※今作はVtuber白兎ねむりのネタを多用しております
用語解説
耳:白兎ねむり様の兎耳
シラート:白兎ねむり様の脂です、そう、脂
え? 何処にそんな文言が? ご想像してみてください。
その日は、珍しく時間があった。
珍しい休日の仕事という事もあり、平日よりも時間がある上、早く目が覚めたこともあって、時間には余裕があった。
時間を読み違って、焦って家を出たのが全ての始まりだったのかもしれない。
こんなことなら朝食をゆっくりと食べて、優雅とはいかないにしても、充実した一日を始められればとはえ思いもしたが、それは過去の話、スーツを着込んで足を踏み出した以上、体裁は見繕わなければならない。
しかし、腹は減る。
午前中の仕事を乗り切るにはいささか心もとない腹の虫、そんな状態だ。
とは言え、とは言えだ。朝から腹の虫を収めてくれるような気の利いた店など、中々見つかる物ではない、
そんな中、男はある店の前で足を止めた。
その店の名前は「夢の国の店」と言った。
昨今ではオシャレな名前か、硬派な名前かという両極端なご時世が続く中、さも犯跡ほど前のネズミの国にありえそうな店名の店がそこにはあり、まばらながらもその店は意外と賑わっているように見えた。
(……う~ん、仕事までは少し時間がある。朝食ぐらいなら)
そう思って入店した店は喫茶店という印象を受けた。
朝の忙しい空気とは裏腹に、何処か余裕を持った雰囲気を持ったその店では、休日出勤と言う禄でもない事実を捨て置き、一日をリセットして、ここから始めようという気概が満ち溢れていたのかもしれない。
レトロな雰囲気の喫茶店だ。
昭和の匂いを残す古めかしい部分のある店だが、忙しない現代社会でこういう雰囲気は世間からの隔絶すら感じてしまうほどに、何処か遠い世界のようにも感じれてしまう。
朝だからこそ忙しい、のではなく、朝だからこそゆっくりと、そんな心構えがあってもいいじゃないか、そう思わせるような空気があった。
案内された先で手に取ったメニューを見て、一つの朝食に目が留まった。
『イングリッシュブレックファースト 夢の国風』
(夢の国風って……なんなんだろう)
イングリッシュブレックファーストは分かる。
イギリスの産業革命の頃、労働者階級に向けてしっかりと夕方まで働けるようにと提供された料理で、何でもかんでも油で揚げたり、焼いたりするわんぱくな料理だ。アメリカの朝食なんて目じゃないほどに高カロリーな物で、恐らく世界で一番物理的にもカロリー的にも重たいであろう朝食だ。
「すみません、このイングリッシュブレックファーストをください」
そう言って店員に注文する。
休日出勤の朝だ。ここは自分に活力を与えるためにも、今日一日を乗り切るためにも、命の燃料を入れなければならない。そう考えれば、朝から豪勢にするのも悪くないかもしれない。
(しかし、この、特性脂って何なんだろう、油の誤字かな。手作りジビエ腸詰肉ってソーセージの事だよな……ジビエ?)
メニューを見返すと、妙な文言が散見されたが、ソーセージを手作りとは手の込み具合が喫茶店のレベルを伺える。
この店は朝食に関してはとんでもなく手が込んでいるのだろう。
朝食を簡単な物で済ませることの多い昨今、しっかりとした朝食を食べるのはいつぶりだろうか。
しばらくすると、イングリッシュブレックファーストが運ばれてきた。しかも、紅茶とセットだ。
一枚の大きなお皿にトーストから何から何まで乗せられている。緑の色どりが無いのも異国の歴史ある料理だからだろうか。
兎の形をしたトーストに、目玉焼き、カットされたマッシュルーム、輪切りのトマト、手作りらしいソーセージ、ベイクドビーンズ、そしてベーコンと思いきや、ベーコンに似た細長い肉のような何か。全て油で揚げたり、炒めたりしたものだ。
ちなみに、ベイクドビーンズは白いんげん豆をトマトソースで煮込んだ物だ。
(兎トースト、手が込んでいるが、ちょっとした癒しかもしれない)
ナイフとフォークでトーストを切り、トマトやマッシュルームと一緒に食べてみる。
なるほど、トーストも油で揚げている為、酸味がありがたい。
西洋料理が浸透している現代、口に広がるのは異国の味、と言うほどではないが、こういったガツンと来る朝食には馴染みがなく、トーストと言えばトースターで焼く物と相場が決まっている事を考えると、斬新な物なのかもしれない。
お次はベーコン代わり細長い肉だ。ナイフで切り分けて試しに食べてみる。
なるほど、淡白な味わいだ。コクのある脂と素朴な味わいは胃もたれを起こしそうな料理の中で、その自己主張しない味わいが故に存在感を際立たせているのかもしれない。
なるほど、ガツンと来るであろうソーセージと脂の乗ったベーコンでは重たいかもしれないが、同じ肉系でありながら、この淡白な味わいならば、ワンプレートの中で味の濃淡が分かれて、飽きないようにしてくれているのかもしれない。
お次は手作りソーセージだ。
最近のソーセージは人工ケーシングだが、これは手作りという事もあって天然腸を使用して作っている。
一口食べてみれば、ふんだんに使用された香辛料で肉の臭みを消し、少し淡白な味わいのお肉と練り込まれている脂が熱で溶けだし、口の中でハーモニーを奏でている。
手作りソーセージの凄さここにあり、そんなインパクトを与えてくれる。
一見重そうに見える料理だったが、ソーセージを半熟目玉焼きの黄身に絡めたり、合間にベイクドビーンズを食べたりしている内に、ペロリと平らげてしまった。
イングリッシュブレックファーストティーを飲みながら一息つく。
(今日も一日頑張ろう)
なるほど、労働者が食べるわけだ、そう思わせてくれる朝食だった。