみなさいとだけ促した。
「主軸となる花があり、それを彩る種々の花たちがあり、互いが合わさり一つの情景を成すのです。意味も持たせず花々を寄せ集めたところで心には響かない。上辺だけを取り繕わず、自らを表現すること。それが第一歩ですよ」
“藍染惣右介の代わりになる”、そんな考え方をしているようでは先に進めない。恐れず自分を出せるようになることに、気づく頃合いだろうと卯ノ花は予感していた。
* * *
五番隊の業務を雛森に任せきりの訪重郎だが、一つだけ避けては通れない仕事がある。『隊首会』だ。各隊の隊長と副隊長が集い、護廷十三隊の主要任務について話し合われる会合である。
「……」
「……」
隊首会が行われる一番隊舎へと向かうため、訪重郎と雛森は終始無言で廊下を歩く。その途中で見知った顔ぶれと合流した。
「よう、訪重郎!」
「これは浮竹隊長、お加減はいかがですか?」
「うむ、今日は調子がいいんだ」
十三番隊隊長の浮竹十四郎と、副隊長の朽木ルキアだ。
実力は確かだが病弱さが玉に瑕な浮竹は隊首会を休むこともしばしばあった。そんな彼を支えてきたのが同隊三席の小椿仙太郎と虎徹清音だ。長らく十三番隊は副隊長がいなかった。前副隊長、志波海燕の殉職が大きな影を落としていた。
その席がこの度、復帰したルキアに当てられた。浮竹の気持ちの整理もついたのだろう。めでたいことだ。
「しかし、訪重郎。お前、その格好のまま隊首会に出る気か?」
「え?」
浮竹は訪重郎の着物を指さしている。さっきまで雑用をこなしていたこともあってか、いつもの癖でたすきを巻いたままだった。慌てて外そうとする。
「あっはっは! まあ、その姿の方がお前らしいかもな。もっと派手に着崩してる隊長も多いし、気にしなくていいぞ」
隊長の要望に沿って羽織に多少のアレンジを加えることは認められているようで、過去には袖を切り落としてノースリーブにしてしまった死神もいるくらいだ。
単に権威を象徴するだけの装束ではない。浮竹は訪重郎の姿を見て本心から“お前らしい”と言っているのだろう。くだらないことで茶化す男ではない。訪重郎は少し考えて、そのままの格好で行くことにした。
一番隊舎の大門を通り、会合の場に着いた。隊首会の立ち位置は決まっている。総隊長を上座にしてその左右に隊長たちが並び、副隊長が後ろに立つ。
隊首会は四十六室から十三隊へと下された任務の通達が主であり、意見を交わすことは二の次だ。ゆっくりと談義する場ではない。そのため総隊長の席以外に椅子は置かれておらず、各員は直立不動の姿勢で待機する。
遅刻するわけにはいかないので早めに出て来た訪重郎だったが、既に何名かの隊長が集まっていた。訪重郎の両隣に立つのは七番隊隊長の狛村左陣と、不在の三番隊隊長に代わり出席している副隊長の吉良イズルである。軽く挨拶を交わしただけでそれ以上の会話はない。
護廷十三隊の名を背負う隊長たちが一堂に会する光景は圧巻と言えよう。どれもその名に違わぬ傑物たちだ。訪重郎の隣に立つ狛村など見上げれば首が痛くなりそうなほどの偉丈夫だ。訪重郎の体格と言えば凡庸で、彼より背の低い隊長は日番谷くらいだった。
平隊士が重役会議に紛れ込んでしまったかのような違和感が訪重郎にはあった。唯一、心が休まる点があるとすれば対面に立つ卯ノ花の存在だろうか。彼女は訪重郎と目が合うとにこりと微笑み返してくれる。
ただ、卯ノ花は基本的に誰に対しても笑顔を絶やさない人ではある。その横で二番隊隊長の砕蜂が訪重郎に鋭い視線を向けてくることもあるので結局居心地は悪かった。
訪重郎の隊長就任を、内心はともかくとして認める隊長たちが多い中、砕蜂は明確に反対した一人である。彼女は朽木白哉に次いで伝統や軍規を優先する保守派の重鎮だ。身分不詳の訪重郎はあまりよく思われていないようだった。
