ベイラム・インダストリー所属パイロット『G7 レイヴン』   作:チームマッチUNRANKED

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深度2強行探査

 ヴェスパーの迎撃から数日。補給を待たずして探査を続行するのはリスクが大きいと判断したナイルにより、調査続行にはストップがかかっている。

 地上では補給線構築のために激しい戦いが繰り広げられているそうだ。アーキバスは封鎖機構の兵器を多少鹵獲したとはいえ、先日の衝突で大きく戦力を失い疲弊状態にあるらしい。

 

 また、ベイラム側もアーキバスや同時襲撃作戦の残骸から封鎖機構の兵器を少しずつだがリバースエンジニアリングを試みているとのことだ。

 ENの扱いのノウハウが乏しいベイラムが、実弾もミサイルもあんまり使いたがらない封鎖機構のEN兵器を扱えるものだろうか……。まあ、お手並み拝見だな。

 

 

 

 しばらく焼き付きの治療とリハビリに専念できる……と思ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。

 突如として深度2から広域発信が届いたのだ。その信号はレッドガンにとって未知の方式で暗号化されていて、情報チームは一目見ただけで"解読は難しい"との結論を出し、ミシガンにめちゃくちゃデカい声で叱責されてた。

 

 そして、その信号を見た俺はリハビリの名目のもとテンダーフットに乗り込み、深度2へと単身潜っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このあたりか」

 部分的に復旧した強化人間システムを繋いだACを、上手いこと制御して目的の場所へ向かう。

 部屋の中央の穴に落下し、着地の衝撃をブーストで殺す。そこで待っていたのは……。

 

「よく来てくれた、G7 レイヴン。俺はタルガト・イェルシンだ。よろしく頼む」

 BASHO一式に新兵向けのライフル(RANSETSU-AR)エツジン(バーストマシンガン)手持ちグレネード(リトルジェム)ジャミング弾ランチャー(KYORIKU)を載せたACと、複数機のBAWS二脚MTだ。

 

『同志へ。我々はウォッチポイント・アルファを企業に先行して調査し、潜伏拠点を設営することを決定した。助力の意思があるならば、部隊の護衛を頼む。「コーラルよ ルビコンと共にあれ」』

 ……というのが、先の解読不能の信号......いや、解放戦線式暗号の内容だ。にしても万が一解読された時のリスクがあるとはいえ、ひどく雑なブリーフィングだな。俺じゃなきゃ受けなかったぞ。

 

 

 つまりだ。

「この前うちを突破した戦力はあんたらで、さっきの信号もあんたらのものってことでいいんだよな?」

「その通りだ」

「ということは、俺が解放戦線に付く代わりに……って提案は通ったってことか?」

「いや、今回のは師叔曰く"試金石"だそうだ」

 

 ほーん、試してくれちゃって。ヴェスパー7排除といい解放戦線は本当にそういうのが好きだな。

 

「だがレイヴン、君はこうしてここに来てくれた。師叔や師父の懸念は杞憂だったということかな」

 そういや結局フラットウェルとはちゃんと話せてないな。

「フラットウェルによろしく頼むよ」

「そこは君の活躍次第だな。価値を示してくれよ。というわけで、早速探査を始めよう」

 リスクを背負ってここに来てやった時点で拝んでくれたっていいぐらいだろ。

 いや、それは贅沢ってものか。例えトップがあの話に納得していようと、企業はやりすぎた。

 表面上だけでも和解なんて到底受け入れられない連中が、解放戦線にはごまんといるだろう。無理に推し進めれば、最悪ルビコン解放戦線が空中分解だ。

 信じるに足ることをさらに行動で示さないことには、この話は動き出しすらしない......。

 

 

 

「何を突っ立っている? 企業の庇護下にいないと怯えて探索もできないのか? 犬が!」

 考え事をしていると、いつの間にか進み始めていたMTパイロットから怒声が飛んでくる。

「やめろ。レイヴンがいなければ俺たちはここを突破できない」

 イェルシンがMT乗りを制止する。

「忘れたか?あの封鎖兵器数体相手にどれだけ苦戦したか。この先あれがゴロゴロ出てくるんだぞ」

「......チッ」

 

 

 

「ところで制御盤は見つけたか?」

「制御盤?」

「上の隔壁を開けるには、制御盤へのアクセスが必要だ」

 確かこっちの方に……あった。アクセスして隔壁とリフトを開放させる。

「こっちだ。リフトを動かした」

「レイヴン、ずいぶんここに詳しいんだな?」

「あーーーーー。技研。技研の論文で見たんだ」

「論文に施設の構造を……? いや、技研ならそういうこともあるのか?」

 ごめんナガイ教授。俺のせいで技研が兵器の弱点からセキュリティまで全部論文に書いて公開しちゃうおマヌケ組織ってことになっちゃった。

 

