転んだ先のつぎはぎロケット 作:ななななななな7
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心太から『お前はもう小説を書かないのか?書くのだとしたら、それを発表しないのは勿体ないと思う』というメッセージを受けてから暫く、なんと返せばいいのかと思い悩み文字を打っては消してを繰り返していた。
「はぁ、全然いい言葉が思いつかない」
そう口に出してみたはいいものの、実際に口に出してみるとその言葉には語弊があると感じた。
正確には自分がどうすべきなのかが分からない。
「いや、それも語弊があるな」
本当はこのメッセージを適当に流すべきなのに、そうしたくない自分がいるのだ。本当に優柔不断で嫌になる。この優柔不断さが無ければ試験だって…。
そこまで考えて俺は首を横に振った。
今は試験のことは関係ない。後悔した出来事を変えることは出来ない。出来ないのだ。そして糧にすることは出来る。今、この選択はそう言う場面だと俺のあまり頼りにならない直感が告げていた。
けれど、心の中でそこまでは気づいているのに実際には考えが定まらない。結局俺は俺のままだ。
漫画やアニメの主人公のように自分を見つめて成長することは出来ない。仮に成長しているように見えてもそれは上っ面を整えいるだけだ。
そして、成功を収める資産家のような慧眼も行動力も無い。
そう心が暗くなり、塞ぎこみそうになった時に思い出したのは久々に会った際に心太に言われた『お前に足りないのは自信だよ』という言葉だった。
俺は目を瞑り自信、自信と唱えてみる。けれど一向にその自信とやらが湧き上がってこない。けれど、それでも、一かけらくらいは…。
俺はスマホを置くと部屋を出た。
これも既読無視に入るのだろうか?などとくだらないことを考えながら階段を降りる。
そして、リビングのドアを開けるとそこでテレビを見ていた母に声をかけた。
「母さん」
母は久しぶりに俺から話しかけたためか、瞳をぱちくりと瞬かせ立ち上がった。
「えっと、どうしたの?受験のことに関してはそんなに思い詰めなくて良いと思うの。
吉継が頑張ってたのお母さんもお父さんもちゃんと分かってるから」
「…あ、うん、けど、そのことじゃなくてさ。実は中学の頃の友達の雨海心太から同人サークル、えっと…創作活動サークルに入らないかって誘われてて…それで、相談したくて」
俺は母に心太との出来事について語った。
自信は一かけらも持ち合わせていなかったけど、それでも勇気を振り絞り、俺は人を頼ることにした。
そう気づかせてくれたのは間違いなく心太だった。どれだけ手を振り払っても何度も何度も手を伸ばし続けてくれるアイツがいたから、他人に手を伸ばして助けを求めてもいいのだと気づけた。
自分にだってそれくらいの価値はあるのだと手を伸ばす
そして、アイツの言葉が教えてくれた。
やっぱり惨めなままは嫌だと叫ぶ俺自身の存在を。
頭では分かってるんだ。俺は成功を収めるための前提条件を満たしていない。
アニメや漫画だけではなく、現実でも言えることだが、成功を収める人間と言うのは総じてその分野に関して飛びぬけた才能を持っているものだ。
例え、他の分野において他者より劣っていたとしてもその一点においては他者の追随を許すことは無い。
けれど、残念なことに俺にはそれすらない。
凡人にはなれなくて、天才には至れない。それが俺だ。
だからこそ、これを逃したら次はない。機会はもう巡らない。
「えっと…良いんじゃないかしら?お母さんは大学時代サークルには入って無かったからよく知らないのだけど、つまり部活動ってことよね?お母さんの時代にもあったわよ漫画研究部」
漫研…と同じかは分からないけど、それよりもあっさりと許可されたことに肩透かしを食らった気分になる。
「いや、でも…ほら、勉強もあるしさ。そんなことしてる暇はないんじゃないかとも思う訳で…」
「勉強と両立できない程忙しいの?」
そう聞かれて俺は考える。
恐らく俺に求められているのはシナリオを作ることだ。
今が二月で入学までは凡そ二か月、一応入学前の課題も用意されているが、それも1週間もあれば終わる量。
今から取りかかってコツコツ作れば仮に恋愛シミュレーションゲームのシナリオだとしても一年もあれば完成すると思う。
「頑張れば出来ると思う」