後続の隊長たちが集まり、いよいよ山本総隊長が現れた。副隊長の雀部を引き連れ、上座に着く。杖をつき、背中を丸めた老人の姿を頼りなく思う者はこの場にいなかった。普段は傍若無人に振舞う者たちですら姿勢を正す。
「皆、揃っておるようじゃの。事前に伝えた通り、本日の隊首会は極めて重要な報告がある。心して聞くように」
その報告とは藍染に関わるものだった。
藍染の仲間であった市丸ギンは現在、拘束されて余罪の追及を受けている。彼は意外なほど抵抗もせず尋問に応じているという。その過程で数々の罪状が明らかになったが、新たに重大な情報が発覚した。
「浦原喜助が開発した『崩玉』と呼ばれる物質。それとほぼ同じものを藍染も作り出していたようじゃ」
つまり、崩玉は二つ存在した。これらを融合させることが藍染の真の計画だった。その話を聞いたマユリの目の色が変わる。
「藍染が死んでから数か月が経つというのに、そんな大事な情報を今まで聴き出せなかったのかネ? 尋問官は何をしている! 無能が過ぎるヨ!」
「罪人の処遇は護廷十三隊の管轄外じゃ」
「生温い。私に任せてくれれば脳がとろけるほどの自白剤をぶちこんで数時間のうちに喋らせてやるものを」
逸るマユリの様子を見て、十番隊副隊長の松本乱菊が目を伏せた。日番谷は気にするなと小さくつぶやく。
「市丸ギンの供述によれば藍染の開発した崩玉は
「……ちょっと待ってよ、山じい。どうやって虚圏くんだりまで取りに行くつもりだい?」
藍染は虚が使う『
「その件については浦原喜助が動いておる。近日中に虚圏へつながる門が完成する予定じゃ」
四十六室は内密に浦原とコンタクトを取っていた。要するにお前が撒いた種なのだからお前が何とかしろというわけだ。その代わりに護廷十三隊から離れて現世に留まることを特別に認める契約がなされていた。冤罪に対する謝罪などはない。
しかし、浦原もこの問題を我関せずと放置することはできなかったので無理難題に応じた。ゼロから黒腔を開く方法を編み出すことは難しいが、浦原は以前から虚の生態について独自に研究を進めており、その成果を数か月でまとめ上げた形だ。
万策を期すをこと信条とする男だ。文字通り、万の策略を想定していたからこそできた偉業。それがどれだけの難事かよく理解できるからこそマユリは憤慨していた。
おそらく、崩玉がもう一つあるという情報は早い段階で明らかとなっていた。その事実が今になって隊長たちに伝えられたというだけの話だ。裏ではこの任務の計画が進められていた。
四十六室は自分たちの膝元にある技術開発局ではなく、浦原喜助という一人の男の頭脳を頼ったのだ。これほどの侮辱があるだろうか。怒りに震えるマユリの体からは意図せず霊圧が漏れ出すほどだった。
「へえ、おもしれぇな。虚圏に行けるのか。そういう仕事なら大歓迎だ」
一方、更木は敵の本拠地に乗り込める機会と聞いて喜色満面だった。こちらはこちらで殺気が溢れ出ている。魔境と化してきた場を一喝するように山本が咳払いした。
「無論だが、隊長格の全員を向かわせるわけではない。任務の人選については追って知らせる。それまで平時の業務に励むように」
マユリや更木はこの任務への参加を希望するだろう。選ばれたくば大人しくしていろと言外に釘を刺していた。
虚圏にて崩玉が置かれている状態や虚の動きが活発化している現状など気になるところはあるが、急いだところで門が完成しない限り手出しもできない。今日の隊首会で話せることは他になかった。閉会の流れとなる。
「お待ちください」
そこに異議を唱える声が、訪重郎の背後から上がった。まさか誰がその声を聞くことになると思うだろう。雛森桃である。
「無礼とは存じますが発言をお許しください。隊長方がお揃いのこの場にて申し上げたいことがございます」
