ベイラム・インダストリー所属パイロット『G7 レイヴン』   作:チームマッチUNRANKED

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中央氷原-観測不能領域制圧 ①

 解放戦線を護衛してから1日。俺たちはやけに封鎖兵器の少ない深度2を難なく突破し、AC3機でエンフォーサーを袋叩きにしていた。一体誰が封鎖兵器を始末したんだろうなー。

 

「叩きつけだ!」

「見えているとも!」

 3機で床を走るエネルギーの波を飛び越え、一斉射撃でカウンター。イグアスがパルスブレードを直撃させ、吹っ飛んだ先にレッドが蹴りで、俺が軽四から引っこ抜いてきたネビュラのチャージショットでさらに追撃を入れる。

 

 

 

 地上の観測不能領域では完全に足止めを喰らったアーキバスが焦りで攻勢を強めている中、解放戦線の大規模部隊まで参戦してきててんやわんやになっているそうだ。

 聞けばインデックス・ダナム、六文銭、ミドル・フラットウェルの3人を含む、解放戦線師叔派が今出し得る最大戦力みたいな部隊で来ているらしい。

 どさくさに紛れて企業の主力をまとめて叩くチャンスだ、分の悪い賭けではないと俺も思う。

 

 気になるのはヴェスパーの動向だ。今のアーキバスに観測不能領域突破より重要な仕事などないはずなのに、フロイトはどこにいるんだろうか?

 それに、そろそろオキーフがオールマインドを離反する頃合いだ。アーキバスはこれからさらに手強くなるだろう。

 

 地上でベイラムの補給線が構築されないことにはこれ以上歩を進められない。

 ミサイルはとっくに弾切れして今はあの軽四から剥ぎ取った武器を大事に使っている状態だ。ライフルも弾を温存するために一旦ネビュラに持ち替えている。

 

 

 

 エンフォーサーのACS復帰に合わせてアサルトアーマーをぶち当て、再度デカい衝撃を与える。コア拡張はそう乱発できないが、弾丸がいらないのがありがたいな。

 レッドのダケットでエンフォーサーは再度スタッガーする。

「イグアス!」

「分かってんだよんなこと!」

 イグアスのパルスブレードがエンフォーサーを両断し、エンフォーサーは機能停止した。

 

 

 

「よし、一個前の隔壁で囲まれたスペースだ。あそこに臨時ガレージを設営しろ」

「了解だG5!」

 お、ウォルターの指定した補給ポイントと同じ場所か。場所選びのセンスは認めてやっていいかもな。

 ここで一度念願の補給だ。

 

 機体から降り、運び込まれた俺用の補給コンテナの中身を確認する。ベリル頭(ベイラム拡張頭部パーツ)ツールアーム(初期腕)スプリングチキン(RaD重量逆関節)に……よし。揃ってるな。

 

 補給を済ませて深度3の探索と洒落込……

「G7 レイヴンに伝令! 至急地上に帰還し、補給路構築戦に加勢されたし!」

 ……めないようだ。荷物の中身に視線を送り、それから再度機体に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

「それで、なんで探査チームから人を出すんだ? そこまで上の戦況は悪いのか?」

「いえ、今は優勢です。不思議なことにヴェスパー上位がV.Ⅳしか戦場に出ていないのですよ」

「なら別に俺はいらないだろ?」

「あの方の……G3 五花海の采配です」

「3? 1でも2でもなく?」

「G3です」

「ふーん……?」

 

 ガコンという音と共に、レッドガンが制御権を得た深度1のリフトが最上に到着する。

 レイヴンは地上の隔壁がAC1機分開くと同時にレッドガン本陣へ向けて飛び立った。

「あっ、また先走る……。あの方はどうしてこうも速くミッションを済ませることにこだわるのか……」

 伝令のMT乗りが呆れた声を上げる。

 

 そして。

 それは、彼の最期の言葉になった。

 隔壁が閉じるまでの一瞬の隙に乗じ、一つの影が輸送ヘリから落ちていたことに。

 彼は気づけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうして俺を呼んだ?」

 包囲網を突破し、着いた先の本陣で五花海に詰め寄る。

「それはもう、地上には人員が足りないからに決まっています。貴方のような腕利きが一人いれば賄えますがね」

「納得できない。地下にだって人員は足りてないだろう。それに聞けば地上はもうかなり優勢なそうじゃないか。俺を盾にして保身でもするつもりか? ことによってはただで済ませないぞ」

「まあまあ。怒りをコントロールしないと、理気の流れを逃しますよ?」

 五花海はポケットから小さな花瓶を取り出す。

「よろしければ"風水薬房"時代の売れ残りをお譲りいたしましょうか? これは流れを整え、精神を落ち着ける品で」

「騙されるか!!!!!」

 ったく、やりにくいったらありゃしない。

 

 ……NESTのランクマッチしてる時にあれがあればメンタルケアになるかな……。

 

 

 

