無垢の花、花陰の蛇   作:華歳ムツキ

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Footnotes
ジェフ:SCP-2996の現実改変者。2996ではそのまま逃げ切って行方知れずになったが、某taleでは財団とGOCの混成部隊によって追い詰められ、その時助けてくれた蛇の手の仲間になった。



家、施設、図書館

あの日以来、決まって二人の悪夢を見る。

 

 

「アニー、どうして私達を置いていったの?」

 

 

レイ、違うの。あの時はそうするしかなかっただけで、適うことなら一緒に行きたかった。本当にそう思ってる。

 

 

「アニー……俺もこれで、友人達と会えるのかもしれないな……」

 

 

止めて、ジョン。そんなこと言わないで。きっと助かるわ。財団の医療技術は優秀なんでしょう?

 

 

「助かってどうするっていうんだ?」

「もし施設を元に戻せたとしても、私達の人生は元に戻らないわ」

 

 

そんなつもりじゃなかったの。ただ、私は父さんのことを知らなきゃいけなくて、それで──

 

 

「アニー?」

 

 

……

 

 

「アニー、起きて。ここで寝ると司書に摘まみ出されるよ」

 

 

がくんと落ちるような感覚と共に目が覚めた。机に突っ伏していた顔を上げれば、いつの間にか対面に座っていた人がこちらを見て微笑む。

 

 

「よく眠っていたね。けど、館内で眠るのは止した方がいい。さすがに司書もいい顔をしないし、ごく稀に館内で戦闘が起きることもあるからね」

「あなたは……」

 

 

眠気が酷く、軽く吐き気がした。けれど、目の前の人が言う通りここで二度寝すべきじゃない。アニーはゆるゆると頭を振り、ここに座っていた理由を辿った。

 

 

「……あなたがジェフ*1の言っていた『案内人』?」

「そうだよ。はじめまして、蛇の手の新人さん。僕のことは……緑青(ろくしょう)と呼んでくれたらいいよ。早速だけど、最初に君について確認させてもらっていいかな?」

 

 

アニー、複製部門所属のDクラス──あるいは、SCP-9237に組み込まれた子供。

実母はアニーを生んだ直後に死亡し、実質的に家族は父親一人だった。だが、その父親もアニーが大きくなってから失踪し、生活が立ち行かなくなった彼女は犯罪に手を染めてしまう。そこへ手を差し伸べたのが財団であり、彼らはアニーの犯罪歴を消す代わりにDクラスとしての雇用を申し出た。

それ以降の記憶は未だに曖昧だ。財団は実験のために何度もアニーに記憶処理剤を飲ませ、彼女の記憶は複雑に絡み合っている。正直に言って人権などあったものではない扱いだが、幸いにしてジョンやレイという財団職員と親しくなれた。アニーがこれまで心折れずに頑張れたのは二人の助けがあったからだ。

だが、最後の最後でアニーは友人ではなく家族を選んだ。意図的にインシデントを起こし、施設を逃げ出した彼女はかつての実家へと戻ったのだ。そこでかつて母親から贈られた異能を取り戻し、再び追いかけてきた財団の機動部隊からも逃げ切ったのだが──

 

 

「君の母親が蛇の手の一員だったことは聞いている?」

「ええ……ジェフが教えてくれたわ。当時は分からなかったけれど、形見のペンダントに蛇の手のマークが刻まれていたのね」

 

 

財団の機動部隊から逃げ切ったとはいえ、いつまでも逃げ続けられるとは限らない。財団の情報網は広く、異能を手に入れたばかりの一般人が一人で逃げ切るのは困難だ。そんな困り果てたところに声をかけてきたのが、蛇の手のスカウトマンを名乗るジェフだった。

はっきり言って、ジェフもジェフで胡散臭い人物ではあった。蛇の手の仲間だった母が死んでから何年も経っているのに、何故今更アニーの前に現れたのか。しかも、アニーが困っているところを見計らったかのように。

正直なところ、他に頼る宛てがなければ蛇の手に入るかどうかは保留したかもしれない。だが、刑務所で財団が差し出した手を掴むしかなかったように、財団に捕まるわけにはいかないアニーにとって頼れるのは蛇の手だけだった。

それに、母がかつて所属していた組織に興味がないと言えば嘘になる。ひょっとしたら母の過去について何か知れるかもしれないという淡い期待を抱き、ジェフに案内されるまま蛇の手の拠点となっている放浪者の図書館に足を踏み入れたのだが──

 

 

「ジェフから聞いて初めて知ったということは、母親の後を追っていたから黒の女王の派閥に入ろうとしたわけじゃないのかな?」

「派閥?」

「……待って。もしかして聞いてないの?」

「何のこと?」

「……道理でジェフが連れてきた新人なのに、僕を呼びに来たのはデイビッド*2だったわけだ」

 

 

緑青は何やら困惑している様子だったが、アニーもアニーで訳が分からない。

そもそもスカウトしたジェフは拠点である放浪者の図書館に連れてきた後、碌に話もせずにどこかへいってしまったのだ。かと思えば戻ってくるなり、渋い顔で「お前の案内役は他の奴がやる」とだけ言い残し、またすぐに姿を消した。その案内役も先程から意味不明なことばかり言うのだから堪ったものではない。

 

 

