ベイラム・インダストリー所属パイロット『G7 レイヴン』 作:チームマッチUNRANKED
『…621 仕事は終わったようだな』
目を瞑ったまま、再生され続けるメッセージを聞く。
『お前は自ら選び 俺たちの背負った遺産を清算した』
『すまない そして感謝しよう』
謝らないでください…。俺は、自分の意志で…。
『621』
『お前を縛るものはもう何もない』
違う。ウォルターの意思は俺を縛るものなんかじゃ、枷なんかじゃなかった。
『これからのお前の選択が…』
『お前自身の可能性を広げることを祈る』
俺は、貴方を選んで、そのために全部を捨てたって言うのに…なんで貴方は、自分が俺の可能性を狭めていたみたいに…!
ウォルター…。
声が出ない。言いたいことはいくつもあるのに。
ウォルター…。ウォルター…!ウォルター…!!
「ウォルター!!!」
「うおっ!?!?!?」
…ガレージだ。
『強化人間C4-621 バイタル危険域逸脱 通常モードに移行します』
頭のなかで音声が響く。いつの間にかACから降ろされて、臨時ガレージで寝かされていたようだ。
「野良犬ゥ!!!急にデケェ声出してんじゃねぇ!!!」
「お前も声でけえよ!!!うるせーな!!!」
自分でも寝起きとは思えないぐらいの声量で怒鳴り返す。
「んだとコラ!!!!!」
「待てG7!ケンカしてる時間はないでしょう先輩!?」
レッドが間に割って入ってきた。
「ったく。問い詰めなきゃならんことがごまんとあるが、そんなことよりあのお役人どもだな…」
起き上がりつつ、状況を確認する。時間は…さっきの戦闘から数十分ぐらい経っている。
「戦闘はどうなった?」
「隔壁がうまい具合に足止めになって、ヴェスパー部隊の第五波を阻んでいる。その間に補給を進めていた。こっちのMTは限界が近かったからな。それと、第四波までは殲滅が完了しているぞ。」
「お前がおねんねしている間にな!」
一言多い。そんなんだから壁越えを外されたんだぞ。…と言いたい気持ちをぐっと飲み込む。
「そうだ、ノーザークはどうなった?」
「ああ?お前が撃墜したんだろうが?」
最後っ屁のネビュラでどうにかなったようだ。ラッキーパンチが当たったな。
「あいつは脱出したのか?」
「ノーザークとブレードの独立傭兵、それと四脚MTパイロットの内の何人かには脱出を許してしまった。探しても見つからなかったし、おそらくこの施設には人間サイズの脱出通路でもあるんだろうな」
チッ、殺しきれなかったか…。
「とにかく、目が覚めてよかった。ACが3機いれば、どうにかヴェスパーを押し返す算段も立つというものだ!」
「監視!隔壁の様子はどうだ!?」
『変わりありません!ですが隔壁直上の敵性反応は増えつつあります!』
「当然そこまで休ませちゃあくれねぇよなぁ…。野良犬!とっとと機体の準備をして配置につけ!」
「あいよ!」
「返事は"了解"だ犬っころが!」
「あいよ!」
罵声を背に浴びながら、機体に向かって駆け出す。
さっきの夢。第四世代強化人間に夢を見るだなんて高尚な機能はついていない。というか真人間だったとしても、気絶中に夢は見ないだろう。
夢の1つも見られないだなんて、夢のない身体になってしまったものだ。…あんまり上手くない表現かもしれない。
この異常はやはりCパルス変異波形…エアの影響なのだろうか。
最初の周。俺はウォルターの意思に沿うことだけが正しい選択だと思い、躊躇なく星を焼いた。きっと、ノーザークもこれからそうするだろう。
あいつは選択する。そうなれば、最大の脅威になる。
俺は、火でも今までの解放でも賽でもない、第四の道を目指す。それは星を焼くだろうノーザークとは決定的に相容れない。
俺は絶対にたどり着く。解放戦線もベイラムも、そしてオーバーシアーも生き延びる、ご都合主義の大団円に…。
…記憶が正しければ、ウォッチポイント・アルファにこのタイミングで来るヴェスパー隊長2人はホーキンスとペイターだ。負ける相手じゃない、機体を詰めていこう。
軽量四脚をガレージの隅っこに適当に突っ込み、テンダーフットを再度調整し直していく…。
「作戦再開だ!総員、配置につけ!」
レッドからの通信。MTたちが散開していく。
「見ろ!隔壁が!」
「ヴェスパーが来るぞ!構えろ!」
隔壁が開き、ヴェスパー部隊がなだれ込んでくる。第5波だ!