 

 

 MTたちが俺達の後からリフトを使って登ってきたのを確認し、隔壁を開く。

「本当にこいつに着いて行っていいのか? 罠なんじゃないのか?」

「そのつもりならとっくにやっているだろうさ。それに、俺達解放戦線は罠だったとしても進み続けるしかない」

 警句を唱えて外敵に立ち向かうのは思考停止にも似た側面がある。かつてエアは解放戦線をそう評していた。

 今のこいつらはただ闇雲に進み続けているだけなのだろうか。それとも……。俺を試すつもりだと言っていたが、こちらもこいつらのことを見極める必要がありそうだ。

 

「この先は熱交換室だ。開けた場所に出るぞ」

 警告を発する。

「封鎖兵器が待ち伏せするなら格好のロケーション、って訳だな。戦闘準備!」

 スキャンを飛ばすと、いくつか敵性反応が見える。いつもならレッドガンに殲滅されてていなかった連中だ。

 

「敵影確認。共有するぞ」

「おお、助かる。芭蕉だとどうにもスキャン性能が足りなくてな」

「フィルメザぐらいくれてもいいのにな」

 MT乗りからも不満が飛ぶ。

「ランク外のこの俺に師叔と同じ機体が渡されるわけないだろ。3カウントの後に隔壁を開ける、それぞれ目標に狙いをつけろ」

「俺は坂の下のを撃つ」

「右の台上」

「左」

「撃ち漏らしの迎撃をする」

 わずかな時間で分担が決定される。

 

「よし。3、2、1」

 隔壁が回転し、開き始める。

「撃て!!!」

 開いた空間に向けて、MTたちとイェルシンが一斉にバズーカとグレネードを放つ。待機していたUNAWARE状態の封鎖兵器たちが一斉に吹き飛んでいった。

 掃射から生き残った主力機は俺がぶった斬る。スタッガーした機体相手ならまだへにょへにょのままのブレードホーミングでも十分だ。

 

「クリアか?!」

「クリア!」

「よし、進むぞ! ここまでは一本道で潜伏できそうもない。ここはダメだ」

 企業顔負けの練度だ。どうやら解放戦線の中でも相当の上澄みが送り込まれたらしい。

 

 

 

 イェルシンが隔壁を解放し、ゆっくり進んでいく。いや、待て……この先は……。

 ABを起動。全速力でイェルシンの前に飛び込み、立ちはだかる。

「!? レイヴン、何をして……!?」

 スキャンを起動! 見えた! シールド起動!

『防衛プログラム フェーズ2.0』

 突然現れたエンフォーサーが放ったレーザーを、IGで受け止める。セーフ!

 反撃のライフルを数発撃ち込むと他の橋に飛び移って逃げ、狙撃態勢をとり始めた。

 

「助かった! レイヴン!」

「まだだ! 狙撃レーザーとミサイルが来る! 遮蔽に入ってろ!」

 まだ本調子じゃないが、エンフォーサーぐらいなら余裕で相手できる。ABでまっすぐエンフォーサーのもとへ機体を飛ばした。

 

 狙撃レーザーが飛んでくる寸前にQBのトリガーを半分引き、レーザーサイトに捕らえられた瞬間に一気に握り込む!

『ドヒャア!』

 機体が大きく右に逸れ、レーザーは隣を素通りしていった。そのまま突き進んで間合いに入ったところで、エンフォーサーはトンネルに向かって高速で撤退していく。

 よし、操縦の調子は上々。突然CELが湧いてきて高速旋回戦でもさせられなけりゃどうにかなるだろう。封鎖兵器を斬り捨てながら調子を確認する。

 

 エンフォーサーはあくまで防衛兵器、ここまで来ればこの先へ進もうとしない限り積極的攻勢には出ないはずだ。

「襲撃してきた敵機の撤退を確認した。気をつけて先へ進んでくれ」

「了解」

「指図するな。俺はイェルシンの部下だ」

 

 

 

 最深部への隔壁の先で待ち構えるエンフォーサーの前に顔を出し、またレーザーをIGで軽くいなす。隔壁が緊急起動し、最深部への道が閉鎖された。今回の目的は深度3への侵入じゃないから問題はない。