「ごめんね、ちょっと思ってたのと違ったから驚いて……じゃあ、まずは蛇の手のことから説明すべきかな。蛇の手についてはどれぐらい知っている?」

「財団が収容しているような……普通ではないものを解放し、自由に暮らせるようにすることを目指しているのよね?」

「そう、方針の違いはあれど皆その目的に関しては一致している」

「……その方針の違いというのが、先程言っていた派閥?」

「その通り。蛇の手は財団と違って明確な身分差はなく、小グループが集まった互助組織と言った方がいい」

 

 

蛇の手とは、財団やGOCと並ぶ異常存在対応組織である。収容主義者の財団、破壊主義者のGOCに対し、蛇の手は開示主義者だ。財団とGOCは方向性は違えどアノマリーを人の目から隠すべきと考えているのに対し、蛇の手はそれらを全て白日の下に晒すべきだと考えている。

また、組織としての体質も財団やGOCとは大きく異なる。財団やGOCが強固な指揮系統を持つ統一組織なのに対し、蛇の手は明確な縦の指揮系統は持たない。どちらかといえば細かな派閥が集まった緩やかな互助組織であり、こうした体質のため蛇の手は財団やGOCに比べると非常に小規模な組織だ。

 

 

「具体的にどんなグループがあるかだけど……まあ、中にはもう何年も新人を集めていないような、極めて閉鎖的なグループもある。その辺は新人にとってあまり関係がないから、今も新人を集める程度には活気のあるグループだけに絞ろう。それなら三つだけで済むからね」

「意外と少ないのね」

「まあ、蛇の手自体が財団とかに比べると小さいからね。この三つにも結構規模の差があって……あー、小さい順に言おうか。一番小さいのは魔術師のグループだ」

「魔術師……」

「……君は今おそらくはハリーポッターみたいなものを想像しただろうけど、彼らの前で決してそういったことは言わないように。現実の魔術師というのはもっと地味というか、彼らの技量は主に儀式で発揮される。魔術は先天的な異能者に比べると瞬発力には欠けることが多いけど、代わりに神格存在をも封じられるほどの力を発揮できる……段取りさえ確かならね」

「よくわからないけど……すごい人達なのね。なのに一番小さいの?」

「魔術師の才能は基本的に血統に依存する。素人でも研鑽を積めばある程度の魔術を覚えることはできるけど、先祖代々魔術を修めているような人には敵わない。だから、彼らも濫りに新たな人員を取り込んだりはしないんだ。血筋が確かでなければ大成する見込みは薄いからね」

「大変な世界なのね……」

 

「次に……うーん、彼らのことをどう言ったものかな。彼らにはこれといった特徴はなく、人員的には君が入ろうとした黒の女王の派閥に近いかもしれない」

「異能者の集まりということ?」

「そうだね。彼らの中で長年意思決定を行ってきた面々の名を借りるなら、彼らはブライト家の派閥だ。彼らの血筋は異能者が生まれやすく、一般社会では生きていけない子らを保護している……先程少し名前を出したけど、デイビッドはここのグループの主要なメンバーの一人だ」

「その派閥には同じ一族しかいないの?」

「いいや、必ずしもそうじゃない。彼らは一定の基準さえ満たしていれば、自分達に関わりのない者でも保護することがある」

「一定の基準?」

「人を傷つけたことがないかどうか……彼らは自分達を少し変わっただけの人間だと見做す傾向が強い。そして、一般社会で生きる人々は罪を犯せば裁かれるものだ。だから、彼らは人を傷つけた異能者はたとえ血縁者であっても保護しない……勿論、異能者の中には能力をコントロールできず、偶発的に人を傷つけてしまう者も少なくない。そういった事情は考慮するから、より正確に言えば“意図的に”あるいは“悪意を以て”人を傷つける異能者は仲間に入れない」

 

「……じゃあ、黒の女王の派閥は?」

「まあ、ここまで話せば想像がついたんじゃないかな? 黒の女王の派閥は異能者を中心に集め、尚且つ当人の前歴は一切気にしない。だから、彼女の下には詐欺師だっているし、連続殺人犯だっている……組織のために働く以上、今は誰もプライベートでそういうことはしていないだろうけどね」

 

 

アニーは頭を鈍器で殴られたような心地に陥った。先程緑青は「母親の後を追っていたから黒の女王の派閥に入ろうとしたわけじゃないのか」と言ったのだ。つまり、母は黒の女王の下いて、それで──

 

 

「落ち着いて、アニー。女王派閥のメンバーが全員そういった経歴の持ち主というわけじゃない。君のお母さんが誰かを傷つけていたかどうかは分からないだろう?」

「……緑青は私の母と面識はあった?」

「いいや。ただ……」

 

 

緑青は言葉を探すように口を噤んだ後、少しばかり困ったような顔で慎重に口を開いた。

 

 

「デイビッドが僕を呼び、わざわざ他派閥の新人勧誘にまで介入したのは、君の生い立ちを気にしてのことでもある……つまりは、君のお母さんがしでかしたことについてだ」

 

*1
tale:人でなしどもの願い事

*2
デイビッド・ブラインドマン。マイケル・ブライトが唯一嫡出子として認めた青年。予知能力者であり盲人。目は父親によってくり抜かれた。




タイトル: 人でなしどもの願い事
作者: crow_109
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/brutes-blues
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-2996 - ERROR / ERROR
原語版タイトル: SCP-2996 - ERROR / ERROR
訳者: gnmaee
原語版作者: djkaktus
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2996
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-2996
ライセンス: CC BY-SA 3.0
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