俺は躊躇うことなく母さんにそう言い放つ。その言葉に満足したのか母さんは力強く頷くと俺にエールを送ってくれた。
「吉継が前を向いて歩いてくれて本当に安心した。雨海君とも仲良くね」
☆☆☆
部屋に戻ると今度は先輩に電話をかけた。
『もしもし、どうしたんだ急に』
メッセージでやり取りをすることはあっても電話をかけることはないからか先輩はいつもより数段トーンの高い声で不思議そうに問いを投げかけて来た。
『いえ、実はもうあんまり悩んでないんですけど…悩んでないので電話をかけただけかもしれません』
『なんだよそれ?』
『いやぁ、何なんでしょうね。ほんと…。俺もう二十歳で…浪人もしてそれも失敗で滑り止めの専門学校に通うんですよ。…そんな俺が夢見つけてその夢のために頑張ろうと思うって言ったら馬鹿だと思いますか?』
俺がそう尋ねると電話の向こうにいる先輩は押し黙る。
どんな言葉をかけられるか怖くないと言えば嘘になる。けれど、もう俺はこの選択を曲げたりはしない。そう心に決めていた。
『…確かに賢い選択ではない、と思う。
けど、仕事してるから分かるんだが、社会っていうのは嫌なことばっかのクソみたいな場所だ。
後40年くらいこんな
…ま、結局はお前の人生で責任を負うのはお前なんだから、お前が決めるべきだけどな』
そうだ。そうなのだ。
『ありがとうございます。』
『おう』
先輩のその言葉と共に通話を切ると、勉強机の前に座りグッと伸びをする。
そして、買ってから殆ど使ってこなかったノートパソコンを引っ張り出す。
高校3年の頃にレポートを書くのに不便だからとバイト代とお年玉を使って買ったノートパソコンが起動ボタンと共に目を覚ます。
これまで全くと言っていい程使ってこなかったから、もしかしたら壊れてるかもとも思いマウスを軽く動かしてみたのだが、ちゃんと反応してくれる。
俺はワードを開くと伸びをして呼吸を整える。小説書くのなんて高校以来だな…。
「さて題材は何にしようか?」
不思議とワクワクしている自分がいる。早くキーボードを叩きたいと指が疼く。
それこそこの何もない所からストーリーを描き始めたいと思う自分がいる。
けれど、これはサークルで起業を目指して行う活動だ。中途半端は許されない。
…そうだ。取り敢えずありきたりではあるが、吸血鬼の主人公とヴァンパイアハンターのヒロインを題材にしよう。
ただ、それだけだと主人公は夜しか活動できなくなるから、主人公の設定を太陽を克服した第二世代ヴァンパイア(人間との混血)にして、通常のテンプレートなヴァンパイアを第一世代としよう。
で、主人公たちの敵は第一世代、と…。
「いや、それだけだと結局テンプレートなヴァンパイアものか…」
なら、敵は第一世代では無くて新たに第三世代というものを作るか、第二世代は人と交わった混血吸血鬼で太陽を克服はしたが、人間の血の影響で太陽光の出ている間は能力を使えない。
第三世代は日中でも問題なく能力を使えるって感じにするか。
それなら主人公のピンチを演出しやすいからな。
ただ、問題の吸血鬼の能力をどうするかだな。
無難に血液操作の能力か?
ただ、それだけだと物語に幅を持たせづらいな…。
なら、基本能力を血液の操作にして必殺技や特殊能力として別の能力を設定するか…吸血鬼だしそうだな、吸血鬼には通常の臓器とは別に真臓と言う器官があり、その器官で一日に少量だけ作られる真血という血には特殊な能力が宿る。ただし人間の血を吸うことで生成量を増やせるとかにするか。
それなら、吸血鬼が人間を襲うことの理由づけになる。それで、ヴァンパイアハンターはこの真血を枯渇させるために集団で動くとかがあっても良いな。多対一の構図は敵の強大さが一目で分かる。
倒し方も真臓を潰すことにするか。
いや、それだと芸が無いな。なら、吸血鬼は真臓を潰されても真血が体内に残っていれば真臓や肉体を復元できるってことにしよう。
それなら、ヴァンパイアハンターが真血を枯渇させるために団体行動をとるのにもより説得力を持たせられるな。
後は主人公の能力をどうするか…。
主人公なんだからそれ相応の能力を…
「でも、それ相応の能力ってなんだ?」
無効化、支配、略奪、コピー。ぱっと出てくるのはこのくらいだが、あまりピンとこない。
というか、吸血鬼は血を吸う設定なんだし、他人の真血を吸うことで相手の能力をコピーできるって設定にした方が良いか?