「さて、おしゃべりはここまでにしましょうか。これから作戦概要を説明させていただきますよ」

「了解」

「細かなミッション・プランはありません。あなたにすべて任せます。あらゆる障害を排除して、目的を達成してください」

「了か……え?」

「ああでも、作戦開始後は、状況に応じて指示を行いますので」

「え?」

「それではよろしくお願いします」

 それだけ言うと、五花海は凄まじい身のこなしで鯉龍に乗り込んでいった。

「……」

 言葉にならない。花瓶買っときゃ良かった。そうでもしないとこの怒りは到底飲み込めそうにない。

「ふざけんじゃねえええええ!!!!!」

 俺は四脚でガシャガシャ歩き去っていく鯉龍の背部に向けて、全力の罵声を投げつけた。

 

 

 

 テンダーフットに乗り込み、調整を進める。今回は多くのMTを相手取ることになるだろう。総火力を重視して、盾を降ろして常陳(大豊中マシンガン"CHANG-CHEN")をハンガーに載せる。

 無茶な稼動(キック連打上昇)で摩耗した脚部の駆動系のメンテナンスを終えてゼーハー言ってるメカニックを尻目に、システムを立ち上げる。地下のあいつ、これのメンテナンスを地上の整備班に押し付けられて大喜びしてるだろうな。

『メインシステム 戦闘モード起動』

 強化人間システムオールグリーン。しばらくぶりの万全の態勢だ。

「テンダーフット、出る!」

 

 

 

 

 

 前線に到着。とりあえず目につくアーキバスのMTを蹴散らしつつ、五花海の野郎に通信をつなぐ。

「G3、指示があるんだろ? 早く出してくれ」

「ではマーカー情報を送信しますので、そちらへ向かってください」

 直後、レッドガン隊列の遥か後方がマーキングされる。

「……そこには何もないが?」

「ええ、だからこそですよ」

 そう言うと五花海はククク、と笑う。いったい何を考えている?

 

 

 

「……本当に何もないな」

 AB体勢を上昇で解除し、指定ポイントに着地。周囲には敵はもちろん、レッドガンの機体さえもいない。

 ……明らかにおかしい。五花海は偽りの作戦で俺を呼び出し、始末するつもりなのではないか?

 アーキバスに寝返っただとか、俺を泳がせておくメリットがミシガンになくなっただとか、理由は幾つか考えられる。

 

 そう思い至った瞬間にはスキャンを起動していたが……やはり機影一つ見当たら……?!

「…… … ………」

 反射的に振ったブレードでゴーストを一刀両断する。

「またオールマインドかよ!」

 4……いや、5機か。BAWS第2工廠やグリッド086の時並みだな。

 だが……!

「万全の俺の敵じゃない!」

 ABでかっ飛ばしながら次々と脳天を撃ち抜き、最後の1体にキック、さらにブレード!

 

 回線をつなぎ、ゴーストの画像を送信しながら抗議する。

「G3!!!!!!!!!!」

「うるさっ」

「お前!!!!! 裏切ったのか!!!???」

 通信の向こうからため息が聞こえた。

「そんなわけないでしょう? で、やはり接敵したのですね」

 ??? どういうことだ?

「やはり……? あそこに敵襲があることが分かってたのか?」

「いえ? しかし奇襲があるならそこからだ、とは思っていましたね。あえて防備に隙を作っておいたのですよ」

「……なるほど、そこに別働隊を回したら地下にいるはずの俺が何故か立ちはだかってる、と」

「そういうことです!」

 五花海はクツクツと笑う。

 

「で、敵の正体は?」

「はあ? そんなの俺が知るはず」

「あります」

 五花海は食い気味に返す。

「あなたは襲撃してきたこの機体を見て"裏切ったのか"、と言いましたね。なぜ正体不明の敵の所属をご存知なのですか?」

 あっ。

「それにこの機体、以前大型輸送艦を襲撃してきたのと同じですね。あの時光学迷彩の対処がずいぶん手慣れていたようですが?」

「言いがかりだ! 何の根拠があってそんなことを!」

「いえ何も? 対処に手慣れていたというのはでまかせですし。いちいちそんなこと覚えてられませんよ。しかし……」

 五花海の声が少し低くなる。

「その御様子、心当たりがあるようで」

 

 ダメだ、確信してるらしい。言い逃れは厳しいか……。

「さあ、全て吐いて楽になりましょう?」

 こいつ、警察みたいな詰め方しやがって。それはナイルの特権だろう。

 

「いいよ、俺の負けだ。相手はオールマインド、アーキバスの一人勝ちを狙って俺たちを潰そうとしてる。手駒はMDD方式の光学迷彩を使う技研兵器"ゴースト"、オールマインドにデータがあるACパイロットのデッドコピー、無人ACの"トランスクライバー"、あとはアーキバスのV.Ⅲ、あとこまごました技研系のがらくただ。まあ信じるかはお前の勝手だが」

「信じますよ」

「!? 俺が言うのもなんだが、なんでそう簡単に信じられる……!?」

「あなたは誇り高きレッドガンのパイロットですよ? 我々に嘘をつくはずがないでしょう!」

「それだけ?」

「それだけです」

「う、胡散くせー……」

 

 

 

......

