僕の名前は六塚冷と言うんです。名前で分かる方もいるかもしれませんが、僕は十師族に属する『六塚家』の者。現当主六塚温子の息子で次期当主候補と言われていたりするんですよね。
そして第一高校の生徒会長もなぜかやることになってしまい、今はちょうど今は入学式の『生徒会長から新入生への言葉』なんてものがあって、そのために舞台袖で呼ばれるのを待っている。
「今にも…吐きそう…」
「会長は少し緊張し過ぎですよ。もっと気軽に行きましょう」
「そ、そう言っても七草さんみたいに堂々とした人間にはなれないですよ。自分は」
僕が本当に情けなかったのか、市原さんも心配そうな目で僕のことを見ている。
「本当に会長の緊張しいだけは直りませんね」
「…それなら市原さんが変わりにやってくれたりしない?」
「だめです。それは六塚先輩の会長としてのお仕事ですから」
「じ、じゃあ…十文字くんとかに…」
「十文字くんなら今日は家のことで来ていませんよ」
「そ、そんなぁ…」
なんで生徒会長なんて人前に出る役職に就いてしまったんだ。生徒会長にならなければこんなことを考えず、今頃のんびりと過ごせていたはずなのに。
そんなこんなで司会の方が「それでは次に生徒会長から新入生への言葉です」と言った。まだ足は震えているのに出番が来てしまった。行きたくないし、逃げられるなら今から逃げたい。
「会長なら大丈夫ですから!それは副会長の私が保証します!」
「そうですね。六塚先輩はいざという時はやる人なので」
そんな声が後ろから聞こえて来るが、ここで覚悟を決めないわけにもいかないので深呼吸をしてから一歩を踏み出した。
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「はぁ……もうやだ…」
二度とやりたくない……というか自分も三年だからこれで最後だよね。
やっと解放された。
そんなことを僕が考えている後ろでは七草さんと市原さんが話していた。
「今更ですけど、本当に覚悟を決めた時の会長ってすごいですよね」
「りんちゃんもそう思う!?」
「はい、舞台袖では頼りない人みたいな感じなのに覚悟を決めて壇上に上がって話し出せば、もうリーダーシップの塊のような感じですし。聞いている新入生も彼の世界に引き込まれている感じでした」
「そうなのよ!会長のこのギャップが溜まらないのよ。普段の私たちに見せてくれる頼りないところもいいし、覚悟を決めた時のあの鋭い目つきもいいの!」
「七草副会長、あんまり興奮しないようにしてください」
二人が何を話しているのかイマイチ理解できないけど、今はそんなことよりも次の仕事に行かないと…。
「七草さん、中条さんの勧誘を手伝ってくれる?」
「はい!」
そして市原さんとはここで別れて、僕は中条さんを探しに行った。
見つけるのにはそこまで時間が掛からなかった。でも、僕が近付いていくと中条さんは緊張してしまったようでロボットのように固まってしまった。
これはかなり怖がられていると思ったので、七草さんに話し掛けてもらうことにした。
「中条あずささんよね?」
「は、はい!」
「私は生徒会副会長の七草真由美です。そしてこの方が生徒会長の六塚冷」
僕は名前を名乗られたので会釈程度はしておくことにした。でも、中条さんは僕と目が合うとすぐに視線を逸らされてしまった。
これはちょっと…まずいぐらいに怖がられている。いやもしかして嫌われているのかも。
ど、どうすれば…いいんだ…。
「私は中条さんを生徒会に勧誘するために来たのですが、少し場所を変えてお話することは可能ですか?」
「わ、わかりました!!」
七草さん相手にもこれだけ緊張しているとなると僕と話す時は気を失いかねないかも。そう思ったら迂闊に声もかけられない。
そして場所を変えて生徒会室。
市原さんが中条さんに生徒会の説明を丁寧にしてくれている。それを僕と七草さんは静かに聞いて、市原さんの説明の上手さに驚いていた。
「そしてこれが生徒会の主な仕事です。そして中条さんには書記になってもらいたいと思っています」
前々から思っていたけど、市原さんを生徒会に勧誘しておいてよかった。本当に彼女が居てくれなければ生徒会としての運営も難しかっただろうと思っていたりする。
「それでどうでしょう、中条さんは生徒会に入ってくださいませんか?」
「…え、えっと………わ、わかりました。わたしでよければ」
中条さんはなぜか僕の方へと視線を向けては逸らして、また視線を向けて逸らすという行動を起こしていたのが気になったけど、まずは新入生の確保に成功したことで一安心だ。
でも、問題はこれで終わらない。前年度の生徒会メンバーは三人と以外と多かった。その穴を早い内に受けないといけないんですよね。一つは中条さんが埋めてくれるとしても最低もう一人はいないと生徒会を回すのは難しい。
只でさえ、市原さんにかなりの負担を掛けているような状況。これ以上はオーバーワークで倒れさせてしまうかもしれない。それだけは何が何でも回避しないといけないよね。
すると急に市原さんが僕の方を見ながら話し出した。
「それなら入学試験で次席の服部くんなんかはどうでしょう?」
「え…え…あ、うん…」
え、僕って声に出してないと思うんだけど。
七草さんも中条さんも不思議そうな顔をしているので、僕の認識は間違っていない。
「彼であれば生徒会のメンバーとして問題ないと思いますよ。実技の方では服部くんは優秀な成績を収めていましたし」
「そ、そうだね。明日にでも服部くんに話し掛けてみようかな」
そしてその後は中条さんに生徒会の触り程度の説明をして解散することになった。
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