彼女は臆することなく毅然としていた。かつての雛森であればこのような場で意見を口にすることはなかったはずだ。何を言い出すのかと皆が傾聴する。雛森は訪重郎を見据えていた。
「五番隊隊長、十間坂訪重郎」
「は、はい」
「あなたに決闘を申し込みます」
訪重郎は寝耳に水だった。あんぐりと口を開けて驚く。
ここで言う決闘とはただの力比べではない。隊長の座を懸けた勝負である。隊士二百名以上の立ち合いのもと、現隊長を討ち負かした者は次の隊長として認められる。
「な、何を言い出すんだ、雛森君!?」
近くにいたイズルが慌てて止めようとした。馬鹿げた話であるし、それ以上に雛森の身に危険が及ぶ恐れがあった。しかし、雛森の言動を否定する者ばかりではない。砕蜂は感心していた。
「良い心がけだ。隊長と副隊長、慣れ合ってばかりいては時に非情な判断を下す際に迷いが生じることもあろう。決闘で白黒つけるくらいの関係が丁度いい。なあ、大前田?」
「いやいやいや、物騒すぎますって! そこは仲間同士の絆とかもっと尊重すべきだと思いますけどねぇ!」
二番隊副隊長、大前田希千代は上司である砕蜂に媚びへつらいながら事態を冷めた目で見ていた。雛森が訪重郎を嫌う気持ちはわかる。しかし、だからと言って決闘という短絡的な手段で解決できる問題だろうか。
「決闘か。そりゃいい。俺が代わってやりたいくらいだぜ」
まさしく雛森がやろうとしている方法で前隊長を殺して今の地位を得た更木は肯定的だった。彼の場合は前の隊長のやり方が気に食わなかったとか、恨みがあったとか、そんな理由よりもただ強者と闘いたいがゆえに制度を利用しただけに過ぎなかったのだが。
「まいったね。桃ちゃんがここまで思いつめてたなんて」
享楽は何とか説得してやりたかったが、雛森の顔を見て諦めた。既に覚悟を決めている。言葉で思いとどまることはないとわかった。
「鎮まれ」
山本が杖の先で床を打った。喧々囂々とした議論が止む。
「雛森桃、その方の申し出はわかった。覚悟の程も承知した。しかし、今は時期が悪い」
これから虚圏へと遠征に繰り出す大事な時期だ。身内同士で争っている場合ではない。
「ひとまずこの案件は保留とする。後に厳正な審議を経て然るべき判断を下す。よいな」
「はい……」
さすがに今すぐに決闘が認められることはなかった。山本の有無を言わさぬ貫禄に、雛森もこれ以上は食い下がれないと悟る。しかし、意外なところから助け船が出た。
「総隊長殿。某は判断を後回しにすべきではないと思います。このままでは雛森殿も職務に打ち込むことは難しいでしょう」
「ふむ? では、おぬしの見解を聞こうか」
「某は、是非にこの決闘をお受けしたい」
今度は雛森が驚く番だった。そもそもなぜ隊首会の場で決闘を申し込んだかと言えば、訪重郎に逃げ場を作らせないようにするためだ。隊長たちの前で決闘が取り決められれば従わざるを得ないだろうと踏んでいた。
「テメェ、何を企んでやがる」
それまで静観していた日番谷が口を出した。彼は藍染に敗れた戦闘の傷を癒すため長く療養していた。藍染がどのようにして倒されたのか、口づてにしか聞いていない。訪重郎がいかなる人物か、懐疑的に思っていた。
「うるせぇな。本人同士が剣を交えると決めたんだ。外野が口を挟むことじゃねぇだろ」
更木が怒気をあらわにする。組織としてのしがらみなど彼の頭にはない。闘いたい者同士がいて、それが叶わないことの方がよっぽど不条理だ。
「護廷十三隊ってのは腰抜けの集まりか? たかが隊長一席懸けた程度の闘いをやるだのやらないだのピーチクパーチク騒いでんじゃねぇよ。くだらねぇ」
「……やれやれ、世話の焼ける若造どもじゃのう。では、決を採ろうか」
更木の言葉が後押しになった。採決の末、賛成多数で決闘は認められることとなった。
* * *
その日の夕方、日番谷冬獅郎は五番隊舎を訪れていた。雛森に会うため、ではない。