 

 

 

 当然それだけではない。

 実を言うならG3 五花海はレイヴンが間者であることを知っていた。

 

 時は海越えの前まで巻き戻る。

 

 

 

「これが「壁」防衛作戦でG7が行っていた暗号通信だ!!! このことから、俺とナイルはG7がスパイだという結論に至った!!!」

「なるほど、それで私に正体を見抜け、と。いいでしょう、まず理気の流れを見るに……」

 五花海は目を閉じ、何かをつかもうとするかのように手をゆらゆらと振る。

「G3、脳を何処かに忘れてきたか? 占いごっこのために呼ばれた訳ではないことぐらい分かっているな? 貴様ならばやつがどこのスパイか見抜く程度難しくないはずだ!!!」

「いやいやまさか。これだけしか情報が無いとなると風水抜きでは私の手にはとても負えませんよ」

「嘘だな。お前のその目、何か糸口が見つかった時のそれだ。あるのだろう? 考えが」

 

 五花海の表情が、軽薄な微笑みから神妙なものに変わる。

「……確信してない間は言わないつもりだったのですがねぇ。そのつもりのない嘘ほどつまらないものはない」

「フン、やはりな」

「資金の横流しでしょう? ルビコン星内で資金不足に喘いでいるのは解放戦線ぐらいです。エルカノと組んで何やら金のかかる悪巧みをしているという噂も聞きますしねぇ」

「解放戦線か……しかしそうなると……」

「ええ。V.Ⅳ、彼が解放戦線の手の者ということになる。そんな陰謀論、聞いたことがありません。それに解放戦線の懐事情が良くなっただなんて話は私のネットワークでさえ拾えていませんね」

「流石G3、金に関してはずいぶんアンテナを張っている。......貴様は確信できていないと言うが問題ない。次のブリーフィングでカマをかける、貴様も協力しろ!!!」

「拒否け……」

「ない!!!!!」

「横ぼ」

「好きに言え!!!!!」

「予定が」

「もともと貴様も出撃予定の作戦のブリーフィングだ、万難を排してでも来い!!!!!」

 五花海の抗議の声はパルスプロテクションのごとく全て遮られた。

 

 

 

『G7』

 ミシガンは控えめな声でブリーフィングを後にしようとするレイヴンを呼び止める。

『解放戦線が相手でも手を抜くなよ』

『ヒュ』

 立ち尽くしたレイヴンを追い越すようにミシガンが扉をくぐり......

 

 そして自然に立ち去りつつ反対方向の物陰のG3へ無線をつなぐ。

「どうだG3? お前の目にあれはどう映った?」

「図星を突かれたようにも、強化人間特有の異常情緒にも見えましたねぇ。ま、一介の小物詐欺師でしかなかった私が軍の強化人間相手に"商売"をしたことなんてこれっぽっちもありませんから。自信はないですね」

「はん、よく言う。ベイラムやファーロンがお前にどれだけ煮え湯を飲まされたことか」

 通信が切断され、奇怪な笑い声と共にゆったりとした靴音が遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

 

 レイヴンが解放戦線の人間であるという仮説を踏まえた上で、五花海は考える。

 腐っても裏の人間である五花海は、オールマインドが解放戦線を敵視していることを当然知っている。ならばオールマインドの手の内を正直に話してレッドガンがよりオールマインドを潰しやすくするのがレイヴンにとっての正解だろう。

 "風水薬房"をしていたころと同じだ。相手が欲するものを理解して、取り入る。

 彼を知り己を知れば百戦殆からず。"商売"でも戦争でもそれは変わらない。五花海の好きな言葉だ。

 

 結局のところ、五花海の懸念通りレイヴンの送金は解放戦線とは関係が無い。しかしそれでも正しい答えにたどり着けたのは彼の海千山千の経験から来る勘ゆえか、あるいは理気の流れか......。

 

 

 

......

 

 

 

「それで、作戦はどうする? 敵のデータをもとに組み立て直さなきゃだろ?」

 こいつが信頼できるかは分からないが、とりあえず聞くだけ聞いておこう。

「様子見です。あなたの情報に対して、オールマインドの手駒が少なすぎる。今あなたが撃退したのは尖兵に過ぎないと考えるべきでしょう」

 五花海は中央に戻り主戦力による再びの奇襲に備えろ、と続ける。

 また長距離移動かよ、バーゼルさえ使えればな.......。

 

 

 

 

 

 

 半分ほど引き返したところで再度通信が入る。

「G7、前線に所属不明AC。急いで引き返してください」

 チッ、もう動くか! 気持ちがはやるが機体は既に全速だ。もうすぐ目視圏内、間に合うはずだ!

 

 

 

 

 

 

 雪を巻き上げて滑るように着地。そこにいたのは......

「... ......... ......」

 無塗装のWRECKERフレーム。そのDEVICEは翡翠色に輝いている。しかしその周囲に浮いた大量の封鎖ドローン(AM06: WATCHER) とこちらを取り囲む無数のレーザーサイトは、やつを思い起こさせるのに十分だった。

 

「......はは、ずいぶん()()になったな? オーネスト・ブルートゥ......!」

 9の恐怖は2度来る(ナインボールは2体いる)のだ。

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