「周辺に敵影なし。雑魚も片付けたし、これであのデカい防衛兵器はしばらく出しゃばってこないはずだ」

「よし、今のうちに設営地点を探すぞ。散開しろ! MTはツーマンセルで動け!」

 散り散りに探索しつつ、防衛ドローンを蹴散らしていく。しばらく待っても通気ダクトを見つけられないようならそれとなく教えてやるか。

 

「崖下に資材置き場らしきスペースを発見した!」

 お、あの崩落した線路のところか。通気ダクトに誘導するつもりだったが、ここも機体から降りることを考えれば割と広いし物陰も多い。修理ドローンの通りが多いのが不安だが、破壊行為をしなければ敵対しないし多分大丈夫だろう。

「総員、指定した座標に集合だ」

 

 

 

 俺含めた全員が資材置き場に集まる。

「なかなか悪くないんじゃないか?」

「ああ、主要通路からも外れてるし申し分ないだろう」

 MT乗り達が相談している。

 しばらくの後、ここに根を張るのを決めたらしい。

「よし、居住コンテナを降ろしてくれ」

 MTの一体が背中のコンテナを地上に下ろす。その時。

 

『ピーッピーッ!』

 咄嗟にQBで反応!さらにQBの勢いを乗せた旋回でレーザーの発射源に向き直る。

「……オールマインド……!」

 攻撃の主は姿をくらませた。

「奇襲だ! 戦闘準備をしろ!!!」

「敵影……いつの間に……! ジャミングか!?」

「MTの推力じゃ距離を詰める前に撃ち落とされる! 射撃戦用意! レイヴン、突っ込んでくれるか!」

 イェルシンが指示を出す。彼のグレネードもライフルも射程範囲外だ。MTのバズーカに頼る形になるだろう。

 

「任せろ!」

 言うや否やABで飛び出す。強化人間システムが完全には機能していないせいで、EN周りがシビアになっている。一歩間違えれば奈落へ真っ逆さま、強制オートパイロット機能で機体に激しい負荷がかかる。

 やってやろうじゃないか。

『ピーッピーッ!』

 アラートを聞き、わずかに機体の進行方向を逸らす。ゴーストの狙撃にはFCSの予測射撃が乗らない。つまり、軸を逸らせば当たることはない!

 

 崖の出っ張りに着地し、ENを補充。狙撃をジャンプでぎりぎり躱す。さっきまで立っていた場所がレーザーで粉々になったのが見えた。

 弧を描くようにABで距離を詰め……

「ッ!?」

 近接型ゴーストのレーザーウィップを間一髪で躱すが、ENが焼けた……!足場は無い、墜ちる!

 

 背に腹は代えられない!EN復元完了と同時にブーストキックを連続で使い、僅かなENで無理やり上に機体を飛ばす。MELANDER C3の駆動系が悲鳴を上げるのが聞こえた。ごめんメカニック!謝るから絶対許してくれ!

 

『ピーッピーッ!』

 見上げると、狙撃型の銃口がこちらを向いていた。あ。ブーストキックの硬直で避けられない。これこのまま墜とされるんじゃないか。今からじゃコア拡張は間に合わない。これはもう。

『ボンッ』

 墜落を覚悟した瞬間、背後から間の抜けた破裂音が聞こえる。次の瞬間、ECMフォグに包まれた。レーザーがあらぬ方向に飛んでいく。これは……!

「レイヴン! 無事か!」

 イェルシンのジャミング弾ランチャーか!

「助かった!」

 直後、バズーカ弾が狙撃型に殺到する。狙撃で足が止まった隙に、銃口の光を狙ったか。上手い!

 

 そのまま登りきり、スタッガーした狙撃型にENが焼けたまま無理やりブレードホーミングで追いすがり……

「叩き落としてやるよ、オールマインド!」

 ぶった斬る!

 

 狙撃型ゴーストは橋から吹き飛ばされ、奈落へ落下していった。

「レイヴン、後ろだ!」

「分かっている!」

 バックQBで背後のゴーストよりさらに後ろに下がり、ロックオンサイトに収める。QBトリガーを引き、一瞬ENの溜めを挟み……

「…… … …………」

 ゴーストがレーザーウィップを振り上げるが、

「遅いっ!」

 トリガーを握り続け、蹴り飛ばす!!!

 

 ゴーストの顔面の円盤が大きくひしゃげ、そのまま吹き飛んで機能停止する。

 高域レーダーに反応はない。ゴーストも全滅だ。

 

「ゴーストを通すだなんて……歩哨部隊は何をやっていたんだ?」

 思わず封鎖機構みたいな愚痴を零す。

「いや……そういえば我々が突入した時、ずいぶん警備が混乱していた気がする」

 

 その後、イェルシンが突入時のことを細かく教えてくれた。

「……なるほど。つまりは、封鎖機構とオールマインドが偶然同時に突破を試みた、とかだろうか?」

 ゴーストの円盤を引っぺがしつつ、話を聞く。

「オールマインド? こいつらはあの傭兵支援システムのオールマインドなのか?」

「あー、こっちの話だ」

 ここまでの精鋭がゴーストがオールマインドの尖兵なのを知らない?