「やはり待ち構えているか。相手は下位ナンバーとはいえレッドガンのAC、それも3人だ。気は抜かないように、ペイターくん」
「了解です、第五隊長殿。全力で当たらせていただく所存であります」
「MTを掃除しろ!G5たちがヴェスパー隊長の相手に集中できるようにするんだ!」
「撃て!包囲しろ!!!」
ホーキンス、ペイター、そして四脚含むMTと安いおまけの通常兵器が合わせて数十機。ほぼこちらの全軍と拮抗する数だ。
「V.Ⅴを俺とレッドの2機で袋叩きにする!
「「了解!」」
「G7 レイヴン…まさか直接戦うことになるとは…!」
「久しぶりだなペイター、独立傭兵の頃以来か?」
「すまないがあまりおしゃべりには付き合わん…私の進退がこの作戦に賭かっているのだ!」
言うや否やパルスブレードで斬り掛かってくる。当然余裕を持って後ろに…
ガクンっ。
急に機体がバランスを崩し、QBが中断される。逆関節の踏み込みによるパルスブレードの二段目をもろに受けた!
「…!?」
なんだ…?機体が思うように動かない。
「くっ…」
距離を離し、ライフルをばら撒く。ターゲットアシストの様子もおかしい。時々小さなエラー音とともにカメラ追尾が途切れる。
『強化人間システム エラー発生』
COMの声。どういうことだ…?
「これがあのレイヴン…?にしては手応えが…」
相変わらず思ったことを全部口に出す奴だ。仕方なくアシストを切るが、照準移動もおぼつかない。
パルスブレードを起動。シールドを叩き割ってチャンスを…
グワンっ。
ブレードホーミングに機体が振り回され、変な方向に袈裟斬りをぶちかます。当然、デュアルネイチャーには当たらない。
「なんだ…?何が目的だ…?」
さっきの高負荷から思った以上に悪影響を受けているようだ。第四世代は人格だけじゃなくシステムも不安定。頭じゃ分かってたつもりだが、こうもままならないものか!
「本気を出さないつもりなら、それはそれで結構なことだ。そのまま私の栄光への足掛かりになってもらう!」
パルスブレードを再度もろに喰らう。スタッガー!蹴りとパルスガンでさらに追撃を受けた。
クソッ…勝ち筋が見えない…!
「こちらG7!援護をもらえるか!」
「MTを回す!」
「助かる!」
デュアルネイチャーの前に、すぐにレッドガンの二脚MTが複数機、盾を構えて立ち塞がる。だが奴は軽量逆関節、その気になればすぐに抜け出されるだろうな。
テンダーフットの状況を確認する。
そこかしこにエラー表示、強化人間システムとの接続がうまく行っていないようだ。マニュアルオーバーライド。強化人間システムを使った操縦を中断し、格納されていたコアブロック内のコンソールを引っ張り出す。
『強化人間C4-621 通常モード移行』
真人間だったころの記憶はないが、多分ACに乗ったことなどなかっただろう。だが、やるしかないんだ。
MTと交戦中のデュアルネイチャーをサイトに収め、トリガーを引く!"HIT"、命中だ。
ターゲットアシストを使用していない分、射撃精度は悪くない。
「ようやくまともに戦う気になったらしいが、もう遅い!」
跳躍でMTたちを軽々と飛び越えたデュアルネイチャーが優先順位を変え、ABでこちらに迫ってくる。パルスガンの連射で装甲が焼かれているが、回避する余裕がない。今の状況じゃシールドを展開してもろくにIGもできないだろうな。迎撃に全力を注ぐ。
クロスレンジに入ったタイミングでマニュアルエイムに切り替え、ブレードホーミングを使わずにパルスブレードを振り抜く!
デュアルネイチャーにはQBで回避された。踏み込みが足りなかったか!
周辺に纏わりつかれ、手動でガチャガチャ動かしていた照準が追いつかなくなる。これじゃ手も足も出ないぞ…!