「これは日番谷隊長、どうされましたか? あ、雛森殿は今出かけておりまして」
「いや、あいつのことはいい。お前と話しに来た」
雛森のことは乱菊に任せることにした。今頃、強引に飲み屋へ連れ出されている頃だろう。今の雛森には乱菊の遠慮しない距離の置き方が効くと思った。日番谷は隊長として、同格の男と話をつけに来たのである。
立ち話も何なので、と訪重郎は日番谷を応接室へと迎え入れる。
「今、お茶を淹れますので」
「お前がか? いや、そんなことはどうでもいい。俺は話を……」
「すぐできますので! お待ちを!」
隊長ほどの客に茶の一つも出さないわけにはいかない。訪重郎は大急ぎで用意した。お茶と合わせて練り切りも添えて出す。日番谷の視線がそちらに行ったので、三個ほど追加しておいた。
茶菓子を食べるのは本題を片付けてからだ。日番谷はじっと訪重郎を見つめて値踏みする。これが藍染を倒した男の姿かと。
どうしてもそうは思えなかった。藍染の実力を知るがゆえに、なおさらわからない。ただの眼鏡をかけた冴えない凡夫だ。
聞きしに及ぶ実力に嘘はないのだろう。護廷十三隊を欺けるほどの嘘をつけるのなら、それこそ藍染並みの策士と言える。
「ど、どうかしましたか?」
「なぜ雛森の話を受けた」
雛森がまだ藍染の呪縛から抜け切れていないことは知っている。どんな大義があったとしても藍染を殺した訪重郎を許すことができないのだろう。そのことは日番谷も、訪重郎もわかっている。
ならば、この決闘は実現させるべきではなかった。どのような結果になろうと禍根は残る。雛森を立ち直らせるためには時間が必要だ。復讐を済ませれば解決するという話ではない。
「そうですね、この決闘が雛森殿のためになるかどうかはわかりません。ですが、某は嬉しかったのです。ようやく本音をぶつけてもらえたことが」
雛森はこれまでずっと黙していた。がむしゃらに働き、訪重郎を無視し続けた。彼を責めたところでどうにもならないとわかっていたからだ。自分の中に閉じ込めて来た感情を処理するためには決闘という理屈にすがるしかなかった。
「それでいいんです。飲み込んでおくよりも吐き出した方が楽になる。いくらでも受け止めますよ。某も、隊長ですから」
どうやら訪重郎にも考えがあるようだ。少なくとも雛森を害する意図はないらしいとわかって日番谷は少し安心した。
「まあ、それならいいが。問題は決着をどうつけるかってことだろ? 落としどころがあるようには思えないんだが」
「え? 決着?」
訪重郎はわけのわからない表情をしている。話が噛み合わずに日番谷も怪訝な顔つきになった。
「まさかとは思うが……何も考えてない、のか? ガチで雛森と斬り合うつもりじゃないよな?」
「いやそれは、決闘ですので、手を抜いては失礼ですので、はい」
「お前、それでもし仮に雛森が死んじまったらどうすんだよ!?」
「なるほど。そういう考え方もありましたか……あ、お菓子でも食べませんか?」
「ごまかそうとしてんじゃねぇ!」
前言撤回。思考が狂っているとしか思えなかった。雛森のために受けた決闘で雛森を殺してしまっては本末転倒どころの話ではない。
「テメェ、雛森に何かあったら承知しねぇぞ!」
「わ、わかりましたから落ち着いてください」
日番谷の周囲の空気が冷却される。斬魄刀を持たずとも彼の霊圧は冷気の性質を帯びている。握りしめた湯呑の中のお茶が凍り付いていた。
「困りましたね。殺し合えば分かり合えるかと思っていました」
どうして護廷十三隊の隊長たちはぶっとんだ感性の持ち主ばかりなのだろう。その中では割と常識人である日番谷は頭を抱える。
「では、考えておきますね」
「何をだ?」
「雛森殿を斬らずに勝つ方法を」
日番谷は、初めて見る生き物に向けるような目で訪重郎を見ていた。