 ……ということは、オールマインドがリリースのために動いてるのを知ってるのは、解放戦線の中でもドルマヤンとその取り巻きぐらいか。

 交渉しに行ったときの襲撃騒ぎがあったのに広まってないってことは、箝口令でも敷いているのだろうか。

 オールマインドと大々的に対立すると厄介だ、悪くない選択だな。ゴーストの円盤をテンダーフットの腕で弄りながらそう考える。

 

 

 

「設営完了。ミッション完了、後は仕掛けるタイミングを待つだけだ」

「それは何よりだ。俺も解放戦線の伝令を見かけたら通せそうなら通してやるよ。だから師叔に上手いこと……」

「それはダメだ。潜伏中にこれ以上通信を飛ばすと、位置が特定されるかもしれない」

 ちくしょう。

 

「じゃあ、俺はレッドガンのキャンプに戻る。幸運を」

「ああ、そっちもな」

 俺はウォッチポイント・アルファを逆走し、深度1にACを飛ばしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、リハビリしてたらこの前突破していったジャミング使いを見つけたからとっちめたぞ」

 そう言ってキャンプの真ん中に大きくひしゃげたゴーストの顔面の円盤を投げ捨てる。ガシャアンという音に驚き、隊員たちが何事かと臨時ガレージから顔を出してきた。

「G7! 単独であの部隊を仕留めたのか? 完全復活だな!」

 レッドが嬉しそうな声を上げる。

「おう、あとこの円盤を情報チームで解析しといてくれ。正体が分かるかもしれない」

 製造元は技研、運用者はオールマインド。オールマインドにベイラムの疑いの目を向けさせることが出来れば万々歳だが、この装甲パーツだけじゃ良くて製造元の特定しか至らないだろう。まあ、ダメ元だな。

「おお! これで我々に敵対している何者かの正体が分かるかもしれないな!」

 そういえばイグアスの姿が見えないが、どこだろうか。……居た。無理な稼働で摩耗した駆動系を見て絶望しているメカニックの隣で、こちらを睨んでる。

「……」

 敵意……いや、猜疑心……? そのどちらともつかない顔で、イグアスは俺の機体を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 G5 イグアスは、地中突入前にミシガンから言われた言葉を思い返していた。

『考えたくないことだが、G7が他勢力に寝返ったり、貴様らを襲撃するようなことがあれば……貴様に処分の権限を与える』

 つまり野良犬野郎はスパイかもしれねぇって話だ。

 あいつは何故単独で深度2に行った? リハビリならこのあたりでACを動かせばいいだろう。もともと独断専行が大好きなやつだが、あの信号のタイミングと同時に姿をくらましたのは不自然だ。野良犬らしく残骸を持ち帰ってきたからなんなんだ。あんな残骸、この物騒な穴倉じゃあいくらでも落ちてるだろう。

 G6は野良犬のことを信頼しきっちまってる。だがあいつは……信じていいのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあイェルシン、お前随分あの企業のパイロットを気に入ってるようだが、」

「はあ? 気に入ってる? 冗談だろう?」

「いやお前、あんなに友好的に」

「あんなものは建前だ」

 タルゲト・イェルシンはMT乗りの疑念をバッサリと否定する。

「覚えてないのか? ガリアのダムを潰したのはあいつだ。 ガリアの"井戸"はじきに枯れる見込みだったが……だとしても、ガリア多重ダムがまだ生きてれば、飢え死にする子供はもっと少なかったはずだ」

「……」

「ストライダーがシュナイダーのMTにやられて養えなくなった連中の分も、ガリアのライフラインが生きていれば多少は救えた。コーラルさえあれば……。」

 

 イェルシンは「壁」でのことを思い出していた。まだMTしか与えられていなかった頃、南側に配備されていた彼は、レッドガンの質量の前に一瞬で撃破された。

 命からがらMTから脱出して物陰で亀になっていた彼が見たのは、G7 レイヴンが来てくれた増援を蹴散らす様子。見知った顔が乗っているはずの兵器が、次々と鉄屑にされていく。イェルシンは、そんな光景をただ眺めることしかできなかった。

 

「コーラルがなければ ミールワームが育たない。今日も子供たちが飢えて死んでいく…」

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