「分が悪い…!イグアス!離脱許可をくれ!」
「何やってやがる野良犬?らしくもねぇ」
「先の耳鳴りでシステムがやられた!」
「チッ、肝心なところで役に立たねぇな…戻れ!レッド!V.Ⅷの相手をしてやれ!」
「…すまない…!」
「待て!そう簡単に昇進を逃してたまるか!」
ベイラムの歩く昇進扱いかよ。お前が何に見えるか分かるか?楽に稼げる首級だ、とアンテナ頭の顔部に書いてある。
MTたちのミサイルも跳躍で軽々と回避されるが…
「ぐっ!?」
バズーカ弾が命中、スタッガー!レッドか!
「カバーに入るぞG7!」
「ナイスカットだ!」
デュアルネイチャーがスタッガーしている内に、レッドがハーミットで俺とペイターの間に立ち塞がる。
「G7、MTの相手なら出来るか?」
「二脚なら。やってみよう」
ブースターの出力を抑え、慎重によろよろと離脱する。
「G6 レッド…よもや私より先に末席の座を返上するとは!」
「ハッ、席次など関係ない!重要なのは精鋭部隊レッドガンに所属していること、それだけだ!!!」
パルスとミサイルの激しい応酬が始まる。パルスブレードを完全に見切っているレッドがやや優勢だ。
MTを遊撃しつつ、戦場の状態を確認する。
ウォッチポイント・アルファ深度1の広くないスペースで、MTが押しくら饅頭状態で乱戦を繰り広げている。どっちも同じ機体だから分かりづらいが、四脚、二脚、通常兵器、全てでアーキバスが数で勝っている。よく見たら色が少し違うか?
AC数の有利を生かさなければ逆転の目はないのだが、その肝心のACが一機潰れてしまっている。俺だ。
俺にできるのは亀みたいな速度で遊撃しながらイグアスとレッドの速攻勝利を願うことぐらいだ…。
「なんだ…!?弾が当たらない…!」
これは…ホーキンスの声か。イグアスの方に目をやると、すさまじい量のエネルギー弾の嵐を易々とさばき切っている。レーザーキャノンとプラズマミサイルは巡航で躱し、完全回避の難しいプラズマライフルのチャージは盾を開き直してIGで受けていた。
オールマインドの息が掛かっていた時に凄まじい精度でQB回避していたのを見てもしやとは思っていたが…やはりACでの回避の才能は頭一つ抜けている。
「ハッ、大したことねぇな!」
「やるじゃないか…!とてもレッドガンの下位ナンバーとは思えない…!」
弾丸が当たらないのに業を煮やしたか、ホーキンスがレーザーブレードをチャージする。が…
「見えてんだよ!」
イグアスがQBでレーザーブレードの俯角限界に滑り込み、無防備な背中にチャージパルスブレードを振り抜いた!
リコンフィグがスタッガーしたらしく、パルスアーマーを展開する。しかし、激しい弾幕で数秒で剥がされた。
「お話にならねぇなァ!俺がどんだけ四脚AC相手にしごかれてると思ってんだ!アァ?!」
「…! いいね君…ヴェスパーに来ないかい…?」
ヘッドブリンガーがブーストキックを躱し、リコンフィグをぶった斬る。スポット機能はダウンしてるが、あれは多分撃破したんだろう。
一瞬遅れてリコンフィグが爆発する。
「第5隊長殿!!!」
「よそ見をしている場合か!?」
ハーミットがデュアルネイチャーを強襲、そのままTAを吐かせた!
しかし…。
「第六波、来ます!」
MTがさらに現れる。
「ここで作戦を成し遂げれば、私が第5隊長だ…!!」
加えて、デュアルネイチャーがTAの圧倒的防御力に任せてハーミットにパルスブレードで無理やり突っ込んでいった。
「くっ、躱せんか!」
ペイターならTAの後にあるリペアは一つのはずだ。あいつにはそういう癖がある。
「レッド!もう相手にリペアはない、火力で押し切ってしまえ!」
「もとよりそのつもりだ!レッドガンの矜持、見せてやろう!!!」
レッドが中距離戦を捨て、クロスレンジで戦いだす。
「負けてたまるか!散っていったホーキンスのためにも、私の未来のためにも!!!」
気迫こそあれど、逆関節の地上QBは姿勢準備の時間が長い。ゼロ距離バズーカは相当に避けにくいだろう。
こっちはこっちでMTの始末を続けていく。第六波で投入された中に四脚はいないが、盾持ちが多くて骨が折れる。
ブーストを一瞬切ってから再噴射して飛び上がり…頭上を飛び越して旋回して背にライフル!撃破!