いや、それだとお互いの真血を分け合うだけで強くなるか…。
なら、真臓を喰らいその者の血を一滴残らず吸い尽くせば能力を奪えるとかにするか…。
「あ!だったら、主人公は昔真臓を喰われ一滴残らず血を吸われて死にかけたが、父親と母親が命と引き換えに血を分けたという設定にしよう」
それで表向きは交通事故、主人公あるあるの一人暮らし設定にも出来るし、主人公は命を繋いだが真臓がないから真血を使った固有能力は使えないってすれば固有能力を生やさなくてもいい。
ただ、流石に主人公が基礎能力の血流操作だけで戦うのは格好がつかないよな…。
全くいい能力が思いつかない。
いいや、取り敢えず主人公の能力は置いておこう。
それじゃあ、ヴァンパイアハンターのヒロインの能力をどうするか。
魔眼系はあっても良いと思うんだよな。
面白い作品にはその作品固有の魔眼みたいなものが出て来るし。
俺の場合は吸血鬼を話の根幹に置いてるから、太陽眼とかどうだろう?
太陽光を集める力。集めた太陽光を保存する力、そして保存した太陽光を増幅した状態で瞳に宿す力、宿した太陽光を操る力。実際はちょっと違うけど太陽光パネルみたいな能力だ。
瞳は太陽光を集めるために黒曜石を彷彿とさせる漆黒の瞳。
魔眼使用時は山吹色になるって感じにしよう。ってなると序盤は片目だけで、後半両目開眼とかが良いな…。
ヒロインは最古のヴァンパイアハンターである太陽眼の一族だけど血が薄まり、片眼しか力を使えない、的な。
後は奥の手でビームを撃たせよう。ただ、それだけだと芸がないし…序盤はビームが奥の手(これを使うと太陽眼の力が切れる)だけど、後半は牽制とかでビームを撃てて、更に太陽光で出来た光の獣を使役できるみたいな設定にしよう。
理由はそれこそ太陽眼の力が両目で使えるようになったことで太陽光を集める力が片目の時の2倍でそれを保存する力、増幅する力、操作する力が数倍に跳ね上がっているっていう感じだ。
後は武器だな。
流石にヒロインを素手で戦わせる訳にはいかないし、太陽眼を持たない一般のヴァンパイアハンターの影も薄くなる。
やっぱり、吸血鬼の死体を使った武器にするか、武器の名前は吸滅兵装。
これならヴァンパイアハンターにもキャラクター性を持たせやすいし、吸血鬼の固有能力を劣化した状態だが使えるって設定にしてバトルも派手になる。それに吸滅兵装には吸血能力があるから真血を吸うことが出来るって設定にすれば吸血鬼を倒せることにも吸血鬼が真血を積極的に使って戦うのにも説得力が出る。
逆にそうしないと吸血鬼は真血を使い果たせば死ぬ確率が高くなるんだからヴァンパイアハンターが集団で行動しようが最低限真血を残すだろって意見が出てきかねない。
何なら主人公も吸滅兵装を持たせるか…主人公は吸血鬼だから、吸滅兵装と一体化して百パーセントの力を引き出せるみたいな。
腕と武器が一体化した姿とか昔っから男子は皆好きだしな。
ただ、そうなると何で吸血鬼は吸滅兵装を奪わないんだってなるんだよな。
なら、吸血鬼が使わないようにロックが掛かってるとか?
いや、どうやって?
何で主人公が使えるんだ?
ハーフだから?でも半分は吸血鬼だしな。
真臓がないから?それも微妙だよなぁ。
もっと何かないか?
ニンニク、十字架、聖銀。
聖銀!
そうだ、吸滅兵装は吸血鬼の肉体の他に聖銀を練り込む特殊な製法で作ってるから吸血鬼は触れないってことにしよう。
それで主人公は真臓を潰され、真血を奪われ、元々人間とのハーフであったのがより人間に近づいたことで吸滅兵装の力を扱えるようになったってことにしよう。
なんなら、死から蘇ったことと魔からの一部脱却によって判定が限りなく聖人に近くなったっていう設定にしておくか。
後、折角聖銀の設定も出すのなら、吸滅兵装じゃなくて純粋な聖銀性の武器、刀とかで戦う古強者とかも出してもいいかもな…。
うん、大分決まったな。
俺は考えた設定を纏め、心太へとメッセージを送るのだった。
…因みに心太が送って来た『お前はもう小説を書かないのか?書くのだとしたら、それを発表しないのは勿体ないと思う』というメッセージへの返答をしていなかったことをこの時になって思い出した。
ま、まぁ、これが返答だと思って欲しい。