今後ずっとこの調子じゃ支障が出るどころの話じゃないな…。どうにか治るといいんだが。
「ACSが…!」
レッドの方に目をやると、デュアルネイチャーをスタッガーさせたところだ。
ハーミットの火力じゃ相手が軽量機とはいえ1スタッガーでは落とせないだろう。まだかかりそう…いや。あれは…!
「吹き飛べ!」
レッドのブーストキックでデュアルネイチャーは大きく吹き飛ばされる。その先には…。
「来やがったな!」
ホーキンスを落とし終わったイグアス!
「てめぇにレッドガンの流儀を教えてやるよ…!」
ヘッドブリンガーがENをパルスブレードに流し込み…
「"泣きを入れたらもう一発"だ!!!」
さらに強力になった波形を叩きつける!!!
「そんな…!今日から私が…第5隊長なのに…!!!」
デュアルネイチャーは新たなるヴェスパー第5隊長を乗せたまま、ネペンテスの残骸に叩きつけられ爆発した。
ペイターはしぶとい。脱出されてはかなわないし、あとでコアブロックと施設周囲に捜索を出したほうがいいだろう。
それにしても…。
「イグアス、レッド、今のコンビネーション俺が「壁」でヴォルタとやったやつみたいだったな。野良犬に憧れちゃったか?」
からかってみる。
「駄弁ンなお荷物の野良犬。まだMTの掃討は終わってねぇぞ。」
おっと、これは手厳しい。おとなしくMTの掃討に入る。
………
「ヴェスパー部隊、反応ありません!」
「よし、被害確認しろ!その後臨時ガレージに引き返すぞ!一応何機かここ警備しとけ!捕虜は適当にコンテナに突っ込め!」
イグアスがテキパキと指示を出す。一応こいつこの現場じゃ指揮系統の一番上だもんな。
「野良犬。」
イグアスから個人回線に通信が飛んでくる。
「もろもろ言いてえことはあるが…まあ、一番はあれだな。」
なんだ?ねぎらいの言葉でもくれるのか?
「ざまあみろ。」
…え?"ざまあみろ"?
「それってどういう…」
『ブツッ』
通信が切断される。
作戦終了後、俺はイグアスに臨時拠点の通信室に呼び出されていた。そこの画面に映っていたのは…ミシガンだった。
ミシガンは報告書らしき紙を眺めながら言葉を発する。
「独断専行に現場の上官の指示の無視、さらに許可されていない機体にシステムごとレッドガンの友軍タグをぶち込むとは…貴様は軍規違反
「いや、その…もう独立傭兵じゃないのでオールマインドのパーフェクトマーセナリー認定は受けられ…いやそうじゃなくて…あー…その…必要だったんですよ…それで…えーと…」
あーまずい。こんがらがってしまった。
「はん、いいだろう!!!」
「…?!」
「貴様のその単純な命令も聞けない節穴の耳!!!!!そこに問題があると見た!!!!!!!!!!」
「え…?」
「部下の強化人間システムの整備は上官の責任だ!!!!!トップ自らメンテナンスとして耳かきをしてやろう!!!!!!!!!!」
「えっちょっ…え…ミミカキ?」
聞き取れた音を意味に変換しようとしてみる。ミミカキ…三身火器…耳火器…耳かき?え?耳かき!?
「安心しろ!!!我が耳かきは受けた人間はねじ曲がった性根ごと快癒するともっぱらの評判だ!!!!!」
「それ多分耳かきじゃないです!!!ちょっ!!!」
不味い!明らかに不味い!逃げなければ!!!ドアに向かって駆け出すと、
『ガチャリ』
あ。そういやここ、遠隔でドアロックできるんだっけな。
あれ。ということは。あーーー。ざまあみろってそういうことね。どこか冷静な頭のなかで考える。
「まっ…たっ!!!助け!!!!!」
ドアにすがりつくが、微動だにしない!
「二度と作戦中におねんねなどできないようにしてやろう!!!愉快な耳かきの始まりだ!!!!!」
「おあーっ?!?!?!」
その後、聴覚調整すら貫通する声量で叱責されながらペナルティのとんでもない分量のトレーニングをマンツーマンでこなした…。
その声量は、エアの